無知学への招待 〈知らないこと〉を問い直す

  • 明石書店 (2025年3月6日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (392ページ) / ISBN・EAN: 9784750358956

作品紹介・あらすじ

私たちは何を知らないのか。なぜ知らないのか。私たちの〈知らないこと〉はいかに作られ、社会に何をもたらしているのか。近年盛り上がりつつある無知学(アグノトロジー)の本邦初の入門的ハンドブック。

みんなの感想まとめ

無知というテーマを深く掘り下げる本書は、無知学(アグノトロジー)の初歩的な理解を提供し、現代社会における「知」と「無知」の関係を考察します。古代ギリシャの哲学から現代のSNSや政治現象に至るまで、無知...

感想・レビュー・書評

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  • 無知学agnotology ということばを初めて知り、本邦初の入門編というので読んでみた。著名な学者も新進気鋭の学者も登場する。古代ギリシャのソクラテスに源流を発しながら、SNSやトランプ現象で「知」と「無知」の意味が揺らいでいる状況で勃興しつつある学問のいまを感じることができた。

    無知学において、無知とは単にまだ知らないこと(未知)や忘れてしまった状態に留まらず、疑念や不確実性をも含む広範な概念として捉えられるという。不知や非知も含んでいいのかも知れない。

    本書では、無知学の提唱者であるプロクターによる無知の3分類(①生来の状態としての無知、②失われた領域としての無知、③戦略的策謀としての無知)を紹介する。従来の無知観だとマイナスイメージしかないかもしれない。たが、有用性の視点を加えること、選択による無知があること、そして意図的に作り出される無知もあるということに焦点を当てる。
    カール・ポパーの無知策謀説批判にも触れつつ、ガリレオ科学の成立要因を分析し、科学における無知の認識の変遷を考察する。うーん、無知は深い。

    途中からは様々な学者の短い論考が続く。ハラリの科学史観を批判的に検討したり、科学コミュニケーションにおける透明性の重要性を指摘したり。さらに、日本における日本人のような特権階級に陥りがちな積極的無知や、認識的バブル・エコーチェンバーによる無知の強化を解説する。

    ギリシャ哲学の納富信留さんのソクラテスにおける「不知の自覚」や「無知の知」の議論も出てくるし、科学哲学の村上陽一郎さんのガン告知を契機にした論考で、現代医療におけるインフォームドチョイスと「知らされない権利」の可能性に触れるところは印象的だった。

    AIによる新たな無知の創出や、ポストトゥルース時代の科学否定論の戦略を分析はまさにら現在進行形のテーマだ。多角的な視点から「無知」というテーマを掘り下げていく構成。明石書店なので、一部で取り扱うテーマはそうなるだろうなと思いつつ読んだが、それも自分自身の無知学と触れ合う体験なのかも。全体として良かった。

  • 2008年に提唱された無知学(アグノトロジー)の日本で初めての入門書.新しい領域だからか教科書のような体裁でない.

    無知学が対象とする無知には,いずれ知識に置き換えられていく未知だけではなく,操作的な無知も含まれる.もちろん,人の意図せざる構造的な無知も対象だ(詳細は本書で確認してほしい).

    また,無知学はあらゆる無知を対象とする以上学際的になる.無知学の提唱者の1人であるプロクターも大学院では科学史コースを選択した人だが,自身のことをずっと人類学者か社会学者のようなものと思っていたと述懐している(57頁).ここに学祭性を見てとることは強引だろうか.

    そういうわけで,本書の編者はいずれも科学史の方だが,各執筆者の専門はバラエティー豊かだ.強いて言えば歴史要素を含む方が多い(政治・経済思想史など).

    異なる専門を背景にする人たちが,地球環境問題や公害などに限らず様々な過去の事例を,無知学のフィルターを通して論じる.そのことで無知学が提供する視点というものをざっくりと感じることができた.

    差し当たり,通説や常識からこぼれ落ちたものたちを掬い取っていく,辿っていく作業をする学問という印象を受けたが,同時にそれにとどまらないということも本書が主張するところだろう.とても勉強になった.

  • 小論文集。
    滅茶苦茶難しい。
    何言ってるのかわからないものがほとんど。
    ただ、途中、具体例が出てきて、
    なんとなくぼんやりではあるが、
    無知学の輪郭くらいわかってきた気がした。

    その具体例とは
    水俣病であり、沖縄普天間基地であり、日本人(差別)であった。
    さらに福島原発、ホロコースト、コロナ、、、
    こうしたところにも、「無知」を利用しようとする側、
    それによって押さえつけられる側、あるいは動かされる側が
    出てくるのがわかった。
    わかった、といってもなんとなくだが。

    最後、一番ピンと来たのは、人間の生きざま。
    少年期、成人期、老年期?
    いろんな区切りはあるだろうが、
    全ての人が未知の世界なのだ。
    逆戻りはない。
    二度老人になる人はいない。
    まさに自分がちょうどその節目にいる。
    定年という。
    会社勤めのうちは、1年後も2年後も、そんなに意識はしなくて済んだ。
    転職という節目はあったが、ライフスタイルはサラリーマンそのもので、
    大した変化はなかった。
    それが65歳で明らか変わる。

    ワクワクもするが、不安でもある。
    これも「未知」なるが故だろう。

    。。。浅くてすみません。



    はじめに――「無知の時代」を生き抜くために[鶴田想人]
     無知の時代?
     欧米における無知学の流れ
     日本における無知学の歩み
     無知研究の諸潮流と本書の範囲
     本書の構成

    第Ⅰ部 概論

    1 無知学とは何か――その背景と課題[鶴田想人]
     1 無知学とは何か
     2 学術的文脈
     3 いかなる「無知」を扱うか
     4 おわりに――学際化にむけて

    2 無知学の過去・現在・未来[ロバート・N・プロクター(鶴田想人・塚原東吾訳)]
     1 若い頃からの関心の展開
     2 無知学への歩み
     3 近年の無知研究について
     4 執筆中の著作
     5 無知学の今後の展望

    3 科学史・STSにおける無知[塚原東吾]
     1 科学革命とガリレオ科学
     2 非西欧世界での科学技術
     3 グローバルヒストリーやポピュラー科学史が生み出す無知
     4 STSと無知学――主にブライアン・ウィンの再考と科学コミュニケーションの問題
     5 〈科学批判学〉の要としての無知学・アグノトロジー

    第Ⅱ部 キーワード
     1 特定された無知[村瀬泰菜]
     2 意図的な無知/非意図的な無知[鶴田想人]
     3 有徳な無知[岡本隣]
     4 戦略的無知と非知社会学[井口暁]
     5 白人の無知と無知の認識論[大橋一平]
     6 認識的不正義[飯塚理恵]

    第Ⅲ部 日本の「無知学」

    1 科学の国際性と研究の無害化――1950年代の放射線影響に関する知/無知の形成[飯田香穂里]
     1 はじめに――科学の国際性
     2 米国の科学戦略
     3 放射線と「客観性の呪い」
     4 オオイヌノフグリ変異花の「無害化」
     5 無害化――科学的振る舞いの結果としての無知生産

    2 動機としての無知――公害の場合[友澤悠季]
     1 はじめに――公害をめぐる知と無知の緊張関係
     2 知ることを求めてきた公害被害者――足尾銅山鉱煙毒事件から
     3 積極的な無知生産――二つの水俣病事件から
     4 新たな知へ向かう意志、無知へ引き戻す力
     5 おわりに――動き出す無知へ

    3 「田んぼ」の真ん中に建てられた基地――沖縄における無知の政治[西山秀史(前田暉一朗・岡井ひかる訳)]
     1 序論
     2 無知の生産を通して空白の空間を記述する
     3 今日における過去の空間的消去――普天間基地をめぐる米国の公式言説
     4 沖縄における無知と脱植民地化への闘争

    4 「日本人」特権に起因する無知――日本人性に関する社会科学と無知の認識論の学際研究[佐藤邦政]
     1 はじめに
     2 日本人性とマジョリティ性の交差としての「日本人」特権
     3 無知の本性と分類
     4 日本人特権に起因する無知
     5 結語

    第Ⅳ部 「無知」の諸相
     1 無知の権利[村上陽一郎]
     2 古代ギリシア哲学の「不知/無知」[納富信留]
     3 福島原発事故と放射線健康被害の不可視化の構造[柿原泰]
     4 ホロコーストと同性愛者[弓削尚子]
     5 カントの「黒」――合理的作為としての無知が顕わにする〈知〉としての「人種」[小笠原博毅]
     6 民主主義と無知[大竹弘二]
     7 COVID-19パンデミックと無知[美馬達哉]
     8 AIの作り出す無知[直江清隆]
     9 ジャン=ピエール・デュピュイの破局と無知[渡名喜庸哲]
     10 経済学における「自然」の不可視化[桑田学]
     11 ポストトゥルースと「科学否定論」[松村一志]
     12 人間の条件としての無知――ミラン・クンデラと考える[須藤輝彦]
     13 人新世の結果から要因、対策へ――環境問題における無知の構造[野坂しおり]
     14 フランスにおける無知研究の展開[井上雅俊]

    おわりに[塚原東吾]
     無知学・アグノトロジーという言葉についての交通整理
     本書のおさらい
     今後の課題群――文化と価値の問題

     索引

  • 【本学OPACへのリンク☟】

    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/730210

  • 選書番号:420

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著者プロフィール

1961年東京生まれ。東京学芸大学教育学部化学科修士課程修了、ライデン大学医学部にて博士号を取得。イギリス・ケンブリッジ大学ニーダム研究所にてポスドクフェロー、東海大学文学部助教授を経て、現在、神戸大学大学院教授。主要な著作・編著にAffinity and Shinwa Ryoku(Gieben,1993)、『科学技術をめぐる抗争』(共編、岩波書店、2016年)、『帝国日本の科学思想史』(共編、勁草書房、2018年)など。

「2025年 『無知学への招待』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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