災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750510231

作品紹介・あらすじ

不幸のどん底にありながら、人は困っている人に手を差し伸べる。
人々は喜々として自分のやれることに精を出す。
見ず知らずの人間に食事や寝場所を与える。
知らぬ間に話し合いのフォーラムができる…。
なぜその“楽園”が日常に生かされることはないのか?大爆発、大地震、大洪水、巨大なテロ―いつもそこにはユートピアが出現した。
『ニューヨークタイムス』2009年度の注目すべき本に選出。

感想・レビュー・書評

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  • 『困ったときはお互い様』という精神で自然に助け合うことができるのは
    本当に尊いことだし、性善説を唱えたくもなった。
    反面、『エリートパニック』により、被害者が犯罪者とみなされて悲劇が起こる過程が
    正直腹立たしくなるものの、人間というのはそんなものだろうとも思わされる。
    日本はその点自衛隊の方々が災害派遣で現場を取り仕切ってくださることもあり
    混乱が少ない印象がある。

    実際震災やコロナ禍において、自然に助け合っている面もあれば
    デマに踊らされてパニックを起こし、無意味もしくは転売の為の買い占めが起きたりもして
    日本だけが特別道徳的な民族かと言う訳でもないだろう。
    助けてあげればつけあがって負んぶに抱っこになる人もいるし
    そうなると相互扶助ではなくパラサイトになってしまうわけで。
    避難所で自分が持ち出さなかった物資を持っている人に
    「わけてくれ」と言い、断られると「冷たい」と詰るようなパターンもある。
    所謂火事場泥棒もあるし、盲目的に他人を信じて良いとは言えないが
    それでも災害が起きたとき自然発生する『ユートピア』には、傍から見ていてもほっとする。

  • 災害が起こったときにふだんの社会秩序が崩れる代わりに、自主的・利他的な行動が立ち上がってくる。それを称してタイトルの「災害ユートピア」。災害時に犯罪や略奪が多発するというのは多くの場合は迷信であり、逆にその「暴動」を抑えようとして行政や富裕層が「エリート・パニック」を起こすと言う。

    話の本筋は分かった。ありそうなことだと思う(少しゾンビ映画を思い出した)。しかし、本書の本題は「災害ユートピア」なんかではないのでは、という気がする。

    著者はジャーナリストだそうで、1906年のサンフランシスコ地震から始まって、第一次大戦中のカナダはハリファックスでの爆発事故、メキシコシティ大地震、9.11同時多発テロ、カトリーナの事例を順々にあげていく(アジアでの近年の災害は、距離・言語の壁があるといさぎよくあきらめている)。しかし、何を見ても「災害時にみられるコミュニティや連帯は素晴らしい。ひきかえ既成権力はクソ」という話しかしない。

    災害時の略奪も起こっていないわけじゃないのだし、なにが「ユートピア」と「略奪」を分けるのか、文化か社会資本か災害中心部からの距離(だいたい略奪とかって災害の周縁部で起こるって説を聞いたような)か、いろいろ考察をする余地もありそうなものだ。日常的な社会秩序がご破算になった状態で、どういうふうに人たちが行動するのかの社会心理学的な分析も多少はあろうかとも思っていたのだが、その手の記述は全然ない。事例をいくつ並べてみても、それをネタに同じ話しかできないのでは面白くもない。

    その反面、ブッシュやイラク戦争が全然ダメみたいな話にはえらくご執心なのである。

    とにかく最後まで読んで得心したのは、この方はカトリーナのときにニューオーリンズで起こった「エリート・パニック」、すなわち行政(FEMAとか)の機能不全やら人種差別的な「自警団」の行動やらに強い問題意識があるようだ。それならそれで、カトリーナに的を絞ったノンフィクションでも書けばよくって、無理に災害ユートピア全般に話を広げなくてもね。アメリカは厚い本を書くジャーナリストが偉いみたいな風潮があるのかね。

    一点、へーと思ったのは、「レインボー・ギャザリング」っていうカーニバル的なキャンプ生活があるそうだが、そういった活動しているヒッピー的(?)な人々は、水利・煮炊き・トイレなど原始的環境でのサバイバル的な組織だった自治が得意なので、実際に被災地でも活躍したと。これは右翼的なサバイバリストが家族単位で引きこもりがちなのとも好対照を成す。
    (似たところで「バーニング・マン」が有名だが、これはだいぶコマーシャライズされているそう)

  • かつての大震災の時、日本人の冷静さや規則正しさ(?)が海外のメディアに絶賛されたらしいけど、災害が起きたときのそういった行動は、別に日本人だけじゃない。
    海外でも未曾有の大震災が発生したとき、人々は助け合い、譲り合い、支えあった。
    では、震災の時に人は暴徒化すると思われているのは何故なのか。
    誰がそういった情報を刷り込ませたのか。

    読むとわかります。

  • 出版社(亜紀書房)
    https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=467
    内容紹介、目次

    宮本匠(2012)「津波後は旅の者に満たされる」 ―― 大文字の復興と小文字の復興(SYNODOS)で紹介。
    https://synodos.jp/opinion/society/2457/

  • 災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか
    (和書)2011年02月18日 14:26
    レベッカ ソルニット 亜紀書房 2010年12月


    asahi.comの柄谷行人さんの書評から読んでみることにしました。

    特別な共同体というものは今までの見方を一変させられるものだった。

    エリートパニックというものまたはそれに近い考え方・利己的というものが非常に危険なのですね。

    慈善とは違う利他的というものが起こる。読んでいて非常に感動しました。

  • シンプルな主張に対して具体例が多すぎて冗長に感じてしまった。主張を裏付ける事実が延々と出てくるため、説得力はある。が、読み進める楽しみが味わえず、途中で断念。

  • タイトル及びサブタイトルで全てを言い切っているのではという、単調さへの予測は裏切られた。
    ニューオリンズのハリケーンカトリーナをはじめとした、フィールドに立った災害の詳細なレポートとしても、災害の歴史学としても、災害時にこそ現れる、社会構造の読み解きとしても、ユーモアのある美しい文体と相まって最後まで楽しめる。

  • (01)
    全体として単調な綴り方がなされている.20世紀から21世紀にかけて,アメリカ大陸の災害(*02)を中心に記録や聞き取りによって,地獄と化した災害の特殊な局面において起こりつつあったことを,パラダイスないしユートピアという観点から復元している.
    取り上げられた記事や証言は,ともすると恣意的なものに映るかもしれない.しかし,それが本書の論旨に都合のよいデータであったとしても,その災害によって人々が受け止めたことが圧倒的な迫力と真摯さをもって,著者を通じて読者に迫ってくる.そして災害を,例えばマスコミの一面的な報道によって,理解しやすいように理解しようとすることが暴力的ですらあることは,本書の読解によって得られる知見でもある.

    (02)
    災害といっても,自然災害に限らず,2001年のニューヨークほかの9.11のテロリズムも扱っており,本書の主旨としては,自然災害であっても,いわゆる人災がそこには同時に起こっていることが強調されている.都市の危機における都市統治として,コミュニティの自助活動やボランティア支援が立ちあがる様と,政治や社会,経済にわたる政府や自治体による公的な対策とを対立的な図式において把握することを試みている.
    都市には文化がある.メキシコシティのカーニバルであったり,ニューオーリンズのデルタブルースであったり,ニューヨーカーたちの日常であったり,北アメリカを横断するような70年代のヒッピー文化であったり,そのような災害のない平時に育まれた文化が,災害時や被災後にどのように社会に活力を与え,ときにはコミュニティの紐帯としての力を発揮するかについての記述も,本書の注目すべき点であるだろう.

  • 災害時に自然発生的に立ち上がる、利他的コミュニティについて。
    集団的に困難に直面した人々は、短期的な目標が当面の生存などに収斂しやすく、災害ユートピアが成立する。
    災害時には人々は孤独な野蛮人に戻るのではなく、自発的に利他的なコミュニティに参加するということを広く知らしめた点が本書の意義。
    一方、実際には災害時の略奪は少なく、権力こそが阻害要因であるという筆者の主張は、ときに極端でもあることは否めない。
    災害時の行政とかのあり方としては、市民は迷える子羊か解き放たれた野蛮人ばかりではなく、災害ユートピアなる現象があることを認識して、災害時における市民社会の自発性をより重視していくというアプローチが求められるんだろうな、と感じた。

  • Food for thoughts. 相変わらず読みやすい。翻訳も良いのかしら。丁寧に読めていないので、改めて時間取ってゆっくり読もう。

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著者プロフィール

レベッカ・ソルニット(Rebecca Solnit):1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。アカデミズムに属さず、多岐にわたるテーマで執筆をつづける。主な著書に、『ウォークス歩くことの精神史』(左右社)、『オーウェルの薔薇』(岩波書店)がある。

「2023年 『暗闇のなかの希望 増補改訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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