生きていく絵

著者 :
  • 亜紀書房
4.11
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本棚登録 : 131
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750513300

作品紹介・あらすじ

東京・八王子市の丘に立つ精神科病院、平川病院にひらかれた〈造形教室〉では、40年以上にわたって心の病を抱えた人たちがアートを通じた自己表現によって、自らを癒やし、自らを支えるという活動をしています。とはいえ、これは「芸術療法」や「アートセラピー」のように、表現された絵を医療的に解釈したり、診断に活用するといった活動ではありません。

また、「アウトサイダー・アート」や「エイブル・アート」のような美術・芸術の側からの評価も、この本では行っていません。「一人の人間が、病みつかれた心を一枚の紙のうえに描くことに、果たしてどのような意味や可能性があるのか」を探り、きちんとした言葉で説明すること。著者・荒井裕樹さんが目指したのは、もっともシンプルでもっとも根源的なことでした。

作品そのものと、作者の人生にひたすら向き合うことで見えてくる〈生〉のありかたは、おそらく誰にとっても無縁ではない〈生きにくさ〉と、手垢のついていない〈癒し〉の可能性をものになるはずです。
代表的な作品をカラーで紹介。

感想・レビュー・書評

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  • ポリタス石井千湖さんの紹介。
    文庫本の方は堀江敏幸さんが解説されているとのことで迷ったけれど少しでも大きなサイズで作品を見るために先ずはこちらを読んで正解。白黒の小さな写真からも伝わる作品のパワーというかエネルギーというか、その迫力に圧倒されるし本文を読み作品ができるまでの経過や背景を知ると印象がとても変わる。
    2022年には第8回「心のアート展」が開催されたそうなのでぜひ次回は見に行きたい。

  • 「まとまらない言葉を生きる」荒井裕樹

  • 演劇だって言う人が居る。音楽だって言う人も居る。
    私は書く事&描く事。
    結局、ツールはなんでもいいから、その人が出しやすい方法で、「出さずにはいられないモノ」をちゃんと表出させることが「必要」なんだと思う。
    演劇や音楽が特別な教育が必要なのに対して、書く(描く)事は義務教育で教えてくれるからね。誰に対しても開かれてるって点では、一番多くの人を救えるツールだと思う。

  • ☆アートによる心の癒し

  • 去年読んだ『障害と文学―「しののめ」から「青い芝の会」へ』の著者の、別の本。タイトルや装幀をネットで見たときから、なんとなく医学書院の〈ケアをひらく〉シリーズのような気がしていたが、手にしてみると亜紀書房の本だった。前の本は、もとが博論ということもあって、論文ちっくな文章だったが、この本は「ですます」体で書いてあって、印象がだいぶ違った。

    この本は、精神科の病院の《造形教室》で作品をつくってる人たちの「自己表現」の意味?を考えていて、作品の図版がカラーとモノクロで入り、主に4人の作品とその作者の話をつうじて、「心病む人にとっての表現」を手がかりに考えたあれこれ、が書いてある。

    ▼私が試みたいのは、生みだされた個別の表現物(=作品)と、それを生みだす場の力を同時に捉えつつ、自己表現が表現者の〈生〉にいかにかかわるのかを読み解くことです。(p.28)

    そして著者は、「〈もの〉としての表現だけでなく、その背後にある〈こと〉としての表現も捉えるような考え方」(p.29)と、「表現者という一人の人間の〈生〉と、表現された作品の両方を、なるべく同時に捉えるような考え方」(p.30)とに基づいて書き進めていきたい、と記す。

    自己表現と〈癒し〉の普遍的な関係性を考えたいという著者は、心病む人たちのための理論や療法を作りあげたいわけではない。そのためには、個々人の深層を掘り進めていく作業に徹するよりほかにないのではないか、という。

    「心のアート展」(東京精神科病院協会に加盟している病院に入院あるいは通院している方たちの作品を展示するアート展)についてのインタビューで、こうしたアート展を開催する意義について問われて答えている中で、著者はアートのもつ「異化」のはたらきを語っている。

    ▼アートはきっと「いつもとは違った角度から社会を見つめ直す」きっかけを与えてくれると思います。(p.41)

    作品として発表されたもののもつ思いがけない可能性について書いているところは、この本のキモやなと思った。

    ▼もしかしたら、「絵が自分の意図を超えていく」という点にこそ、アートを通じた自己表現の可能性があるのかもしれません。「アーティスト」というのは「自分の気持ちや考えたことを、正確に表現できる技術を持った人」のことではなく、むしろ「自分が生みだした表現に、自分自身が驚くことができる感受性を持った人」のことなのかもしれません。(p.251)

    著者が、自己表現と〈癒し〉の普遍的な関係性を考えたいというのは、なにも、ビッグデータを解析して、心病む人にとってアートとはこうだと言うことではないのだ。あくまで一人ひとりの表現を、一人ひとりが感じたその先にある「なにか」を見つけるようなこと。そのことは、巻末に書かれたこの一文によくあらわれていると思う。

    ▼一人ひとりの想像力と感受性に働きかけて、かけがえのない「一」の重みや大切さを伝えること。その「一」の傷つきや苦しみに対する想像力や感受性を、いわば「社会資源」にまで育てていくこと。そこにこそ、アートの存在意義があるのかもしれません。(p.275)

    作品の図版を見て感じることもあったけど、できることなら、ナマの作品現物を見てみたいと思った。それと収録されている作品のなかに、あの人の絵に似てる!と思ったのがあった。この本を読んで、あの人の絵も、心の中身を吐きだすようなものから、表現することで、自身の苦しみの事実そのものを受け止め、認めていけるようになったのかなーと思った。

    (7/23了)

  • 2014年28冊目。

    医療による外からの治療ではなく、アートによる内からの癒しの可能性を探った著作。
    いわゆる精神障害を患いながら表現活動を続けている〈造形教室〉に通う人たちとその作品を追う。

    「表現」が「表現者」を超える瞬間があるという。
    わだかまっていた内面をアートとして表現した時、
    その表現によって新たな気付きを得た内面が、
    更なる表現を進める。

    “文学によって「大変な社会」を変えることはできないが、「大変な社会」を生きのびることはできるかもしれない。(p.122)”

    その力を信じたいと思う。

  • 先日読んだセラピストとは異なった文学研究者としての視点をもって、人の心がいやされていく事例を取り上げた良作。

  • 三葛館一般 146.8||AR

    精神科病院のなかにある<造形教室>に集う人々のなかから4人に焦点をあて、作品と、制作過程を通して、自己表現することが癒しへと繋がっていくのかを考えます。
                                  (うめ)

    和医大図書館ではココ → http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=69073

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784750513300

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著者プロフィール

荒井 裕樹(あらい・ゆうき):1980年東京都生まれ。二松學舍大学文学部准教授。専門は障害者文化論、日本近現代文学。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。著書に『隔離の文学──ハンセン病療養所の自己表現史』(書肆アルス)、『障害と文学──「しののめ」から「青い芝の会」へ』(現代書館)、『障害者差別を問いなおす』(ちくま新書)、『車椅子の横に立つ人──障害から見つめる「生きにくさ」』(青土社)、『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)、『凜として灯る』(現代書館)、『障害者ってだれのこと?──「わからない」からはじめよう』(平凡社)などがある。2022年、「第15回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。

「2023年 『生きていく絵 アートが人を〈癒す〉とき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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