イスラム過激派二重スパイ (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750514383

感想・レビュー・書評

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  • 『帰還兵はなぜ自殺するのか』『兵士は戦場で何を見たのか』など優れた翻訳書を出版している亜紀書房さん。
    その「亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ」の新刊。

    本書は500ページにも及ぶが、今回も優れた翻訳書に出逢った。


    読了後、なんとも言えない感覚があった。

    本を読む前と読んだ後では、違った世界になってしまった。

    欧米の若者がイスラム過激派の思想に染まっていく過程もよくわかり、(本書の物語の中心部分となる)「テロと闘い」で暗躍する諜報機関とその諜報員の姿がありありと伝わってきた。

    そこでは、相互の強力な信頼関係と、その隣り合わせにある不信、裏切り、国家権力の冷徹さがあった。

    自分の(あるいは家族の)命の危険を冒してまで、その実情を告白した、本書の男性の勇気に感服するしかない。


    内容は、デンマーク生まれの白人の波乱に満ちた半生の物語。

    複雑な家庭環境で育ち、荒れた少年時代を過ごす。そんな荒れた生活に疑問を感じ、ふと立ち寄った図書館でイスラム教の本を読み、アッラーの教えに救いを見出し、やがてイスラム過激派にまでなる。そこで、数々の大物と知己になり、親交を篤くし、傾倒していく。

    しかし、数多くのジハードを知るにつれ、旧友の言葉を思い出し、イスラム過激派思想の「矛盾」、「ジハードという大義」に疑問を抱き棄教。

    その後、イスラム過激派の思想に染まっていた時に知り得た情報を元に、デンマークの諜報員となり、その功績が知られることになり、MI5、MI6、そして、CIAとも協力するようになる。「テロとの戦い」に協力するのである。そして、…。

    アラビア語を話し、過激な思想に染まった“敬虔な”イスラム教徒の姿。
    一方では、英語を話し、ジーンズをはき、お酒を飲む西洋人。

    苛酷な二重生活。

    数々の情報を提供し、報酬ももらう、その中で、危険極まりない活動をし、自分がCIAに提供した諜報のために、「友」を殺してしまったという苦悩。他にもいろいろなことがあり、精神を病んでいく姿が辛い。

    そして、なんとなれば、「切り捨て」る国家権力。諜報機関の裏切り。

    人間の強さ、弱さ、脆さ、個人と国家権力の利害、思惑、…、ありとあらゆることがつまっている。


    本書の後半では、今につながることが0記述も数多くあり、「『テロ』は現在進行形である」ということも思い知らされる。


    上記と重なる部分もあるが、イスラム過激派思想に若者が染まっていく過程、イスラム過激派の内情、欧米の諜報機関の実情・実態(の一部)を知る上で、とてもよい翻訳書だと思う。

    多くの人に読まれるべき価値のある本だと思う。

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著者プロフィール

元イスラム過激派。デンマークのコアセー出身。アルカイダと深く関わったのち、二重スパイとなり、アメリカ、イギリス、デンマークの情報機関に協力する。

「2016年 『イスラム過激派二重スパイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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