- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784750515007
感想・レビュー・書評
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宮崎学は、長野県の伊那谷を拠点に、野生動物の姿を捉え続けてきた写真家・ナチュラリストである。
本人は動物写真家ではなく「自然界の報道写真家」と自称する。その写真は、変わりゆく人間社会の傍らで、したたかに生きる動物たちの姿を通じて、「今」という時代を鮮烈に切り取っているようでもある。
本書は、キュレーターである小原真史が宮崎に話を聞き、その写真術や、山の歩き方、獣害に関する考察などをまとめた形である。宮崎の写真もふんだんに収録されている。
50年以上に渡って、日本の自然を見つめ続けてきた、経験に裏打ちされた「実感」がすこぶるおもしろい。
宮崎は独学の人だ。
写真学校に通ったことはない。中卒で就職したカメラの部品工場で、おもしろさに取り憑かれ、働く傍ら、その仕組みを学んだ。
写真家として独立した後も、自ら工夫してさまざまな仕掛けを作り出してきた。無人状態で、動物が通りかかったらシャッターが切れる無人カメラもその1つである。
こうした無人カメラは、同業者からも批判や揶揄が多かったようだが、「楽して撮れる」わけではなく、さまざまな工夫や微調整が必要であり、カメラや周辺機器の構造に加えて、動物の習性を知り抜いたものでなければ不可能であったことが、本書を読んでいるとよくわかる。
動物が自然に近い形で捉えられた写真からは、動物たちが意外にしたたかで、驚くほど人の近くまで入り込んでいることが見えてくる。
近年、獣害が多くなってきているのは、野生動物の数自体が増えている上に、里山の手入れがされなくなり、動物たちが身を隠す場所が増えていることも大きいようだ。昔ならいたような放し飼いの町犬・村犬もいない。
生まれてからずっと現代社会になじんでいる野生動物たちは、人が思うよりも「現代っ子」で、うまく人目を避けて残飯やゴミなどおいしいものにありついている。
車社会となったために、凍結防止剤として利用される塩化ナトリウムや塩化カルシウムが、山の動物たちの意外な塩分補給源となっている可能性の指摘はなかなか興味深い。
読者によっては抵抗感のある人もありそうだが、死んだ動物が土に帰るまでを追った章も見応えがある。スカベンジャー(掃除屋)としてさまざまな動物が現れ、それぞれが必要なものを入手しては去っていく。その過程は見ようによってはグロテスクとも言えるが、自然の中で1つの命が循環する様を見ているようでもあり、粛然とした思いに囚われる。
その他、縄文シバと呼ばれる古来の姿に近い柴犬を伴った山行きの様子、渋谷で生き抜くドブネズミの姿、お墓のお供えをくすねるクマやサルの姿など。
人と動物の関わりを深く考えさせる好著。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
無人カメラで野生動物の姿を撮影し続けている著者へのインタビューと写真集。
人間のわがままに翻弄される野生動物たち。いや、家畜や愛玩動物でさえも、東日本大震災では災難に会っている。そして、そんな動物たちを駆除という名目で捕獲している私たち人間。罪だなあ。
設置した無人カメラをテストするために自らが想定した動線を通過してみるときの素な宮崎氏がカワイイ。 -
いろんなことをしている人がいるんだなぁとまず思った。
好きを仕事にして突き詰める人ってすごいな強いな…と
無人カメラで、森の動物たちを長い間、写真に撮ることで日本の森林の変化や生態系の変化にいち早く気づき、少し普通と違う視点で警鐘を鳴らしてくれている興味深い本でした。 -
写真だけでなく、著者の自然観にも感銘を受ける。素晴らしい一冊。
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今回の写真はとても臨場感のあるものが多く好感が持てます。
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暗い森へ分け入れば、まだ見ぬ自然が見えてくる
無人カメラを相棒に、森の探偵は今日も行く
手掛かりを読み解き、カメラを仕掛け……
森の中で撮影された、“決定的瞬間"の数々!
独自に開発した無人カメラのシステムを駆使し、野生動物の素顔や変容する自然の姿を撮影してきた写真家・宮崎学。あちこちに仕掛けた無人カメラがとらえた写真の数々は、自然を読み解くためのヒントに溢れている。決定的な証拠写真に目を凝らし、自然の発する声なきメッセージを読み解く宮崎は、まさに「森の探偵」である。半世紀にわたる、森の調査報告書。 -
全国の山や被災地に無人カメラを設置し、野生動物の営みを専門に撮影するカメラマンの記録。「野生動物」というと山の中にいるイメージでしたが、案外我々人間との距離が近く、文明や都市化に適応しているのです。
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素晴らしい本だった。これだけ自然をしっかりと観察できる人はなかなかいない。