感想・レビュー・書評

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  • とても真面目な本。
    Amazonの本書のページから「はじめに」の部分が読めるので、これを読めばどんな内容の本かわかる。

    この本を読む人の多くは、世の中の「バカ」な奴に辟易としているのだろうが、程度の差こそあれ皆「バカ」なことをしているのだ。
    本書に出てくる「バカ」は、しばしば自分に当てはまる。

    バカなことを言ってしまった。
    バカなことをしてしまった。
    と反省してるうちはいいが、自分の言動を(正当化し)振り返らなくなったら「バカ」度が進んでいるかも知れない。

    私はネットの情報もよく見るが、事実に基づかない低次元な記事が増えているように感じる。
    昔「プレジデント」という雑誌を時折り読んでいた。
    最近ネットで目にする「プレジデント」の記事はウケ狙いで書かれているように感じ信頼できない。
    もう一つ「現代ビジネス」も記事内容に疑問を感じることが多く、講談社さん大丈夫?と心配になる。
    ファクトチェックをして排除すべきと思うくらい低レベルな記事もあり最近はこの2誌は避けている。

    「知的なバカ」は発言のもととなる真実についての考え方が間違っている。
    そして、「ナルシシズム」「無分別」「知識人気取り」という特徴を持っている。

    テレビや書籍で見かける「知的なバカ」は相手にしなければいい。
    困るのは、職場や生活空間で常に接していなくてはならない「知的なバカ」だ。
    さらに「知的なバカ」が何人もいると、「バカ」同士で激しい競争が始まるので最悪だ。

    「噓つき」は常に真実に目を光らせている。
    「嘘」がばれないようにするためと、ばれそうな「嘘」をうまくごまかすためだ。

    低俗な意見を堂々と主張する「バカ」な輩は「事実に関して無関心」だ。
    だが、本人と同様に「事実に関して無関心」な聞き手を一定数確保できれば安泰だ。

    「これはちょっとバカげていないだろうか」と疑問に感じる人は「バカ」の意見は聞き流すようになる。

    ダニエル・カーネマン、ダン・アリエリーの名前を見て、行動経済学にもつながる人間の思考の癖に関する本かなと思ったが、
    認知心理学、情報科学、哲学、人類学などいろんな視点からバカげた行動を論じたものだった。

    各論客が10ページ程の文章量で分析しており順不同なので、興味あるところから少しづつ読むことができる。
    本書が対象とする「バカ」は、主に「社会的な常識に欠けること」と「ナルシシスト」に当てはまるかな。

    -------------------

    以下は、各論客の評価点とご意見のメモ。
    (自分用の覚えで、気まぐれに抜粋したもの。各論客の要点を示したものではない。)

    【目次】

    ●バカについての科学研究 (セルジュ・シコッティ/心理学者)★5

     人間についての研究の一部分がバカについての研究になりバカの本質がわかる。
     バカは自己評価を一定レベルに維持し、大多数が平均値より少し上程度にみなしている。
     平均値より大きく外れて自己評価が異常に高い自信過剰な人間が「大バカ野郎」になる。

    ●知性が高いバカ (イヴ゠アレクサンドル・タルマン/自然科学者/心理学者)★2

     「自分だけは大丈夫」「自分が罰せられるはずはない」という楽観バイアスが「バカ」な行動をさせる。

    ●迷信や陰謀を信じるバカ (ブリジット・アクセルラッド/哲学者/心理学者)★2

     ジョブズやアインシュタインでも医学に懐疑的であった。

    ●バカの理論 (アーロン・ジェームズ/哲学者)★4

     バカは他人より自分のほうが価値が高いと勘違いしている。
     バカは自分はそれを持つのがふさわしいと思っているものを手に入れると満足する。
     アメリカのハイパーメガ級大バカくそ野郎はトランプ。

    ●人間は決して合理的な生き物ではない (ジャン゠フランソワ・マルミオン/心理学者)★4

     本書の編者。
     私たちの思考は、100%の完璧さを目指すことは決してない。
     過ちをおかすからこそ、わたしたちは人間らしくいられる。
     我々は、個人の限られた知識や経験という不確かなデータに基づいて思考している。

    ●認知バイアスとバカ (エヴァ・ドロツダ゠サンコウスカ/社会心理学者)★5

     無知は「バカ」ではない。無知は学びの大きな原動力になる。
     本物の「バカ」は、自分の考えに疑問を抱かない。

    ●二とおりのスピードで思考する (ダニエル・カーネマン/ノーベル経済学賞受賞/心理学者/行動経済学者)★3

     二とおりとは、直感と論理思考。論理思考によって直感が育まれる。
     選挙の投票は、合理的な思考ではなく、ほぼ直感によって自分の利益になる人を選ぶ。
     マルミオンの質問に答える形式で「バカ」に関する話はなかった。

    ●なぜ人間は偶然の一致に意味を見いだそうとするのか (ニコラ・ゴーヴリ/心理学者/数学者)★3

     25人のうちで同じ誕生日の人が二人以上いる確率は?が考えられないのはバカだからなの?

    ●バカのことば (パトリック・モロー/編集者)★2

     「バカのことば」は騙そうとしていないので「嘘」ではない、「いいかげんなことば」なのだ。

    ●感情的な人間はバカなのか?  (アントニオ・ダマシオ/心理学者/神経科学者)★2

     インターネットで簡単に情報を手に入れられるようになったので、間違った情報や嘘に影響されたり、騙されやすくなっている。

    ●バカとナルシシズム (ジャン・コトロー/精神科医)★4

     自分自身を高く評価している者には「こいつより自分の方が頭がよい」と思わせておくほうが都合がよい。

    ●フェイクニュースを作っているのはメディア自身だ (ライアン・ホリデイ/メディア戦略家)★5

     情報操作のテクニックは高度化している。政治家の発言やコマーシャルに限らず、詐欺のテクニックに要注意。だが騙される。
     フェイクニュースやデマを見つける解決策はない。

    ●SNSにおけるバカ (フランソワ・ジョスト/哲学者)★3

     他人の行為を何でも捌きたがる傾向があり、行為と無関係な見た目に言及する「知性の欠如」をさらけ出す。
     有名になりたい、スゴイねと言ってもらいたい。

    ●インターネットのせいで人間はバカになる?  (ハワード・ガードナー/認知科学者・教育学者)★3

     インターネットで提供される情報には、質が疑わしく真実か否かの判断が難しいものがたくさんある。
     「美」に対する見解に判断基準はない。「美徳」についてはある程度の共通認識で正しさのコンセンサスがある。

    ●バカとポスト真実 (セバスチャン・ディエゲス/神経心理学者)★5

     バカは「知性」を悪用している。「倫理」をふみにじっている。
     インターネットはバカを生産・増殖させている。 
     ※ディエゲス氏の意見をもっと知りたいと思ったが、残念ながら邦訳されている本はなかった。

    ●バカげた決定を回避するには?  (クローディ・ベール/人間科学ジャーナリスト)★2

     満場一致で決まったことが一番いいとは言い切れない。

    ●なぜバカみたいに食べすぎてしまうのか?  (ダン・アリエリー/行動経済学者)★3

     おいしそうなものがあると、誘惑にまけてしまうから。

    ●動物に対してバカなことをする人間 (ローラン・ベーグ/社会心理学者)★2

     人間は人間が一番偉いと思っている。

    ●子どもとバカ (アリソン・ゴプニック/心理学者/哲学者)★4

     子供は人間として欠陥があり、大人より未熟で、基本的な能力が欠如している。
     子供は決断が早い。大人は考えすぎる。
     トランプを見ていると、大人は子供よりずっと自己中心的になりうることがよく分かる。

    ●夢とバカの関係 (デルフィーヌ・ウディエット/脳研究者)★4

     ほとんどの夢はありきたり。非日常的要素はほとんど出てこない。
     私たちは夢でしょっちゅう見えない敵と戦っているようだ。
     夢の中では「社会性に欠けるバカ」になり易い。「失敗ばかりするバカ」「騙されやすいバカ」にもなる。
     夢と現実の関係性は不明。

    ●バカは自分を賢いと思いこむ (ジャン゠クロード・カリエール/シナリオライター)★4

     「バカ」の話をする時は気をつけた方がよい。自分も「バカ」なのだ。自分を頭がよいと思い込むのは愚かだ。
     SNSの普及でバカげた情報が増えた。「バカ」の時代はまだ続く。

    ●バカなことをした自分を許す (ステイシー・キャラハン/心理学者)★3

     バカなことをした時に味わう3つの感情「きまり悪さ」「罪悪感」「恥」。
     自分をよく知れば「恥」を感じる状況を避けることができる。

    ●知識人とバカ (トビ・ナタン/心理学者/人類学者)★2

     バカはバカでない人間を嫌う。

  • 「バカ」について、23人の識者が論じた書。

    ・どうして世の中にはバカがたくさんいるのか。
    ①人間にはネガティビティ・バイアスがあるため。
    ②人間は根本的な帰属の誤り(=他人の行動を判断するのにその人の気質や性格を重視しすぎること)に陥りやすいから。(セルジュ・シコッティ)

    ・知性にはアルゴリズム的知性と合理的知性がある。
    アルゴリズム的知性があっても、合理的知性を持ち合わせず「バカ」をする例は多い。
    ・バカとクリエイティビティは1枚のコインの裏表のようなもの。敷かれたレールから外れることが共通している。(イヴ=アレクサンドル・タルマン)

    ・「バカ」とは、ルネ・ ザゾの調査によれば「感情面での事前にかけ、自己中心的な態度で他人の気分を踏みにじり、自分自身について大きな勘違いをしている人物人物」と言える。(ジャン・コトロー)←そうだよね!そういう人!ホントうんざりする。

    ・SNSの①生活のスペクタクル化、②なんでも裁きたがる傾向、③有名になりたいと言う欲求、という3つの特徴は〈悪意の先験的条件〉であるのと同様に、〈バカの先験的条件〉と言えるかもしれない。(フランソワ・ジョスト)

    ・多くの大人、特にバカは、自分のことしか考えない。でも子どもはそうではない。むしろ子どもの真似をすることがバカの良い治療になるのではないか。(アリソン・ゴプニック)

    ・私たちは夢の中で「社会性のないバカ」や「失敗ばかりするバカ」、「騙されやすいバカ」になる。
    ・夢の中で拍子もないことが起きるのは、脳の一部が損傷することで起きる脳神経機能障害の症状と酷似している。
    ・トーレ・ニールセンは、夢の役割の1つとして不安やトラウマを引き起こすネガティブな記憶の断片を、ニュートラルな状況と組み合わせながら再現することで、その記憶の持つイメージを和らげることを挙げている。記憶の中のネガティブな感情を分析し、取り除いて重要な情報だけを保管する作業をしている。(デルフィーヌ・ウディエット)

    などなど、とても面白い。

    なによりも「バカ」と言う単語がめちゃくちゃたくさん出てくることに笑ってしまう。

  • 知識人が真面目に論じる
    [評]粂川麻里生(慶応大教授)
    「バカ」の研究 ジャン=フランソワ・マルミオン編:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/55097

    亜紀書房 - 「バカ」の研究
    https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=956

  • あんなバカ、こんなバカ。

    自らも当てはまるので耳が痛い。もうやめて、となるが、耐え切れない人はイライラするだろうか。大丈夫。自覚がある人は、ダニンググルーガー効果のように自己過大評価をしている訳でもなく、自己愛性パーソナリティ障害でもなさそうだ。合理性を追求するが故の認知バイアスによる誤解は溢れているのだし、バカによる独創的な行動が発見を齎す事は多いのだ。必要悪ならぬ必要バカである。バカをバカにしてはいけない。

    あらゆるバカを切り口に、認知バイアスや行動経済学、インターネットの影響など豊富なテーマを語る。詐術、錯視が溢れている。特に、フレーミング効果という同じ事を違う言い方にするだけで勘違いを誘う手法。ビジネスの場にはよくある事で、上級者になると、それを分かった上でその言質を取って逆手に利用するなどの交渉劇も。

    完全合理性こそが「バカ以外のもの」とするならば、それはあり得ず、世を構成する限定合理性に対し、認知の限界、あるいは埒外にいる人間から相互にバカに見えるだけ、という事が往々にしてある。所謂、「バカの壁」だ。例えば、隣の店の特売品を買わないのは情弱のバカだと決めつけても、バカと言っている本人がネットで更に安い買い物ができる事を知らないだけかも知れない。そうした価格調査に費やすコストを無駄だと割り切っている人もいるだろう。最適解を判断する領域の違いということであり、安易に誰かをバカだなんて言えない。

    だからこそ、終わりなき「無知の知」、他人の判断を尊重する態度こそ至極。思想が違うから多様性があり、それぞれ異なる能力で進化し、そして結果的に生き延びているのだ。限定合理性を基本とした多様性社会では、全てがバカに見えるが、結局は全てが賢い。そこに生物としての戦略の多様性を見れば良いだけの事だろう。

  • 面白い。
    著名な学者達によるバカに関する意見・研究を真面目に集めた一冊。
    身に覚えがあったりすると冷や汗ものだが…

    まだまだ半分くらい読んだだけ。
    ゆっくりとバカを楽しませて頂く予定です。

  • ダニエル•カーネマンとダン・アリエリーの知らない文章を読みたくて借りてみた。たまたまその章はインタビュー記事だったので、いまひとつ。。

  • ●とりわけ、知性が高く、教養がある馬鹿には要注意だ。読書から得た知識を武器にして、1冊の本、1つのイデオロギー、あるいは偉人(馬鹿だったりそうでなかったりする)の発言の引用などを盾に、多くの書物を焚書にし、その著者を弾圧する。
    ●馬鹿を更生させようとすればするほど、ますますレベルアップする。「自分は不当に妨害された被害者だ」「やっぱり自分は正しかったのだ」と馬鹿を喜ばせてしまうだけだ。自分は反体制派のヒーローで、レジスタンス運動家で、人々の同情と尊敬に値する人間だ」と思い込ませてしまう。
    ●アジアの国々では「ダニング=クルーガー効果」と全く逆の現象が起きていると言う。彼らは自らの能力を過小評価する傾向が強いらしいのだ。自分の能力をひけらかさず、何でもできると自慢したりはしない。
    ●バカとは知性の欠如ではない。アルゴリズム的知性が高くても、合理的知性が低いとバカげた意思決定をする。
    ●人間は必ずしも最大の利益を求めるわけでも、常に合理的な行動をするわけでもない。私たちの思考は「バイアス」だらけであることが判明した。どうやら私たちは、いつもいきあたりばったりに考えたり判断したりしているらしい。
    ●認知バイアスは馬鹿ではない。脳の情報処理と思考における様々な「傾向」だ。論理や確率論におけるルール違反をするせいで、時に私たちは誤った方向へ導くこともあるが、基本的には非常に実用的なスピーディーな判断をするためのショートカットである。脳の情報処理にバイアスがかかる事は、決して知性の欠如を意味しない。
    ● SNSは似通ったグループ同士の境界線をなくし、プライベートや内輪だけのやりとりと公共の場との違いを曖昧にして、人前で言って良いことと悪いことの区別をつきにくくしてしまった。
    ● SNSの特徴は、何でも手当たり次第に他人を裁こうとする傾向だ。1980年ミシェルフーコーはこのように述べている。なぜ人間はこんなにも他人を裁くのが好きなのか。おそらく、人類に与えられた最も簡単にできることの1つだからだろう。その他①生活のスペクタクル化③有名になりたいと言う欲求…こうしたSNSの3つの特徴は「悪意の先験的条件」であるのと同時に、「バカの先験的条件」と言えるのかもしれない。
    ●デジタルメディアは知能を多元的に成長させられると言う点で非常に優れたツール。ただし人間の脳は何千年単位でゆっくりと進化しています。わずか数十年前に出現し数年単位で進歩するテクノロジーに対してすぐに順応できるはずがないのです。ですから私は「デジタル脳」などと言う今時の考え方には賛同できかねます。
    ●「うんこな議論」彼らは、いかなる状況においても、あらゆる手段を使って、自分が損をしないようにうまく切り抜けようとする。正しい情報を何一つもたらさず、中身がある事は何も言っていないのに、素晴らしいことを言っているかのように振る舞う。

  • 20人以上の世界のトップレベルの心理学者、経済学者、脳科学者達が、”バカ”についての(真面目な)考察集。

    「バカ」を研究するといっても、そもそも「バカ」の定義があいまいのため、そこから始まり各人各様の持論が展開されるのだが、おのずと共通の定義などが見つかって面白い。
    また、「バカ」の様々な実例を読んでいると、見事に自分にも当てはまり苦笑いさせられる。

    読みやすく書かれているが、ネット時代の功罪も浮き彫りにされ考えさせられるところもある。

  • 短時間にこれほどまでに『バカ』という言葉を目にする機会はなかなかないかもしれない。数多くの『バカ』が出てくるが、根底にあるものは似ている気がした。

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著者プロフィール

心理学者。プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
1934年、テル・アビブ(現イスラエル)に生まれへ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエルでの兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。著作多数。より詳しくは本文第2章「自伝」および年譜を参照。

「2011年 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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