それでもあなたを「赦す」と言う——黒人差別が引き起こした教会銃乱射事件 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII)

  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750516530

作品紹介・あらすじ

【推薦!】
77発の銃弾が9人を殺戮。戦慄の果てに希望は見えるか。
——保坂展人氏(『相模原事件とヘイトスクラム』著者、世田谷区長)

家族を殺した男をあなたは赦せますか?
——高橋ユキ氏(『つけびの村』著者)
 
 
 
2015年6月17日、アメリカ南部・チャールストンの由緒ある教会で事件は起きた。
「チャールストン教会銃乱射事件」である。
 
その日の夜、男は、毎週水曜日恒例の聖書勉強会に参加していた黒人信徒に向け銃を乱射。参加者12人のうち9人が死亡した。
——それはインターネットで仕入れた差別思想に影響を受けての凶行だった。
 
だが、事件後早々、生存者と遺族は犯人に対し「あなたを赦します」と発言。
全米を震撼させた理不尽な動機による大量殺人事件は、この発言によってさらに注目を集めることになった。
 
 
克明にあぶり出される事件の一部始終、耳を疑うほどの犯行動機の論理破綻、ネットをきっかけにヘイトスクラム(憎悪犯罪)が生まれる過程、そして、残された人々の尽きせぬ悲しみの軌跡……。
——ピュリッツァー賞を受賞した地元紙の記者が生々しく描き出した、第一級のノンフィクション。
 
 
 
【目次】
プロローグ
第一部 邪悪な存在と目が合った
第二部 癒しを求めて
第三部 真相が明るみに出る
エピローグ
弔辞——クレメンタ・ピンクニー師に宛てたアメリカ合衆国大統領による追悼演説
謝辞
訳者あとがき

感想・レビュー・書評

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  • 2015年6月17日、アメリカ南部チャールストンにあるAMEエマニュエル教会で起きた「チャールストン教会銃乱射事件」のことを書いたノンフィクション。

    犯人は21歳の白人至上主義者の青年。インターネットで得た差別思想に影響を受けて凶行に及んだ。教会での聖書勉強会に参加していた黒人信徒に銃を乱射。11人に計77発を発砲して命を奪った。

    彼は逮捕された後も反省することはなく、自分はすべきことをしたと言い放つ。

    そんな犯人に対して、被害者の娘は「あなたを赦す」と言う。「あなたにどうしても知ってほしいことがある。私はあなたを赦す。あなたは私からとても大切なものを奪った。もう二度と母と話すことはできない。二度と母を抱きしめることもできない。それでもあなたを赦す。そしてあなたの魂に神の慈悲があるように。あなたは私を傷つけた。沢山の人を傷つけた。でも神はあなたを赦す。だから私もあなたを赦す。」

    私もクリスチャンだけど、私にはそんな犯人を赦すことは多分できない。
    遺族全員が「赦す」と言っているわけではなく、クリスチャンだけど赦せない、という人たちもいる。
    どちらにあっても、神様は一人一人の想いを分かってくださる。赦せない、という想いを抱えたままでも。

    そのどちらの心の苦しさ、葛藤を神様は恵みでもって癒してくださる。それに応えてどう生きていくかが問われているのかな。

    最後にオバマ大統領の弔辞が掲載されている。彼の言葉もまたいいです。

    一つ気になったのは、「赦さなかったら、天国に行けない」と口にする遺族。私はそんなことはないと思う。

  • 被差別者に寛容さが求められるのは何故だろうか。
    巻末にはオバマ大統領弔辞全文掲載。

  • 東2法経図・6F開架:368.6A/H45s//K

  • 読了。

    2015年にサウスカロライナで起こったチャールストン教会銃撃事件の事件概要とその後の社会の動きや遺族を追ったノンフィクション。

    南北戦争時には南側(奴隷支持)側に属したサウスカロライナ州。21歳の白人男性による黒人教会の聖書勉強会を狙った銃撃事件では、9名の人々の命が奪われたが、犯人は反省を見せず「やらざるを得なかった」と主張し、死刑宣告を受けながらもまだ存命し、上告している。

    タイトルにもなっている「赦す」の言葉は、1人の遺族が発したことで他の遺族にも伝播し、この事件の遺族は一枚岩で卑劣な犯罪を犯した犯人を赦したかのような印象がメディアを通じて流布している。

    しかし、遺族一人一人の痛みは全く異なり、悲しみに対する向き合い方も全く異なる。犯人を許すことはできても、母の死に対する向き合い方が異なる妹を許せない遺族もいる。妻の死により、いままで繋がっていた家族がバラバラになって憎しみあってしまうようになった家族もある。

    事件直後に仮の神父としてリーダーシップを発揮した人物は、様々な褒賞や賛辞を受けながらも、遺族に対しては電話一つせず、それどころか遺族との約束をすっぽかし、遺族宛の寄付金を私物化した可能性すらある。

    1人の悪意が呼び起こした様々なバタフライエフェクトは、誰も止めることができない人種や他人への不安といった形で、まだこの社会に痕跡を残している。むしろどんどん社会が不安定になっている気がして怖い。

    例えば家族が殺されたとして、私は犯人を赦す、神の御加護を…とは決して言えない。おそらく無力感と絶望に押しつぶされてよれよれと裁判に行くのが精一杯だろう。もしくは、変なスイッチが入って無駄にシャキッとしたあと自殺したり鬱になったりしそう。

    それでもなお、赦す、ということができる人がいるこの社会は美しく、可能性に満ちていると思いたい。

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著者プロフィール

米国サウスカロライナ州チャールストン在住。ルーズベルト大学シカゴ校卒業。
ピュリッツァー賞受賞の地元紙「ポスト・アンド・クーリエ」で十年以上記事を執筆。現在は同紙調査報道のプロジェクトチームに所属。
1994年に死刑となったアフリカ系アメリカ人少年の冤罪と真犯人が裕福な白人男性であることを示唆する記事で、自身も2019年にピュリッツァー賞最終候補にノミネートされる。
他にジョージ・ボルク賞、ナショナル・ヘッドライナー賞、トラウマに関する優良な報道に贈られるダート賞など受賞多数。
本書は2020年J・アンソニー・ルーカス書籍賞の候補となった。

「2020年 『それでもあなたを「赦す」と言う』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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