ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか——民主主義が死ぬ日 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-13)

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  • Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750516677

作品紹介・あらすじ

ナチズムは歴史の特異点ではない。
嘘つきで自己中心的なリーダーは、いまも世界で支持されている。


民主的なヴァイマル憲法の特徴、第一次世界大戦敗戦の賠償をめぐってのフランスやイギリスとのやりとり、共産主義に対する保守層の抵抗、軍のあり方、エリート層の私欲と傲慢などを詳細に追いながら、ヒトラーが完全にドイツを掌握するまでを描く。

トランプ政権下のアメリカの現状とも重なる歴史読本。

感想・レビュー・書評

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  •  原書のタイトルは邦訳の副題「民主主義が死ぬ日」だが、本書は邦訳タイトルの通り、なぜヒトラーが首相の座に就くことができたのかを、第一次世界大戦敗戦後のドイツの歴史を辿りながら考察したものである。

     シュトレーゼマン等の活躍により安定期を迎えたヴァイマル体制だったが、1920年台の中盤から終盤にかけて、主に4つの反政府運動が起こり、民主主義を弱体化させようとしたとする。極端なナショナリズム運動、共産党、巨大企業と軍隊である。巨大企業は、高額な賃金妥結を嫌い、軍は社会民主党が軍事予算に賛成票を投じないことに怒っていて、国会の力を制限する権威主義的な体制を望んだ。そして、当時のドイツ社会は、階級、宗教、性別、民族などの違いで分裂していて、歩み寄りが困難になっていた。(P133~)

     ヨーロッパ諸国の中でファシズムが台頭したのは、民主主義が進み、左派の社会主義が中流階級を脅かすほど成功している国に限られている。ファシズムとは、左派を強く恐れる人々による、左派に対する防御反応だといえる。(P186)

     そして、ヒトラーとナチ党を除外して反民主主義連合を組むことが出来なくなったとき、ヒトラーを雇う、ヒトラーを飼い慣らせると考えたパーペン、シュライヒャー、ヒンデンブルクそれぞれがそれぞれの思惑で、ヒトラーを首相の地位に就けることになった。
     そこからは、国会議事堂炎上事件を奇貨とした授権法による独裁体制の確立に至る。

     最終章に出てくる、34年の抵抗運動、エドガー・ユリウス・ユングによるパーペン演説については初めて知った出来事で、もしかしたら違う歴史があり得たかもしれないとの思いが浮かんだ。

     この後、ホロコーストのようなことをヒトラーがしでかすとは誰も予想していなかったとは思うが、社会が分断され、お互いが歩み寄りができない状況になってしまった場合、とんでもないことが起きてしまう恐ろしさを感じさせられた。

  • ナチ党の活動は、第一次大戦後に英米が押し進める国際協調、経済的にはグローバリゼーションに対する抵抗だった。
    戦後賠償だけがドイツを追い詰めたわけではない。ロシア革命などによる東方からの難民、共産主義への保守層の拒否感、社会の激しい分断、正規軍と準軍事組織の割拠、世界恐慌、「ヒトラーはコントロールできる」とするエリートたちの傲慢と誤算・・・アメリカを代表する研究者が描くヒトラーがドイツを掌握するまで。

    今までナチの恐ろしさを題材にしたフィクションやノンフィクションはいくつか読んだけれど、人間ってこんな恐ろしいことでも平然とできてしまうんだなとしか思わなかった。でもその背景を知って、なぜこういう悲劇が起こってしまったのか、ナショナリズムが盛り上がっている現代で同じことを繰り返さないようにするためにはどうしたらよいのか、非常に考えさせられた。一番怖いと思ったのは、大統領にすべてを依存しすぎていること。誰か一人の判断に委ねるには事が大きすぎるし、ヒンデンブルグは残念ながらその器ではなかったように思う。一部の知識人の声がかき消されてしまう怖さがリアルで、周りに流されず自ら考えて判断することを忘れてはいけないと痛感した。

  • 当時の政治家や市民の行動を詳細に追っているので、だんだん自分もその場にいるような感じになってくる。結末をしっていることなのだが、「そっちに行ってはいけない」「戻らないと危ない」とじりじりするものを感じながら読んだ。

    ドイツ国民がヒトラーとナチ党を選んだ理由は単純ではないことを学んだ。敗戦の賠償やグローバリゼーションだけではなく、多くのことが関係している。

    自分たちの受け皿となり守ってくれる政党がない、という面もあった。資本主義と社会主義、資本家と労働者など、多くの対立軸もあった。いろいろなところにナチ党が付け入るすきがあった。

    当時ヒトラーが国民に訴える社会の苦しい状況は、驚くほど現在と似ていることに嫌な汗が流れる。いま同様のことが起こったとして、はたして止められるのかという不安がある。
    一旦権力を握ってしまえば、立法や司法は暴力でなんとでもなってしまう。その前に芽を摘まないといけない。

    対立をなるべく緩和して不満を減らすこと、受け皿を多様にしておくこと、多くの人が「自分は見捨てられている」と思わないような安全網を用意しておくこと、まだまだ準備すべきことは多いように思う。

    人が自分のことしか考えなくなったとき、ヒトラーとナチ党の残滓が再び現れるかもしれない。そうならないよう、本書の結びを常に忘れないようにしたい。

  • "社会全体、民主主義全体が、階級、宗教、性別、民族などの違いで分裂していた。分裂した集団どうしが最終的に歩み寄らない限り、民主主義は長くはもたない。"(p.135)

  • ヒトラーが政権を取るまでの話だが、行きつ戻りつの部分が多く頭に入らない。

  • 1 八月と一一月
    2 「信じてはいけない、彼が本当のことを言っていると」
    3 血のメーデーと忍び寄る影
    4 飢餓宰相と世界恐慌
    5 国家非常事態と陰謀
    6 ボヘミアの上等兵と貴族騎手
    7 強制的同質化と授権法
    8 「あの男を追い落とさねばならない」

  • 著者はワイマール期ドイツ史で、すでに何冊かの本を書いているアメリカ人研究者であるらしいが、これが日本で初めて翻訳された本みたい。
    原題は「The Death of Democracy」となっていて、翻訳の「ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか」は出版社がつけたのだろうか。(原題は副題として付けられている)

    ワイマール期ドイツに関する本はいくつか呼んできたが、この本では類書に登場しない人物名が多数あって、巻頭に人名・政党名のリストがあるので、再確認することができる点は便利。

    つい最近見た「バビロン・ベルリン」という20年代を描いたドイツのテレビ・ドラマを見たばかりなので、当時の時代的雰囲気が、この本でも伝わってくる。
    とりわけ、州レベルの政治状況まで触れているのが、私にとっては目新しかった。
    ただ、記述がリベラル側(SPD)からに偏しており、共産党側からの見方が欠けているあたりは、かなり不満が残る。
    極右と極左に分断され、激しい暴力の応酬があったところも、いくつかで触れられているものの詳述はされていない。
    確かに面白く書かれてはいるが、明らかに引用部分と思われるところでも、この翻訳では出典が明記されていないところにも不満が残る。

    さらに気になるのは、この本がドイツではどのように受容されているかというところで、ドイツのAmazonを見た限るではドイツ語版は見当たらず、コメントも全部見たわけではないが英語だらけだった。
    以上のことから、読み物としては面白いものの、内容に関してどこまで信頼度があるのかよくわからないところが残る。

  • とても良い本で、今の世の中にも大きな示唆を持つ。元々はトランプ大統領が選ばれて議会占拠に至るような混乱が起こっていることを理解するために読んでみたのだが、ヒトラーが民主的プロセスにより選ばれていることだけでも日本では分からない社会的政治的背景がとてもクリアになり、歴史をきちんと学ぶという意味でも有益な読書になった。第一次大戦後の時代背景では、現代よりも差別が当たり前であり、暴力が容認されていたという違いがあるが、それだけに今の社会的環境は貴重なものであると痛感し、納得した。ヒトラーの危険性を皆が分かっていながら妥協するのも分かる部分があり、現代の我々が当たり前と思っている普遍的な価値観の尊さが分かる。人権だけでなく多様性などの新しい概念もまた価値観に統合されるべきで、それにより独裁を回避できる事がよく分かる。本当に良い本だった。

  • 序章から、「人類史上最も有害な政権」と書く筆者の偏った解釈満載の本です。
    数多くの事実を我々に知らしめますが、それと筆者の意見はある程度切り離した方がいいでしょう。
    オルブライトのファシズムを読む方がましです。

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著者プロフィール

1965年、ニューヨーク州ロチェスター市生まれ。ハーバード大学にて歴史学博士号取得。専門はドイツ史。ヒトラーの台頭とヴァイマル共和国の崩壊を取りあげた著作、『Death in the Tiergarten : Murder and Criminal Justice in the Kaiser’s Berlin』と『Crossing Hitler : The man Who Put the Nazis on the Witness Stand』は広く知られ、複数の賞を受賞した。

「2020年 『ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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