スノーグース

  • あすなろ書房
4.20
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本棚登録 : 141
感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (46ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751525036

感想・レビュー・書評

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  • 人間と動物たちの関りが描かれた3つの短篇。
    「スノーグース」身体にハンディをもつ孤独なラヤダーのもとに、傷ついたグースを抱えた少女フリスが現れる。フィリップ(グース)と共に心を寄せ合うが。
    背景に第二次大戦がありストーリーの広がり深みを感じた。
    いくつかの偶然が重なりそこまで至った。ラストは胸が裂けるやるせなさ。しかし、不幸ではなく希望が見えてくる気がした。相手を思いやる心を持つこと、自分の生き方にどれだけ納得したかどうか。

    「小さな奇蹟」愛するロバの病気を治そうと奔走するペピーノ。奇蹟は起こるか。この奇蹟の意味合いは次のルドミーラへと続く。
    <いいか、この世間でやっていこうと思ったら、ノウといわれて引下っちゃならんぞ。わかったか>

    「ルドミーラ」牝牛の心の声の描写に胸を打たれ、神父とアロワのやり取りに引き込まれた。奇蹟とは知らないうちに降って湧くものではない。本当の奇蹟とは。
    清々しい風景描写、素直な心情描写に静謐な美しさを感じた一冊でした。悔いなく自分らしい人生を送るヒントが詰まっていた。

  • フランス北部のドーバー海峡を臨むところにある「ダンケルク」という都市では、かつて「奇跡」と呼ばれた出来事がありました。
    第二次世界大戦の初期、ヒトラーの集中砲火を浴びていたヨーロッパ。
    フランスの自由を守るため、イギリスとフランスの連合軍約40万人が戦場に配置されていました。
    しかしドイツ軍は強大で、ダンケルクまでイギリス兵を追いつめました。
    猛烈な攻撃を浴びる中で、民間の漁船やヨットまで動員してイギリス兵を救助したひとたちがいたのです。
    船の数は何千隻ともいわれ、救助された兵士の数は33万8千人もいたそうです。

    このお話に登場する画家のラヤダーも、救助活動にあたったひとりでした。
    身体に障害をもった孤独な画家に、何故そんな決死の勇気が出たのか。
    それは、スノーグースとの出会いに始まり、スノーグースを通して知ったある少女との出会いがあったからです。

    「猫語の教科書」「ジェニー」でお馴染みのポール・ギャリコの作品。
    その名前が目に飛び込んできたことと、表紙の少女の孤独な瞳に吸い寄せられるように借りて、その晩泣きながら読みました。

    およそ生きとし生けるものは、どんなに否定してもそれを求めずにはいられない。
    失ったときの痛みを越えてもなお。

    ラヤダーがやって来たのは、イギリス南東部の水辺の地。
    無人となっていた灯台に、背中にコブを持つ彼がひとり住むことになるところからお話は始まります。
    自然を愛し、水鳥の保護区をつくり、ひたすら絵を描いて暮らす彼の元にある日、傷ついたスノーグースを抱いた少女・フリスが現れます。
    (スノーグーズは、白雁のこと。日本では冬季まれに北海道や東北に飛来するそうです)
    お互いを恐れながら、少しずつ心を通わせていくふたり。
    傷が癒えて飛び立った後、再び舞い戻り灯台に住み着くスノーグース。
    一羽とふたりの、静かな交流。
    フリスが愛を自覚するかしないかのうちに、ラヤダーの旅立ちの日が来てしまいました。ラヤダーとの最後になるとは、フリスも知らないうちに。

    「ダンケルクの奇跡」という実話が巧みに織り込まれた、上質のファンタジー。
    ラヤダーとフリスの恋愛物と受け取るにはあまりにもはかなく、ラヤダーに影のように寄り添うスノーグースの存在を打ち消すことにもなりそうです。

    1940年に発表された本作品は翌年O・ヘンリー賞を受賞し、世界的ベストセラーとなりました。
    これは、その絵本化です。

    画家アンジェラ・パレットの、色調を抑えた挿絵も美しく、生きるとは何か、愛するとは。。様々な問いかけをしてみたくなる作品です。
    ここにいらっしゃるすべての方にお薦めです。

    • 九月猫さん
      nejidonさん、こんばんは♪

      フォローとコメントをいただき、ありがとうございます!
      コメントいただいた『ノラや』のほうにもお返事...
      nejidonさん、こんばんは♪

      フォローとコメントをいただき、ありがとうございます!
      コメントいただいた『ノラや』のほうにもお返事を書いているのですが、
      nejidonさんの本棚を見せていただいて、大好きなギャリコを見つけて
      テンションあがってしまったので、
      こちらにもコメントさせていただきますね。

      たくさんの絵本を読まれていらっしゃるんですね。
      児童教育学科だったので当時はよく読んでいたのですが、
      卒業してからは児童書は読んでいるものの絵本はとんと遠のいてしまって。
      また絵本を読みたいなーと思いながらも、今となってはどんなところから
      手をつけていいのやら……だったので、
      nejidonさんのレビュー、ぜひとも参考にさせていただこうと思います=*^-^*=

      三線にも思わず反応してしまいました。
      わたしは以前三味線を習っていたので…三本の弦ということですごく親近感が♪

      なんだかいろいろ共通点がありそうなnejidonさんと出会えて嬉しいです。
      これからどうぞよろしくお願いいたします(*´∇`*)
      2013/03/07
    • 九月猫さん
      nejidonさん、こんにちは。

      ブクログネーム、褒めてくださってありがとうございますっ!
      最初はヘンかなーとちょっと不安だったので...
      nejidonさん、こんにちは。

      ブクログネーム、褒めてくださってありがとうございますっ!
      最初はヘンかなーとちょっと不安だったのですが、
      「三月うさぎ」という有名なキャラもいるし、いいかっ♪と(笑)
      当然「三月うさぎ」とは由来もなにも違うのですが。
      (わたしの場合は誕生月に一番好きな動物であるにゃんこをくっつけました)

      そうなんですよー、「世界最速のインディアン」観てる方いないんですよー。
      もっといろんな人に観てもらいたいです。
      ホプキンズ、キュートでしたねぇ。
      ちょっとしたワンナイトラブがあったりもして(^m^)

      >ワタクシの夢は子どもの頃からずっと「吟遊詩人になること」
      笑うなんて、とんでもない!!
      わたしは卒業時に友達と交換するサイン帳の「将来の夢」欄に
      「スナフキンになること♪」って書いてました!
      これまたステキな共通点ではないですか(* ̄∇ ̄*)

      >ギャリコのこの本
      残念ながら、わたしは文庫でしか持っていないのですー(悲)
      この表紙絵、とてもステキです。
      アンジェラ・パレットさんという方なのですね。
      機会があったらぜひ絵本版も読みたいと思います。

      >アンジェラ・パレットさんの挿絵ばかり探していた頃もありました
      わかります、わかります!
      わたしは一時、佐竹美保さんのイラストの本ばかり買ってました。
      イラストや装丁が好きな方の本だと、それだけで嬉しくなっちゃいますよね♪

      楽しくて長々と書いてしまいました(汗)
      また遊びに来ますね(´▽`)ノ
      2013/03/08
  • イギリスの灯台に背中にこぶがある画家が住み着き、傷ついたスノーグースを抱いた少女が助けを求めた。スノーグースが二人の心を結びつけ、戦争が二人を引き裂く。小さなヨットでダンケルクの兵士達を救おうとする画家の姿に心打たれる。

  • 昔から変わることのない、人間の本能を目覚めさせてくれるような、心に響く物語。

    動物たちに優しい孤独な男、「ラヤダー」が、自らの存在価値を貫いた記録は、既に孤独ではなかったことを証明している。人間と動物が思いを共有している表現に心を揺さぶられるのは、まさに、それを実感させてくれるからだと思う。

    そこに絡む、人間が引き起こした戦争。それが彼に影響したことが辛くは感じるが、彼自身の気持ちは満足していたのかもしれない。そんな彼の純粋でひたむきな気持ちに、「フリス」も思うところがあったのだろう。フリスが見つけた絵とともに、二人の思いの架け橋をしてくれた王女様の行動には、真に胸に迫るものがあった。

    物語の内容は言うまでもなく素晴らしく思うとともに、アンジェラ・バレットの絵がまた素晴らしい。

    セピア調もカラーも美しく、もの淋しい切なさが印象的でつい魅入ってしまい、人物には躍動感があって、物語に彩りを与えているように感じられた。

    特に、フリスの空を見上げる絵が胸に刺さる。
    その絶望も希望もない交ぜになったような複雑な思いは、いつか、吹っ切れて前を向いて歩いて行く気持ちに変わると信じたい。その頃には、きっと王女様も、二人の思い出を辿りに来てくれるよ。

  • 知りませんでした、矢川澄子訳、古沢安二郎訳は読んだコトありましたが、こんな絵本になっていたなんて、、、

    Angela Barrett | United Agents
    https://www.unitedagents.co.uk/angela-barrett

    スノーグース あすなろ書房
    http://www.asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751525036

    • nejidonさん
      猫丸さん、古いレビューにいいねを下さってありがとうございます。
      自分でも忘れかけていた本を、思い出すことが出来ました。
      ポール・ギャリコ...
      猫丸さん、古いレビューにいいねを下さってありがとうございます。
      自分でも忘れかけていた本を、思い出すことが出来ました。
      ポール・ギャリコとアンジェラ・バレットという組み合わせが新鮮ですよね!
      この本からアンジェラ・バレットの絵にハマって、ずいぶん読んだ記憶があります。
      「氷の宮殿」が一番好きでした。
      2020/08/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      りまのさん
      猫の話が多いギャリコですが、生き物を扱った作品に素敵なモノが、、、ロバの話が好きでした。
      りまのさん
      猫の話が多いギャリコですが、生き物を扱った作品に素敵なモノが、、、ロバの話が好きでした。
      2020/08/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      アンジェラ・バレットの描く、翳りを帯びた色合いが好きです。初めて見たときは北欧の方だと思ってしまいました、、、
      nejidonさん
      アンジェラ・バレットの描く、翳りを帯びた色合いが好きです。初めて見たときは北欧の方だと思ってしまいました、、、
      2020/08/21
  • 絵本でありつつ、長さとしてはちょっとした短編、といった感じ。
    舞台はイギリス南東部の湿地帯で、そこにある灯台に、背中に醜いこぶのある孤独な青年ラヤダーがやってきた。
    彼は野生の、守るべき鳥たちへの思いやりにあふれ、その湿地に野鳥保護区を作っていた。また美しいものをつくりだす人でもあったー
    そんな彼と、怪我をした小鳥スノーグースを連れてきた少女フリスの、長い時をかけ、つかず離れず、でも確かに静かに思い合っていたーそんなお話。
    絵が基本灰色がかっているせいか(その絵も美しいのだが)、見せ場であらわれる色のある絵がさらに際立って美しい。心に染みる深い紺青。心がじんとする美しさだ。
    ラストは寂しさと悲しさと、愛おしさがないまぜになって、胸がいっぱいになった。ラストを迎えて、ああ、いつのまにこんなにもこの物語に引き込まれていたのだろうと。
    ラヤダーもフリスも、きっと、きっと孤独ではない。
    ああ、スノーグース。

  • 絵本の形態ですが短編です。
    叙情的と言うのでしょうか、美しい自然の描写に
    あっという間に物語に引き込まれました。
    表紙からもう不穏な気配でしたが、悲しいだけでなく、
    心に残るお話でした。

  • はてしない…  残酷な運命に翻弄される

  • ピュア過ぎる愛の物語でした。風景やキーとなる鳥の姿が目に浮かぶよう。

  • このタイトル、初めて知ったのはミュージック。
    Mike Oldfieldだと思い込んでいましたが、Camelの曲でしたか~!
    20年以上前に耳にしてから、ずっと原作も読んでみたいと思っていました。
    戦争を扱った物語だったのですね。
    ポール・ギャリコ作品は『雪のひとひら』があまり肌に合わなくて苦手意識を感じていたので、絵本の体裁のものを。
    内容はぎっしりですが、絵も素晴らしくて楽しめました。
    ヨットの上空を旋回するスノーグースの描写に感動。
    とても味わい深い作品ですね。物語を読んで音楽を聴くと、相乗効果抜群でした♪
    【追記】後日、文庫本で購入しました(*^-゚)b 他の収録作も読まなくちゃ☆

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著者プロフィール

1897年、ニューヨーク生まれ。コロンビア大学卒。デイリー・ニューズ社でスポーツ編集者、コラムニスト、編集長補佐として活躍。退社後、英デボンシャーのサルコムの丘で家を買い、グレートデーン犬と23匹の猫と暮らす。1941年に第二次世界大戦を題材とした『スノーグース』が世界的なベストセラーとなる。1944年にアメリカ軍の従軍記者に。その後モナコで暮らし、海釣りを愛した。生涯40冊以上の本を書いたが、そのうち4冊がミセス・ハリスの物語だった。1976年没。

「2023年 『ミセス・ハリス、ニューヨークへ行く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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