おとうさんのちず

  • あすなろ書房
3.78
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本棚登録 : 657
感想 : 69
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  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751525210

作品紹介・あらすじ

作者の、画家として歩み始める原点を描いた自伝絵本。戦争で故郷を追われ、過酷な暮らしをしていた時期、父親の持ち帰った世界地図が少年だった作者にパン以上のものを与えた。

感想・レビュー・書評

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  • 1935年ポーランド・ワルシャワ生まれのシュルヴィッツさん。
    3歳の頃から絵を描くのが好きだったらしい。
    ところが1939年ドイツがポーランドに侵攻。
    第二次大戦の嵐に追われて、一家は難民となりソ連を経て中央アジアのトルキスタン(現カザフスタン)に逃れる。
    まだ4歳だった著者の身には、それがどれほど辛く恐ろしかったことだろう。
    この本は、その逃避先で実際に体験したこと。
    淡々としたテキストから戦争の理不尽さが滲むが、作者の言いたいことはそこではない。

    タイトルに「おとうさん」とあっても、お父さんの登場は3場面だけ。
    パンを買いに行くお父さん。市場で悄然としてうなだれるお父さん。そして、パンではなく地図を買って帰ってきたお父さん。
    この地図が作者の心にどれほどの想像力と希望を与えたか、後半で描かれる。

    人はパンのみにて生きるにあらず。
    食べるものが何ひとつ手に入らない状況でも、果たしてそう言えるかどうか。
    この本を読むと、多くの親御さんは胸に手をあてて我が身を振り返ってしまうだろう。
    私は子どもの心に何を残してあげられただろう・・
    目の前のことばかり言ってきたのではないだろうか。

    シュルヴィッツさんの一家は終戦後の1947年パリに移ったという。この本のような状況が8年間も続いたという事だ。
    その2年後イスラエルに移り、働きながら夜間学校で学ぶことになる。
    14歳にして初めて公教育を授かったということだ。
    お父さんの地図がそれまで心の希望になっただろうことは想像に難くない。
    そして、そのお父さんのおかげで、私たちもシュルヴィッツさんの作品に触れることが出来るということだ。

    低学年からとあるが、出来れば中学年から中学生くらいが妥当かと。約8分。終わり方が唐突なので、後書き部分でぜひ補ってほしいところ。

  • 本書は、ポ-ランド生まれの絵本作家<ユリ・シュヴィッツ>が、中央アジアのトルキスタン(カザフスタン)で、避難民家族として苦難の生活を余儀なくされていた頃の記憶をもとに再現された“父の思い出”に捧げられた絵本。・・・ユリのお父さんが一片のパンの代わりに買ってきた世界地図が、見知らぬ国々を夢想することで、飢えと寒さを紛らわせることになった・・・このエピソ-ドは、作者の自叙伝『チャンス—はてしない戦争をのがれて』のなかで紹介されており、少年ユリのいじらしいおさな心が窺われる。

  • ユリ・シュルヴィッツは『よあけ』が大好きなので他の作品はちょっとおざなりに見ていた。が、この作品は絵が本当に魅力的だ。色は中央アジアの乾燥と砂の混じる風を感じるし、地図から広がる空想はカラフルだけど調和が取れていて、様々な国の景色は写実的かつ大胆。
    なによりも話が本当に心に残る。作者はポーランド出身でカザフスタンに避難した実体験に基づいている。空腹に押しつぶされそうな日々を送る家族に、父が買ってきた世界地図。人間に必要なものは身体を生かすものだけじゃない。お父さんの慧眼を尊敬するし、親の願いが子供にしっかり届いていることに感動もする。
    余談だが、ミャンマーの難民の子供たちを支援した経験を持つ友人が「皆、家に必ず地図を貼っていた」と言っていた。受入先の検討など、実用の意味があったにせよ、押し込められた環境には外の世界への希望が必要なのだと思う。「日本へ行ってみたい?」と聞くと「こんな小さな国へ行くのは申し訳ない」と答えたんだそうだ。難民という立場の苦しさが現れた言葉に胸を突かれた。

  • 難民のお話ではあるのだけど、大人が人生に迷ったときに読んでもグッとくる絵本。
    子供には逆に難しいかな…おうちにあると良さそう。
    低学年くらいから読んであげて、わからなくてもいつかわかるような内容です。

  • 戦争中、僕たちが逃げた町も豊かではない。
    お金も食べる物もない中、
    お父さんがわずかなお金で食料のかわりに
    買ってきたのは「地図」だった…

  • 裏表紙の写真の風貌からこの少年はユダヤ人なのかな。
    と思った。

    少年は、1936年のポーランド生まれだ。

    1939年ドイツは、イギリスと宥和条約を結んだ。
    その間隙を縫ってドイツは、ポーランドを攻撃する。
    少年の4歳の時だ。。

    ぬほ主人公はイスラエルにも住んでいたとあるので、間違いなくユダヤ人だろう。

    大戦下ポーランドに住んでいれば、間違いなくドイツのユダヤ人に対するジェノサイドで家族は皆殺しになっていた。

    それで家族はソ連に逃れトルキスタン、今のカザフスタンで生活を送る。

    ひもじい生活の中、父親はパンの代わりに地図を買ってきた。その地図で少年は空想を膨らませる。

    その後、終戦後にはパリにわたり、さらにイスラエルに渡っている。

    邦題は、おとうさんのちずだ。
    原題は、How I learned Geography
    僕はどの様に地理を学んだか

  • 戦争中、ろくに食べ物もない環境で暮らす少年と家族。わずかなお金でパンよりも、世界地図を買って持ち帰った父。世界地図が少年に与えたものは・・・。自伝。読み聞かせOK。私の大好きな本。

  • 絵は可愛い。異国にジャンプするような表紙。
    でも、ページをめくると、『戦争でいのちからがら逃げ出した』という重い一文が。

    逃げた先では他の夫婦と同じ家で、土の上に眠るという過酷な日々。食料を得ることもままならず、おもちゃも本もない。

    表紙の絵からはこんな話とは思わなかった。

    『ある日、おとうさんがパンではなく、地図を買ってきた』
    おかあさんは黙り込み、僕は怒る。

    なけなしのお金が食べ物ではなくて地図になってしまう……なんて、怒るよねと頷いてしまった。

    次の日におとうさんは壁に地図を飾る。
    そこから話が大きく飛ぶ。僕はその地図を見ながらいろんな国を想像して飛び回る。
    表紙の絵はこれだった……と思った。戦争が世界旅行に繋がった。

    地図を書き写したり、都市の名前を繋げて読むと呪文みたいだったり……楽しい。

    僕はお父さんを許して、正しかったと思う。終わりもいい。
    おとうさん、すごい。パンを地図に変えたことで、想像力が飛び跳ねてまずしさもひもじさも忘れるのだから。




    ただ、これ……子供次第だし、現実には『パン』の方がいいよね。おかあさんとしても……とも思う。
    想像の翼か現実かみたいなのは『結果として生き延びられたかどうか』みたいなものも関係してきそうで、現実的に考えると一概に『いい話』でもない。この場合は、『絵本』になっていい話になってるけど。

    ラスト一ページは作者の生い立ちと、この物語が現実にあった事という事が書かれている。生きててよかった。死んでいたら、作品としても残っていない。

    現実の話を基にしてあるという事で、ますます複雑な気持ちにもなる。



    でも、子どもの視線なら『何だか分からないけど、面白い』で読むのがいいのだろうなとは思うし、『想像の翼』は捨てない方がいいというのも分かる。
    大人になるってメンドクサイ……。私が子どもなら、地図だけでこんなことができるなんてすごいと思って、ラスト一ページは読まない。たぶん、そうするのがいい。



    本文の文章はひらがなだけで書かれていて、文字数も少ないので低学年でも読める絵本。
    戦争シーンの絵も酷い様子ではないので小さな子供に与えても安心の絵本だと思う。

  • ポーランドを出て、移民として貧しい暮らしを強いられた作者の子供時代のはなし。
    遠目がきく。高学年から。本文5分、後書き1分。

  • 私も地図が大好きでよく見ていた幼少期の頃を思い出しました。

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