- Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
- / ISBN・EAN: 9784751526286
作品紹介・あらすじ
萩原朔太郎『蛙の死』、夏目漱石『夢十夜/第三夜』、半村良『たんす』、星新一『鏡』、太宰治『トカトントン』、夢野久作『瓶詰地獄』など、15編を収録。
感想・レビュー・書評
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辞書のようにたくさん注釈がついていて調べなくて良いので読みやすかったです。
志賀直哉「剃刀」がいちばん怖かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
中高生にとって、文豪だといわれたり、教科書や授業となると堅苦しくなり、物語を楽しむと言うより問題を解くために読むことになってしまうこともあると思うのですが、このような鋭い短編に親しんでから問題に臨んだほうが日本文学に親しめるように思います。
【萩原朔太郎『蛙の死』】
蛙を殺した子供たちの無邪気な残酷。
【夏目漱石『夢十夜/第三夜』】
私はたしかに自分の子供を背負っている。
目の潰れた青坊主だ。その子供に言われるままに山の路を歩く私の前に、私の原罪が付きつけられる。
自分の罪に近づく男の靄かかったような精神と纏わりつくような夜の濃厚さ。背負った盲目の子に突きつけられる己の原罪。
夏目漱石の怖い話は結構好きです。いきなり始まり、いきなり起こり、種明かしはされない、という突きつけられるような感覚があります。
断言するような語り口がいかにも逃げてはいけないという宿命のようなものを感じます。
【内田百閒『豹/鯉』】
豹:小鳥屋の隣の降りには豹がいて、鳥たちを狙っているんだ。すると豹が檻から出て見物していた僕たちを喰おうとするんだ。僕は逃げて、喰われた人たちもいて、でも他の人達は笑っていて、だから僕も笑って、そうしたら豹も入ってきてみんなと一緒に笑ったんだ。
鯉:暗い気持ちで歩いていたら、遠くの山が大きな鯉になった。鯉は湖を泳ぎ、その影は雲に写っていた。だんだん気持ちが晴れ晴れとしてきたんだ。
【江戸川乱歩『白昼夢』】
薬屋の主人が通行く人に演説していた。浮気な女房を殺したという。これでこそ女房は自分のものになった。女房の遺体を解体して屍蝋にして人体模型にして店先に飾っているという。
自分が店先を見たら、飾られている人体模型は確かに人間の肉体ではないか。だが人々は面白い話だって喝采を送っている。だれも信じていないが、だがあれは本当に…。
【半村良『箪笥』】
ある晩子供の一人が箪笥の上に乗って一夜過ごすようになった。父親が止めさせようとしてもどうしようもない。次第に一家の者たちが次々に箪笥の上に乗るようになる。
父親は家を逃げ出した。
数年後家族が箪笥とともに迎えに来た。「一緒に帰りましょう。お父さんも箪笥に乗れば分かりますよ」
==わけわからない怖さ!!
【坂口安吾『桜の森の満開の下』】
山の峠には見事な桜の樹がありました。満開の頃には下を通る人々は気が変になっていしまいます。
山奥を根城にする山賊がいました。実にむごたらしい男で、桜の樹の下で旅人を殺し金品を奪い女を攫います。そんな山賊でも桜が満開の頃には心がソワソワして堪りません。
ある日旅人を殺して女房を拐かしました。美しい女でした。残酷な女でした。山賊に命令を下し、山賊は女の言いなりになってゆきました。
山賊は女のいうがままに都に出ます。女は山賊に人の首をねだります。首を並べてままごと遊びに興じて飽きたら腐らせ暴行を加え喜びを見出していました。
山賊は都は落ち着きません。ふと山を見てあれこそが自分の居場所と思います。桜の満開の時期です。下を通ると気の狂うような美しい、人を惑わすような桜。彼岸と此岸の境界のような桜。その下を通った時に…。
===これって40ページしかなかったっけ?すごい濃厚です。あまりにも美しく人の気を狂わせあの世への境界のような桜、人を殺し奪う男、その男に君臨して人殺しを指示する女、そして人の生首を集めて遊び虐待し美しかった顔が腐ることを見て喜ぶ女。
綺麗と穢いのギリギリものもがこれでもかというくらいに詰まっている。これで40ページ。すごいわ。
【中島敦『牛人』】
中国の歴史記事より。
人間の根源的悪を具現化した小説。悪意に狙いを定められたら飲まれるしかない。
【岡本綺堂『利根の渡』】
利根川の渡で一人の男を待ちわびる座頭がいた。
哀れんだ渡し小屋の老人は小屋に座頭を住まわせる。
座頭が打ち明けた待ち続ける男への遺恨。
恨みを果たせず座頭は死んだ。
その数年後、座頭が待ち続けていた男が現れた。
老人は、二人の因縁の決着を見るのだった。
【菊池寛『三浦右衛門の最後』】
武士の見栄とは、いかに安価に生命を捨てるか、いかに勇ましく死ぬかだった。生命以上い大切なものはたくさんあり、いかにそれらのために生命は簡単に交換するものだった。
だがそんな時代でも「命はおしゅうございまする。命ばかりはお助けください」と泣いて懇願する武士だっているだろう。他の武士にとってはまったく不可解であったが。
「その時代は縛り上げる力さえあれば理由はいらなかったのである(P144)」
【志賀直哉「剃刀」】
床屋の先代に気に入られた芳三郎は、一人娘のお梅の入り婿となり店を継ぐ。
刃物の研ぎ方も、毛の剃り方も一流だ。客の肌に傷をつけたことがないことが絶対の自信だった。
しかしこの時芳三郎は風邪を拗らせやることなすことうまくいかない。
ついに決してしなかった”客の肌に傷をつけ”ることをしてしまった時の芳三郎の心は…。
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…怖い!
「普段はしないこと、決してしてはいけないことをしてしまう一瞬が訪れてしまうまで」の状況といい、心理状態描写と言い、妙に現実的なことと言い、日本文学のなかでも最高級の名作だと思う。
【夢野久作『瓶詰地獄』】
<ああ…この離れ島に、救いの船がとうとう来ました。P170>
船の遭難で幼い兄妹は二人っきりで離れ島に漂流した。
最初は優しく穏やかな日々を送っていた二人だが、年月が立つに連れて互いを性として意識するようになっていった。罪を犯すまいという気持ちと、このままふたりきりで姦淫に身を浸したいという思いとが重なって。
【星新一『鏡』】
面白半分で捕まえた悪魔。仕事の鬱屈が溜まっていた夫婦は、悪魔を監禁虐待することで晴らすようになった。
ある日悪魔が逃げ出した。夫婦の解き放たれた攻撃欲は互いに向かうのだった。
…人間怖いーーー
【島尾敏雄『鉄路に近く』】
夫の浮気に苦しむ妻は夜家を抜けて線路に向かう。
悪夢との境が曖昧な展開だが、気の良い工員の存在は爽やかだ。
【山川方夫『お守り』】
自分と同じような顔で、同じような名前で、同じような家族を持ち、同じような日常を送る男がいる。
自分は自分ではないのか。みんな同じ人生をただ送っているのか。生きるためには自分が自分だというお守りが必要なのだ。
【太宰治『トカトントン』】
自分が夢中になれそうなものに出会うとあのトンカチの音が聞こえてくるんです。トカトントン。するとなんでもどうでも良くなってしまうのです。 -
半村良氏の「たんす」が一番恐ろしかった。
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星新一の「鏡」というタイトルに見覚えがなくて、読んだ本。実際には最初の数行を読んで既読であることに気づいた。本は、有名作家の名作15編。収録されている話は怪談系となるのだろうが、名作ぞろいだけにどれも人間の内面が恐ろしい話ばかり。中島敦の「牛人」。同じ元ネタを宮城谷昌光さんが書いているが、宮城谷さんの方は事実が淡々と描かれている感じ(それが作風ですが)で最後の余韻が残る作品。中島さんの方は「牛」の意思が描かれていて恐ろしい。なぜそのようなことをしたのかとか、「牛」の最後とかが描かれないのもよいな。
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図書館で借りた本。日本文学作家のオムニバス。江戸川乱歩の白昼夢と夢野久作の瓶詰地獄だけ読了済みだったが他の作家の作品は初めて読んだ。ショートストーリーなのですぐ読了できる。坂口安吾の桜の森の満開の下と岡本綺堂の利根の渡と菊池寛の三浦右衛門の最後が恐怖の意味で良かったかな。志賀直哉の剃刀や星新一の鏡も狂っていく様が面白い。
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読み応えがあった。
『蛙の死』萩原朔太郎
『夢十夜 第三夜」夏目漱石
『白昼夢』江戸川乱歩
『箪笥』半村良
『桜の森の満開の下』坂口安吾
『牛人』中島敦
『利根の渡』岡本綺堂
『三浦右衛門の最後』菊池寛
『剃刀』志賀直哉
『瓶詰地獄』夢野久作
『鏡』星新一
『鉄路に近く』島尾敏雄
『お守り』山川方夫
『トカトントン』太宰治
漱石、乱歩、半村良、夢野久作のは今までに読んだことがあるけれど、これだけビッグネームが揃っていてほとんどが未読だった。『桜の森~』と『お守り』、『トカトントン』は特に良かった。安吾と太宰の作品は有名過ぎて逆に今まで手が出なかったのだけれど、山川方夫はこの本で初めて知った。こういう出会いがあるからアンソロジーが好きだ。
でもシリーズ名「中学生までに読んでおきたい日本文学」ってどうなんだろ…これ全部吸収してたらそれこそ中二病まっしぐらのような(笑) -
「中学生までに読んでおきたい日本文学」の第8巻です。
この巻は面白かった♪
でも、太宰さんが文中に使う横文字は気にならないのに、菊池寛さんが文中で使う英語は鼻について白けました。
あと、エッセイは好きだけど、私小説って好きじゃないな…。
自分の愛人問題で精神が壊れた奥さんとの話を長々と書いた島尾敏雄さんの『鉄路に近く』は読んでいて苦痛でした。
こういう選集を読むと自分の好みがわかるのもよいことなんだろうね(苦笑 -
読みにくい話もあったけど全部面白かった!じとじとして、後味の悪い話ばっかりだったので読んでて本当にこわかった…