- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784751527214
作品紹介・あらすじ
向田邦子「ゆでたまご」、杉浦日向子「恋人の食卓」、吉行淳之介「嫉妬について」、太宰治「満願」、森鷗外「じいさんばあさん」など、“愛”についての19編を収録。
感想・レビュー・書評
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もういい大人なのですが、ラインナップに惹かれてシリーズで読むことにしました。
一巻目は「愛のうらおもて」なのですが、愛にもいろいろあると思いつつ、男女間の愛が多いような。
というか、これ、中学生までに果たして読めるんだろうかという。大人が読んでも十分歯応えのあるアンソロジーのように思います。
トップにある向田邦子「ゆでたまご」が、読み終えても残っているなぁ。
片足と片目が不自由で、性格もひねくれたIくん。秋の遠足で、Iくんのお母さんが大量のゆでたまごを「私」に渡し、「これみんなで」と繰り返す。
ゆでたまごのポカポカしたあたたかさ。
いつまでも見送っているお母さん。
重たいゆでたまごの風呂敷を持ち歩くことに、決まりの悪さも感じながら、でも忘れられない記憶として語る「私」。
これらのバランスが、ゆでたまごのあたたかさに集約されていて、なんだか自分にもそれが伝染した。
印象に残るといえば、森鷗外「じいさんばあさん」はタイトルからして、いいなあと思う。
近所に引っ越してきた、妙に気品のある伊織というじいさんと、るんというばあさん。
若かりし頃、たった一つ癇癪持ちという短所以外は才気に溢れていた伊織も、るんという存在のおかげでそれも抑えられていた。
けれど、どうしても欲しくなった刀を買うため、とある人物に借財を申し込むくだりで、伊織が短気を起こしてしまう。
とりかえしのつかない出来事。
バラバラになってしまう二人。
互いに想い合うことに軸が置かれるというよりは、とりかえしのつかなさを、人間性を積み重ねていくその時間で贖う姿に心打たれたように思います。
芸能人のスキャンダルで家族が出てくる時に、当人への愛を語るのではなく、世間への誠意的な対応によって現されているものに、近いかも。
カメラの遠近を上手く使って、この出来事と心情の距離を絶妙に描いていく森鷗外も、やっぱりすごい人だな。 -
グリムやアンデルセンの童話の原作は
子供の読み物としては過激すぎるとして、
その内容が大きく変えられた事を知った。
あぁ、確かに。
原作を読むと、
夢の様に美しいシーンはガラガラと音をたてて
崩れてゆき、
血なまぐさい骸の上で
幸せそうに微笑む王子様とお姫様。
その骸の上にふわり、とかけられた
美しい羽織物を外し
愛を育む男女が足蹴にしているもうひとつの側面をも
見せてやろうじゃないか。
と、文豪達が描いたうらとおもてがセットになった
完璧な愛についての作品集。
恐ろしい程、ワクワクしないテーマではあるが、
作家陣を見ると
寺山修二や坂口安吾、太宰治など
愛をどんな風に捉えていたのか?が、気になる御仁が
たくさんいる。
お伽噺の様に美しいばかりの世の中ではないが、
どろり、とした混沌には愛を育む為の栄養素がとっぷり含まれている事、彼らの作品を読んで伝わってはきたが、
自分が中学生だとしたら、おもての方の愛話しかわからなかっただろうなぁ。 -
作家それぞれの愛についての考えを知ることができます。私は特に佐野洋子さんの『愛する能力』が好みでした!思わず声に出して読んじゃったり、、、
みっともないことをなりふりかまわずみっともなく出来る能力が愛する能力だと思う。(一部抜粋)
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松田哲夫編『中学生までに読んでおきたい日本文学5(愛のうらおもて)』(あすなろ書房)
2012.9発行
2023.5.11読了
ゆでたまご
筆者にとっての愛を具体的な事象で語っている。愛という固い言葉を切り開いて、一つの平面上に広げたようなエッセイである。本書の導入としての役割を果たしている。
親ごころ
子にかける言葉の表現から、その裏側にある心理を分析しようとするもの。さすが小説家とあって精緻な観察が行われている。
恋人の食卓
恋人とのロングランを望むなら、うどんやラーメンなどシンプルな旧知の食材を使った料理を二人で食べた方がよろしいと言う。着飾った恋は長続きしないということだろう。概ね同意だが、TikTok上でかつて流行していた「蛙化現象」なるものは、インスタントで即物的な恋には、うどんやラーメンは不要という含意があったのかもしれないと空想した。
手紙
ラブレターのコツは、相手のことを「溜息のような文体で――美しい溜息のように」書くことだそうだ。作者の作品はいくつか読んだことがあるが、確かに美しい溜息のようだった。
愛され方
独占的な愛情関係に警鐘を鳴らす文章。その最たる例は不倫だと思うが、不倫ほど燃え上がる恋もない。作者がいうほど恋情はクールなものではないと私は思うが。
恋愛論
恋愛は、常に一時の幻影であり、永遠の恋など嘘の骨頂であるが、だからといって、するなとは言えない性質のものだという。恋愛によって人が満たされることはないが、だからといって、恋愛なしに人生は成り立たない。めいめいがおのれの真実を探し続けるしかないのだそうだ。
嫉妬について
嫉妬心をうまく利用すれば、向上欲の刺激剤として作用する。他方、嫉妬心が外部に向かわずに内攻し、自分で自分を虐めて快感を覚えるような地点に向かうこともある。諸刃の剣といえようか。
恋愛について
皮肉な文章ではあるが、他人の恋愛の話ほど面白いものはないのも事実だろう。
愛する能力
恋愛は人間の理性をぶち壊してしまう破壊力がある。逆にいえば、人間の理性を壊さない恋愛はそもそも恋愛ではない、ということ。
血で染めたドレス
恋愛に入れ込むすぎることを警告する文章だが、そうはいっても入れ込んでしまうのが恋愛の厄介なところだろう。
啐啄
風俗の宣伝トラックが街中を走り回ったり、へそを出した女が当たり前に闊歩したりする世の中では、性の問題をはばかりのある話として避けるのではなく、オープンに話し合った方がむしろ良いのかもしれない。この点、幸田露伴は開明性があったのだろう。
恋の股裂き
これは真理だと思う。恋愛に奥手な人ほど対象をどちらかに振りたがる。
満願
昭和13年に発表された作品。この頃の夫婦は、妊活以外の目的のためにセックスをしていたのだろうかとふと思った。
厩火事
生活と恋愛の一致こそが夫婦だと考えるならば、この結末をあまり悲観的にとらえる必要はないのではないか。夫は妻をしっかり愛していると考えてよさそうではないか。
とらわれない男と女の関係
これは完全に同意できる文章。
じいさんばあさん
森鷗外に恋愛のイメージを抱けない人は多いと思うが、意外と私生活で恋愛をしてきた人である。この文章の元ネタが史実なのかどうか分からないが、傑作のひとつに数えられるのではないだろうか。事実のみを淡々と描写しているだけなのに、老夫婦の心情がしみじみと感じられる。
鯉魚
ノーマークの作家だったが、可笑しみのある文章で以外に面白かった。
心中
文章がすばらしい。構成もいい。
日記
間もなく訪れる死に対して、人間はどのように振る舞るのかが分かる文章。
「自我の強い俺のような男には、信仰というものが持てない。だから、このような感動を行為の源泉として持ち続けて行かねば、生きて行けないことも、君にはわかるだろう。」
【収録作品】
ロボとピュー太/南伸坊
ゆでたまご/向田邦子
親ごころ/円地文子
恋人の食卓/杉浦日向子
手紙/森瑶子
愛され方/寺山修司
恋愛論/坂口安吾
嫉妬について/吉行淳之介
恋愛について/中野好夫
愛する能力/佐野洋子
血で染めたドレス/倉橋由美子
啐啄/幸田文
恋の股裂き/中島らも
満願/太宰治
厩火事/桂文楽 演 飯島友治 編
とらわれない男と女の関係/大庭みな子
じいさんばあさん/森鷗外
鯉魚/岡本かの子
心中/小泉八雲 著 上田和夫 訳
日記/宅嶋徳光
URL:https://id.ndl.go.jp/bib/023896125 -
図書館で借りた。借りた理由が思い出せない。そうだ杉浦さんが書いた部分を読むのが理由だった。愛についてのアンソロジー。何だか教科書ぽいのがよい。自分ではたどり着けない作品に導いてくれる。思えば学校での授業とはありがたいものだ。ただ読むだけでなく,いろいろに解説してくださったり,考えるきっかけを与えてくれるのだから。適当に授業を受けていたので,本を読んで考える技術が身につかなかったなぁ。ただ音として読み,ただ情報として読むだけが多い。鑑賞する力,批評する力は世界を見る力だな。
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小学生が読む、これは難しい。。
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もっと広い意味での愛かと思っていましたが、主に男女間の愛憎に関するものが多かったです。
向田邦子の『ゆでたまご』や、森鴎外の『じいさんばあさん』が印象に残っているかなぁ。とりわけ『ゆでたまご』は、胸にぐうっと迫る親の愛を感じて涙腺が緩んだ。 -
表現の行き着くところは「愛」なんだなぁ。物事の本質について表現する時は、愛を避けては通れない。愛は存在していることへの肯定だ。