死をみつめて (中学生までに読んでおきたい哲学 6)

制作 : 松田 哲夫  南 伸坊/案内人 
  • あすなろ書房
3.65
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本棚登録 : 153
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751527269

作品紹介・あらすじ

考えることを楽しもう!学者、小説家、映画監督などのエッセイの中から「死」をテーマにした作品18編を厳選。「考える」ためのヒントがちりばめられています。

感想・レビュー・書評

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  • テーマがテーマだけに、どれも考えさせられる。

    松下竜一「絵本」

    東京書籍の教科書にも採られていた作品らしい。
    友人が死の間際に託した「愉しい計画」。
    それは「ぼく」が生き続け、やがて家族を持つことを想像した手紙と、絵本の贈り物だった。
    これは、もう、泣くしかないやつです。

    友人と「ぼく」に共通する貧困も、彼がそんなに酷い状況にいると気付かなかった、父の狼狽とが、やりきれない。

    河合隼雄「生まれ変わるためには死なねばならない」

    自分を変えることなんて、簡単ではない。
    会社に行きたくない、いっそ死んでしまいたいというほどの思いまで行き着いてしまう。
    そこで、象徴的な「死と再生」を経験することは、自分の生き方を変えてしまうような力を持っているとも言える。

    けれど、そこには、本当の死もあるわけで。
    そのことを理解しつつ、「死」をどう成就させるかということを最後に述べている。

    他に伊丹十三「死教育」も面白かった。

  • 松田哲夫編『中学生までに読んでおきたい日本文学6(死をみつめて)』(あすなろ書房)
    2012.5発行

    2023.5.28読了
    ねずみ花火
    何かのはずみに、何十年も忘れていたことを思い出すことがある。小さな縁で、少し関わりを持ったにすぎないのに、そのことが今の自分に少なからず影響を与えていたりする。袖振り合うのも多生の縁というが、人間の縁というものは分からないものだなと思った。

    絵本
    命には限りがあるが、人間の生よりはるかに長生きな「モノ」に自分の想いを託すことで、死後の世界に影響を与えることはできる。例えば、小説はその最たるものではないだろうか。

    死について
    信仰を持っている人は、善良だが弱い、騙されやすい人たちである。彼らのような騙されやすい人たちを利用して食い物にしているのが宗教団体や政治団体である。彼らには自我というものが存在しないため、彼らの死に「単独な一個の死」は存在しない。しかし、そのような人を親に持つ子どもは、彼らの死を「単独な一個の死」と見てしまうために悲惨な末路を辿ってしまうのである。

    死教育
    筆者の4歳の息子の語り口調が面白い。「死ぬとどうなりますか、トオチャン」

    無いものを教えようとしても
    池田晶子氏の作品は他に読んだことがあり、この作品でも首尾一貫した主張を述べている。すなわち、「自分で考える」ということである。

    大人の世界
    言いたいことは分かるのだが、中学生なら多少の分別も持ち合わせているだろう。中学生になっても友人の通夜に行かせないというのは、子の哀惜の念を無下にし過ぎているのではないか。

    自殺と人間の生きがい
     ベトナム帰還兵のPTSDなどの事例を考えると、「たえず生命の危険にさらされていた」時期には「ノイローゼがほとんどなく、自殺もきわめて少なかった」という筆者の主張は、にわかには受け入れがたい。使命感や生きがいが自殺を踏みとどまらせる要因になるという意見には同意するが、根拠がいただけない。

    自殺について
     現代的な感覚からすれば、いくら冗談だと内心思っていたとしても、普通送別会を開こうなんて思う人はいないだろう。むしろ送別会を開いた主催者側の心理に興味がある。

    生まれ変わるためには死なねばならない
     さすがに河合隼雄のエッセイは説得力がある。ピンチをチャンスに変えられる人は柔軟に自分を変化させられる人なのだろう。

    今日でなくてもいい
     筆者は老人ホームに母を「捨てた」らしいが、いざ自分が見送られる立場になったときには、惜しまれて見送られたいと考えている節がある。自己正当化という言葉がふと脳裏に浮かんだ。

    不思議なサーカス
     人間というのは死が目前に迫っていても死を実感できないものなのかもしれない。人が死ぬことは当たり前だが、この私が死ぬことは当たり前ではない。仮に死ぬにしてもただでは死なない。負け惜しみというか何というか、とにかく気分の沈む詩だ。

    仁科氏の装置
     仁科氏は「自分という存在の無意味さ」を完成させるために、この装置を作ったという。
     ところで、社会学にはピーターの法則というものがある。すなわち、有能な人は限界まで上位の階層に昇進した後、その階層で無能化するというものである。この段階に至ると人は終点到達症候群(自分がまったく有益な仕事ができていないことに気づくことにより滅入ってしまい、最終的に体調を壊してしまう状態)に陥るという。仁科氏はまさに終点到達症候群に罹患していると言えるだろう。

    わが生死観
     死の瞬間、人は呼吸が荒くなるというが、これが「生命への執着」と呼ばれるものだろうか。死がたとえ実体ではないとしても、生命という実体を失ってしまう恐怖はなお残存するように思われる。

    死について
     筆者は元共産主義者であり、それゆえキリストを「崇高なインチキ」として非難する。では死をどう捉えればよいのかというと、「宇宙全体の全的死こそを自己自身による自己自身の設定の出発の場」として捉え、全的価値転換に至らなければならないとする。全的価値転換を果たしうる学問として筆者は「文学」と「超科学」を例として挙げているが、これらは「宗教、哲学、芸術、科学」の次にくるものとして捉えているようだ。

    戦争体験をめぐって
     主語が大きい。「日本が世界史の中で正しい役割を果たすために」というが、日本人の数だけ答えがあるだろう。

    食慾について
     死んだ者からすれば大きなお世話だろう。人間は食べ物がないと生きられない。いかにも日本人的な物の考え方だと思う。

    確認されない死のなかで
     「すくなくとも、今は生きている」という事実に依りかかることで、辛うじて「自分が生きていることの実感」を得ていたときに、「自分自身の死の確かさによってしか確かめえないほどの、生の実感というものが、一体私にあっただろうか」という疑問が生じてくると、人は徐々に死に始めるという。生と死ははっきりと区別できるものではなく、いわば連続体だということだろう。
     筆者はこの認識を発見するち至って、むしろ「人間は死んではならない」という認識へと飛躍している。この認識は生者の立場にいる限りにおいて成立するかもしれないが、死を否定する以上、相当に辛い認識であることには違いない。そして、自分がいざ死ぬ立場になったときにこの認識にい続けることはさらに辛いことに違いない。この筆者の晩年はどうであったのか知りたい。

    粗忽長屋
     死がこれほど軽いものなら死ぬのも怖くないだろう。石原吉郎氏とは真逆の発想のように思える。

    【収録作品】
    ロボとピュー太/南伸坊
    ねずみ花火/向田邦子
    絵本/松下竜一
    死について/松田道雄
    死教育/伊丹十三
    無いものを教えようとしても/池田晶子
    大人の世界/吉村昭
    自殺と人間の生きがい/神谷美恵子
    自殺について/阿佐田哲也
    生まれ変わるためには死なねばならない/河合隼雄
    今日でなくてもいい/佐野洋子
    不思議なサーカス/高見順
    仁科氏の装置/小松左京
    わが生死観/岸本英夫
    死について/埴谷雄高
    戦争体験をめぐって/吉田満
    食慾について/大岡昇平
    確認されない死のなかで/石原吉郎
    粗忽長屋/柳家小さん演 飯島友治 編

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/023565036

  • 向田邦子さんの「ねずみ花火」は心に響いた。
    多くの人に作品が愛される理由が、この話からも理解できる気がした。

  • 様々な状況で死を経験した人たちの死生観。個々の話はそれぞれ納得するが、果たして自分の死生観とは?と考えると全く分からず。死の経験も少ないが生を全うしていないのでは無いか。考えるきっかけをもらった。

  • 哲学

  • エッセイ、評論、小説、あらゆる方向からの『死』へのアプローチ
    あんな人やこんな人が、書き尽くしております

  • P179

  • ロボとピュー太 死後の世界 南伸坊
    死後の世界は生きるために必要な発明なので、死んだら死後の世界は用済みになる。

    「死んだら、ピュー太の死後の世界はなくなるんだよ」

    ねずみ花火 向田邦子
    よく知りもしない人たちが、それぞれの胸に抱える修羅場について。

    絵本 松下竜一
    12年越しに届いた絵本。
    命を手渡していくこと。

    死について 若い人の自殺 信仰について 松田道雄
    世界は虚無とわかったら、自分を大事にせよ。

    死教育 伊丹十三
    猫の死をきっかけとした、死についての息子の疑問に、どう答えたらよいものか。

    無いものを教えようとしても 池田晶子
    死とはそもそもなんなのか。
    命の不思議さについて。

    大人の世界 吉村昭
    子供を失った親の悲しみ

    自殺と人間の生きがい 神谷美恵子
    自殺を考える人、実行する人の本当の望みは、生き方を変えることなのではないか。

    自殺について 安佐田哲也
    高島平団地
     1980年に自殺の名所として社会問題になった団地。

    三原山
     1933年 自殺の名所として有名になった。半年で129人の自殺者。大半が十代から二十代だった。

    生まれ変わるためには死なねばならない 河合隼雄
    「死ぬほどのところをくぐらなかったら、よくならなかったと思います」 p.107

    私は自分のなかの何を死なせたくて、どう生まれ直したいのだろう。

    今日でなくてもいい 佐野洋子
    田舎の人は外国人だと思う。

    不思議なサーカス 高見順
    高見順日記

    仁科氏の装置 小松左京
    人生の空虚に飲まれた男の半生をかけた自殺

    わが生死観 岸本英夫
    死にそうになった時は、死にものぐるいで生きようとする私でありたい。

    死後の世界があるかないかなどくだらん。どっちが自分の生を全うするのに役立つかを判断して、好きな方を選べばいい。

    存在していない、0とはどういうことなんだろうか。

    生命の肯定が全ての出発点となる。

    死について 植谷雄高
    死者の、かつてあった確実性と、今はもう無い茫洋性

    存在論

    戦争体験をめぐって 吉田満
    戦後27年目の高校生たちとの文通

    食慾について 大岡昇平
    医用に見える食慾に支えられ、戦場で人間性を保った一兵士と一人の将校

    確認されない死のなかで 石原吉郎
    あんまりたくさん死にすぎると、その死は人の顔を失い名前を失い、ただの統計になってしまう。

    粗忽長屋 柳家小さん
    これ、自分が死んだことに気づいていないのではなく、ただのそっくりさんなのに死んだ死んだ言われて自分でも死んで幽霊になった気分になっちゃってるだけじゃないの。

  • この本、末期ガンの人が書いてたブログで紹介されてて、それで読んだんだけど、結構面白かった。死について、いろんな人がいろんなことを書いてるんだけど(奇しくもここで収録された文章を書いている人はこの本が出版された時点で既に全員亡くなっている。これは意図されたものなのか)これを書いた時点では誰も死んだことがないって言う、まぁ至極当たり前なことを思いながら読んだ。

    中に「死は実体ではない」って思ってる人が数人いて、でもわたしはそれがあんまり納得できないというか。確かに「死」=「無」なのかも知れないが、一方で「無い」ことが「有る」とも言えるんじゃないだろうか。でないと、生と死っていうのは、対立する概念ではなく、生は生のみで存在し、死はどこかちゅうぶらりんなものになってしなわないか。

    最後の方に戦争体験者、抑留体験者、の人が死について書いたものが数編あるんだけど、中学生に読ませるにしては少し難しめかも知れないと思ったが、それでも大いに読ませるものだった。大量死が悲惨なのではない、その死について一人一人の名前が残らないことこそが人間にとってもっとも悲惨なことなのだ、という意見は説得力があった。


    ただ、死については一人一人考え方が違うし、一人一人でも置かれた状況下で考えが変わってくることもある。もちろん変わらない場合もある。なので「これが正しい」ということももちろんないのだが、ただ、自分の思索を進める上ではかなりヒントになるものもあるのではないかと思う。

    しかし、わたしが読んだブログの書き手は今年の初めに亡くなられてしまわれたそうだが、この本を死を間近にしてどういう気持ちで読んだのだろうなーと思わずにはいられなかった。

  • 生きている感が希薄な現代人、先人達の生死観に、ガツンとヤられる。命の授業とは、こういうことか。絵本で号泣。

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