ヒトラーと暮らした少年

  • あすなろ書房
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本棚登録 : 197
感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751528778

作品紹介・あらすじ

ベストセラー「縞模様のパジャマの少年」のジョン・ボイン、待望の新作!少年は、ただ信じただけだった。目の前に立つ、その人を。そして、ただ認められることだけを夢見て、少年は変わりはじめた・・・。パリに生まれた少年ピエロがたどる、数奇な運命の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 第一次世界大戦の兵士だったドイツ人の父とフランス人の母を持つ少年ピエロは、4歳の時に父親はPTSDによる事故死、7歳の時に母親は病死してしまい、孤児院で生活することになった。しばらくして音信不通だった父親の妹ベアトリクスに引き取られることになり、彼女が家政婦として働く職場、ドイツとオーストリアとの国境にある山荘ベルクホーフに住むことになるが、そこはヒトラーの別邸だった。

    権力者と生活を共にすることで変貌していく少年の姿と、周囲の人々との関わりを描くフィクション。

    それが空しいことだと自覚しながらも、ヒトラーというトラの威を借りることで増長した自分を止められなくなってしまった思春期の姿が痛々しい。

    残念ながら少々不自然に感じるのは、ベアトリクスが彼を山荘に引き取ることにしたこと。
    なぜわざわざ自分が暗殺を企てている場所に幼い甥を連れ込むのか。暗殺の成否にかかわらず、彼の身に危険が及ぶことは十分考えられる。

    また、ピエロの変化の理由もはっきりしない。山荘の住人は頻繁に交替する兵士以外はそんなに権威を振りかざす人はいなかったし、ヒトラーも頻繁には訪れていない。また、学校でも、親しい友人は穏やかなカタリーナだった。彼が人格を変える必要はなかったのではないかと思える。

    以上の点を加味しても、文章はしっかりしていて安心して読める。

    ある程度歴史的背景の理解が必要なので、中学生以上向き。

  • ヒトラーから贈られたヒトラーユーゲントの制服を着たピエロが『これまで生きて来て、こんなに自分が誇らしく思えたことはない』と思った。
    それは前作『縞模様のパジャマの少年』から続いている主題。『役柄にぴったりの衣装を身につけてれば、その人の気持ちもよくわかるのよ』とお祖母さんの言葉が蘇る。
    制服、役柄(立場)で人は変わっていく。怖いほど。
    人は罪を犯す。だからこそヘルタの言葉は重い。
    『自分にむかって、ぼくは知らなかった、とは絶対に言っちゃいけない。それ以上に重い罪はない』
    そしてピエロへの言葉は救いと人間愛に溢れている。
    『あんたは若い。まだ十六なんだから。かかわった罪と折り合いをつけていく時間は、この先たっぷりある』

    エピローグが素晴らしい。
    前作以上に良かった。
    三部作の残り一冊の出版を熱望します。

  • 六歳で孤児となった少年(ピエロ・フィッシャ-)と聾唖のユダヤ人少年(アンシェル・ブロンシュタイン)が織りなす、友愛、葛藤、狂気、後悔、自責、寛容を描いた児童文学の秀作です。欧州に暗雲たれこめる第二次大戦前夜のパリに住む二人の少年がたどる数奇な運命、時代の狂気に翻弄されながら、明日をも知れぬ命の灯を絶やさず再会を果たす物語に、人間があわせもつ狂気と寛容を思い知らされます。物語の折々で『エーミ-ルと探偵たち』が登場して心を和ませてくれました。

  • 孤児になった少年がヒトラーの近くで暮らすことになり、その強さや権力に惹かれて変わっていくお話。大切な友だちや親切にしてくれた人を切り捨てて、変わっていく様が怖くて切ない。
    「ハイルヒトラー」と嬉々として叫ぶ子どもたちがこうして作られていったのだろう。

  • フランスで育った、無垢な少年ピエロ。
    しかし、父母を相次いで亡くし孤児となった彼を引き取ったのは、今まで一度もあったことのない叔母でした。

    彼女が住み込みで働いていた屋敷に転がり込んだピエロ。
    「ドイツ人」らしく見えるよう、「ぺーター」と名前の読み方を変え、フランスで仲の良かったユダヤ人の友人との記憶を消して行くピエロ。
    なぜなら、その家の主人は、アドルフ・ヒトラーその人だったからです。

    ヒトラーと触れ合ううちに彼の考えに魅了され、性格を変えて行くピエロ。他人の心情を思いやることができたピエロから、他者に認められることにこだわり、自分の意思通りに他者を動かそうとするペーターへと変化してゆく彼の様子は、読んでいて辛くなります。
    もちろん、ヒトラーその人を「悪の根源」として批判することは簡単ですが(歴史的事実に関してではなく、この物語でピエロが変化した原因として)、周囲のピエロへの関わり方(友人から引き離して連れて来たり、ドイツへの教化を押し進めたり)にも問題があったのではないかと思います。

    償いきれないことに対してどう向き合って過ごして行くかということも含めて、子どもに(どういったことが第一次、第二次対戦であったかということの一定の知識は必要ですが)読んでもらいたい本です。

    特に、巻末で館の使用人から言われた「ここでなにが起きていたか知らないふりなんて、絶対にするんじゃないよ。あんたには目もあるし耳もある。しかも、何度もあの部屋にいて議事録までとってたじゃないか。全部聞いたんだよ。全部見たんだ。全部知ってたんだ。しかも、自分のしでかしたこともちゃんとわかってる。あの二人が死んだことで気が咎めてもいるだろう。でも、あんたは若い。まだ十六なんだから。かかわった罪と折り合いをつけていく時間は、この先たっぷりある。でも、自分にむかって、ぼくは知らなかった、とは絶対に言っちゃいけない。それ以上に重い罪はないんだから」というセリフは、現在に生きる私達にも強いメッセージ性があるように感じます。
    自分がしたことは取り消すことができないし、そのことを記憶から消して「なかったこと」にすることは人として間違っている。過去をふまえて、「これから」どう生きるかということをしっかりとかんがえなければいけないな、と感じました。

  •  だいぶ前に読んだ「縞模様のパジャマの少年」の作者の作品。図書館のYAコーナーで偶々見つけて、これは絶対読みたいと思った。
     読み始めたら予想通り、一気読み。
     夏は自然と戦争に関する本やテレビ番組を目にすることが多いのだが、この本を見つけたとき、なんとも言えない、言葉にならない、変な気分になった。
     純粋、正義感がもたらした数々のことの恐ろしさ、というのか…。そして、彼が戦後引きずった罪悪感。ピエロとペーターには大きな違いがある。
     そして、まさか、この物語が二重構造に見えるようになっているとは。
     最後にアンシェルが語り手になるとは思いもよらなかった。最後からアンシェルの手紙が届くあたりを読み直すと、パリの街の変容が、アンシェルの母の結末が、ペーターとは比べものにならないくらい、多くが語られないアンシェルの人生が想像され、苦しくなった。二人は周りの大人が忠告したことを子どもならではのなにかを信じて、それを無視して、つながりを続けていた。ある時点までは。このある時点というところにピエロの大きな変容がある。それから、ピエロが認識していた家族像。現実の父とヒトラーに魅入られていく過程の父親像の作られ方も気になった。
     この話は遠い過去ではない。変容してしまったピエロは他人事ではない。社会が、物の見方が変わっていくことは気がつかないうちに簡単に起きてしまう。戦争も疫病も、なんでも、きっかけとなる。
     もしかして、もう起こっていて、誰も気づいていないのかも。

  • 権力を持った人や憧れの人の影響で自分を変えてしまった少年の物語。これはまだ未熟な少年だけに起こることではなく、成熟したように見える大人にも起こりえることだ。
    主人公が思いを寄せる同級生の少女、カトリーナが父親に対していう「最後に自分の頭で考えたのはいつだった?」は忘れないようにしたい。

    私の感覚だとピエロに起こったこともペーターがしたことも、「数奇な運命」なんてファンタジックに形容できない、とても残酷な話だと思う。

    これは中学生以上向けだと推測するに、教科書等からはわからない時代背景や交流を知っていた方が興味深く読めるという意見もあり、それには同意だけど、しかしそれはただの順番でしかなくて、ここから入ることもあるだろうな、と私は思う。

    とにかくこれはたくさんの大人が読むべき本だと思う。

  • 無垢だった少年はヒトラーに感化され、名前を捨てて変わっていった。結果的には引き取ってくれたおばを死なせ、態度が尊大になり好きな女の子さえも泣かせる。権威に擦り寄るとこうも変わるものなのかと空恐ろしく感じる。子どもだから何も知らないは言い訳にはならない。なんとも重たい物語だった。私たちがピエロ(ペーター)と同じにならないとは言い切れない。というか、ピエロの変わりようが怖すぎた。

  • 人には、人を変える力がある。善い方にも、悪い方にも。

    虐げられた者、立場が弱い者ほど、不満が募る。
    その不満が、権力者の力の源になる。
    不満を持ち、現状に苛立ちを感じている者ほど、"力"に流されやすい。強大な権力者に操られやすい。

    自分の行動が大切な人の命を奪ってしまう。そして、自分自身でそうなるように仕向けたのだとしたら・・・。

    人の心はたやすく変わる。特に"死"が関わっている時は。ある時には正しいと感じていたことが、ある時には間違っているように感じるかもしれない。

    自分がピエロと同じ立場になったとき、同じ行動を取らずにいられる保証なんて、誰にもない。平和な場所にいるからこそ、ピエロの行動を冷静な目で見ることが出来るのだろう。

    だからこそ、忘れずにいたい。

    心は簡単に動かされてしまう。間違いを正しいと信じ込まされてしまうことがある。そして、"間違い"は時に一生かけて償わなければならない"罪"になりうることを。

    その事実を知っておくことは生きていく上で、大切なことの一つである気がした。

  • 後味が悪い…

    『縞模様のパジャマの少年』もあまり後味が良いものではなかったが、<知らないが故に迫害される側に回ってしまった悲劇>が描かれていたな、と思う。

    本作は<知らないが故に迫害する側に回ってしまった悲劇>が描かれていたな、と思った。

    ピエロがピーターになっていた瞬間が一番恐ろしかった。
    何も知らない子どもが、ヒトラーに父親の影を見てしまい、認められたいと願うあまりに起きた諸々のことが大変後味が悪い。

    ただピーターはそれを「知らなかった」で済ませることはせず、償い続けながら生きていくのだろう。
    ラスト、親友に話し始めるところで、少し光が見える。

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