1995年刊。70~90年代にかけての著者の論考、講演録をテーマ毎に集積。久々の藤木節を堪能。テーマは、女性、一向一揆、刀狩などの武装解除、中世村落や城郭と民衆との関わり、戦国大名権力の実相、文禄・慶長の役。多くは既読した著者本のテーマと被っていたが、一向一揆関連、文禄・慶長の役の韓国内、あるいは日本内(東国・西国両面)への影響のそれは初見に近い。殊に、一向一揆関連は宗教的紐帯の影響力の程度、石山本願寺の戦国大名的支配構造や織田権力における畿内や長島は彼の支配の境界領域に位置し、不安定など興味深い。
石山本願寺の支配構造や他国への影響の実相は、宗教という紐帯がどこまで貫徹されたのか、あるいは他の要素があるか、戦国期と織田権力期等時期による違いは何かなど、織田・石山10年戦争を考えるには良い刺激になった。また、織豊または幕藩制を強固な専制体制とみる立場からの、民衆の一定の力を容認する藤木説への批判とその応酬は論争として面白い。結局、幕藩制の内実をいかなる根拠から導出するかに係っているはずで、ステレオタイプ的な見方だけはすまいと思ったところ。著者は立教大学文学部教授。