- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784752210511
感想・レビュー・書評
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固有名詞を使った短歌、1000首を紹介。
でも、私の好みから言うと感動の歌は少ない。というのは、どうしても固有名詞は字数を使ってしまい、場所だけの紹介で情というか、心の動きが見えないので残念。
逆に言うと、固有名詞を使う時は余ほどのことがない限り要注意ですな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
※本稿は「北海道新聞」日曜版2024年5月12日付のコラム「書棚から歌を」の全文です。
・ゴミ袋抱えて非常階段をメイドがくだるススキノ0時
山田航
地名や人名、店名、商品名など、固有名詞は現代短歌を彩る要素の一つである。それら固有名詞が登場する1000首を集めたアンソロジー集がおもしろい。この地名が詠まれているのか、こういう名詞も歌語になるのか、など、発見に満ちている。
たとえば冒頭の歌。歓楽街「ススキノ」のビル内の光景だろうか。メイドカフェでご主人様・お嬢様(客)に笑顔を向けていた「メイド」は、退勤時にはさながらシンデレラ。午前0時、ガラスの靴ならぬ、「ゴミ袋」を抱えて非常階段を勢いよくくだる姿に、非日常と日常との対比が光る。
・吉野家におやぢ一人は見苦しと中島みゆきが昔歌ひき
牛尾誠三
札幌市出身の中島みゆきの名曲「狼になりたい」。歌詞の中に、牛丼店で偶然向かいあった中年男性客に関する一節がある。「吉野家」も「中島みゆき」も物語性たっぷりの固有名詞であり、喚起力がある。
歌われた地名もさまざまだ。
・行先は駅前行きのバスにして其処から東京へも釧路へも行ける
浜田康敬
釧路市出身、宮崎県在住の作者であり、「東京」と「釧路」の取り合わせが目を引く。「駅前行き」というバスを選べば、どんな駅にでも思うがままに行けるような幻想が拡がり、ファンタジー性も濃厚。
今後も、固有名詞の無限の可能性に注目していきたい。
(2024年5月12日掲載)