- 本 ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784752212096
感想・レビュー・書評
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(写真は著者の歌集で、ここでは糸川雅子さん著『詩歌の淵源 「明星」の時代』をご紹介します~)
我想ふ星の都のありとならばそこにおはさんミューズアポロー
水落露石
1900年(明治33年)、与謝野鉄幹を中心に、文芸誌「明星」が創刊された。与謝野晶子、山川登美子、石川啄木らが比類ない才能を輝かせ、「明星」は、明治末期を代表する雑誌として現在も語り継がれている。
香川県在住の歌人糸川雅子は、その「明星」を丁寧に読み解き、歌われた「星」の意味合いや、色彩、外来語の受容などを分析し、著書「詩歌の淵源」にまとめた。
なかでも興味深いのは、「明星」で歌われたカタカナ語に、キリスト教に関わるものが多いという指摘である。「バイブル」「マリヤ(ア)」「ヨブ」などに始まり、その余波なのだろう、「エロスの神」「ディアナの神」など、ギリシャ・ローマ神話の神々の名も登場するようになったという。
掲出歌は、俳人として知られる作者が、ギリシャ神話の「ミューズ」「アポロー(アポロン)」を歌っためずらしい例である。
1908年(明治41年)、「明星」は一時終刊となり、時代は大正へと移る。その終刊の年に刊行された与謝野晶子の歌集「常夏」に、こんな歌があった。
火に入らむ思は烈し人を焼く炎はつよし何れなりけむ
愛する人も自分も、熱く烈【はげ】しい「火」のような人。思いが強すぎ、自分も相手も焼き尽くしてしまうかもしれない、という内容だ。自作を解説した「短歌三百講」にもこの歌はあるが、「明星」という場は、まさにその着火点であったのだろう。
(2017年6月11日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示