非対称化する世界ー『<帝国>』の射程ー

  • 以文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753102396

作品紹介・あらすじ

本書は『〈帝国〉』についての単なる解説書ではなく、『〈帝国〉』が提起した問題をどのように受けとめ、展開していくかを主題化しつつ、9・11以後の世界をも視野に入れた〈状況への発言〉です。
 この状況とは、一口に言ってタイトルである「非対称化」ということです。政治的な局面でいえば、9・11以後「テロとの戦争」という言葉が横行しています。このことの意味は、戦争とは国家対国家の紛争であったはずですが、それが国家対個人・集団間の紛争を指すように、対象がすり替えられたばかりでなく無制限に拡大してしまいました。それは、強力な武力装備=軍隊と個人・集団との対決という不条理な不均衡をもたらしています。また、経済の局面では「市場原理」という言葉は、自由で平等な競争原理を指すものではなくなって、巨大なマネー・ファンドが企業を買収できる「自由」であり、貧富の差の拡大の「自由」であり、いまや強者がなりふり構わず振る舞う自由で、これは原理主義的な暴力といえます。 
 このような状況が新自由主義の温床になっていますが、安全性や貧富の差など、あまりにもわれわれの日常に深く根差して身近であり、的確な判断をするのに実に見えづらいのが特徴です。それだけに日常的な実感として、掴み所のない不安感をわれわれにもたらしております。この「掴み所のない不安感」に焦点を当てて、何とか見えるところへ議論を開きたい、これが本書のねらいです。

感想・レビュー・書評

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  • 帝国として概念化される世界の統治システムが明らかにアメリカ的なものだとしても、アメリカ国家がそのまま帝国なのではない。
    アメリカの2重生は9・11以降、明らかになった。
    帝国主義者たちは常に帝国主義者からたえず学ぶ。
    国民国家がますます主権を喪失しつつあることは、国民国家の解消を意味するわけではない。帝国による統治は多くの人々の民族・言語同一性や国民主義への固執を強めるだけではなく、まさに国民国家の諸制度を通じてスーパー国家性は昨日しているように思える。

    帝国をめぐるあらゆる決定は非決定の場をめぐって下されるが、そこには決定と非決定の間について、さらに考えるべき空間が現れている。

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著者プロフィール

西谷修(にしたにおさむ)
哲学者。1950年生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治学院大学教授、東京外国語大学大学院教授、立教大学大学院特任教授を歴任したのち、東京外国語大学名誉教授、神戸市外国語大学客員教授。フランス文学、哲学の研究をはじめ幅広い分野での研究、思索活動で知られる。主な著書に『不死のワンダーランド』(青土社)、『戦争論』(講談社学術文庫)、『夜の鼓動にふれる――戦争論講義』(ちくま学芸文庫)、『世界史の臨界』(岩波書店)、『戦争とは何だろうか』(ちくまプリマー新書)、『アメリカ異形の精度空間』(講談社選書メチエ)などがある。

「2020年 『“ニューノーマルな世界”の哲学講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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