生のあやうさ―哀悼と暴力の政治学

  • 以文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753102563

作品紹介・あらすじ

テロルとの戦争によって剥き出しにされた今日の〈生〉。喪、人間の傷つきやすさ、応答責任など、ポスト9・11の〈生〉の条件を展開。今日、チョムスキーと並んでアメリカで最も注目される論客であるバトラーの最新評論集。

感想・レビュー・書評

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  • 9.11以降のアメリカの政治・言論状況を踏まえた論文集。

    アメリカにおける訳の分からないポストモダン哲学を代表する著者だが、ここでの議論は、他の本に比べると、かなり明快。

    世間の常識に対して挑発的だったこれまでのトーンからすると、分かりやすいとさえ言える。

    でもねー、なんだか面白くないんですね。

    なんか、ストレートすぎて。

    これって、贅沢な悩みであろうか?

    難しい文章かけば、わけ分からんといわれ、分かりやすい文章かけば、面白くないといわれ。

    同じよう左翼インテリ的な評論としては、例えばスーザン・ソンタグとか、感動的に率直であるとともに、議論の進め方がとてもスリリングだった気がするんですね。

    もちろん、著者独特の何層にも言葉を折り畳んで行くというか、早い話しくどい文体は健在ではあるのだけど、この本では、あまり効果的ではない気がする。

  • 『ジェンダー・トラブル』で世界の注目を集めた俊英が、2001年9月11日以降の政治的変化がもたらしている挑戦を考察したエッセイ集。ジェンダー・アイデンティティの基盤たる身体の不安定さを暴き、フェミニズムの主体としての「女」を解体してしまったバトラーには、そのポストモダン理論の先鋭さゆえに、日々の現実とかけ離れた知的遊戯者というイメージもつきまとうが、<私>という存在の傷つきやすさを認めつつ、同様に傷つく可能性のある他者との関係に自身を開きながら、「私たちの住む世界と私たち自身の身体的な傷つきやすさとの間に歩いて渡れるつながりを作」ろうと語りかける。ここには確かに、関係性において自己を脱構築し、そこに拓かれる政治的可能性を見出そうとしてきた理論家バトラーの闘いの実践がある。それは同時に、私の存在を形づくり、ともにこの世界を構成する<あなた>に向けた呼びかけでもあるのだ。

  • 9.11以降に執筆された5つの論文から、アメリカの公的知識人として発言するバトラーの姿がくっきりと浮かび上がってくる。
    私たちと同じように、他者もまた傷付く存在であるということをバトラーは主張する。
    「傷付きやすさ」ということを考えることを通して、「私たち」と「他者」の間に新たな回路が開かれうるかもしれない。

  • 確認先:川崎市立多摩図書館

    確かに、この作品がテーマにすえているのは「同時多発テロ」だ。だが、それだけで片付けることはできるのだろうか?
    評者はこうした見方に「ノー」と答える。なぜならば、バトラーがここで論じたいのは「同時多発テロ(とその後の対テロ戦争)」をめぐる不器用な排外主義への憂慮という点以上にメランコリーをめぐる問いだからだ。つまり、バトラーの論じたかったことに同時多発テロは付属してきただけに過ぎないのだ。だからこそ、同じように死んでゆくものたちへの淡々としたいい口もそうだと思えば納得はいく。

    翻訳の本橋哲也はおそらくそこまで理解していたかというと正直言って疑問符が点灯するし(本橋はどうも陰謀論に回収されやすい素地を自分で内面化しているはずなのにそれを認めようとしないタイプの典型例)、本書をもってバトラーが変わったというのは早急すぎるといっても差し支えない(その証拠として最新作『自分自身を説明すること』ではヘーゲリアンとしてのジュディス・バトラーが見られるだけに、これだけが浮いている印象はぬぐえない)。
    しっかり読まないと痛い目を見る作品。

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著者プロフィール

カリフォルニア大学バークレー校教授。主な著書に『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの撹乱』『アンティゴネーの主張――問い直される親族関係』(以上、竹村和子訳、青土社)、『アセンブリ――行為遂行性・複数性・政治』(佐藤嘉幸・清水知子訳、青土社)、『分かれ道――ユダヤ性とシオニズム批判』(大橋洋一・岸まどか訳、青土社)、『権力の心的な生――主体化=服従化に関する諸理論』『自分自身を説明すること――倫理的暴力の批判』(以上、佐藤嘉幸・清水知子訳、月曜社)、『生のあやうさ――哀悼と暴力の政治学』(本橋哲也訳、以文社)、『戦争の枠組――生はいつ嘆きうるものであるのか』(清水晶子訳、筑摩書房)、『触発する言葉――言葉・権力・行為体』(竹村和子訳、岩波書店)、『欲望の主体――ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ヘーゲル主義』(大河内泰樹・岡崎佑香・岡崎龍・野尻英一訳、堀之内出版)、『偶発性・ヘゲモニー・普遍性――新しい対抗政治への対話』(エルネスト・ラクラウ、スラヴォイ・ジジェクとの共著、竹村和子・村山敏勝訳、青土社)、『国家を歌うのは誰か?――グローバル・ステイトにおける言語・政治・帰属』(ガヤトリ・スピヴァクとの共著、竹村和子訳、岩波書店)などがある。

「2021年 『問題=物質となる身体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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