日本を再発明する: 時間、空間、ネーション

  • 以文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753103195

感想・レビュー・書評

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  • 『辺境から眺める』についで,モーリス=スズキさんの著作2冊目。長らく非常勤講師をやっている東京経済大学ではグローバル化を意識した内容で「人文地理学」をやってきている。講義内容は何度も変更してきたけど,そろそろ教科書を変更したいと思っていた。
    最近,別の講義内容で日本の近代化を勉強するにつけて,グローバル化もいいけど,そのなかでも日本の変容もしっかり押さえておかないとと思い,学生自身も日本のことをあまり知らないのではないかと,本書を2016年度の教科書として使うつもりで購入した。まずは目次。

    第1章 はじめに
    第2章 日本
    第3章 自然
    第4章 文化
    第5章 人種
    第6章 ジェンダー
    第7章 文明
    第8章 グローバリゼーション
    第9章 市民権

    いやいや,やはり素晴らしい本だった。この内容をどう補足して教えるのかというのは難しいが,扱っている内容と本書を貫く主張は是非学生に伝えたい内容だ。目次を見てお分かりのように,一般的な歴史記述の形式にはなっていない。さまざまな切り口から近代日本を解剖するという感じだ。
    第3章の「自然」に関しては,同じように近代日本の政治における自然の概念を扱ったトーマス『近代の再構築』(法政大学出版局,2008)とはあまり重ならない内容。
    第4章と第7章は文化と文明を扱っており,西川長夫『国境の越え方』(筑摩書房,1992)よりもしっかりと日本の史実に基づいておりしっくりくる。第5章と第6章の人種とジェンダーは私がこれまで読んできた日本近代史では抜けてきた観点。西洋近代史では触れたことのある議論を日本の独自性の下で考えさせられる。
    そして,『辺境から眺める』でも一つのテーマであった市民権=シチズンシップはモーリス=スズキさんの主たるテーマなのだろうか,最近私も真面目に考えなくてはと思っていた概念。
    本書は副題にもあるように,時間と空間を強く意識し,もちろんグローバリゼーションに関する第8章も用意されている。そうした意味においても人文地理学の講義に利用できる著作だと思う。そして,読んでいて新鮮だったのは,著者が「伝統」という概念を積極的にそして肯定的に使っていこうという主張だ。この概念はホブスボウム・レンジャー『創られた伝統』(紀伊国屋書店,1992)以降,否定的に捉えられがちな概念だが,この概念を流動的なものとして積極的に活用していくべきだという。他の著者の著作も読んで講義内容を固めたいと思う。

  • 原題:Re-Inventing Japan: Time, Space, Nation (1998)
    著者:Tessa Morris‐Suzuki
    翻訳:伊藤 茂

    出版社:以文社
    四六判 上製カバー装  308頁
    定 価:本体2,800円+税
    ISBN:978-4-7531-0319-5 C0010
    http://www.ibunsha.co.jp/0319.html

    【抜き書き】
    ・まず「第4章 文化」から
    “一七世紀から一八世紀にかけてヨーロッパでナショナリズムが台頭すると、差異の発想は整理し直されて「国民性(national character)」という一般的な概念となり、この言葉は気まぐれ、傲慢さ、勤勉などの国民の性格的な特徴を意味した(Yoshino 1992, 54ー56を参照)。明治時代の日本では芳賀矢一(1876ー1927)などの著述家が「国民性」の概念を取り上げた。” [p.82]

     “イマニュエル・ウォーラーステイン(1930ー)が指摘するように、「文化」という概念には二つの異なる側面があり、それが一つの言葉に圧縮されたことが絶え間ない混乱の元になった。一方で「文化」は、特定の社会内の「基底的」なものと、それとは逆の「上部構造的」なものの水平的な横の分割を指す(Wallerstein 1990, 32)。この意味の「文化」は「技術」や「経済」などと区別される。” [p. 85]

    ・最後に、「第6章 ジェンダー」から。
     “〈日本人論〉と称する社会学的な学説は、米国やヨーロッパを本拠にする多くの研究者の著作物の大量刊行を促し、一般に大企業の男性正規従業員の経験に焦点を当てながら日本型経営の特質を分析した。” [p. 172] 


    【目次】
    日本語版への序文

    第一章 はじめに 

    第二章 日本 
     三つの視点
     華夷秩序と差異の論理
     国民国家と同化の論理
     モダニティ、文明、同化
     時間、空間、差異

    第三章 自然
     徳川時代の日本の自然観
     平賀源内と自然の開発
     自然と国学:本居宣長の「自然神道」
     佐藤信淵の著作における〈開物〉
     明治日本における自然と工業化
     自然と工業化への批判
     ナショナル・アイデンティティと環境:〈風土〉の概念

    第四章 文化
     「文化」の起源
     戦間期の〈文化主義〉
     柳田国男と〈文化〉の再定義
     有機体としての文化:石田英一郎の人類学

    第五章 人種
     初期近代の日本の「内部」と「外部」
     近代日本の人種
     人種的な純血性のイメージ
     人種的雑種性のイメージ
     戦時の人種批判
     戦後の再解釈

    第六章 ジェンダー
     女性を消費する:家庭とナショナル・アイデンティティ
     家族国家への批判
     女性を近代化する:女性と時間
     あるテーマの変種:「期待される人間像」
     男性としての近代日本:〈日本人論〉
     女性としての近代日本:『おしん』
     ジェンダー、家族、アイデンティティ

    第七章 文明
     ヨーロッパ中心のパラダイムを乗り越える
     文明と文化
     文明と〈民族〉
     文明と進歩
     「文明」の限界
     日本における文化と文明に対する批判

    第八章 グローバリゼーション
     グローバルな知識と差異のフォーマット化
     植民地国家を正式なものにする
     グローバリゼーションと戦後日本のアイデンティティ
     記号の時代におけるグローバリゼーションとアイデンティティ

    第九章 市民権
     〈人民〉〈臣民〉〈国民〉:近代日本における市民
     多文化市民権
     内なる国際化
     内なる多文化主義
     象徴指標と国民国家
     時間の中のネーション

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