不確実性の人類学:デリバティブ金融時代の言語の失敗

  • 以文社
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753103584

作品紹介・あらすじ

国民国家の枠組みを超える、現代の金融市場を成り立たせるものとは何か。
著者である人類学者アパドゥライは、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、エミール・デュルケームの『宗教生活の基本形態』などの資本主義研究及び儀礼研究の古典をひもときながら、現代金融市場の論理を分析する。
市場の「装置」と「エートス=不確実性の想像力」のずれに着目し、グローバル金融とデリバティブの論理に抗する「進歩的分人主義」の可能性を探求する、人類学的考察。

感想・レビュー・書評

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  • 2008年の金融危機の原因については、金融システムのなかで行われたていた複雑な派生商品(デリバティブ)取引がどんどん膨張していったことや、それに対する監視・規制のあり方、さらにはそれらにかかわった人たちのモラルの問題まで、これまでにも様々なことが指摘されてきた。

    しかし本書は、それらの議論とは一線を画し、この出来事は、金融システムのなかで交わされていた約束と呼ぶ言語形態の失敗であると位置づけている。

    デリバティブとは、ある取引にまつわる不確実性に対して交わされる約束である。変動する価格や債務の不履行など、取引にはさまざまな不確実性があるが、それらの事象に対して一定の価格付け(pricing)という形での約束を行い、その権利を取引する。

    この約束は、必ずしも対象としている取引の当事者ではなくても行うことができる。AとBの間の取引に不履行が行る可能性について、CとDがデリバティブを取引することもできる。

    また、価格付けは、価値評価とは独立に行われている。つまり、債務の額と債務不履行の確率を掛け合わせた期待値などのような、何らかの根拠に基づいた価値評価ではなくても、当事者がその不確実性に対するリスク・テイキングに合意すればよいということである。

    このようなデリバティブ取引が膨張した金融システムは、マックス・ウェーバーが定義したようなカルヴァン派の精神に基づく合理的な資本主義の世界や、マルクスが論じた商品経済の世界の外側に広がってる。

    そして、我々が労働を通じて生み出すさまざまな債権債務は、この金融システムのなかでは、スコア化され、レーティングされることで、無数のデリバティブ商品のなかに組み込まれている。つまり、我々の存在は細かく切り刻まれて原子化されている。

    筆者は、我々をこのように原子化してデリバティブへと再構築する金融システムの論理を、捕食的分人化と呼んでいる。そして、この動きは不可逆的なものであり、我々が「個人」を取り戻そうと政治的な運動を展開しても、止めることはできないものであると筆者はいう。

    このシステムによる搾取に対抗するためには、この金融システムを解体するのではなく、そこから得られる利益が1%の金融システムを操作する人々にではなく、99%の側の下に還元されるような新たな戦略を構想すべきであると筆者は述べている。

    より論を進めて言えば、すでに分人化した我々が、旧来の意味での個人に戻るのではなく、分人としての部分性を活かしながら新しく連携、帰属できる集合体のあり方を構想することで、分人としての我々にこの金融システムからもたらされる利益が還元されるのではないかということである。

    この新しい構想について具体的なイメージはあまり語られてはいないが、金融システムの世界から目を転じて、人類学の世界に視野を広げれば、近代的な個人の概念とは異なる概念での連帯や協力関係をベースとした社会のシステムの事例が数多くみられるという。

    それらの学問的蓄積との連携をしながら、捕食的分人主義による搾取から脱却し、金融システムをわれわれのものにしていく道を探ろうというのが、筆者の呼びかけであると思う。

    文化人類学の領域から金融システムの肥大化とその失敗を見つめた本であるだけに、その視点は独特のものがあった。

    我々が分人化され、金融システムのなかに組み込まれているというのは、金融危機以降の様々な議論の中である程度述べられてきたことではあるが、それに対抗する方法として、分人化されたシステムを前提とした新たな主体のあり方を提起するという点に、筆者の視点の独自性を感じた。

    具体的な構想までが詳しく論じられているわけではないが、筆者の今後の議論に期待をしたくなるような本であった。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/535546

  • ◆10/18オンライン企画「なぜ人はあいまいさを嫌うのか〜コントロールしたい欲望を解き放つ〜」で紹介されています。
    https://www.youtube.com/watch?v=t2KA8IjVT9U&feature=youtu.be
    本の詳細
    http://www.ibunsha.co.jp/new-titles/978-4753103584/

  • 338.01||Ap

  • 目次
    第1章 約束型金融の論理
    第2章 企業家の倫理と金融主義の精神
    第3章 金融機械のなかの幽霊
    第4章 聖なる市場
    第5章 社会性、不確実性、儀礼
    第6章 カリスマ的デリバティブ
    第7章 分人の富
    第8章 金融のグローバルな野望
    第9章 契約という約束の終わり
    【訳者解説】不確実性の人類学のために

    ○きっかけ
    進歩的分人主義とデリバディブ(金融派生商品)のワードに惹かれ本書へ

    ○あらすじ
    >西洋的「個人」ではなく、人はさまざまな関係性の結節点であるという「分人」主義が、グローバリゼーションから脱却する可能性をもたらすと指摘
    >著者はインド出身の人類学者

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著者プロフィール

1949年,インドのボンベイ(現在のムンバイ)生まれ.シカゴ大学大学院博士課程修了,PhD.シカゴ大学,イェール大学などで教鞭を取り,現在,ニューヨーク大学メディア・文化・コミュニケーション学教授兼IPK(Institute for Public Knowledge)のシニア・フェロー.また,アメリカ芸術科学アカデミーの研究員を務める.専門は文化人類学,南アジア地域研究,文化理論.主な訳書に門田健一訳『さまよえる近代――グローバル化の文化研究』(2004年,平凡社),藤倉達郎訳『グリーバリゼーションと暴力――マイノリティーの恐怖』(2010年,世界思想社)がある.

「2020年 『不確実性の人類学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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