おかしなジパング図版帖 -モンタヌスが描いた驚異の王国-

著者 :
  • パイインターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784756243157

作品紹介・あらすじ

いったい、ここはどこなんだ?空想と、思い込みと、伝言ゲームで描かれたどこにもない日本へ、ようこそ。

感想・レビュー・書評

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  • 奇本である。

    アルノルドゥス・モンタヌスは17世紀オランダの宣教師・歴史学者である。世界の地理や歴史に関する書物を多数著わしている。日本に関する本は、豊富な挿絵つきの『東インド会社遣日使節紀行』(『日本誌』と称される)が知られている。だが、(ここがポイントだが)本人は一度も来日していない。
    本書は、このモンタヌスの『日本誌』に、エッセイストの宮田珠己がひたすらツッコミを入れていくスタイルである。
    これは、この時代の西洋に日本がどのように捉えられていたのかを知る感嘆の書であり、それがいかに誤っていたのかを目の当たりにする驚愕の書であり、挙句の果てに何だか感動すら覚えてしまう稀有な書である。

    そもそも着物の構造がおかしい。まるでギリシャ神話のようだったり、つんつるてんだったりで、どのように着るのか、描いているものもわかっていないに違いない。
    お辞儀は手をぶらんとさせ、まるでラジオ体操の「からだを前後にまげる」運動の前半部分のようである。
    仏像はことごとくおかしい。方広寺の大仏は、女性的であるという描写がどこかでねじ曲がったものか、妙に妖艶である。仁王は悪魔の像とされ、狛犬は獅子のようである。
    全般に、中国とインドとどこかの南国とヨーロッパのイメージが微妙に加わり、ぐちゃぐちゃっと再構成されたような具合だ。
    あらまぁ、これは何がどうしてこうなっちゃったんだかねぇとしばし口を開けて考え込んでしまうくらい、壮大なスケールの支離滅裂さである。

    例えば、ちょんまげで裃を着けた武士を見た外国人がいたとする。これを文章で書き表す。そしてそれを何人かの人が間に入り、自分の言葉で言い換え、あるいは人に話し、あるいは書き残す。途中で別の国の別の風俗が混じり込む。何段階かのクッションが入ったそうした伝聞を寄せ集め、それを元に絵に描こうとすると、本来の姿とは似ても似つかぬものになることは何だか想像がつく。大規模で複雑な伝言ゲームである。

    しかし、彼らはそうまでしても興味があったのだ。遠い、あこがれの国はどんな国なのかと。そんな情熱になんだか感動してしまう。「これは日本じゃない!」と声を大にして言わねばならないことを一瞬忘れて。
    そう思う一方で、遠くに存在するということは理解を困難にするものであり、かつてはこれほどの大きな誤解があったことを思えば、わかり合うまでには、双方の努力が必要なのだ、ということにも思い至る。
    鎖国という状況があったにせよ、宗教も社会組織も衣食住もまったく異なるとなれば、なかなか伝わるものではない。

    へぇぇと感嘆した後で、何だか考えさせられてしまう、まったく不思議な本である。


    *宮田珠己(通称:タマキング)が書く旅エッセイは非常におかしい。しかしそれがどうおかしいのかを説明しようとすると途端におかしくなくなってしまう誠にクセモノの文章である。こればっかりは未読の方は読んで下さいというしかない。タマキングとモンタヌス、いずれが欠けてもこの本は誕生しなかった。二者、よくぞ出会ったり。

    *巻末の参考文献はかなり突っ込んだ感じである。本文は軽い筆致だが、著者は相当いろいろな資料に当たっていると思う。

  • 1600年代、ヨーロッパに紹介された日本があまりに変過ぎる。
    文字だけで書かれた日本滞在記を、日本を知らない画家が想像だけで描くとこうなる、という…。
    どこからどう見ても日本じゃない。
    中国っぽいもの、東南アジアっぽいもの、インドっぽいもの、アフリカっぽいもの、いろいろ。
    でも、日本じゃない。
    明らかにヨーロッパ系の顔をし、西洋の衣装を着ている日本人すらいる。

    日本人の習俗でさえこんなのだから、これが日本の宗教になってくると、これ何?ってのしかない。
    (ヒンズー教の本からのパクリが多いらしい)

    モンタヌスの描く日本はことごとく愉快だけれど、実際に日本に来たシーボルトの描く日本は写実的だけど辛気臭い、と。
    宮田珠己はこう書くけれど、シーボルトには日本人が辛気臭く見えていたのかもしれないじゃないか。
    辛気臭くても、シーボルトは日本及び日本人をすきだと思ってくれたのだから。

    閑話休題。
    帯の文章が秀逸なのでここに書いておく。
    ”いったい、ここはどこなんだ?
    空想と、思い込みと、伝言ゲームで描かれた
    どこにもない日本へ、ようこそ。”

    現在品切れ中で、7月に増刷予定だそうです。
    面白かったので、本屋で見かけたら立ち読みしてみて。
    笑えるから。

  • 17世紀にオランダ人モンタヌスが描いた日本。なんと、モンタヌスさん日本に来た事がなく、文献や他の人が描いた絵を見て描き上げた。だから全く素っ頓狂な絵になっていて面白い。
    今でこそ情報が溢れ、行った事のない国でもなんとなくイメージできるが、当時外国にとっては本当に未知の国だったんだろうな。なんとなくこんな感じ?と中国やチベットなどの要素も取り入れ、一生懸命描かれているが…うーん、残念(^_^;)という。でも、全く見たことがない状態から描き上げたにしては凄い。モンタヌスさんがもし日本に来ることができていたら、びっくりしただろうと思う。「あー!これかー!」って何度も思うだろうね。

  • 「どこの国だよ!?」とツッコむことエンドレス……な本だった。いやー、笑わせてもらった。日本を紹介しているはずなのに、中国風だわモンゴル風だわヨーロッパ風だわと、これぞ和洋折衷の極みと言いたいところだが、融合の仕方がそもそもおかしい。というか、ラジオ体操のようなお辞儀とか、筆者のコメントも面白すぎる。しかしそうか、文章だけを頼りに想像で書くとこうなるのか。見たことのないものを書く難しさは理解したが、こんなヘンテコな国として描かれていたのなら、あちらの国の人々はさぞかし驚惑と好奇心いっぱいで、さらなる夢想の連鎖にはまっていたことだろう。

  • ヨーロッパの人々が日本を「発見」して以降、日本の文化がヨーロッパに伝えられるようになりました。
    当時、日本は鎖国政策で外国との接触が制限されており、伝わる情報も絵ではなく文字や言葉のみでの伝達でした。
    当時のヨーロッパ人にとって、日本はなんとも想像力を刺激される国だったことでしょう。
    本書では、日本の地を踏んだことのないモンタヌスが、ヨーロッパに伝聞された日本の情報をもとにして描いた、日本人も仰天の「ジパング」の姿が紹介されています。

    あまりに荒唐無稽な日本の姿に、思わず笑ってしまいます。
    おじぎをする姿は、直立姿勢からの前屈のようにしか見えません。
    着物を見たことがない人が絵に描くとこうなるのか…。
    寺院の本堂や日本の神様に至っては、もう完全なるファンタジーの世界です。
    とにかくいろんなものが混じりあった結果、醸し出される絶妙な雰囲気は言葉では説明しきれません。

    当時の日本地図を紹介しているコラムもおもしろかったです。
    こちらもモンタヌスの絵に負けず劣らず、奇想天外。
    洋上にぽかんと浮かぶ1つの島だったり、南から北へ2列で並ぶ小島群だったり…。
    それでも時代を経るにつれて、だんだん本来の日本の形に近づいていくなぁ…と思ったら、突然本州を凌駕する大きさの北海道が登場したり。

    ヨーロッパ人のイマジネーションが生み出したへんてこな日本の姿に、冷静なツッコミを入れている宮田珠己さんが素敵です。

  • 内容もそうだが、まずこの帯が秀逸だった。

    「いったい、ここはどこなんだ?」

    本の装丁もタイトルも私好みだけど、なによりこの帯でぐっと興味をそそられた。
    この本はタイトル通り「おかしな」ジパングについてのものだ。
    1669年にオランダ人のモンタヌスという人物が纏めた「日本誌」に収録された図版をもとに構成されている。
    帯は本当によく言ってくれた。
    紹介されている図版は私の知る当時の日本のイメージからは程遠い。面白すぎる。なんだこれ?本当に日本なのか?

    それもそのはず、モンタヌスも日本に行ったことがないのだ。日本について書かれた話などをモンタヌスの解釈で絵にしたのだから、実際のものと似ても似つかないのもしょうがない。と、いうより日本が、彼らにとって本当に「未知の世界」に限りなく近かったのでしょう。

    暇なときにぱらぱらっと捲っては、くすっとさせてくれます。
    眠れずに暇な夜にぴったりかと思われます!

  • 17世紀、ヨーロッパ諸国が未知の国ジパングを、情報の少ない中描いたイラストの数々をを集めた本。
    人々の服や顔つきが完璧に西洋人であったり、お寺の大仏も西洋風であったり、どれだけ当時日本の情報が不足していたか、謎の国であったかが分かって面白かったです。
    私にとって17世紀の日本は、当時のヨーロッパの人とたちが感じていたことと近く、同じ日本なのに別の国に思えます。
    もう武士も忍者もいない日本ですが、このイラストで当時の日本の様子を知れることが、時空を飛び越えているようでなんだか面白いです。

  • 日本がその昔、ヨーロッパ文化の人々から大きな誤解の認識を受けていたことはなんとなく知っていたけれど、
    まさかここまですごいことになって、しかも印象に残りやすい絵として表現されてしまっていただなんて…
    これじゃあ、日本という国には、いつまでもサムライばかりいて、切腹していると思われても仕方がない。
    逆のバージョンってないのかな。
    日本において、西洋のとんでもない絵が描かれちゃってた書物、とか。

    • kwosaさん
      honnooboegakiさん

      フォローありがとうございます。

      honnooboegakiさんの本棚は面白い本がいっぱいですね。
      特にこ...
      honnooboegakiさん

      フォローありがとうございます。

      honnooboegakiさんの本棚は面白い本がいっぱいですね。
      特にこの本、とっても気になります。
      ジパングやヨーロッパの間違った日本観、そして大航海時代の古地図や図版に興味がある僕としてはたまらない一冊です。

      これからもいろいろな本を教えてください。
      よろしくお願いします。
      2013/06/28
  • こんなオイシイ材料を手にした、宮田珠己が怖い。。。

    パイインターナショナルのPR
    「噂と空想が入り乱れる、フシギの国の挿画

    「モンタヌスやその時代の人々の日本情報は、そんな意外性と荒唐無稽さが横溢して、実に胸躍る、ありえない世界を現出させていた」
    外国人が想像で描いた、でたらめでほほえましい日本の地図や、豊満な胸をした女性のブッダ、だぶだぶソデのサムライ、ラジオ体操おじぎをする日本人たちなど、ユニークすぎる絵図の数々。
    「そうして私はなぜか気づくと、自分でこんな本を書くことになっていたのである」(宮田珠己)」

  • たしかに!!!!!おかしい!!!!!!!!!!!!!
    ていうかヤバいでしょ…どこの暗黒世界だよ…

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著者プロフィール

旅と散歩と石ころと変な生きものを愛し、いかに仕事をサボって楽しく過ごすかを追究している作家兼エッセイスト。その作風は、読めば仕事のやる気がゼロになると、働きたくない人たちの間で高く評価されている。主な著書は『いい感じの石ころを拾いに』(中公文庫)、『東京近郊スペクタクル散歩』(新潮社)、『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』(大福書林)、『明日ロト7が私を救う』(本の雑誌社)など。

「2023年 『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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