陰翳礼讃

  • パイインターナショナル (2018年1月18日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784756250124

作品紹介・あらすじ

暗がりに潜む美を写し撮ったのは「気配を撮る名匠」と評される大川裕弘。『陰翳礼讃』の世界がより深く理解できるビジュアルブックです。

感想・レビュー・書評

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  • こういう本が手元にあって、ページをめくりながらティータイム、みたいな生活が理想。
    いつになったら実現するでしょう・・

  •  原研哉さんの『白』という本を読んでいて出てきたので、気になって読んでみた。私には難しいかもしれないと危惧して、理解を助けてくれそうな大川裕弘さんの写真が随所に載っている、パイインターナショナルの版を選んだ。

     個人的には、物心ついた時からヨーロッパが好きで、見るのは古い洋画ばかり、家具など、洋風のものが大好きだった。和風のものは、それなりに好きではあるが、洋風のものほどドキドキはしてこなかった。

     この本は、日本人が、暗さの中で、全部を赤々と灯さず、明るめの清潔感が溢れる白に塗り固めず、暗さの中に少し障子から漏れる光によって作られる陰翳をいかに上手に捉えて情緒的に暮らしてきたか、文化を築いてきたかを礼讃している。

     文章も繊細さを持ちながらもさっぱりとしていてわかりやすく、日本の文化の素晴らしさが自身の感覚に染み込んできた。写真とともに、素敵な一節が切り取られて再度載っているページがあり、ここ、良かったよなぁ、もう一回読めて嬉しいなぁ、と感動した。

     ものすごく好きな写真が1枚あって、こういう暗さや空間が好きだなぁと惚れ惚れした。北海道の、あかん鶴雅別荘の写真だった。読み終わった後も、何度もそのページを開いてしまう。

     ちょっと西洋の方が読んだら気を悪くするのでは…と心配になったが、これぞ芸術!という文章を楽しめた。

    ◯もし、あの陰鬱な室内に漆器というものがなかったなら、蝋燭や燈明の醸し出す怪しい光の夢の世界が、その灯のはためきが打っている夜の脈博が、どんなに魅力を減殺されることであろう。

    ◯畳の上に幾すじもの小川が流れ、池水が湛えられている如く、一つの灯影を此処彼処に捉えて、細く、かそけく、ちらちらと伝えながら、夜そのものに蒔絵をしたような綾を織り出す。

    ◯美は、物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える。 

    • 傍らに珈琲を。さん
      『陰翳礼讃』大好きで、おまけに『白』も読んでいたので、思わずコメントです。
      この本、オススメに出てくるのでずっと気になってたんです~。
      写真...
      『陰翳礼讃』大好きで、おまけに『白』も読んでいたので、思わずコメントです。
      この本、オススメに出てくるのでずっと気になってたんです~。
      写真、素敵なんだろうなー。
      レビューを拝読して、やっぱりいつかは欲しいなぁと思ってしまいました。
      2025/04/21
    • avec totoさん
      傍らに珈琲を。さん。
      そんなに「陰翳礼讃」お好きなんですね。日本文化わ粋に常に纏われている、趣味が良い方なんだろうなぁとお察しします。
      大抵...
      傍らに珈琲を。さん。
      そんなに「陰翳礼讃」お好きなんですね。日本文化わ粋に常に纏われている、趣味が良い方なんだろうなぁとお察しします。
      大抵の場合、ビジュアルブックって(偏見ですが)上手くいってない印象があるのですが、これは個人的には上手く仕上げてるなぁーという感じでした。本当にね、陰翳が素敵なんです!
      2025/04/21
  • 陰にあってこそ美しい、日本の美に気づかせてくれる極上の随筆「陰翳礼讃」ほか五篇。
    谷崎の嗜好がざっくり掴める書。
    谷崎はよく、その流麗な美文で讃えられるけど、筆致や文体より、まずもってその感性が常人のものではないなぁ。皮一枚剥がしたら骸というより、どこまで剥がしても感覚器か。

    作家はよく歩くと聞く。でも谷崎は、彷徨して物思うというより、座して瞑想する作家だと思う。だから自らが腰を落とす場に対してこだわりが強いのでは。「厠」が最たる例。ところでひとつ谷崎さんに直接抗議できるなら、出てくるものを「牡丹餅」と表現するのはやめてもらいたい。私、好物なのに、食べられなくなる

  • あまり古さを感じない文章&内容。
    SDGsの現代に似合った考え方なのか。
    写真に文章が添えられており、とても読みやすい。

    最近、日本の夜は明るすぎる、と海外の人々が思っていると知った。陰を大事にする日本人はどこにいったのか。他国の夜の部屋はもっと薄暗いそう。睡眠学的にも夜は暗いと良いらしい。
    朝日と共に起床し、日没と共に就寝する。
    理想的な生活、いつか実現したい。



  • 本文より。

    暗い部屋の中に住むことを余儀なくされたわれわれの祖先は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。事実、日本座敷の美は全く陰翳の濃淡に依って生まれているので、それ以外に何もない。

    総べてのものを詩化してしまう我等の祖先は、住宅の中でも何処よりも不潔であるべき場所を、却って、雅到のある場所に変え、花鳥風月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。

    われわれは一概に光るものが嫌いと云う訳ではないが、浅く冴えたものよりも、沈んだ翳りのあるものを好む。
    それは天然の石であろうと、人工の器物であろうと、必ず時代のつやを連想させるような、濁りを帯びた光りなのである。

    日本の漆器の美しさは、そう云うぼんやりした薄明かりの中に置いてこそ、始めてほんとうに発揮されると云うことであった。

    漆器というと、野暮くさい、雅味のないものにされてしまっているが、それは一つには、採光や照明の設備がもたらした「明るさ」のせいではないであろうか。

    暗いところでいろいろの部分がときどき少しずつ底光りするのを見るように出来ているのであって、豪華絢爛は模様の大半を闇に隠してしまっているのが、云い知れぬ余情を催すのである。

    あのねっとりしたつやのある汁がいかに陰翳に富み、闇と調和することか。
    また白味噌や、豆腐や、蒲鉾や、とろろ汁や、白身の刺身や、ああ云う白い肌のものも、周囲を明るくしたのでは色が引き立たない。

    われわれの座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に外ならない。
    われわれは、この力のない、わびしい、果敢ない光線が、しんみり落ち着いて座敷の壁に沁み込むように、わざと調子の弱い色の砂壁を塗る。

    絵は覚束ない弱い光りを受け留めるための一つの奥床しい「面」に過ぎないのであって、全く砂壁と同じ作用をしかしていないのである。

    美は物体にあるのではなく、物体と物体との、作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える。

  • 日本人にとって 膳に 漆器 蒔絵 金屏風 が必要なのかがよくわかる
    豪華な食事に華を添える

  • 日本人のアイデンティティを思い起こさせる随筆。

    作中には「我々」という表現が多様され、そのまま日本人を指す。この肌の色、体型、花鳥風月の中で育つなかで身につけた陰影に落ち着きを感じるところ、それらを卑下せず受け止めていくことが、一番道理に適っているよ、というお話。

    決して欧米渡来の伝統やタイルを誹ることは無い。良いものとは何か?考えることが大切、説くから素直に従ってみようという気になる。

  • 美しいという言葉がぴたりと当てはまるような本だった。豊富に差し挟まれる写真の美しさも然りだが、陰があってこそ映える日本の美しさを丁寧に表現されている。意識しなければ陰の中の美を感じることなどなかった自分に、本来の日本の美を説いてくれた陰翳礼讃に感謝し、この美しい日本に産まれたことの幸運にも感謝したい。

  • 名著「陰翳礼讃」に写真を組み合わせたもの。もともと大好きな本なので、ビジュアルが加わったらどんなにおもしろいだろうと手に取った。が、意外にも少しがっかり。写真はないほうがよかった。映画化された作品を観て、原作のほうがよかったなーと思うのに近い。もちろん大川氏の写真は素晴らしいのだけど。
    暗がりでの羊羹だとか、砂壁に当たる淡い光だとかは、文章から想像するのがよいのだ。それをあからさまに写真で示されると興ざめしてしまう。
    ただ、写真を加えた意義は理解できる。きっとこれからの日本人は障子や畳、襖を知らずに育つ。5歳と2歳の甥っ子のことを想像すればわかる。そういう人たちに、この文章を読んで想像しろといっても無理だ。わたしだって、この本を読むときはいつも、祖父母の家を想像する。あの暗がり、廊下を隔てて遠くにあった便所。
    本書の出版にはそういった意図もあるのだろう。その意味ではとても意義深いと思う。

    ---
    P70
    西洋人は垢を根こそぎ発き立てて取り除こうとするのに反し、東洋人はそれを大切に保存して、そのまま美化する、と、まあ負け惜しみを云えば云うところだが、因果なことに、われわれは人間の垢や油煙や風雨のよごれが附いたもの、乃至はそれを想い出させるような色あいや光沢を愛し、そういう建物や器物の中に住んでいると、奇妙に心が和やいで来、神経が休まる。

    …これを読み、谷崎さんはイギリス人やフランス人の古いものを愛するアンティーク趣味をご存知なかったのかしら? と思った。
    P220に「亜米利加はとにかく、欧洲に比べると日本の方が電燈を惜しげもなく使っていることは事実であるらしい」とあるので、電気についてもあまりご存知でなかったよう。
    西洋はピカピカと明るいものが好きで日本は暗がりを好むという主張一辺倒、単純な比較で書かれているので、少し違和感を感じる箇所もあった(20年ほど前に読んだときはThat's rightとしか思わなかったので、そう感じるのは自分が少々知見を得たせいなのかもしれない)。

  •  日本の夜は明るすぎる。もっと暗くした方が良い。という意見にはめちゃくちゃ共感。
     日本の文化は薄暗い住環境の中で興隆したからこそ光の中ではなく陰翳でこそ美しい。たとえば蒔絵に使われる金は暗闇で見ることを前提につくられている。白光する中で見ても何らの美性もない。バッサリそう言い放つ文豪・谷崎潤一郎に感服せざるを得ない。それが正しいか否かは置いておいて、なるほど。そのような視点もあるのか!と納得させられてしまった。

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著者プロフィール

1886年(明治19年)〜1965年(昭和40年)。東京・日本橋生まれ。明治末期から昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た。主な作品に「刺青」「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」など、傑作を多く残している。

「2024年 『谷崎潤一郎 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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