美徳の経営

  • エヌティティ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757121973

作品紹介・あらすじ

生きるための経営における賢慮の知とは?「美しく」なるほど、「したたか」に。人間中心のイノベーションこそが企業の卓越性を生みだす。いま、求められるリーダー像とは何か。知識時代の経営の本質。

感想・レビュー・書評

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  • 西欧で主流をなす分析型経営論だけでは本当の企業経営には不足である、というのが本書の出発点である。

    アリストテレスの説く三つの知、
    ・科学的な知である「エピステーメー」
    ・技術・芸術などの知「テクネー」
    ・実践の知、高質の暗黙知、実践的な合理性に基づく知である「フロネシス」
    の中では、西欧文明で中心とされてきた考え方であるエピステーメーやテクネーだけではなく、今後はあまり注目を集めてこなかったフロネシスを重視した美徳を重んじる経営を目指さなくてはならない。
    ロジカル・シンキングに対するプラティカル・シンキングでもあるフロネシス、すなわち実践知は、
    大前提:「私はある目的を有する」
    小前提:「これが目的を実現する手段である」
    結論:「したがって、この行為を行う(べきである)」
    の三段論法で目的を行為に結びつけるので、極めて現実的で意思決定を行うための論理であり、その過程で主体の思いが引き出されて内的コミットメントが生まれ、行為を現実化するところが大きく異る。
    実例としてホンダ、松下、京セラの創業者の想いを「大前提」の目的として捉え、それを実現するために実践してきたのが日本を代表するこれらの企業を成り立たせた知だと唱える。

    西欧経営論も決してこういった分析的アプローチを手放しで賞賛してきたのではなく、たとえばミンツバーグ、エクセレント・カンパニー、ビジョナリー・カンパニーなどはこの流れに警鐘をならしてきた。

    ではそのフロネシスを貫く賢慮型リーダーとは、どうあるべきか。
    1,善悪の判断基準を持つ能力
    2,他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
    3,コンテクストの特質を察知する能力
    4,コンテクストを言語・観念で再構成する能力
    5,概念を共通善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
    6,賢慮を育成する能力
    が必要だという。
    これらを備えた稀有なリーダーとしてチャーチルを例に上げているのは大変興味深い。

    ある意味、MBA的マネジメント手法に関するアンチテーゼであり、最近見直されているデザイン的考え方を入れたり(IDEOなど)やアップルに代表される文化的美を追求するマネジメントをも包含する著者得意の暗黙知に則った経営の重要さを説く書でもある。

    ひと通りMBA的な考え方をなめた後で読むと、心の何処かに感じていた違和感をえぐりだしてくれるような感覚を持たせてくれるのが嬉しい。
    日本人的な経営を目の当たりにしてきた身にとっては、このような考え方の重要さがとても腑に落ちるものだ。
    著者も言っているが、ロジカルさももちろん重要なのだが、合わせてプラティカルなフロネシスな思想も携えた経営も目指すべきというのは説得力のある考え方である。
    通常のビジネス書とは少し異なり、哲学的な論が多いので取っ付きにくいところもあるのだが、マネジメントにとって決して忘れてはならない重要な意味を明確に言語化している貴重な本であると感じた

  • p5
    市場や組織の背景にある、より真相の変化の要因を把握し、高位の目的を実践していくための、判断力や実践力が迫られている。
    p9
    競争に明け暮れる相対的価値の経営から、絶対的価値や独創性に基づく創造的経営への変化は、とくに日本企業にとって必須である。
    p10
    有形資源を基盤とする競争、あるいは腕力にまかせた経営から、無形資源に基礎をおく知識経営へと時代はすでに変化しつつある。
    p71
    フロネシス
    実践の知「知せい」
    p111
    単に目標を数値化するだけでなく、その裏付けとなる物語をつくる力を一人ひとりが求められる。
    p132
    「中庸」は美徳の核心だという。これはまさに実践的推論の思考である。
    p156
    現場主義とは、自ら現場に身を置いて、個別と普遍を行き来して、結果実践することである。
    現場へ行かないで抽象的に考えたものは、本当に効果がないですね。
    p158
    賢慮のリーダーは善悪、清濁合わせ飲むような側面をも持つことを要請される。
    「価値や倫理に関わる場面では、芸術の場面における自己表現と同じ機能がどうしても必要」
    p161
    芸術家的企業家の時代の到来を示すものだという。
    かれらの関心は利益の捻出ではなく、行為や卓越性を生み出す能力にある。
    p168
    結局アップルのようなイノベーションを本質とする事業においては、創造行為の実践のみが課題なのであり、企業の戦略目標や一般的な分析は効用をもたらさなかった。

  • 賢慮のリーダーシップの概念がいまいち理解が難しい。要再読。

  • TGLP

  • 本を本棚に追加しました。255冊目です。ソーシャルリーディング booklook (ブックルック)の本棚に「美徳の経営」を置きました。本です。
    1人が「いいね!」と言っています。
    ソーシャルリーディング booklook (ブックルック) http://spn.booklook.jp/item/17911/

  • 美徳とは、共通善を志向する卓越性の追求である。実践的三段論法のスタンスは自分たちも常に意識しているところ。実践の中で得る知を活かして前に進む。

  • 「人間中心のイノベーション」という帯に引かれて読みました。
    アリストテレスの「賢慮(プロネシス)」はノーマークだった。
    実践知だと、西洋も東洋もそんなに違わないんだね。

    ◆学んだこと
    ○「美徳」とは?
    本質的な「人(組織)を動かす力」。(P41)

    ○「賢慮(プロネシス)」とは?
    個別具体の場において、その本質を把握しつつ、同時に全体の善のために最良の行為を選び実践できる智慧。(P69)

    ○アリストテレスによる知の分類?
    エスピテーメー・・・科学的な知
    テクネー・・・技術・芸術などの知
    フロネシス・・・価値・倫理についての思慮分別と、コンテキスト(文脈)依存の判断や行為を含む、実践の知。(P71)

    ○プラクティカル・シンキング?
    大前提:私はある目的( )を有する。
    小前提:( )が目的を実現する手段である。
    結 論:したがって、この行為( )を行うべきである。(P84)

    実践的推論は、目的に向けた意志決定と遂行のための推論であることを忘れてはならない。したがって、その過程では、しばしば、目的の再検討や、手段と目的との再考すら含めて、現実や状況に応じた反復や継続、あるいは行為のフィードバックによる検証や現実的議論が必要となることは言うまでもない。(P83)

    ○中庸?
    中庸は妥協ではない。意図的に二項対立の緊張の中に身を置いてこそ「中庸」を得ることができる・・・。

    行動→
    直観+偶然の出会い(セレンディビティ)+α→
    中庸(時中・ダイナミックな平衡感覚) (以上、P94-95より要約)

    ○アブダクション(直観的な仮説推論)?
    演繹的推論、帰納的推論に続く、第三の論理。
    プラズマティズムの創始者、米国の哲学者パースの主張(P89より抜粋)

    ○「賢慮」型リーダーの要素?
    (1)善悪の判断基準を持つ能力
    (2)他者とコンテキストを共有して共通感覚を醸成する能力
    (3)コンテキスト(特殊)の特質を察知する能力
    (4)コンテキスト(特殊)を言語・観念(普遍)で再構成する能力
    (5)概念を共通善に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
    (6)賢慮を育成する能力 (P103)

    ○ライオンとキツネ?
    「獅子は罠から身を守れず、狐は狼から身を守れない。それゆえ罠を見破るには狐である必要があり、狼を驚かすには獅子である必要がある。」ーーーーー君主論第18章 (P131)

    ○場・ハビトゥス?
    社会的に獲得された性質や傾向の総体、あるいは「身体のなかに成立した社会」である。・・・感情や身体を巻き込んだ「立ち振舞」といってもいい。

    ○デザインの目的?
    最小の構造に最大の意味を包含できるような、多様で含蓄のある価値やコンセプトを、最もシンプルな構造や体系で表現することである。

    そして、デザインはその過程をつうじて、複雑な問題解決に確かさを与え、人間のための本質的な社会的な便益を具現化し、創造的な感性を満足させる。この三つはいわば真善美の追求でもある。(以上、P172)

    ○ミクロロギー?
    ミクロなものに、マクロな宇宙が再現されているという考え方(中山元氏の命名 P222)。

    ◆学びたい人
    科学哲学者のロイ・バスカー
    経済学者のトニー・ローソン
    アリストテレス
    マキュアヴェリ
    エピクロス
    緒方貞子さん

  • 哲学でした。

    「賢慮」型リーダーシップ
    理想と現実を往還しつつ知を変換する、かつ清濁合わせ飲むようなしたたかさを持ったリーダー像である。

    この言葉が印象的です。

    補足は、安藤さんにお願いします。

  • 野中郁次郎&紺野登著「美徳の経営」読了。予想以上に面白かった。「美徳(Virtue)」という一見精神論的な概念を起点に知識創造モデルの戦略観を発展させ、社会的な視点で理想や目的、思いをカタチにしていく実践知と、直感的な仮説推論アプローチの企業における重要性を提起している。
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    丹羽宇一郎は、「会社は誰のものか、という質問があるが商法上会社は株主のものに決まっている。しかしそれは本質ではない」という。会社の本質を語るには、それが「誰のものか」ではなく「誰のためにあるのか」が視点として重要である。

    本田宗一郎が部下たちの戦略計画案の場面を目にして、そんなことをやっている暇があるなら面白いものを作れ、と怒鳴った逸話が残っている。~乱暴な考え方であるが、否定できないものがあった。単に現場主義と戦略計画の世代対立ではなく、それを超えたところにある「実践知」の重要性を説いたのだ。

    アップルの歴史は、いかに一般的な戦略が役立たないかの実証だ。象徴的なのはペプシでマーケティング戦略の天才とすら呼ばれたジョン・スカリーの失敗である。アップルのようなイノベーションを本質とする企業では、創造行為の実践のみが課題であり、戦略目標や一般的な分析は効用をもたらさなかった。

    デザインの目的は、最小の構造に最大の意味を包含できるような、多様で含蓄のある価値やコンセプトを、最もシンプルな構造や体験で表現することである。その過程を通じて、複雑な問題解決に確かさを与え(真)、人間のための本質的な社会的便益を具現化し(善)、創造的な感性を満足させる(美)。

    ソーシャル・キャピタル(文化・社会に包含された共同体の知識)を企業の価値の源泉とすることは、市場ニーズでも技術シーズでもない、第三の価値創造の源泉となりうる。つまり、伝統(文化)とイノベーション(知識創造)はこうして連結する。

  • 6つの賢慮型リーダーの要素は従来の欧米型、日本型リーダーと異なるハイブリッド型のリーダーだと思います。

    深いです…

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著者プロフィール

野中郁次郎
一九三五(昭和一〇)年、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造株式会社勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にてPh.D.取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。著書に『組織と市場』、『失敗の本質』(共著)『知識創造の経営』『アメリカ海兵隊』『戦略論の名著』(編著)などがある。

「2023年 『知的機動力の本質』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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