大停滞

制作 : 若田部 昌澄 
  • NTT出版
3.44
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  • Amazon.co.jp ・本 (166ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757122802

作品紹介・あらすじ

世界同時不況はなぜ起きたのか?インターネットなどのイノベーションは、新たな経済成長をもたらすことができるか?2011年1月に米国で刊行されるや否や、政策形成関係者や経済論壇で様々な議論を巻き起こし、論争の焦点を変えた話題の書。

感想・レビュー・書評

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  • 著者は現在のUSA経済を「大停滞期」であるとし、その主たる原因を特に「イノベーションの長期的枯渇」あるとする。そのうえで近年のイノベーションが「公共財」ではなく「私的財」の性格を帯びていることを指摘する。特にインターネットにおけるイノベーションは「雇用をうまない」との指摘は興味深い。そして日本を「低成長時代のお手本」とする。
    私は資本主義経済を「ねずみ講」であると理解している。バブルおこし、流動資本を増やし、バブルを崩壊させ、次のバブルをさがす。この事故増殖的、マッチポンプ的行動の行き着く先にはシステムの崩壊しかない、と私は考える。短期的にはイノベーションの一時的枯渇とも考えられるかもしれないが、100年、200年単位の視点も必要ではないだろうか。著者の分析もさることながら、特に対策にリアリティを感じられなかったので、少々低評価としました。

  • 本を整理していたら、本棚から出てきた。何時購入し、また読んだかどうかも覚えていない。おそらく購入し後で読むつもりで忘れてしまったのだろう。本書は、経済危機において、社会の短期的な変化を使用せずに長期的に分析しようとしたものである。約10年前の経済危機を19世紀からの比較で3つの原因に分析し説明したものである。気になったのは、抽象的な事象から説明されており、具体的な掘り下げがされていないように感じることと、何時か反転し社会は発展するとの主張であるがその内容を予測ではあってももっと詳しく記載されていればよかったと思ったことである。ただ、発想や指摘はなるほどと思うことが多くある。自分もインターネットやコンピューターをもっと使用した生活に変え成長しようと思う。

    〇私たちは過去300年以上、いわば、「容易に収穫できる果実」を食べてきた。経済の繁栄をもたらす果実がふんだんにあるという前提のもと、社会と経済の制度を築いてきたのだ。
    〇「容易に収穫できる果実」とは、1無償の土地、2イノベーション(技術革新)、3未教育の賢い子供たち、の3つである。
    〇一人当たりGDPに対するイノベーション件数や、一人当たり教育支出に対するイノベーション件数を見ても、今日の世界は19世紀の世界に比べてイノベーションの発生率が低い。
    〇「イノベーションの主な対象が公共財から私的財に移行した。」この一言に現在の「大停滞」を生み出しているメカニズムが凝縮されている。
    〇「生産性の低い従業員を割り出し、その人物を解雇する」というのが企業の生産性を高める最大の方法になっている。
    〇政府が経済で果たす役割が大きくなるほど、GDPの値は、生活水準の改善度を過大評価するようになる。
    〇市場でテストされるのは、医師が実際に患者を健康にしたかどうかではなく、患者に希望を与えられたかどうか、病気が治ったという気分を味わわせることができたかどうかだ。
    〇問題は、そもそも医療がどの程度の価値を生んでいるかなのである。
    〇プリン効果とは、世代が若くなるほど知能テストの平均値が高くなる現象のことだ。
    〇「アマチュア」が大きな成功収められる産業が、アメリカ経済の最も革命的な産業であることは偶然でない。知的好奇心の旺盛な人たち、穏やかな知り合いで構成される幅広い人的ネットワークを活用したい人たち、大量の情報を素早く得たい人たちにとって、インターネットはことのほか役に立つ。たいてい私はツイッターで一日に2回つぶやきを投稿し、20件のブログに目を通し、ウェブサイトで映画評をいくつかチェックし、イーベイのオンラインオークションをのぞき、動画投稿サイトのYouTubeでクラレンス・ホワイトのギタープレイを見る。
    〇インターネットは公共財であるが、水洗トイレは舗装道路と違って、誰でも充分に利用できるわけではない。インターネットを使いこなすためには、それなりの技能が必要なのだ。
    〇良識ある健全な中道派の政治勢力が経済の脱線を防ぎ、手堅い成長実現して行くはずだと、期待する人は多い。社会の幅広い層の所得が年率で実質2~3%程度伸びればいい、と思うかもしれない。しかし、これまで述べてきたように、このシナリオは実現不可能だと私は考えている。「容易に収穫できる果実」がもはや存在しないからだ。
    〇私たちは結局、新たな富を手にすると、政府を大きくするためにそれを使う習性がある。
    〇私たちは、自分たちを実際以上に豊かだと誤解していた。
    〇本当の問題は、投資家がおしなべてリスクを抱え込みすぎていたことなのだ。私たちは皆、程度の差こそあれ自信過剰に陥っていた。その意味で、故意にせよ過失にせよ、何百万人もの人間が金融危機の共犯だったと言わざるを得ないように思える。多くの投資家がほかの人たちの判断に過度に依存し、過剰に借入金を増やしている金融機関や過度に強気のビジネスプランを信用しすぎてしまった。
    〇所得の中央値が伸び悩んでいる時に、もっとたくさん買い物をするためには、もっとたくさん借金するか、値上がりした資産を売却して利益を得る以外にない。政治家は概して、二年、四年、六年といった短い時間の単位でしかものを考えない。目先の選挙を乗り切れれば、それでいいと思っている。
    〇概して、インターネットにアクセスして過ごせば、テレビを見るなど、昔ながらの方法で時間をつぶすより、たくさんのことを学べる。
    〇科学者の社会的地位を高めよ。技術上の大きなイノベーションを実現したければ、人々が科学を愛し、科学に関心を持ち、国内外の最も優秀な人材が科学界に入って行く環境を作ることが極めて重要だ。科学者が社会で尊敬を集めて、科学者達が強い団結心を抱き、自分たちの研究に誇りを持てるようにする必要がある。
    〇過大な期待をいだいてはならない。私たちは「新しい現実(ニュー・ノーマル)」の時代に生きている。
    〇私たちが過去に経験したことがないくらい、景気後退が長引くことを覚悟する必要がある。

  • 2017年になってやっと読む機会が得られました。2011年の発刊から6年が経っていますが、十分説得力があると思います。他のレビュワーの方も書かれていますが、本書のメッセージは大きく2つあると思います。
    1.「容易に収穫できる果実」が少なくなってきた
    2.近年のイノベーションの多くが「公共財」ではなく「私的財」の性格を帯びている

    全体的な説得力はありますが細かい点は違和感を感じました。1点目については、容易に収穫できる果実として「無償の土地」「イノベーション」「未教育の賢い子供たち」です。イノベーションについては違和感を感じました。著者が言いたいことは、近年のイノベーションは漸進的でインパクトが小さいこと、また2点目に関係しますが、特定の人だけが恩恵を受けるものが多い、ということだと思いますが、そもそもインパクトが大きいイノベーションなんていうものは今も昔も「容易に収穫できない果実」であって、イノベーションの大半は漸進的なものです。ですからイノベーションに関しては1970年以降になって「容易に収穫できる果実」がなくなってきた、という著者の主張は間違っていて、現代社会は「容易に収穫できる漸進的なイノベーションだけ」を享受していて、社会に巨大なインパクトを与えるイノベーションは見られない、というのが正確な記述でしょう。

    2点目の主張は説得力がありました。例えば10億ドルの価値を生み出すイノベーションであっても、それが10人かける1億ドルの価値を生み出すよりも、1億人かける10ドルで価値を生み出す方がよりマクロの経済成長に寄与するということでしょう。これは新しい視点を提供してくれました。

    この手の書籍ですとMITのブリニョルフソン、マカフィーなどの本が代表的ですが、彼らはMITにいることもあって基本的にポジティブなことばかり書きます(彼らのレゾンデートルにも関わるからです)。その点コーエン氏はテクノロジーに対して中立的に書かれているので好感が持てました。本書、短時間で読めますし一度は目を通しておくべき本だと感じました。

  • 技術革新が生活に与える影響が小さくなったという話。情報通信分野は例外とのこと。

    19世紀末から20世紀前半の技術革新のインパクトに比べると小さい。生産性や世帯所得の中央値の伸びは小さくなっていることなどがあげられていた。

    減税派と再分配派の対立のところで、財源の手当てがない減税は長続きしないのはわかるが、再分配が長続きしない理由がしっかり述べられていなかったように思う。

    あと、低成長時代の生き方の手本として日本があげられていた。

    技術革新の生活への影響が停滞しているという主張をどう評価するか迷い中。

  • 今年、話題の経済書だけのことはあり興味深い内容。
    確かに米国の自信ありげな状況を招いているというのはわかる気もする。
    著者が日本の政治、経済をうまく変化に対応しているという論評は日本ではほぼあり得ない内容だと思う

  • 1.この本をひと言でまとめると
     成長の時代の終わり


    2.お気に入りコンテンツとその理由を3から5個程度
    ・イノヴェーションの主な対象が公共財から私的財に移行した(p44)
     →一部の人しか利益を得られないのはこのためというわかりやすい表現。
    ・政府が経済で果たす役割が大きくなるほど、GDPの値は、生活水準の改善度を過大評価するようになる。(p54)
    →初めて知った。日本の成長はかなり政府に頼っている気がする。
    ・ジョブレスリカバリー(p82)
    →インターネットは省人化、グローバル化が基本ということが本質。今後もこの傾向は続きそう。
    ・理性と科学の重要性はこれまでになく高まっている(p132)
     →空気に流されないことが重要

    3.突っ込みどころ
    ・インターネット上に娯楽が豊富にあるせいで、消費がますます落ち込んでいるのだ。(p119)
    →インターネットショッピングは増えてるのではないか?消費が減るのは一部の娯楽だけてはないか?
    ・出口への提案が「科学者の社会的地位を高めよ」かなり拍子抜け
    ・日本は経済成長の鈍化に落ち着いて対処してきた(p130)
    →本当にそう言える?
    ・この内容の短さで1600円は高い。

    4.自分語り
    ・本全体の内容は、日本ではよく聞く内容に感じる。
    ・論点はとてもわかりやすい。

  • アメリカの不況を、循環的な景気変動や金融ショックの後遺症としてではなく、1973年以来のイノベーションの枯渇を原因とした大停滞として捉えなおす。

    今や食べつくされたLow-hanging fruit
    ・無償の土地
    ・イノベーション
    ・未教育の子供

    イノベーションの主な対象が公共財から私的財に移行した。
    ・・・とても興味深い指摘だが掘り下げられていない

    政府支出、医療、教育の生産性が向上していないと。
    ・・・教育については格差の問題が影を落としているんじゃないかという気がするが

    たしかにインターネットではイノベーションがあったが、経済的な収入を得る方向にはあまり向かっていない。IT企業が生み出す雇用は、製造業などと比べて格段に小さい。

    金融危機の真犯人も、過大な成長期待。

    解決策は?→科学者の社会的地位を高めよ!あと、新興国にも期待。
    ・・・いきなりお花畑になる


    いちばん大事な生産性があがっていませんねぇ、という話は<a href="http://mediamarker.net/u/bookkeeper/?asin=4840200017" target="_blank">クルーグマンもしていた</a>(ただし、生産性がどうしたら上がるかなんて分からないし、で片付ける)。90年代前半でニューエコノミー云々が言われる前だったけれども。たしかに1932年と1972年と2012年とを比べてみれば、前半40年の進歩が断然デカい。細かいことを抜きにすれば、ここ20年でほんとに我々の生活を変えたのは携帯とインターネットくらいのものではないか。そうした直感的な思いがあればこそ、本書がここまで話題になるように思う。しかしながら、そのイノベーション枯渇の原因までは本書のテーマとされていない。モノたりない感じが残る。

    あと、見かけによらず、すごく短い本なので図書館で正解だった。

  • 2013.07.10 HONZの書評を読む。

  • 過去の発展の理由は、無償の土地、イノベーション、未教育の賢い子供たち、にあった。
    イノベーションの主な対象が公共財から私的財に移行した。そのため、所得格差の拡大、世帯収入の伸び悩み、金融危機、の原因となった。
    インターネットの多くは無料で提供されている。用意に収穫できる果実は簡単には売上を計上できない。その結果、イノベーションによる収入は一部の人のものになっている。

  • 2011年発刊された本だけど、古さは感じない。
    アメリカの経済学者で、オーストリア学派の流れを汲む意見だと感じた。
    また、アメリカという一地域の分析で、彼らの特徴であるデータ分析に基づく仮説を述べているものだ。
    容易に収穫できる果実は食いつくされた、大きなイノベーションは期待できない。
    インターネットが今後経済社会にどのような影響を及ぼすのか。
    大量生産・大量消費、大企業、大きな政府は今後の歴史で出現することはないだろう。
    しかしながら、権力による市民・国民の締め付けは限りないものとなる。
    大量の情報を瞬時に分析できる技術は限りがないものであるから。

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著者プロフィール

米国ジョージ・メイソン大学経済学教授。1962年生まれ。「世界に最も影響を与える経済学者の一人」(英エコノミスト誌)。経済学ブログ「Marginal Revolution」運営者。著書に全米ベストセラー『大停滞』 (NTT出版)など。

「2020年 『BIG BUSINESS(ビッグビジネス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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