人びとのための資本主義―市場と自由を取り戻す

  • エヌティティ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757123076

作品紹介・あらすじ

企業のためではなく、人びとのための資本主義を!

アメリカは、大企業のロビイストが政府と癒着し、人びとの富を収奪する「クローニー資本主義」(縁故資本主義)になってしまった。いまこそ一部の大企業のためではなく、人びとのための資本主義を再構築しなければならない。
気鋭の経済学者が、アメリカ資本主義の病巣を摘出し、市場をうまく機能させる経済システムを取り戻す処方箋を提示する。
資本主義の現在を憂慮するすべての人の必読書。

感想・レビュー・書評

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  •  しごく全うなことが書かれてあった。

     スポーツでもビジネスでも見られる賃金不平等拡大の原因は一言に要約できる。グローバリゼーションだ。グローバリゼーションは競争を激化させ、最高であることへの報酬を高め、そうして不平等を拡大している。

     …競争市場は資源の効率的な配分をもたらすのだ(いわゆる厚生経済学の第一定理)。

     (企業は)独自のやり方で政府に無償の助成を差し出させて、いっそう潤っていく。だから退勤を費やしてワシントンでロビー活動を行なうのだ。しかし結果として自由市場システム全体の状態は悪化していく。…企業人にビジネスのルールを定めさせるのは危険である。救済策が市場の機能をいかに弱めるかを考慮しないからだ。

     知的エリート層と人民の乖離は、最も危険な形のポピュリズムを容易にかき立てられる―とくに腐敗が認知され、その結果としてワシントンへの憤りが高まっているときには。知的エリート層が信頼できなければ、反知性主義がはびこり、政治討論の質が劣化する。この劣化が次には、知的エリート層にまたぞろ優越感をもたせる理由となり、その感情が集団思考を悪化させ、さらなるポピュリズムの反動をかき立てるのだ。

     規制の執行と陳情のコストも計算に入れれば、当初は非効率に見えた多くの選択肢が、大局的に見れば効率的になる。だから規制を簡略化すると、抑えたい歪みを抑えるという点では非効率になるだろうが、実際は総費用を減らし、透明性を高める。

     …捕獲を抑えるためには限定的かつシンプルな規制が必要であり、内部告発者の報酬システムで守らせるのが望ましい、…。ロビー活動を防ぐ最善の方法は、産業助成をなくす法律を導入し、不公平な助成による損失を取り戻す訴えを起こす権利を市民に与えることで支援することだ。

     税には三つの潜在的な機能がある。税収を上げること、インセンティブを修正すること、所得を再分配することだ。

     経済学の重要な知見の一つとして、行動への影響が最小の人に最大に課税すべきだ、ということがある。

     経済学者は、非効率性を市場の欠落と言い表わすことを好む。市場は個人の私利を活用して、公益を生み出す効率的な方法を提供する。よって、そうした活用ができないとき、市場が欠落しているに違いないと考えるのだ。たとえば公害は、汚染物質排出権の市場の不在の影響と見なせる。だから、驚くにはあたらないが、経済学者は欠落していると思われた市場(つまり排出量の市場)を創出することで公害問題に取り組もうとした。
     私が思うに、究極の欠落している市場とは、市場自体のルールを設定する権利の市場である。社会全体が競争市場の恩恵をこうむっているのに、誰もその市場を創出する費用を進んで払おうとしない。原則として、政治的競争がこの欠落したインセンティブを提供するべきだ。つまるところ民衆が競争市場から利益を得るならば、この原則を擁護する政治家が選挙に勝つべきだ。あいにく政治の市場は、権力の不均衡と、有権者の経済問題についての無知で歪められている。どの政策が本当に競争を推進するのかを有権者が知らされなければ、政治家はその政策を推進したところで報われない。歪められた政治の市場は、クローニー資本主義の勝利を許してしまう。私たちは、社会規範が市場の失敗への対処に役立つのを見てきた。競争を推進してクローニー資本主義に抵抗する努力に社会的名声を与えることが必要だとの認識を高める、その助けに、本書がなることを私は願っている。

     クローニー資本主義を抑える最良の方法は、ロビイストの競争の公平を保つことである。完全に公平にはならなくとも、データ開示、内部告発法令、クラスアクションがきっと現在の偏向を正す助けになるはずだ。

  • 仰々しいタイトル。中身は、米国のクローニー・キャピタリズムの問題点を力説する本。


    【書誌情報】
    ルイジ・ジンガレス 著
    若田部昌澄 監訳
    栗原百代 訳
    発売日:2013.07.26
    定価:2,808円
    サイズ:四六判
    ISBNコード:978-4-7571-2307-6
    http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002267


    【目次】
    序章
    アメリカ例外論
    資本主義への信頼の危機
    エリートの裏切り
    ポピュリズムの時代
    変革を求めて
    親市場派ポピュリズムの課題

      第I部 問題
    第1章 アメリカの例外性
    アメリカの何がそんなに特別か(歴史的要因/地理的要因/文化的要因/制度的要因)
    幸運な結果

    第2章 誰がホレイショ・アルジャーを殺したのか?
    業績とは何か
    デモクラシーとメリトクラシーの緊張関係
    タイガー・ウッズと芝管理員
    取り残された多数の芝管理員たち
    ホレイショ・アルジャーの死
    結論

    第3章 クローニー資本主義、アメリカン・スタイル
    競争の効用
    東インド会社
    独占企業に対する従来の見方
    反トラスト法の効用
    他人の金
    クローニイズム
    企業内意思決定の政治化
    現代版東インド会社
    結論

    第4章 クローニー金融
    それはどのように起こったか
    過大な力
    巨大すぎて潰せない
    巨大すぎて管理できない
    利口すぎて監督できない
    寡占的すぎる
    現代版トラック運転手組合

    第5章 救済国家
    成長する巨大国家
    タロックの逆説
    ポーク問題
    反企業イデオロギーの没落
    官民パートナーシップの典型例
    ルービン主義の救済策
    グリーンスパン・プット
    救済国家
    結論

    第6章 知識人の責任
    専門家にご用心
    団結心、派閥人事、集団思考
    結論

    第7章 ポピュリズムの時代
    黄金時代
    追いつく世界
    現代の農民たち
    ポピュリズム的反応
    どちらのポピュリズムか
    親市場的ポピュリズム

       第II部 解決策
    第8章 機会の均等
    不穏な構図
    農業と電子書籍について
    「ひとり勝ち」の経済学
    ボスの価値
    負け組の反応
    スーパースター経済の影響
    スーパースター経済の政治学
    誤った対処法
    最悪のクローニイズム
    バウチャーに基づく機会
    セーフティネットの必要性
    結論

    第9章 競争で不平等と闘う
    クローニー資本主義の正体――まずは学界……
    ……そして医療業界
    競争の積極的推進
    反トラストの再構築
    情報経済下の競争
    コーポレート・ガバナンスの修繕
    結論

    第10章 市場に基づいた倫理の必要性
    非道徳的家族主義
    信頼の重要性
    公民資本
    公民資本の起源
    アメリカ独自の利点
    道徳と住宅ローン
    倫理学と経済学
    社会規範の決定過程
    ビジネススクールの役割
    結論

    第11章 ロビー活動の制限
    ロビー活動はみな平等とは限らない
    証拠は何か
    不正競争
    規制という難題
    サンキュー・スモーキング
    学問の市場の競争
    ニュース競争
    醜聞暴露の実績
    羞恥を与えること
    対等な闘い
    結論

    第12章 シンプル・イズ・ビューティフル
    なぜそんなに複雑か
    シンプル・イズ・ビューティフル
    シンプルな執行
    ゼロのシンプルさ
    対人税への適用
    法人税をシンプルに
    シンプルな確実性
    シンプルかつ平等
    人民への執行
    結論

    第13章 良い税、悪い税
    なぜ税なのか
    税制の道徳的基礎
    悪い税
    良い税
    二つの有用なピグー税
    税と補助金の政治学
    悪しき補助金政治を正すために
    結論

    第14章 金融改革
    金融政策
    消費者保護と金融イノベーション
    市場を救済する
    ウォール街のリスク抑制
    結論

    第15章 人民にデータを
    データの力
    人民にデータを
    人民をデータに
    結論

    第16章 親市場でいこう、親企業ではなく
    現実にある緊張関係
    競争の真髄
    説明責任
    市場を基盤とした倫理

    謝辞
    原注
    解説
    索引

  • 前半は問題点、後半は解決方法という構成になっており、筆者の主張がわかりやすい。クローニー主義や生産性の向上に対応しない賃金上昇の実態などがわかりやすく述べられている。誰もが感じてい不平等感が明示されているといいかえてもいい。
    P175の農業の例のように、インセンティブとそれに見合う結果についての議論が最もおもしろかった。

    ボリュームがあるが読みやすい。

  • 業績主義が魅力だったアメリカの資本主義が、今では著者の故国イタリアのようなクローニイズム(縁故者びいき)の資本主義に堕してしまっているとし、その問題点と解決の方途を論じている。

    資本主義の真髄は「競争」にあるが、巨大な力を持ってしまった金融機関や、市場原理から乖離したロビー活動、補助金政治の肥大化など、公正な競争の機会を奪い、鈍化させ、パイを少数者に奪われる現代版クローニー資本主義は至るところにある。
    だからといって、資本主義自体を否定することは間違っていて、求められるのは、自由市場を破壊するのではなく救う方向へ向かう「市場派(プロ・マーケット)ポピュリズム」なのだと著者は言う。

    ポピュリズムという言葉が持つ否定的なイメージに対して、著者は「確かなポピュリズムの伝統がある国でのみ、ポピュリズム運動は急進的かつ非生産的な政策を避けることができる」(p. 163)とし、アメリカはそれができる国であるという。
    このあたり、アメリカが本当にそうなのかな?と疑問を持つが、人民の力を集結して立ち向かわない限りは、クローニイズムには勝てないという問題意識は理解できる。
    後者に勝つためには、市場経済の繁栄につながる社会規範・倫理を確立し、また、あらゆるデータを手に入れることであり、さらにそれらはポピュリズム的な動きがないと対抗する力となり得ない。
    ポピュリズムのうねりによって、たとえば、社会的規範を逸脱するロビー活動や過度の利得追求の行動を恥ずかしいと思わせ、クローニイズムの動きを是正させることができるからだ。
    ある意味、ポピュリズムが果たす役割は、クローニー資本主義を壊し、競争や業績主義に戻すティッピングポイントみたいなものを生み出すことだろうか。

    テーマのわりにとても読みやすい本。

  • 日本でもクローニイズムは強まり、官僚の裁量は増大しているというのは監訳の若田部昌澄の指摘。

  • 332.53||Zi

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著者プロフィール

1963年イタリア生まれ。経済学者。シカゴ大学ビジネススクール教授。共著書に『セイヴィング キャピタリズム』(慶應義塾大学出版会)がある。

「2013年 『人びとのための資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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