シンプルな政府:“規制"をいかにデザインするか

制作 : 西田 亮介 
  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (378ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757123663

作品紹介・あらすじ

オバマ政権第1期で、規制改革を担当した、当代きっての憲法学者による痛快社会科学エッセー。行動経済学にもとづいたマネーボール方式の改革が、政府の大きさをめぐる神学論争に決着をつける。

感想・レビュー・書評

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  • 大げさに言えば、まるでアメリカ全土で行動経済学の実験をしているような話、面白くないわけがない。

     ナッジ(肘で軽く押す)というのは、強制力を伴わずに、人びとに望ましい行動を促す政策的なアプローチである。刑罰や規制によって禁止したり、たばこ税のように経済的なインセンティブを変えたりせずに、人びとの行動を望ましい方向に誘導してゆく。

     内容的にはフレーミングなど行動経済学や心理学の基本的な説明もあるけれど、本書を手に取る人にとって面白いのはやはりそれらが実際の政策にどう役立つかという話だろう。いわゆる食育の一環で作られた栄養ピラミッドには笑った。「意味がまったく伝わってこない」。バイバイピラミッド、ハロープレートというのは前任者に悪いのでは、という日本的配慮のかけらもなくてまた笑った。だがたしかにプレートのほうが分かりやすい。シンプルであるということは、曖昧さがなく、分かりやすいということ。ほか、環境保護庁による燃費表示、クレジットカードの年利や手数料の表示方法、教育機関の学費や卒業率、就職率などの表示と、次々と改革を行っていった。オバマ政権下でこれだけの改革が果たされたのかと思うところだ。

    なかでも燃費表示の話は面白くて、たしかに燃費を「C」とランク付けで表示されれば分かりやすいけれども、「C」と書かれた車を買いたい人など少ないだろう。それは確かに分かりやすいのだけど、燃費だけが車の性能を示すバロメーターとして目立ってしまい、購買行動に与える影響が大きくなってしまう。それもまた環境的にはよいのかもしれないが、業界が大反発したのも無理はない。このあたりの塩梅がいかにも政策の泥臭さで、このあたりの話は著者の面目躍如という気がする。

     ただナッジについて真っ先に思い浮かぶ問題は、パターナリズムとのバランスということになる。端的に言えば、政府が国民の望ましさを一方的に決め、政府が決めた望ましい行動をとるように動機付けられる、ということも理屈としては考えられる。日本で言えば、公共の福祉と、個人の自律性とのあいだで、どこまでの介入なら正当であると考えるか、また合意が得られるかというところにある。それは社会福祉のみならず業界や自由経済を巻き込んだ話になる。この点でナッジに必要なのは、選択の自由の確保、透明性(情報開示)、そしてまた不当な目的に用いないことだ。この点、国粋的ポピュリズムの台頭する諸国や、情報開示の不透明性に疑念の深まる日本を思うと、強力な武器となりうるナッジの使い方も今一度考え直したいと、読み終えて思ったところである。

  • 行動経済学の応用。行政への適用について。

    行動経済学の基本として、人間には、早い思考と遅い思考(ファスト&スロー)があるということ。
    また、複雑・無駄な行政手続きは、直接的にも間接的にも経済に負の影響を与えること。
    以上から、行政が実務で考慮すべき次の2点。
    ①規制は、費用対効果を考慮し、シンプルにする必要がある。
    ②選択アーキテクチャー(含;デフォルトルール)の設定で、適切な選択を早い思考で可能とする(ナッジする)必要がある。
    行政がどこまで世話を焼く(デフォルトを決めて良い?)のか等々の問題はあるものの、全ての選択を可能とした上なら、広い同意が得られるはずとの主張。
    行動経済学から多くのことが実証されつつある現状と、筆者の"規制の規制"者としての経験とともに展開。

    文中にも記載はあるけれど、余裕のある人は多くの選択をプロ含む周囲に委ねることができる。一方で、毎日の暮らしに精一杯な人は、将来のことを考える余裕もなく、目の前の全てを自身の責任で選択する必要がある。(ここでは関係ないけど、これを全て「自己責任」で完結させようとする主張は全くもって賛成できるものじゃない。)
    ①②の検討は、個人の選択肢を少なくすることで、広い意味の福祉を向上させるものであって、結果として経済の向上に繋がるストーリーは同意できる内容でした。

    個人的にも、考えて選択を行うことで、自分の人生を生きている実感は得ているものの、選択肢(と、それに伴う責任)が多すぎる気はしてる。
    本著のように、より暮らしやすい世の中にするための、行動経済学の応用がさらに広がっていけばと思う。

  • 小さな政府、大きな政府の議論から、シンプルな政府への転換。
    情報開示、ナッジ(システム2の強化)を考慮した情報発信の工夫、デフォルト選択肢の設定。
    費用対効果分析と質的考慮、見直し分析を前提とした制度設計。

    ・長期的なことには関心が向きづらい
    →自動化(選択のデフォルトを政策目的に適うほうに置く)、簡素化、実行即可能が必要

    ・フレーミング:どのような枠組みで情報を伝えるか
    ※人は獲得より損失の効果を大きく判断する
    例)ある選択は〜得する<ある選択をしないと〜損する
    注)行動経済学的知見は、前著のほうが体系立って整理されていてわかりやすい(以下、略)

  • よい。オバマ政権で行動経済学を活かして、規制改革のトップを務めた学者のエッセイ。(なぜか本人は法学者みたいだけど) 文章自体はかなり読みやすいし、ネタとしても行動経済学がここまで大規模に活かされた例というのはなさそうな上に、そのトップが結構正直に語っておる、という。

  • 過剰な規制をチェックする。代わりに行動経済学を応用。

  • ナッジをつかったシンプルな政府、政策の実現について。

  • 「本書では、オバマ政権でのOIRA(オアイラ=行政管理予算局情報・規制問題室)室長だったころに進んだ米政府の大改革を描く。」と書かれているが、そう思って読み進めると肩透かしを食う。かなりボリュームのある本だが途中はほとんど行動経済学について書かれているからだ。他著を読んでいれば第一章と巻末にappendixとして掲載されている大統領令、西田亮介氏のわかりやすい解説で十分かもしれない。

    悪例として引かれている連邦農務省の栄養ピラミッドの図には笑った。

    P29 オバマ大統領は各省庁に対し、厳格な「設計基準」(デザインスタンダード)ではなく、柔軟な「達成基準」(パフォーマンススタンダード)を用いることを求める大統領令を出した。このアプローチなら、コストを削減できるし自由を尊重できる。しかし、「常識」を優先し不要な指図を批判するのは、言うは易しであることがわかってきた。OIRA時代、私はたびたび民間部門から「お願いだから何をしてほしいのかはっきり教えてください」と懇願された。その理由の一つは、法的トラブルを避けたいということだ。

    P44 ナッジは左翼には不人気なことが分かった。左翼は確固たる義務化を好むのだ。だが深刻な問題をもたらしたのは右翼のほうだ。

    P59 OIRAの最大の任務は、行政プロセスをきちんと機能させることで、法の順守にとどまらず、必ずしも義務ではないが、広く言えば「良き政府」という理念のもとに含まれる手続き規範にも沿ったプロセスを堅持することである。

    P61 競争と私的財産制度を大事に思うなら、市場や繁栄を可能にする規制が必要だ。純効果(効果マイナス費用)が高ければ、規制について抽象的なレベルでは懸念があろうとも、規制を進めるべきもっともな理由になる。

    P230 もちろん人々の価値観は異なる。しかし明らかな証拠があれば、価値観では激しく異なる人々を同じ結論に導けるということだ。

    P264 (公平性や尊厳などの言葉を使ってお気に入りの方向に進むだけではないのかという疑問に答えるには)内訳分析を行うことが有効だと多くの省庁が気付いてきた。このアプローチで省庁は、量的に、あるいは金銭的に表せない恩恵がどれほどのレベルならコストを正当化できるか、具体的に示している。

    P293 手段についての温情主義と目的についての温情主義を区別する必要がある。ナッジは手段の温情主義に専念し、人々の目的を問うことはしない。

  • ただ分厚いだけだったかな。

  • 憲法学者であり、かつ行動経済学にも通暁している著者がオバマ政権内でOIRAの責任者として規制行政を担当した際の活動について記されている。規制行政に費用対効果での検証を行いながら行動経済学の見地からNudgeの理論を援用して効果の最大化を進めることで大きな成果につなげている。まさに理論の実践を行いながら最適化を創り上げていくのであるがその際のデフォルトルールや最適アーキテクチャー構築の手法は我国でも十分に参考にしうるものだと感じた。

  • 簡素で柔軟な規制の実践論
    日本経済新聞 朝刊 読書 (31ページ)
    2017/12/2 2:30
     政府の規制について、日本はかなり熱心に議論してきた国ではないかと思う。ばかばかしいほどお役所的な旧態依然ぶり、張り巡らされた規制があるゆえの行政の肥大化、民間の創意工夫を妨げかねない複雑な障壁……。政府の側には「規制」と「自らの存在意義」が同義であるかのような空気もありそうで、根本的な変化が起こらない。


     本書は米国の情報・規制問題室を率いて規制を改革し続けた著者による実践論。1980年代にできたこの組織がなにを目指し、どう戦ったのか。スタート台は、規制の社会的効果が社会的コストを上回るのでない限り規制を実施しない、である。

     行動経済学にも通じた著者は、シンプルな行政をひたすら模索した。その方法は「ナッジ(軽く肘でつつく、押す)」というやり方で、強制ではなく選択の自由を残しつつ、最善の結果へと導くというもの。複雑でなく簡素で、厳格でなく柔軟なルールで背中を押す。

     さまざまな政府規制の根っこには、事故や過ちを防ぐという一種の正義がある。ただ、日本のものづくり企業で相次ぐ品質不正などは、規制という政府の定めたルールに首までつかった企業が自ら持つべき羅針盤を失った結果のようにもみえる。経済社会を改めて考える機会になる。田総恵子訳。(NTT出版・2800円)

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著者プロフィール

ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、法哲学、行動経済学など多岐におよぶ。1954年生まれ。ハーバード大学ロースクールを修了した後、アメリカ最高裁判所やアメリカ司法省に勤務。81 年よりシカゴ大学ロースクール教授を務め、2008 年より現職。オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めた。18 年にノルウェーの文化賞、ホルベア賞を受賞。著書に『ナッジで、人を動かす──行動経済学の時代に政策はどうあるべきか』(田総恵子訳、NTT出版)ほか多数、共著に『NOISE──組織はなぜ判断を誤るのか?』(ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー共著、村井章子訳、早川書房)ほか多数がある。

「2022年 『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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