ナッジで、人を動かす ――行動経済学の時代に政策はどうあるべきか

制作 : 坂井 豊貴 
  • NTT出版
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レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757123670

作品紹介・あらすじ

カーネギー『人を動かす』 、
チャルディー二『影響の心理学』を
行動経済学の観点からアップデートする意欲的一冊。

近年 、米英など先進国で 、「ナッジ・ユニット」とか「行動洞察チーム」と呼ばれる部署が政府内に生まれている。世界中の官僚たちが 、行動科学・行動経済学を用いて 、環境保護 、雇用促進 、経済成長 、貧困の削減 、安全保障の強化に向けた対策を考えている。本書は 、ノーベル経済学賞受賞のリチャード・セーラーとともに 、ナッジを提唱したキャス・サンスティーンが 、「ナッジ」 、選択アーキテクチャーに関わる倫理的な問題――政府による見えない 、巧妙な強制・干渉ではないのかという批判――にたいして 、真正面から論じている。倫理的な国家における福利 、自律 、尊厳 、自治 、誘動 、制約 、責任の問題を取り上げ 、そうした観点から「ナッジ」は正当化できるかについて 、人々の態度を調査した豊富なデータを基に検証する。

感想・レビュー・書評

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  • 2017年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のリチャード・セイラーと共に、行動経済学における人間行動の特徴を踏まえていかに人間の行動変容を導くかというナッジ理論の提唱者として知られる著者が、ナッジ理論とは何か、義務・禁止のような強制性を持たないとされるナッジ理論は本当に倫理的に問題がないのか、もしあるとすればそれはどのようなケースであり利用時に何に配慮すべきか、など、ナッジ理論を巡る議論を体型的に整理した一冊。

    ナッジ理論については人間の行動変容を目的としたものであるが故に、悪用のリスクなど倫理面での懸念を示す声も少なからずある。そうした慎重派に対する著者のスタンスは明確であり、「一般論でその是非を議論するのではなく、どのような目的でナッジ理論が用いられるかという個別論で議論すべき」というものである。ナッジ理論の利用用途としては、本人にそれと気づかせずに健康的な生活を送らせる、(そこまでコスト負担が変わらないという前提において)環境に配慮した財・サービスを選択させる、など、本人及び公共のためにという観点から是認されるものが多い。逆に、本人及び公共のためにならないような目的でナッジ理論が用いられるべきではなく、使用上にあたってはそうした留意が必要となる。

    法学者らしく極めて厳格かつ緻密で読みやすい本ではないものの、ナッジ理論をデリケートな公共政策の分野で活用しようとする際に反対論が巻き起こらないようにどう留意すべきか、という点を明らかにしてくれるという点で、読む価値は大きいと感じた。

  • ナッジで、人を動かす を読んで

    【まとめ】
    文中に出て来た用語の定義
    ナッジ:人々の選択の自由を保持しながら、その人の意思決定に介入すること。政府や民間企業が人々に対して、広告や情報提供など様々な方法を用いて「それとなく動機付けする」こと。
    選択アーキテクチャ:ナッジの根底にある、知らぬ間に最良の選択をさせる仕組み。選択者の自由意思にほとんど影響を与えることなく、それでいて合理的な判断へと導くための制御あるいは提案の枠組み。
    パターン1の選択:直感や気分による、即座の選択。
    パターン2の選択:熟慮した末に下す、時間をかけた選択。

    ①政府は、ナッジを使って何を実現すべきなのか
    政府や民間企業は、ナッジを用いて人々が「好ましい選択」をするよう誘導している。
    このうち、民間企業のナッジは商品の購入を促したり、利益を生むサービスへの誘導などに使われている。キャッチ―なCMや量販店の商品棚の並び順などがその例だ。
    一方、政府がナッジを活用する時の目的は何があるのか?
    筆者は政策に用いられるナッジの目的として、①福利②自律③尊厳④自治、を挙げており、国民は4つのうちのどれか一つでも損なわれた時には、政府に批判的な目を向けるべきだ、と説いている。
    一方、国民への福祉の観点からは「ナッジしないこと」が倫理的問題を生むこともある。喫煙の悪影響を軽視したり、食品添加物の記載をしなかったりと、企業と消費者の間で情報が非対称である時には、政府の介入が必要となる。

    ②デフォルトルールの功罪
    主なナッジの種類として、情報提供、デフォルトルール、義務化、がある。
    情報提供は、煙草の箱に肺ガン患者の臓器の写真を載せ、喫煙の悪影響を啓発すること。デフォルトルールは、プラスチックストローではなく紙ストローを標準化すること(もちろんプラスチックストローも選択できる)、義務化は、年金の自動加入などだ。
    この中で、「デフォルトルール」については、それが長期的に見て人々の利益になるとしても、是認されるものと否認されるものがある。
    是認される理由は「価値観と照らし合わせて妥当と思われるから」だが、否認される理由は、「操作されている感覚がある」「自分が意思決定に関われていないと感じる」など、ナッジの性質に応じて多数存在する。
    デフォルトルールの難しい点は、「何が本人の利益なのか」ということだ。何かしらがデフォルトとして登録される以上、不利益状態をデフォルトにするのは倫理的に見て違法であるし、加えて、「何故それをデフォルト化するのか」ということを、結果の誘導への懸念を解消するように説明しなければならない。
    また、デフォルトルールの基本原則として、「選択アーキテクトは、人々の惰性や引き伸ばしの傾向を、人々の不利になるように悪用してはならない」というものがある。人々がデフォルトルールを選択しているのは、変更をするのが面倒だったり、消費者に知識が無い(もしくは知識を手に入れるのが億劫)といったことが主要因としてあるからだ。そうした人間の特性を悪用するルール制定をしてはならない。

    ③ナッジと人心操作の線引き
    ナッジは意思決定への介入であるが、その意味ではナッジと人心操作は紙一重の関係にある。タバコの写真による啓発と、サブリミナル広告での洗脳の間を分けているのは何か?
    まず操作の定義について考えてみよう。筆者は、それを「人々が自ら思考し、熟慮する力を充分活用、発揮することができないような形で人々の選択に影響を与えること」と論じている。
    この「熟慮する力を十分活用、発揮できない」にポイントがある。操作には熟慮が充分にできるかの「程度」がかかわってくるのだ。操作されたか、されてないかの単純な二択ではない。
    この「程度」に着目すると、ナッジの大まかな分類分けができる。人心操作にまつわる最大の問題点は、それが人々の自律を侵害し尊厳を侵すこと、選択する側に敬意を払わないことだ。自律と尊厳にフォーカスを向けることで、操作度が高い低い、操作が善意か悪意か、の4つに分類することが出来る。
    悪意があり情報提供に欠けている場合は、操作度の如何を問わずナッジすることは認められず、「善良で情報提供を行うも操作度が高い」場合は、福利の観点からは認められるが自律と尊厳の観点については認められない。また、「操作度が低く善良で情報提供を行う」場合は、福利の観点から認められ、自律と尊厳の観点でも認められることは可能である。


    ④ナッジはどのような時に支持され、どのような時反発を生むのか
    ③ではナッジの性質を大まかに分類したが、筆者は人々が特定のナッジを是認する度合いを計るアンケート調査を行っている。その結果、国や支持政党を問わず、特定の種類のものが反発を生むことが分かった。
    1 目的が不当なナッジ
    2 選択する側の利害や価値観に合致しないナッジ
    3 損害が発生する前に、人々が自ら意見を表明する機会がないナッジ
    ※これは例えば、事故死の際臓器提供者になることを「デフォルト」で定められているルールのことだ。選択に際して熟慮が必要な事柄にも関わらず、第三者から勝手に決定されるナッジである。
    4 「公的制度」で行われる金を渡すプログラムへの、自動加入のナッジ
    5 必要以上に操作的なナッジ

    このアンケート調査の結果から、人々は常識的に考えて「妥当と思われる」ものは賛成し、「妥当と思えない」ものは反対していることが分かった。当然の結果である。
    ここから、一つの真理が導かれる。「人々は、ナッジそのものについては特に意見があるわけではなく、特定の例を見せられて初めて、何らかの意見を持つ」ということだ。
    結局、ナッジを好むにせよ好まないにせよ、選択的アーキテクチャは世界のあらゆる場所に存在するし、デフォルトルールは何かしら設定されるのだ。それは避けられないものであるし、「ナッジにより意思決定に介入されるのが嫌だ」とは言っていられず、人々もそのように感じているのだ。
    ナッジの良し悪しは、個別具体的なナッジの目的に照らして判断されるべきである。デフォルトは賢明なほうに設定されたほうがよいが、それは個々に判断すればいい。ナッジの悪用を避けるためにも、良いナッジと悪いナッジの基準が必要である。


    【感想】
    ナッジはどこでも発生しており、ナッジ自体に良し悪しなどはなく、ナッジが実現しようとしている目的の良し悪しを問うことで、個別具体的に判断するべし、と筆者は述べている。
    となると次は、政府はどのようにして良いナッジ、悪いナッジを判断すべきか、そしてナッジをなるべく不当な目的と取られないためには、どのような行動を取ればいいかという問題を考えるべきだ。
    私は、執政者の「肌感覚」と「説明責任」が重要なのではないかと感じた。
    デフォルトルールの変更を例に取ってみよう。
    国民はデフォルトルールを知る権利があるし、今と違うものを選ぶ権利もある。究極のところ、ナッジの効果と善悪は国民の嗜好によって大きく左右されるため、政府は国民と合致する価値基準を持たねばならず、それには国民と肌感覚を共有していることが必要だ。デフォルトルールがただの非効率な前例踏襲であった場合は、破棄に納得が行くものの、込み入った政策的談義が必要な要素の場合は、前例を拒否し新機軸を採用することは、知識の無い大衆にとっては「今まで良しと思ってきたものの破棄」にあたり反発を生む。「結果を誘導している」という懸念を解消するため、デフォルト化の説明責任を負わねばならない。
    肌感覚と説明責任を欠いては信頼を無くすことに繋がり、ひいてはナッジ全体の不信感を生むことにつながってしまうだろう。

  • 自動貸し越しのデフォルトをしない、に設定すると消費者保護になる。
    デフォルトが有効だが、市民が無能扱い、子供扱いされると、むしろ反発する。
    有権者登録を自動化すると、選挙に行く回数が増える。

    人間は最も抵抗が少ない道を選びたがる。
    学者でも、リストの最初の本を読む。

    事実を伝える情報開示。
    フレーミング。
    能動的な選択を利用する方法。

    プリンタの両面印刷をデフォルトにすると紙の節約になる。

    システム1=早く自動的で本能的。短期的な見方を重視、現在バイアスを占める。非現実的なほど楽観的。利用可能な判断をしやすい。
    システム2=遅く計算的で熟考する。掛け算など。

    システム1を利用したナッジか、システム2の利用を促すナッジか。
    配送料や手数料が含まれているものに手を出しやすい。
    政治的なキャンペーンは、システム1に訴えるものが多い。イメージ作戦など。

    カフェテリアの配置を変えて健康的な食事に変えさせる=システム1
    肥満問題に関する資料を提示する=システム2。
    エネルギー消費量を平均世帯と比較して表示する。
    食品にラベルをつける。

    デフォルトや順番を利用するシステム1向けより、情報提供により学ぶ機会があるシステム2向けのナッジを好む。

    通常デフォルトに従うが、過ぎると逆効果。
    暖房の設定温度を1度下げるだけなら、そのままにするが、2度下げると、自分で調整する。
    多少の割高なら、環境にいいデフォルトを選ぶが、50%以上高いと自分で選びなおす。
    支持の得られないデフォルトは長続きしない。
    デフォルトを変更するという努力税を払う人が増える。

    影響はいいが、強制はお断り。度が過ぎると強制と感じる。

  • 東2法経図・6F開架:331A/Su74n//K

  • ※私の星2つは3以上の換算です

    この本の原題はThe Ethics of Influence。
    マーケティング観点の行動経済学を期待していたが内容は違い、ガバメント寄りだったけど、
    奇しくも現在はコロナウイルス感染症第三波拡大時期にあり、政府と分科会、都から様々な提案や要請がまた出だした時期だった。いちいち首相や都知事のコメントについて脊髄反射的に意を唱えるというかいちゃもんを言い続ける人たちもこれを読めば少しは意義がわかるのだろうと思う。読めばいいのにな。
    見なければ済む話ではあるけど、関連したような言葉で検索した時のY!ニュースやTwitter上のノイズがすごい。もっと美しいものを見るとか勉強すれば良いのにね。

    だがしかし、学術的すぎるのといますぐに欲しい情報ではないため、後半は断念。すんません。

    賢い組織は「みんな」で決める リーダーのための行動科学入門 の方がわかりやすいらしいので次はそれにしようと思います。

  • この本は「学術書」の部類になると思うので読むのに時間がかかっても仕方ないかも。

    ということで、ボクはゆっくりと読み進めることにします。

    今言えるのはこれだけ。

    ナッジと選択アーキテクチャについて考えるべきことは何なのか?

    政府がナッジを利用することに対してどう考えるか?

    国家の役割とナッジの利用についてどうするべきか?

    ナッジと義務なら、果たしてどちらがいいのだろうか?

    以上について書かれていそうだと予測。
    何言ってるかようわからん部分がちょこちょこあってやたら読み進められないでいる。

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著者プロフィール

キャス・サンスティーン(ハーバード大学ロースクール教授)

「2021年 『入門・行動科学と公共政策』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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