哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造 (叢書「世界認識の最前線」) (叢書世界認識の最前線)
- NTT出版 (2001年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784757140240
作品紹介・あらすじ
本書は、イタリアにおける州の研究を通じて、イタリア人の市民生活に関する根本的な疑問のいくつかを検討する。具体的にはイタリアの地方政府の公共政策におけるパフォーマンスを比較分析することで、高い地域にはそれなりの伝統、つまり市民的政治文化があり、結局のところそれがパフォーマンスを上げているとの結論にたどりつく。パフォーマンスの高い地域とされた、中部イタリアには数百年に及んだ共和政の伝統があった。北部イタリアはフランスやオーストリアの勢力に翻弄されることが多く、共同体主義が発達しなかったし、ローマ以南の地域では何世紀にもわたる征服王朝による封建的土地所有が地域社会の基礎にあったため、その根本に不信があるという。著者は、共同体主義の伝統がない地域では政治の改革は深まらないと指摘する。
感想・レビュー・書評
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イタリア、エミリア・ロマーニャ州のデータにより、近代化論を反証しているなかなかすごい本である。
近代化論を簡単に書くと、豊かなところに民主主義は根付くというものである。
この本によると、社会資本の有無が民主主義の有効さを左右するということである。
独立変数−社会資本
従属変数−有効な民主主義 統治パフォーマンス
学問っておもしろい!
まとめとしては、
1、サッカーチームを作れば、社会資本は増大し、民主主義が機能する。
もしくは
2、歴史が社会資本を左右するため、民主主義が機能するところには機能するが、機能しないところには機能しない。
だって、社会資本は歴史に左右されるから。
ちなみにイタリアの社会資本は13世紀に決定されたと理解できる。
2をまとめると、「しょうがない」ってことか詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
政治文化とは国民的な性格・パターン化された態度。「ある時代に国民の間に広く見られる政治についての態度・信念・感情の方向性」。cf.政態度は個人の心理態度。▼能動的で政治参加・関与の度合いが高い政治文化(米英・参加型)。受動的で政治参加・関与の度合いが低い政治文化(独伊・臣民型※国家主導の近代化と全体主義を経験したことが原因か)。明確な政治文化なし(メキシコ・未分化型)。▼米英の参加型の政治文化が民主主義システムと最も相性がよい。文化が政治システムのあり方を決める。ガブリエル・アーモンド&シドニー・ヴァーバAlmond & Verba『シヴィック・カルチャー』1963
政治文化。政治過程に秩序と意味を与え、政治システム内の行動を支配する基礎的な前提やルールを供給する態度・信念・感情のセット。ルシアン・パイ1965。
仏伊は国内の民族・宗教・言語の違いがイデオロギー対立に発展しやすい。人々は同じ民族の団体・同じ宗教の団体・同じ言語の団体に所属するため、集団間の対立が激化する。一方、英米は人々が多種多様な団体に加入しており、異なる民族・宗教・言語同士、互いに交流があるため集団間の対立は緩和される。英米の政治文化の方が仏伊と比べて政治が安定する。アーモンドAlmond1970
エリートが協調的で社会構造が同質的(墺)。エリートが協調的で社会構造が多元的(ベルギー・蘭・西、多極共存型)。エリートが敵対的で社会構造が同質的(米英独)。エリートが敵対的で社会構造が多元的(仏伊加)。民族・宗教・言語の違いがイデオロギー対立にまで発展しやすい社会でも、エリート協調的(多極共存型)であれば政治的な安定をもたらす。アーレンド・レイプハルトLijphart1977
米。大不況や戦争の災禍を経験した中高年は、政治的な意見でも景気と安全とまず第一に考える物質主義。一方、大不況や戦争を経験していない若者は自己実現などより高い要求をする脱物質主義(言論の自由・政治参加・環境保護)。物質主義の人は右寄りの政党を支持。物質的な欲求(身の安全・モノ)が満たされてはじめて、より高次の抽象的な欲求(自由・生きがい)を求めるようになる(マズロー欲求段階)。ロナルド・イングルハートInglehart1977
社会経済的階層と政治参加に相関あり。インド、ユーゴ、米、蘭、ナイジェ、墺、日。シドニー・ヴァーバ他Verba et al., 1978
市民文化(信頼、生活満足、革命への非支持)は、民主主義の継続年数(1900-1986)にプラスの影響を与える。GDPCモデルに含む。ロナルド・イングルハートInglehart, 1993
イタリア。同程度の経済水準でも、北の方が南よりも制度パフォーマンス、政治参加・満足度が高い。北(ベネツィア・フィレンツェ・ミラノ)は自治都市としての歴史をもち、水平的な人間関係に基づく相互信頼・規範・ネットワークが蓄積されている。一方、南は専制王国に支配された歴史をもち、垂直的な縦の人間関係・親分子分の関係と相互不信に基づく関係が蓄積されている。この相互信頼・規範・ネットワークの蓄積が大きいと、制度パフォーマンス、政治参加・満足度がより高くなる。▼他者への信頼が高いと、相手を監視したり、統制したりするコストが下がる。ロバート・パットナムPutnam『Making Democracy Work』1993 -
Putnum (1993) Making Democracy Work Ch 6 Social Capital and Institutional Success
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4095円購入2010-10-12
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貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784757140240 -
「連帯と自制・自則が存在しないところでは、ヒエラルヒーと腕力がアナーキーの唯一の代替物となるのである」(p.134)
「この統計レースは、明快かつ驚くべき結果を生んだ。まず第一に、市民的伝統(一八六〇ー一九二〇年の測定結果)は、現代の市民共同体を測定する上できわめて有力な予測値であり、(市民的伝統をコントロールすると)工業化や公衆衛生のような社会経済的発展の指標は、市民的伝統に対してなんの影響も与えない」(p.191)
「われわれの単純な知見でさえ、経済発展の「真の」(諸)原因(この要因をXと呼ぶ)を調べた限り、要因Xは、先行する経済発展よりも市民的伝統とより密接に相関するはずだ、ということを暗に意味している。豊かさがいったん実現すると、それが「市民度」を強め、他方、貧困はその出現をおそらく押さえ込むだろう。悪循環と好循環で一つの連結した対をなしているのである。だが、われわれの立証によれば、これらの相互連関のうち《経済→市民的伝統》経路は強くない。市民的な規範とネットワークは、経済進歩の波動の単なる泡ではないのだ」(p199)
「経済発展は市民的共同体を生まない」ということを、統計によって調査。市民的共同体を生むのは、長い歴史のなかでつくられたネットワークと信頼である、と主張している。この発想を、なんとか歴史学の立場からも寄与できないものかと感じた。 -
イタリアの南部と北部の民主主義の成熟度の差について、市民の伝統的社会資本の差にあることを論じた本。
議論は論理的に書かれているが、複雑だったので、細かい点までは追えなかった。ただ、本書で言いたいことは一貫しているので、その点については、よくわかったと、信じている。 -
結論ぼやっと。社会資本と制度パフォーマンスとの関係。市民的共同体の重要さをイタリア各州での大規模調査によって分析。
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応用寄りすぎるかも
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イタリアの州制度に着目し、
市民社会における伝統と改革の政治構造を
明らかにすることを目的とした本。
個人的にはやや難解に感じる点もあったが、
学問分野問わず、分析手法等参考になる点が多いと思う。
第一章 はじめに
第二章 ルールの変更
第三章 制度パフォーマンスを測定する
第四章 制度パフォーマンスを説明する
第五章 市民共同体の期限を探る
第六章 社会資本と制度の成功