パワー・インフェルノ: グローバル・パワーとテロリズム

  • エヌティティ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757140509

作品紹介・あらすじ

9・11の直後に書かれた「テロリズムの精神」およびその1年あまり後に発表された「ツインタワーのためのレクイエム」などの評論をまとめ、ボードリヤールの最新の思考の軌跡を追う。

感想・レビュー・書評

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  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:316.4||B
    資料ID:50300945

  • 9.11に対するボードリヤールらしい独特の考察。具体的事象に対する論というのはやはり読みやすく、ボードリヤールのテンション高めな文章がそれを彩り、とても楽しめました。「象徴交換と死」の段階からさらに踏み込み、システム自体の自殺願望を説き始めている。

  • トルコのイギリス大使館が襲撃され、英国総領事を含む二十数人が死んだ。人ごとではない。ついこの間イタリア人犠牲者も出たばかりだ。アメリカに同調する国に対しての威嚇だろう。アメリカのイラク攻撃に対しては、独仏二カ国を中心に反対が強かったが、ここにきて最も頼りにする同盟国である英国の世論も反対が高まってきている。日本も自衛隊を派遣すれば首都を攻撃すると警告を受けている。イラク情勢はアメリカが最も避けたかった泥沼化の様相を呈してきているといっても過言ではない。

    フセイン政権を打倒すれば、アメリカを中心とした国連の監視下にイラク国民による民主的な政府が誕生し、イラクは民主化されるはずではなかったのか。圧倒的な軍事力を背景に、イラクの正規軍を武装解除することで、治安を維持する目論見が外れたのは、アメリカが自分で思っていたような解放軍として、現地で受け止められていないことがある。戦闘終了を告げてからも駐留し続ける米軍にイラク国民は不満を感じている。日本の占領統治で味を占めたアメリカだが、国民性の違いはもとより、時代状況の違いに思いが至らなかったようだ。

    グローバリズムという言葉が錦の御旗のような効力を見せる日本とは違って、ヨーロッパ諸国をはじめとして世界が主にアメリカによって標準化される事態に違和を感じている国や民族は少なくない。経済的、軍事的には圧倒的な力を持つ国であるから、否応なくつきあわされているだけのことで、誰もアメリカによる民主化や、アメリカ的な人権を押し付けてほしいなどと思っていない。独裁者による恐怖政治もまっぴらだが、宣教者めいた政治体制の押し付けはご免だ。それが、世界の多くの人々の気持ちというものである。

    9.11の出来事を巡って多くの言説が消費されたが、それについて本格的に論じたひとりがジャン・ボードリヤールであった。超大国アメリカの監視防衛対策をくぐり抜け、貧弱な武器しか持たぬテロリストになぜあのような事件を起こすことができたのか、という疑問に対して彼はこう述べている。「世界秩序の裏側に落ち込んだ貧しい人びと」の反抗ばかりでなく「世界秩序の利益を共有する人びとの内心にさえ存在する、決定的な権力に対する拒否反応」がある。世界は内心でこういう事態を望んでいたのだと。

    何かを贈られたらそれに見合った、あるいはそれを越える返礼をしなければならないというのは「贈与と返礼」に関する原則である。返済できない贈与は相手に屈辱を与えることになる。テロリストたちが世界貿易センタービルに対して与えた象徴的行為としての自死は、世界をアメリカ化するグローバル化という名の暴力に対する独自のゲームであったというのがボードリヤールの説である。多くの犠牲者を出した事件を素材にしての、言語遊戯めいた物言いは顰蹙を買ったようだが、9.11以後のアメリカおよび世界の対応を見ていると、冷静さを欠いた情緒過多の言説が蔓延し、客観的な物言いがテロリスト寄りと見られて批判されるなど、ヒステリックな状況に思えた。その中で自らのそれまでの知見に基づいて状況についての発言を行ってきた著者の行為は評価されてしかるべきである。

    イスタンブールには先の旅行で親しくなったダブが住んでいる。あの後結婚したはずだが、よく話してくれた家族も無事だろうかと心配になる。ブッシュ大統領は「トルコは対テロ戦争の新たな前線」と語ったそうだ。『おかえし』という絵本がある。贈り物に対して返すものがなくなった両家は、互いの子や家までを贈り合い、最後は家が入れ替わっておしまいという他愛のない話だが、このゲームがおしまいになるために世界は、どれだけのものを蕩尽しなければならないのだろうか。

  • テロはウィルスと同じでいたるところに存在している。
    テロリズムはなにも創造しないし、何も始まらない。

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著者プロフィール

【著者】ジャン・ボードリヤール :  1929年生まれ。元パリ大学教授(社会学)。マルクスの経済理論の批判的乗り越えを企て、ソシュールの記号論、フロイトの精神分析、モースの文化人類学などを大胆に導入、現代消費社会を読み解く独自の視点を提示して世界的注目を浴びた。その後オリジナルとコピーの対立を逆転させるシミュレーションと現実のデータ化・メディア化によるハイパーリアルの時代の社会文化論を大胆に提案、9・11以降は他者性の側から根源的な社会批判を展開した。写真家としても著名。2007年没。著書に『物の体系』『記号の経済学批判』『シミュラークルとシミュレーション』(以上、法政大学出版局)、『象徴交換と死』(ちくま学芸文庫)、『透きとおった悪』『湾岸戦争は起こらなかった』『不可能な交換』(以上、紀伊國屋書店)、『パワー・インフェルノ』『暴力とグローバリゼーション』『芸術の陰謀』(以上、NTT出版)、ほか多数。

「2015年 『消費社会の神話と構造 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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