ボードリヤールという生きかた NTT出版ライブラリーレゾナント010 (NTT出版ライブラリーレゾナント 10)

著者 :
  • エヌティティ出版
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757141131

作品紹介・あらすじ

あまり知られていなかった生い立ちや、主要著書の読解、近年の活動を通じて、その思想の本質に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 仏の社会学者ボードリヤールの、これまであまり語られることのなかった人生そのものを彼の理論を交えて紐解く書。

    彼の代表作のひとつ「象徴交換と死」で訳(今村仁司氏と共訳)を務めた塚原史氏による。

    大学の卒論でボードリヤールの概念を用いるにあたって「シミュラークルとシミュレーション」「象徴交換と死」に挑んだものの、その難解さに挫折。

    そこでなんとかヒントはないかとボードリヤール関連の著書を漁った結果、本書と出会った。


    本書は、“ボードリヤール入門書”としては非常に優れたものだと思う。私のように彼の著書の難解さに降参した方にはオススメ。実際、本書を読んで議論の大枠を理解してからもう一度、ボードリヤールの著書に向かい合ったところ、以前と比べてかなり議論を理解できた。


    良書。

  • 「ボードリヤールがあげた例ではないが、書籍という商品の場合にも、ある本の売れ行きを左右するのは、その内容よりはむしろタイトルや装丁のほうだという事実があきらかに存在している」 ー 40ページ

    大学にいるとついつい内容の重要性みたいなもののほうにとらわれてしまいそうになる。いや内容はもちろん重要なんだけれども、それ以外のものを軽視するならいざしれず、むしろ蔑視するような感覚というか、単純に言えば「売れ線」的なものが気にいらなくなるというか。

    それでよくあることが「ああいう売れ線をありがたがって買ってるやつは〜」という話なわけだけれども、それは内容の論理性とか史実をきちんと踏まえているかとか、俯瞰がどの程度できているかという点で判断しているから起きるのであって、「言説を生み出す力」みたいな観点からいえば、内容の整合性もさることながら、イメージ戦略みたいなものも本当に重要になってくるのは自明だ。

    研究の中からみても、たとえば「グランデッドセオリー」という質的研究法はまずもってその名前付けのセンスから市民権を得ているようなところがあると思う。グランド・セオリー(根拠に基づかない大理論)からグランデッドセオリー(根拠に根ざした理論)へ――このようなわかりやすいキャッチフレーズをつけることの重要性というのは、強調してもしきれない。そしてそれはあらゆる分野について言えることなのであり、それを軽視してしまうことは相互理解という面でも、効果の面でも、マイナスなのではないかなと思う次第。

  • 気になる言葉p209
    世界的合意の派遣が強くなればなるほど、それが崩壊する。いや、危険というよりは、むしろチャンスなのかもしれない。

  • 思想家ジャン・ボードリヤールさんオタクが編集したMADムービーのような本。
    ジャン・ボードリヤールさんのエッセンスが凝縮されてて、時系列的によく整理され世の中の動きが織り込まれているのでとても事態を把握しやすい。そしてなんといってもスピード感がある。ほぼ一日で読みきれるくらいだ。

    このスピードは大切だ。モタモタしてたらきっと何がなんだかわからなくなる。ボードリヤールさんの著作を直接読んでいてはこの本に現れる流れのようなものを掴めないかも知れない。しかも、要点を衝いているまとめが素晴らしいのでインパクトもある。塚原さんのボードリヤールに対する愛(エロス)が迸っている。ボードリヤールさんの入門書としては最高だと思う。お薦め!


    さて、フランスでは1968年の5月革命、日本では1969年の東大紛争が終わった頃から、ありあまるモノに囲まれ人間はその主体性をモノに奪われ、逆にモノの体系によって操作される記号と化してしまった。消費社会におけるモノはそもそも記号だから、結果、世界は記号だけになってしまう。世界が主体で人間はモノと同列の操作されるオブジェというわけだ。

    そうなると、世の中の動きは記号の操作ということになる。あるコードに基づいたプログラムの実行。だから、ぼくらがテレビゲームのキャラクターみたいにプログラミングした誰かに操られているような変な気持ちになる…

    どうも世界の実相は記号の体系で、その操作に用いられるコードは昨今グローバリズムという形で世界を席巻しているアメリカンドリームのようだ。

    日本においても1989年に昭和天皇の崩御とともに歴史は終わった。人間が主体的に世界と格闘して世界を変えていくのが歴史であり、歴史ををつくる存在というのが人間の定義なら、歴史を作れなくなった僕らはもはや人間ではない。人間でなくなるということは、動物になるということだ。だから、歴史の終わりによって、人間が動物化するということになる。

    猫ちゃんのようにまったりと、ワンちゃんのようにご主人様に忠実に、雀のように歌い、蝉のように泣き、鳩のように糞をする。そんなの嫌だなと思っていたら、やはりまだまだ(人間?いやもう主体は世界の方だったから…)世の中そう捨てたもんじゃない。

    じゃぁじゃぁ、みんなアメリカになっちゃえばいい!というような安易な考えはモチロン駄目で、みんな同じになってしまうとシステム自体の自己免疫機能が著しく低下し危機を呼び込む。ひとつのウィルスで全滅…みたいな。ネガティブなものを排除し、ポジティブなものだけを取り込もうとすればするほど、免疫力は弱る。悪いものをその内部で処理する能力が低下するからだ。しかし、世界はひとつしかなくて世界の外に世界じゃないものなんかあるのだろうか?

    世界は操作される記号だけで覆われているかのように分析されてたんだけど、どうもその世界に対抗する外部といえるようなものがまだあるらしい。ということの象徴が9・11だったとこの本には書かれている。しかも、それはボードリヤールさんによれば希望でもある。9・11の主体もある特定のテロリストなんかじゃない。9・11が起きたのは、今のコードではちょっとマズイいんじゃないかと修正を求めるこの世(さらに正確に言うと世界を含んだ宇宙というようなものか…)の主体としての動きなのかも?

    ところで、私はうまく社会に適合できない。だから、表立って幅を利かせている世界のコードにとっては、まず間違いなく異物であるだろう。だが、異物はそれ自体が世界の外部となれる。だから、私にも可能性はある。コードから逃れ体系に操作されないようにできれば…これは至難の業だと思うが、どっこい私は窒息しかけながらもまだなんとか生き延びてこうして息をしている。動いたりしゃべったりもできるぞ。

    そうなんだな。私が生きている事自体が…人間はアメリカンドリームみたいなコードなんかで操作されつくされはしないんだぞ!という証であり、反抗である。そう考えてもうちょと生き延びるか…


    なんだか、たいそうなようで全然ダメダメなような結論になってるが、
    まぁ…そうとでも考えないと滅入るもんね。恐らくそのくらいは事態が深刻なんだ…


    Mahalo

  • 分かりやすい。ボードリヤール入門書として最適。

  • 著者はボードリヤールと公私にわたって交流。プライベートの言葉が引用されていて興味深い。よき手引き。

  • 鋭さに感嘆。
    同じ人間か。。

  • ボードリヤールの軌跡を時系列的に辿りながら、平易な文章で思考の変遷をより理解することが出来る入門書。

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著者プロフィール

早稲田大学政治経済学部卒業。京都大学大学院文学研究科修士課程(フランス文学専攻)修了、パリ第三大学博士課程中退。専攻はフランス文学・思想、表象文化論。訳書に、ボードリヤール『消費社会の神話と構造』(共訳、紀伊國屋書店)、『芸術の陰謀』(NTT出版)、『ダダ・シュルレアリスム新訳詩集』(共訳、思潮社)、ヴュイヤール『その日の予定』(岩波書店)、エリボン『ランスへの帰郷』(みすず書房)、ソヴァージョ『ボードリヤールとモノへの情熱』(人文書院)など。早稲田大学名誉教授。

「2023年 『サインはヒバリ パリの少年探偵団』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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