ジハードとフィトナ イスラム精神の戦い

  • NTT出版
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レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757141209

作品紹介・あらすじ

イラク戦争と欧米諸国の策動、ネオコンの革命、イスラム過激派の行方…。聖戦に対立する「フィトナ」(内なる戦い)を新たなキーワードに、9.11以後の中東世界を大胆に読み解く戦慄の現代イスラム論。

感想・レビュー・書評

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  • いま世界でテロと呼ばれる行為の主体となっているイスラム原理主義をどのように捉えたらよいか、このテロが蔓延する世界の現状を打破すべき突破口の提示が本書の主題であったように思われる。
    現在の状況だけから判断してあたかもイスラム社会全体がテロリストの塊であるかのような誤解は、メディアの「貢献」もあって、欧米ならず、世界全体に広がっている。そのためにとくにムスリム移民を多く受け入れてきた欧米社会では、とくに9.11以降ムスリムをさらに差別視したり排除したりする「イスラム・フォビア」が増えているように思える。しかしながら、この欧米社会の見方こそ、さらなるテロを呼んでいるのだ。
    だが、現にテロを実施しているものは「イスラム社会」ではなく、一部の好戦家によるイスラム原理主義(といってもこのなかにもさまざまなグループがあるが)によるものがほとんどである。では、なぜイスラム原理主義がここまで増加した、あるいは表面化したのであろうか?そもそもの原因は彼らが主張する「本来のイスラムに立ち戻る必要がある」ところにあると思う。著書にもひとつのヒントが出ていた。イスラムはもともと西欧との調和を可としてきた。ところが、この調和によって西欧的なものがイスラム社会に流れ込み、一方でイスラム的なものの減退を引き起こし、他方では西欧型立国を目指すイスラム社会の失敗をもたらした。このふたつのことが原因で「西欧文明は諸悪の源」という発想が生まれたのだ。つまり、非イスラム的なものがイスラム社会へ大きな影響を及ぼすことで、イスラム社会としてのアイデンティティが失われつつあり、そこに一部の人間が危機を感じたのである。また、これ以外にも、たとえば移民していったムスリムがホスト社会において非イスラム的なものに「染まった」こと(たとえば比較的温和な宗派に属する女性が頭巾をかぶらなくなるなど)で、それをみて過激な人はムスリムがムスリムでなくなる、あるいは「不信心者」と読み替えて「本来のイスラム」を主張することもあろう。いずれにせよ、「本来のイスラム」を叫ぶものたちに共通しているのが、イスラム社会の荒廃への恐れであるように思える。
    突き詰めていえば、「フィトナ」という「イスラム共同体の分裂・崩壊・荒廃の可能性を振りかざして信者に脅威を与える」ことは、ほかでもないイスラム社会外部にその原因があるということだ。外部がイスラム社会に影響を与え、その結果イスラム社会内部では共同体が崩壊・分裂・荒廃するかもしれない(あるいは「するだろう」)という考えをもたらすことになるのだ。その影響がたとえば、アメリカのイスラエルへの支持であったり、対テロ戦争であったりする。このような不安を外部から与えることによって、イスラム社会内部の一部の好戦者を通って(さらには自己アイデンティティに葛藤する若者などに伝わり)、テロという形で再びイスラム社会外部にブーメランとして飛んでくるのである。
    それでは、このテロ蔓延する現状を打破するのにはどうしたらよいのだろうか。まず、打破するのに不可欠なこととして、現に行われているテロがイスラム社会内部に起因するものではなく、むしろ外部が原因だということが挙げられよう。つまり上の段落で述べたようなブーメラン自体に外部の人間が気づく必要があるということだ。つぎに大事なことはテロは決してイスラム社会全体が支持するものではなく、一部の好戦家によるものだということに気づくことである。これらの好戦家はウラマーの発言を無視したり、イスラム文化の歴史に背を向けていると著者は言う。裏を返せば、ウラマーやイスラム文化そのものは決して好戦的ではないことがいえる。ならば、そこに一筋の光を見出すこともできるのではないだろうか。そして、三点目に重要なことだが、著書にもあるように西欧社会のなかにいる移民ムスリムに対して平等な扱いをするということである。ここでいう平等はむしろ白人とも扱いにおいてほとんど違わないことである。つまり宗教や人種ではなく、「人間」という次元に立ちかえって平等ということである。それにはある程度の政治参加への許容も必要だろう。これは低次元レベル、すなわちコミュニティでの自治を許す程度でも構わない。また、アイデンティティの葛藤にある若者に対してはカウンセラーを設けるなどもひとつの方法であろう。重要なことは移民ムスリムに政治や社会への不満のはけ口を提供することであり、積もった不満を一部の好戦家に利用されることのないように「予防」することでもある。テロをどう防ぐかは、イスラム社会外部にいる人々の手にゆだねられている気がした。

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著者プロフィール

Gilles KEPEL 政治・社会学者、パリ高等師範学校・パリ政治学院教授、イスラム主義・現代アラブ世界関連の著書多数。『ジハード―イスラム主義の発展と衰退』(産業図書、2006)は10カ国語以上に翻訳。

「2017年 『グローバル・ジハードのパラダイム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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