コミットメントの力: 人と人がかかわるとき (NTT出版ライブラリーレゾナント 37)

著者 :
  • エヌティティ出版
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757141551

感想・レビュー・書評

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  • 私自身もそうだった、と思いますが、
    「遠いところに行きたい」と思う気持ちの裏には、自分の足元の問題に向き合ってしっかりと解決していくよりも、ある意味、いまの足元の問題からは、ちょっとの間逃げていたい、という思いがあるのではないでしょうか。いまここにいる、あるがままのあなた、をどこか受け入れられなくて、できるだけ遠くで、しかも、必要とされていそうなところにいきたい、ということがあるのではないでしょうか。抱えている足元の問題とは、家族の問題かもしれない。地域の問題かもしれない、自分の日本社会への違和感かもしれない。
    それもよいのです。そのように思って、いまここで、ではなくて遠いところで役に立ちたい、という思いも大切なのです。ただ。自分が「足元の問題にはいまは向き合えない」という現実的な把握をした上で、「やっぱりいまは国際的な場に向かいたいんだ」と思うことと、そのような把握のないままに、「恵まれない人たちのために自分が働くんだ」と思うこととの間には、実は大きな差があるのではないでしょうか。







    すごい。わたしのもやもやを見事に言語化!
    社会調査法の授業できいたことを復習できた感じ。やっぱり素敵だなぁ、三砂先生!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「わたしのもやもやを見事に言語化!」
      そうなんだ、
      内田樹センセとの共著で読んだコトがあるのですが、へーと思ったけど、実際にちゃんと判ったか...
      「わたしのもやもやを見事に言語化!」
      そうなんだ、
      内田樹センセとの共著で読んだコトがあるのですが、へーと思ったけど、実際にちゃんと判ったかどうかと言うと・・・ゴメンなさい。です。
      近い内に「オニババ化する女たち」は読みたいと思ってるのですが、、、
      2012/07/13
  • 国際保健についての概説と、筆者のブラジルでの経験、それから支援や教育全般にもふれられた本です。専門分野に詳しくなくてもためになることがありました。

  • タイトルだけでは、実は何の本なのか分からない。最初のところに、これは「国際保健」という分野を紹介する本だと書いてある。といっても、「国際保健」とタイトルに入っていても、やはり何のことかあまり分からない。

    三砂ちづるが、どのような視点をもち、どのような活動をしてきたか、その経験を綴った中には汲むべきところがたくさんあると思う。

    印象に残ったのは、三砂がイギリスにいたときに経験した「医療費無料」ということ。それがどういうことかといえば、医療がほかの分野の介入を受けないことではないかと三砂はいう。

    ▼クリニックは具合が悪い人にサービスを提供するのであり、滞在許可を確認するところではないわけです。支払いということがないと、こういう対処で十分であることがわかります。そもそも保険証や書類が必要なのは、お金を払うことが前提とされているからです。
     
    病人は名前と住所さえ言えば治療が受けられる、具合の悪い人の人権はそれだけで守られるというのが、医療が無料であることの本質なのだ、と思いました。そこの国にいるというだけで医療を保障するシステムだったのです。(p.166)

    この話は、ベーシック・インカムの「無条件である」という特徴を思い出させる。お金があるから治療を受けられる、お金がないから具合が悪くてもがまんする、そんなことがおそろしいほど起こっているだろう日本で、医療費が無料だというような、そこにいるだけで生命が守られる仕組みは実現するだろうかと考えてしまう。

    (10/02/17)
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    昨晩と今日の昼間は、「ブックマーク」本体の支度。読者のみなさんが送ってきてくれはる「こんな本を読んだ」「これが面白かった」「こんどこの本を読むつもり」といった本のアンケートを整理して、書誌情報(タイトルや著者名)の確認。ネット検索ができるようになって、だいぶ楽になった。時々、近いけど惜しい!タイトルに化けていたり、著者名がきわどく違っていたり、単に私が入力ミスをしていたりということがあるので、目はかなり疲れるが、順にチェックする。

    「ブックマーク」の読者の中には、新しい号が届いたら「これを読みたい」という本をマーカーで(!)チェックして図書館へ予約するとか、メモを取って本屋へ行くという人もあるらしい(そのような便りをたまにいただく)。図書館の人や本屋の人はそれなりに本を探す力はあるだろうと思うが、どこもかしこもパソコンで検索、ポン、に慣れつつあるこの頃、一字でも違っていると検索にかからず、「ありません」と言われる場合もあるかもしれない。

    「本を読みたい」キモチがしょぼぼんとしぼむようなことなく、図書館や本屋やその他のルートで「どんな本かな~わくわく」というキモチがふくらむといいなーと思う。

    チェックが一段落して、散歩がてら図書館をうろうろしに行く。新着棚や、返却された本が並んだワゴンや、雑誌架をうろうろして、いくつか読む。

    それから、ふらふらと階下の本屋をのぞき、文庫棚と新書棚を見てまわる。『太郎が恋をする頃までには…』が文庫になっていた。単行本で一度読んでる本だが、けっこう早く文庫になったなーと思い、ちらっと中を見ると「文庫版あとがき」があったので、そこを立ち読み。新刊の並びには、『わたしのマトカ』もあった。それに『戦争の世紀を超えて』も文庫になっていた(これはもうだいぶ前に単行本を買って読んだやつである)。

    ダウンサイジングされて文庫になるタイミングも、いろいろやな~と思う。

    帰って、図書館で借りてる本をぱらぱらと見る。三砂ちづるの『コミットメントの力』は明日にでも返して別の本を借りようと思い、貼ってた付箋を取りながら、そのあたりを眺める。

    こないだメモを書いたときは、医療費無料についての話が一番ココロに残っていたが、付箋を取りながら眺めなおして、「あとがき」がいいなと思った。

    「答えは土の中」という藤崎智子さんの詩が引かれている(pp.236-238)。その前後に三砂ちづるが書いていることとあわせ、この本は「国際保健の紹介本」といった説明ではすくいきれない広さをもってるなと思った。

    ▼…自分に何の直接の利益もなかったとしても何かをしなければならない、と感じることが「コミットメントの力」であり、私たちの住んでいる世界はそのような思いに支えられて、より住むに値するような場になってきたのだと思います。(p.234)

    三砂ちづるは、国際協力の仕事をしよう!と思っている人に、なぜそんなに「外」に行きたいのかちょっと考えてみてもいいかもしれませんと書く。足元にもこんなに問題が山積みなのに、なぜわざわざ「外」へ行かなければいけないのか?あなたが「コミットメント」を感じるのが遠いところである必要があるのか?と問いかける。

    そして、自分もそうだったと思うと置いて、その遠くへ行きたい気持ちの裏には、自分の足元の問題からはちょっと逃げていたい、そしてできるだけ遠くで、自分が必要とされそうなところへ行きたい気持ちがあるのではないでしょうかと書く。

    ▼それもよいのです。そのように思って、いまここで、ではなくて遠いところで役に立ちたい、という思いも大切なのです。ただ、自分が「足元の問題にいまは向き合えない」という現実的な把握をした上で、「やっぱりいまは国際的な場に向かいたいんだ」と思うことと、そのような把握のないままに、「恵まれない人たちのために自分が働くんだ」と思うこととの間には、実は大きな差があるのではないでしょうか。

    「コミットメントの力」という言い方とはまるで逆のことを話しているように見えるかもしれませんが、いま、国際協力という現場に出かけている、特に女性たちがあまりに働きすぎ、がんばりすぎてしまうのは、「いまは、自分自身の問題は、ちょっと置いておいて、出かけている」というふうに考えたことがあまりないからではないのかな、と思うこともあるのです。(p.235)

    藤崎智子さんの詩「答えは土の中」がよかった。「歌のお手紙」みたいに、心にひびいた。

    (10/02/21)

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著者プロフィール

1958年山口県生まれ。兵庫県西宮市で育つ。京都薬科大学卒業。ロンドン大学PhD(疫学)。作家、疫学者。津田塾大学多文化・国際協力学科教授。専門は疫学、母子保健。著書に、『オニババ化する女たち』(光文社新書)、『死にゆく人のかたわらで』(幻冬舎)、『女が女になること』(藤原書店)、『自分と他人の許し方、あるいは愛し方』(ミシマ社)、『女に産土はいらない』(春秋社)、『セルタンとリトラル』(弦書房)、『ケアリング・ストーリー』(ミツイパブリッシング)など、きものについては『きものは、からだにとてもいい』(講談社+α文庫)がある。編著に『赤ちゃんにおむつはいらない』(勁草書房)、共著に『気はやさしくて力持ち』(内田樹、晶文社)、『ヒトはどこからきたのか』(伊谷原一、亜紀書房)、訳書にフレイレ『被抑圧者の教育学』(亜紀書房)などがある。

「2024年 『六〇代は、きものに誘われて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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