芸術の陰謀―消費社会と現代アート

  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757142770

感想・レビュー・書評

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  • 「泉」などで有名なマルセル・デュシャンや「キャンベルのスープ缶」などで有名なアンディ・ウオーホルなどをイメージさせながら、芸術においてオリジナル不在のシミュレーションの台頭、芸術におけるオリジナル性に起因する特権の剥落、高騰する現代アートのマーケットと不釣合いな「無価値・無内容(nul)」な現代アートの数々という刺激的な内容が続いている。フランス思想系の本は読んだことがなかったので読みにくさはあるものの、現代アートに対する理解としては非常に納得感のある本であった。

  • 「まったく同様に、理論とは、観念=発想を抱くこと(真理と戯れること)ではなくて、意味が容易に捕まるほど単純素朴だと思い込んで、疑似餌や罠を仕掛けることなのだ。幻想をつうじて、根源的な誘惑の形態を再発見すること」

    社会科学における「理論」とは何なのか考えることが最近多い。それは自然科学における「理論」とはやはり性質が異なっている。自然科学における「理論」にも例外はもちろんあることが多いのだと思うけど、社会科学における例外の多さはそれとは比べ物にならない。むしろ、社会科学における「理論」というのは「説得性」とか「魅力」とか「美しさ」とか、そういうもので完成度が測られていて、それが正しいことのようにも思えるのだ。

    そうした中、この引用にあるような認識というのは社会科学における「理論」とはどういうものなのかをもう一度捉え直す上で興味深い。おそらく、人間に関連している限り、社会科学の理論は「幻想」から逃れることはできない。そのことを踏まえて、あえてその理論を組み立てる。その意義は、なんらかの発展的な認識をもたらすことであり、そしてそれが絶対のものでないという形で懐疑主義を貫く――これが社会科学の「理論」の立ち位置になるのではないかと思う。

  • 印象に残った文章
    49「芸術を保護するわけにはいかない。文化保護主義的傾向が強まるほど、ゴミのような作品が多くなり、偽りの成功や偽りの価値の高等が増えてくる。」
    50「これまで、芸術は、世界を超越しようという意思、事物【事象的世界】に例外的で、崇高な形態をあたえようとする意思をもつという意味で、思い上がったことがらだとされてきた。芸術は、精神世界を支配するひとつの論証となった。」
    80「私は、芸術がますます思い込みが激しくなっていると感じる。芸術は、生活=人生そのものになろうとしたのだから。」
    182「これからの現代アートは、色褪せて有毒な多幸症的雰囲気の中を漂い、明晰さの稲妻に痛ましくも貫かれ、睡眠状態で夢遊病的にふるまうだろう。完全に死に絶えたのではないが、ほとんど生きているとはいえず、それでも永遠の花盛りを装うのだ。」
    184「現代アート~ 実際に「無価値・無内容」になってしまったという事態を、メディアや大衆に隠し通すために、あえて「私は無価値・無内容だ」と言い張ることで、「そこには何か意味があるにちがいない」と思わせるという「芸術の陰謀」」
    199「その先の可能性について、ボードリヤールは何ひとつ語ってはいないが、彼の、いわば無責任な挑発を受けたアーティストたちから、予測不能な未知の提案がなされることを、JB(ジャン・ボードリヤール)は秘かに期待していたのだ」
    200「JBは、一見そう思われるように、消費社会論から出発して、その後現代アート論に到達したということよりはむしろ、彼の消費社会論自体が、最初から現代アート論の要素を含んでいたことになる。」
    204「私はもはや進歩的で肯定的な行動を求めはしない。極端な現象の中に、否定的あるいは逆説的な除反応を求めるのだ。それは挑発という戦略であり、もはやユートピアや想像力の世界を祈祷するたぐいの戦略ではない。」
    206「彼がたどりついたのが「世界とは、われわれが考えているようなものではない。逆に、世界のほうがわれわれのことを考えているのだ」というアイディアだったのではなかっただろうか」

  • 現代芸術の一消費者として、とても刺激的な論考。塚原さんの解説部分も秀逸。
    今日の芸術は無意味であることをおおっぴらにすることで、とはいいつつ、ホンマはなんかあるんでしょ?理解できない僕らが未熟なだけで、と思わせることに成功した、という第一の陰謀と、さらにもう一つ。改めてJBを読んでみれば、それも理解できるだろうか。

  • 芸術の陰謀
    『芸術の陰謀』に関するインタビュー
      アンディ・ウォーホルからの出発
      私は古い美的価値にノスタルジーをもたない
      コメディア・デラルテ
      ユートピアと未来の先取りの間の芸術
    美の幻想と幻滅

    現代アートのキーワード  塚原史
    『芸術の陰謀』というボードリヤールの陰謀

    現代芸術をシニカルに分析し、その芸術性に対する失望とそれでもどこか希望を捨てていない、、、なかなか面白かった。

著者プロフィール

【著者】ジャン・ボードリヤール :  1929年生まれ。元パリ大学教授(社会学)。マルクスの経済理論の批判的乗り越えを企て、ソシュールの記号論、フロイトの精神分析、モースの文化人類学などを大胆に導入、現代消費社会を読み解く独自の視点を提示して世界的注目を浴びた。その後オリジナルとコピーの対立を逆転させるシミュレーションと現実のデータ化・メディア化によるハイパーリアルの時代の社会文化論を大胆に提案、9・11以降は他者性の側から根源的な社会批判を展開した。写真家としても著名。2007年没。著書に『物の体系』『記号の経済学批判』『シミュラークルとシミュレーション』(以上、法政大学出版局)、『象徴交換と死』(ちくま学芸文庫)、『透きとおった悪』『湾岸戦争は起こらなかった』『不可能な交換』(以上、紀伊國屋書店)、『パワー・インフェルノ』『暴力とグローバリゼーション』『芸術の陰謀』(以上、NTT出版)、ほか多数。

「2015年 『消費社会の神話と構造 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジャン・ボードリヤールの作品

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