人間は料理をする・下: 空気と土

  • NTT出版
4.20
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757160590

作品紹介・あらすじ

料理は人類最大の発明である。人類は料理のおかげで高度な文明を築けた。しかし今、加工食品を買い、料理をしない人が増えている。これは人類に重大な影響をもたらすのではないか?
この問題を考えるため、フードジャーナリストである著者が、料理修業に旅立つ。愉快な料理修業を通じた多くの気づき、ユニークな料理人たちとの出会い、そして深い教養に裏打ちされた文明論が満載。料理という世界の奥深さを知ることができる(巻末にレシピも掲載)。

感想・レビュー・書評

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  • 人間を他の動物から隔てたもの——料理。原始からの調理法を火・水・空気・土の四大元素に振り分け、さまざまな料理の専門家に弟子入りした体験記と、神話学や考古学、食文化史と最新科学を行き来して「人間にとって料理とは何か」を考えるノンフィクション。


    面白かった!導入部は現代アメリカの一般家庭における料理時間の短さを憂慮し料理の意義を問い直す、という感じのカタい印象なのだが、序章が終わると多様な話題を連想で繋いでいくスタイルのくだけたエッセイになる。
    火の章では豚の丸焼きバーベキューのピットマスターに弟子入りし、水なら煮込みと蒸し煮のプロに、空気ではパン職人、土では修道院でチーズを作るシスターに実地で学び、家で再現を試みたレポートが各章のメイントピックになっていて、この素人料理体験記部分がまず面白い。豚の丸焼き(ホールホッグ)バーベキューはアメリカ南部で「本物のバーベキュー」とされていて、人種を超える伝統食だという歴史認識がある料理とのこと。知らなかった。
    上巻は火と水。肉を焼く火の料理は古代の儀礼と結びつけて語られる。人は神への供物として家畜を焼き、煙を神に捧げて焼けた肉は共同体で分け合った。それは肉を食らうことに伴う攻撃性を昇華させる儀式でもあったのだろう、と著者は豚の丸焼きを手でほぐすという重労働に勤しみながら考える。
    火の料理が野蛮さを内包し、人びとを昂奮させるハレの存在だとすると、水の料理は反対に秩序と調和をもたらすケの存在。今度はテヘラン出身でレストランの副料理長経験もある女性の個人レッスンを受け、煮込みと蒸し煮のレパートリーを増やしていく。
    ここでは鍋(土器)の発明が人間にとっていかにエポックだったかが力説される。食べ物をやわらかくし消化しやすくする鍋は「第二の胃」であり、人間の食域を広げ出生率と寿命を引き上げた。血の痕跡を消し去る煮込みは、人工的で文明的な料理の誕生を告げるものだった。
    そもそも本書は〈料理仮説〉に基づいているのだが、料理仮説とは、ホモ・サピエンスは料理することで他の動物よりも咀嚼や消化の時間を短縮し、顎や内臓が小さくても済むようになった結果として大脳が肥大化したという説だそうだ。つまり人間を人間たらしめているのが料理であり、それは出来合いを食べるのではなく作り方や材料を知ることも含めるという思想。そのため、いわゆるテレビディナー的な冷食は文中でコテンパンに否定される。
    下巻は空気と土。どちらも発酵を取り扱っている。空気はパンを膨らませる発酵で、土は腐敗と紙一重の発酵。
    空気の章はパン職人の話も面白いのだが、それ以上に精白小麦粉をめぐる本末転倒の話が人間の欲望のおかしさを物語っていて興味深かった。発酵は微生物との共同作業なのに、精白小麦粉は"不純物"を取り除き、不確定要素をなくし全てをコントロール可能にしたいという欲望に応えて生みだされた。あまつさえ、全粒粉の状態から取り除いた栄養素をあとから添加物で補ったりしている。我々は一体何をコントロールしようとしているのか、とワンダーブレッドの工場に取材した著者は問う。消費者のニーズに合わせて発展してきたはずなのに、漫然と買い物をしている消費者自身が欲望の目的すらも見失っているのだ。
    土の章ではチーズ、漬け物、アルコール類が俎上にあげられ、食べ物の長期保存を可能にした発酵技術を擬似的な死に見立てて考えていく。発酵食品のカリスマがいるサークルに取材したり修道院のシスターにチーズ作りを学んだりするのだが、発酵に携わる人は宗教色が強い。完全にはコントロールすることができないものに身を委ねるせいだろうか。人は発酵食品を食べることで善玉菌を腸内に取り込み、彼らと共生し代謝を任せてきた〈超個体〉であり、発酵食品と人体は似ているのだ。
    料理を作って食べ、学んで書くという全ての動作が渾然一体となったようなテンポの良い文章と魅力的な食べ物の話が楽しかった。家庭で料理をする場面では息子との交流が描かれ、実家をでる歳が近づく息子とビールを仕込むエピソードはそこだけで良質なエッセイとして読める。性役割と料理については踏み込みきれてない印象だが、サミンやシスター・ノエラのような女性の弟子に就くことで料理の創造性と女性を結びつけようとしたのかもしれない。

  • ビールを自分で、家飲み用に作れないかな? と思ったら、日本じゃ商売用じゃないとダメなんだと知ってガッカリでした。著者のマイケルは楽しそうだなぁ。
    この本を読んで、考えたことも無かったけど、今度キムチを作ってみようかと思ってます。

  •  下巻では発酵のことが主に描かれている。アルコールのこと、漬物のように野菜を発酵させること、パンのこと、ヨーグルトのこと。上巻のバーベキューや煮込み料理と比べると、ちょっとどぎついような食べ物もたくさん登場して、それはそれで面白い。私にとっては興味がそそられる内容だった。

  • 2024年3-4月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00511691

  • 小麦礼賛の世界で育ってないし、大体酒を作るということが全然身近ではないのに、なぜこんなに面白いんだ、、、

    サワードゥブレッド作ってみたいな

    あと上下通して、「つくる」ことは独立心と全能性(自分の能力に対する自信)を感じることって言っていて、私の創作とか料理とかを好む一つの理由にそれあるなーって腑に落ちた

  • わかりやすく具体的な内容で、上巻の「火と水」と併せて読み終えるまであっという間でした。
    土の項で発酵は死に向き合う作業という一文にハッとしました。

  • 【所蔵館】
    羽曳野図書センター

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000940519

  • パン作りは発酵ではないのか?

  • 下巻は土と空気。→パンからの発酵。パン!天然酵母の培養(と言うか給餌)からの、全粒粉でのパン作りのあれこれ。発酵中のパン種の香りの描写が、本当にたまらなかった(笑) 巻末にレシピがあるのだけど、本文全体が壮大なレシピのような。

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著者プロフィール

作家、ジャーナリスト、活動家。ハーヴァード大学英語学部でライティング、カリフォルニア大学バークレー校大学院でジャーナリズムを教える。
著書に、国際的にベストセラーになった『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社)、『人間は料理をする』(NTT出版)、『欲望の植物誌』(八坂書房)、『幻覚剤は役に立つのか』(亜紀書房)など。『人間は料理をする』『幻覚剤は役に立つのか』はNetflixのドキュメンタリー番組となり好評を博す。
人類学、哲学、文化論、医学、自然誌など多角的な視点を取り入れ、みずからの体験を盛り込みながら植物、食、自然について重層的に論じる。 2010年、「タイム」誌の「世界で最も影響力を持つ100人」に選出。受賞歴多数。

「2023年 『意識をゆさぶる植物』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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