ビッグトレンド―ITはどこへ向かうのか

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757216792

感想・レビュー・書評

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  • メインフレーム、オープンシステム化、Web化、そしてクラウドコンピューティングという、IT業界における4つのパラダイムシフトを解説している。

    クラウドコンピューティングの根幹を支える「マルチ・テナント方式」が運用管理コストまでを下げるという点に言及している点が読めたのが新たな気付き。仮想化技術によるコンピューターリソースの有効活用といった切り口で語られることが多いクラウドだが、サービスを提供するユーザー企業を抱えれば抱えるほど、運用管理の手間を省力化でき、「規模の経済」が働く新たなビジネスモデルという考察は、今まで読んだことがなかった。
    今やクラウドコンピューティング(SaaS)をちゃんと理解している企業にとって、種々のデータを外部の企業に預ける方が、リスクが下がるという指摘も興味深い。これらは実際にクラウドを情報システムに取り入れたりプライベートクラウドを企業内に構築しようとしている企業に多い考えだと想定できるが、部門ごとにばらばらになった情報システムを個別に運用するよりも、クラウドを取り入れた方がリスクを回避できるという考えは、中堅・中小企業にも広く知れ渡ってほしい。

    オーバーシューティングという考え方も新たな発見。PCを購入する人の大半がその機能を100%使えるわけではないように、サーバやストレージも高機能化するわりに、それを使いこなせないユーザー企業が多い。結果としてハードウェアが壊れない限り、機器の買い換えは起きないし、ソフトウェアに至ってはずっと使い続けるのが当たり前になりつつあるという指摘。つまり高度な技術化はさまざまな機能の高度化をもたらすが、実はそれを必要としている企業はそれほど多くないということ。そしてこの常識にとらわれないビジネスモデルが、最低限の機能を月額で切り売りできるクラウドコンピューティングというわけ。そう考えると、企業分野におけるクラウドは、システムインテグレーターやソフトウェア会社の事業をいやがおうにも変えていくのだろう。

    上記の4つのパラダイムシフト。それを著者は「4つの波」と紹介している。IT業界の基盤を根底から変える潮流がそれにあたり、約15年のスパンでこれらの波が「寄せては返す」という変化を遂げている。波は衰退せずに、市場における一定のポジションを確立していくのだという。確かにメインフレームは今もなお企業で稼働し続けているミッションクリティカルな情報システムだ。

    本著の最後は希望論で終わる。クラウドコンピューティングはこれまででもっとも大きなパラダイムシフトを引き起こすものと位置づけ、それがこれから十数年続く。IT業界の未来は予測しにくいものとしながらも、パラダイムが本当にシフトしたときにどういった業界の秩序が生まれるのかについて、期待を寄せている。IT業界を観測する仕事に就いている自分にとっても、クラウドという革新が企業をいい方向に変えるドライバであってほしいと切に願っている。10年後、IT業界はどうなっているのだろう。不安よりも期待の方が大きいのは言うまでもない。

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著者プロフィール

1957年、東京生まれ。東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。現在、慶應義塾大学経済学部教授。専攻は計量経済学。著書に『ゲーム産業の経済分析』(共編著・東洋経済新報社)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房)など。

「2019年 『ネットは社会を分断しない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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