火星ダーク・バラード

著者 : 上田早夕里
  • 角川春樹事務所 (2003年11月発売)
3.58
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  • 163人登録
  • 42レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758410212

火星ダーク・バラードの感想・レビュー・書評

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  • 第4回小松左京賞受賞作。


    登場人物や物語の筋以上に世界観を重要視する僕だけど
    この作品はスゴい!

    地球の1/3の重力で一年の長さは
    地球の倍という火星。
    砂嵐と薄い大気と極端な寒さの火星に住めるよう
    地球の空の色を模した天蓋が守り覆う巨大な密閉型都市。

    ロケットに頼らず
    地上と宇宙で荷物の上げ下ろしや
    人員のやりとりができる軌道エレベータ。

    自動運転で目的地まで着く未来の自動車、電動ヴィークル。

    巨大なハイウェイと
    高速で走るリニアモーターカー。

    派手な動画CMをチカチカと表示しながら
    ビルの谷間を浮遊し移動する企業の広告ボード。

    街の至る所で活躍する
    24時間稼働で働く
    清掃ロボットや建築ロボット。

    携帯電話の進化版で、
    腕輪のように着脱可能な小型情報端末装置「リスト・コム」。

    首の後ろに貼り付けるだけで
    相手の動きを封じる「麻酔シート」。 

    地球、月、火星在住の
    あらゆる民族が混血した新しい人種「ユニヴァース」。

    そんなリアルで圧倒的なまでの未来の火星の設定と描写は、
    フィリップ・K・ディック原作の
    「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を映画化した
    カルトな傑作『ブレードランナー』や、

    同じくディックの「追憶売ります」を映画化し
    こちらも火星を舞台にした『トータル・リコール』の
    サイバーパンクな近未来の世界観に匹敵する緻密さだ。

    その昔、「SFは絵だ!」と言ったのはSF作家の野田昌宏だが、
    作品の評価を決定づけ
    文章の隅々から映像が浮かんでくるリアリティこそがスゴいし、
    (嘘をホントに見せる為にはまず、圧倒的なディテールの確かさが必要なのだ)

    新しい世界そのものを創り上げる
    上田早夕里の創造力がとにかく、素晴らしい。


    火星治安管理局員・水島烈は同僚の神月璃奈とともに、
    凶悪殺人犯ジョエル・タニを護送中、
    何者かの襲撃を受けて意識を失う。
    意識を取り戻した水島を待っていたのは、ジョエル・タニ逃亡の知らせと無惨な死体となった璃奈の姿だった…。
    捜査当局から疑いをかけられた水島は、自らの潔白を証明するため、個人捜査を開始する。
    ほどなくして、事件の真相を知っていると語るアデリーンという美少女と出会った水島だったが、
    だが、すでに事態は
    二人の力だけではどうしようもない方向へと向かっていたのだった…。


    火星治安管理局で強行犯の捜査を担当する刑事、
    水島 烈(みずしま・れつ)、30歳。

    水島の相棒で
    28歳の美人捜査官、神月璃奈(こうづき・りな)。

    火星生まれ火星育ちで、
    ダークブロンドの髪と陶器のように滑らかな白い肌、
    薔薇色の唇とけぶるような長い睫毛を持つ、
    15歳の美少女アデリーン。

    神月を殺害したのは水島だと思い込み
    彼を憎みながらも、
    逃亡者となった水島を次第に支援していくユ・ギヒョン。

    火星総合科学研究所生命科学部門部長で
    アデリーンの父親でもある
    科学者グレアム・E・バンクス。


    など、誰が悪で誰が善といった単純なものではなく、
    敵役も含め、それぞれがそれぞれの正義や信念に基づきひた走る
    登場人物たちの魅力もさることながら、

    タイトルのダークバラードが示すように
    物語に息づくハードボイルドの香りに
    僕は酔いしれてしまった。


    そして、他人の思考を無意識下で読み取ってしまう『超共感性』という能力を持ったがために、
    苦悩し葛藤するアデリーンの哀しみが
    終始胸をとらえて離さなかった。
    もし、僕が彼女の立場だったなら
    人生を悲観し、モンスターである自分に耐えきれず、
    汚ならしい言葉を尽くして神を呪ったに違いない。


    「楽しくて賑やかなものは好きだけど、
    明るくて軽いばかりの、薄っぺらなものは嫌い。
    時々は、暗くて重いものに身を寄せていないと不安になるわ。
    ゆっくり眠りたい時って、完全に電気を消すでしょ。あんな感じかな」

    というアデリーンの言葉が、
    人間がなぜダークな物語を欲するのかを上手く言い表していて共感した。


    それともうひとつ、印象に残ったのは、
    誰かの悪意によって
    宇宙空間に一人放り出されたアデリーンの父、グレアムの少年時代の話が本当に怖かった。

    音もなく真っ暗な宇宙を一人漂い、
    圧倒的な孤独の中、人間の弱さと愚かしさと恐ろしさを嫌というほど思い知らされた、16歳のグレアム。

    争いを憎み、新しい人類を作り出そうとした彼の気持ちを
    否定できる人などいないのではないか。


    様々な思いや思惑を情感豊かに描いた物語は下手な作家が書けば、
    とたんに重苦しくなってしまうのだが、
    上田早夕里は一味違う。

    火星治安管理局からも追われる身となり、
    一人濡れ衣を晴らそうと戦う水島の姿は
    ハリソン・フォードの主演の映画『逃亡者』を思いださせ手に汗握るし、
    スピード感みなぎる展開とリズム感に優れた文体が
    ページをめくる手を止めさせてくれない。
    (これこそが名作の証ではないか)



    神月璃奈を撃ったのはいったい誰なのか?
    アデリーンの苦悩は解消されるのか?

    そして、水島が最後にたどり着いた驚愕の真実とは…。


    文学は言葉のみに作られるにあらず。
    その底で鳴っている音楽をいかに聞き届けられるかだ。


    この作品にはバラードが鳴っている。

    それも、とびっきりダークなバラードだ。


  • 人類が地球を飛び立ち、宇宙ステーションで、さらに火星で生まれ育つ時代。
    地球からの移民で、火星治安管理局員の水島烈と相棒の神月璃奈は、凶悪犯を護送中、突然の襲撃を受ける。意識を取り戻した水島は、殺人犯の逃亡を幇助し、璃奈を射殺した疑いをかけられてしまう。
    自らの無実を証明するため、独自の捜査を始めた水島の前に、事件の真相につながる手がかりを持つ美少女・アデリーンが現れる。

    アデリーンは、水島たちが受けた襲撃は、自分が凶悪犯の意志に共振し、精神波を暴走させてしまったために起こったのだと知り、水島の力になりたいのだと言う。
    アデリーンは、火星の研究機関で遺伝子操作により作り出された、「プログレッシヴ」と呼ばれるデザインド・ベイビーたちのひとりだった。

    水島と出会い急速に能力を発揮し始めるアデリーン、水島を始末して真実を隠したい治安管理局、アデリーンを制御するために水島を利用しようとする遺伝子上の父親…
    ふたりは真実にたどり着き、自由を手に入れられるのか?


    上田早夕里さんのデビュー作、第四回小松左京賞受賞。読もう読もうと思いながら、ついつい近作から読んでいたので、ようやく読めた。

    これがデビュー作!という驚きと、『華竜の宮』などの他の作品に通じる、ヒトという種の未来を見通そうとする想像力が垣間見えて、とても興味深かった。
    SFを読んだー!という満足感に浸れた。
    地球環境を操って、ヒトの都合にだけ合わせようとすることも、遺伝子操作で都合のよいヒトを作ろうとすることも、どちらも根っこは同じこと?

    そして、水島烈の硬派な男っぷりと不器用っぷりのアンバランスさ加減がいい!
    そのアンバランスを丸ごと知った上で、なお真っ直ぐに水島の事を思うアデリーンがいい!
    ボーイ・ミーツ・ガールの物語としては、璃奈に寄せる水島の感情や、璃奈の婚約者とのアレコレが少し余分な味付けだったかも。


    読了まで、レビューを読むのを我慢してたのを解禁。
    えーっ、文庫版と違うの?
    どひゃー、それも読まなくちゃ。
    貴重な情報をありがとうございます。

    間違えて自分でいいねを押してしまったー。

  • 文庫を先に読んだ。
    大幅改訂されているうえに結末まで違うとなれば、こっちも読むしかない。
    ・・・が、絶版なのか品切れなのか、新本が手に入らない。古書・中古も見つけられず、蔵書のあった遠方の図書館から相貸してもらってやっと読めた。嬉や。

    結論からいうと、文庫版のほうが好き!
    こちらはラブストーリー色がやや強め、文庫はハードボイルド色がやや強め。
    ここまで変わると同じ作品と言っていいのかどうか。

  • ドキドキして夢中になって、読み終えた今でもまだ心臓がドキドキしてる。異種族SFであり、科学であり、少女とおっさんの恋でもあり、ハードボイルドと謎があり、未来があり、愚かさもあり、自由を求める気持ちがある。アデリーンの意志が姿が心に浮かぶようだった。

  •  ジョン・カーターの火星とはなんと違っていることか。

     上質の日本製コミックかアニメを見ているような印象でページをめくっていく。
     表紙の絵のせいなのか。
     昔読んだ大友克洋の「AKIRA」や「童夢」と印象がかぶるせいなのか。

     小松左京の本を探したが見つからず、たまたまタイトルに引かれて手にとって見れば「小松左京賞受賞作品」の文字。偶然か、必然か。
     未読の作者であったが、そのまま持ち帰ることに決めた。

     思えば、SFと言えば海外の、しかも古い作品ばかり読んでいる。
     それらに比べると、うまいというか、緻密というか。
     ジョン・カーターならもはや逃げ切ったろう、という状況の奥にさらに危機が待っている。今の読者にはこのぐらいでないと満足してもらえないのか。

     作者の略歴を見るとほぼ同世代。
     あながち「AKIRA」をイメージさせるのも根拠のないことではないのかも。
     あるいはデッガードが夜の街を走り回る「ブレード・ランナー」か。

  • 火星と少女とおっさんのお話。まぁ言うほどおっさんではないのですが…。

    怒りや憎しみよりも、恋する気持ちのほうが強いという方向で進むと思っていたので、自分的には最後の方の展開は少し微妙でした。

  • SF。サスペンス。ハードボイルド。ロマンス。
    SF要素よりも、主人公とヒロインの人間ドラマを中心に描いた作品。
    異なる惑星が舞台でも、権力に逆らえず自らの欲望に忠実な人間の愚かさは変わらない、というのが印象的。
    序盤は入り込みにくく、終盤はアクションシーンが好きではなかった。中盤の、主人公が事件の真相を探る展開が好み。
    評価は☆3.4くらい。

  • 3.5

  • 「華竜の宮」の上田さんのデビュー作と云う事で、はずれでないだろうと思い、いつ読もうかあたためていた一冊。
    大事に読むつもりが一気読みしてしまった(笑)

    一作目と云うだけあって、若干文章も展開もソフトで読みやすいと思いました。鋼の様に重厚でいて繊細な細工物の様な文章は、この作品からスタートして作られていったんだなあと、著者の歴史を感じました。

    人と技術の調和とか、人による人の進化とか、そう云う世界観は上田SFぽくて読んでいて心地良かったです。好きな人は、本当に一気に楽しめる一冊です。

    カナビスさんの表紙に惹かれて単行本を手にしてしまいましたが、文庫版は改変が有ったとか!?ああそっちも読まなくちゃ(笑)

  • 命の価値を考えさせる重いテーマですが、テンポよく読める冒険譚でした。世界設定もこういうのは好きです。

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