キャベツ炒めに捧ぐ

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.51
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758411790

感想・レビュー・書評

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  • 年を重ねるにつれて、良いことも悪いことも、本当に様々なことが降りかかってくる。
    それらは、その場に置いていくことができればいいのだが、なぜか現在まで背負い続けて大人になってしまったものだ。
    悪いことはネチネチとついてくるし、良いことも時には自分を縛る呪いみたいなものになりかねない。

    まったく年をとる、というのは厄介だ。

    「キャベツ炒めに捧ぐ」の中心人物も、漏れなく人生経験が豊富な3人である。
    惣菜屋を開店した際の相棒に前夫を奪われた江子。
    子どもと夫と死別した郁子。
    幼馴染と複雑な距離感の素直になれない麻津子。

    それぞれが大人の事情を抱えて、ここ家を中心に生きていく。

    最初にこの本を手に取ったときは、不思議なタイトルだと感じた。
    キャベツ炒めに捧ぐ。何を?キャベツに捧げるのか?

    それは読んでいるうちに、なんとなく腹に落ちてきた。

    捧げる。
    (1)献上する
    (2)自分の持つすべてを惜しみなく、ある対象につぎ込む
    (3)まごころや愛情を通して相手に尽くす
    調べると、[捧げる]にはこんな意味があるようだ。

    それでは、キャベツ炒めとは、
    江子が新婚初夜に前夫に作ってもらったものがキャベツ炒めということを考えると、想い出なんじゃないか。
    良い想い出、鮮やかすぎる想い出が江子を前に進ませてくれないでいる。
    郁子にも、本人にとっては悪い想い出として残っているものが、躰に堪っているように思える。
    麻津子にとっても、幼馴染との昔の想い出が今を邪魔している。

    また、一方でキャベツ炒めはこの本の中心でもある、料理だ。
    料理は3人の人物にとって、仕事であり、生活であり、自分なんだと思う。

    となると、
    キャベツ炒めは 想い出であり日常
    捧げたものは 時間であり、愛情であり、その時々の自分だろう。

    生きていれば良いことも、良くないこともたくさん経験するだろう。
    生きるのが上手い人は、上手に処理しながら生きていけるのかもしれない。
    でも、私は生きるのに不器用な人間だから、知らず知らずのうちにすべてを背負ってきている。

    その想い出や過去の日常が、今の私を引き留めることも多々ある。
    あまり楽しいものではない。

    だけども、毎日は続いていく。
    ここ家の3人のように、何かのきっかけで想い出が背中を押してくれることがあるかもしれない。
    決して、背負ってきたものは悪いものではない筈だ。

    "何かのきっかけ"の一つのように、そっと背中を押してくれる一冊でした。
    この本を読んで、まだ背中が丸まっている人は、暖かい料理を誰かと食べよう。
    キャベツ炒めでも。

  •  誰かのためにご飯を作る
     誰かと一緒にご飯を食べる
     おいしいものをおいしいと感じられる
    そんな毎日が実はとっても幸せなことなのだと、そんな誰か(家族、友人など)がいてくれることにもっと感謝しなくてはと、あらためて思った。

    今日はいつもより愛情こめて(マンネリじゃなくて手をかけて)ご飯を作ってみよう。
    茸の混ぜご飯、ひろうす、キャベツ炒め、焼き穴子の入ったちらし寿司…食べたくなるメニューがいっぱい。

    井上荒野さんの本はまだ2冊目だけど、すきっとした書きかたが好き。
    さらっとしているようで、どこか温かい。

  • 文句なしに面白かった。
    女っていくつになってもじたばたしてて笑っちゃう。
    ドラマ化とか映画化してくれるといいけど。
    井上さんのエロくない作品て面白くていい。静子の日常もよかったけど、これはもっといい!

  • 中年〜高齢の女性3人の物語。
    出てくるお惣菜が美味しそう。

  • 個人的な思い入れも相まって、お気に入り一冊です。
    生きてきたぶん、色んなことがあって今もこれからもそれを抱えて生きていくー、
    あっけらかんとしていて、それでいてとってもチャーミングな生き様はなんだかかっこいい。
    付かず離れず、深入りせず、でも倒れそうになった時にはやっぱりその存在に助けられる、な3人の関係性も、かっこいい!笑
    『なげやりなあさりにがんばるあさり。どちらにも江子は好感を持って接している。だっておいしいもの。』
    そんな3人とおんなじくらい主役の料理たち。出来立ての湯気が目に浮かんで、ここ家が恋しくなります。

  • 読み終わるころには、3人のことが好きになってる。
    ここ家のお惣菜が食べたい。ごはんの描写が、美味しそうで。

  • 東京私鉄沿線の小さな町の商店街の中にある惣菜屋「ここ屋」
    手作りの季節の料理を出すその店を切り盛りするのは60代の3人の女性。
    オーナーの江子と従業員の麻津子と郁子。
    三人の名前を合わせて来る、待つ、行く。
    それに三人が心ときめかす出入りの米屋の青年、進を合わせて、ロイヤルストレートフラッシュ。
    などと冗談を言う明るい性格の江子。
    だけど、彼女は今だに別れた元ダンナに未練があり何かと連絡を取ってしまう。
    他の二人も同じくそれぞれに訳ありの過去をもち孤独な生活を送っている。
    その生活にささやかな花を添えるのが決して豪華じゃないけど丁寧に作られた心づくしの料理たち。

    茄子の揚げ煮、茸入り肉じゃが、秋鮭の南蛮漬け、蒸し鶏と小松菜の梅ソース、白菜とリンゴとチーズと胡桃のサラダ・・・。
    想像しただけで美味しそう~。
    どれも家庭料理のメニューだけど、梅ソースとか胡桃を使うだとか、作る人がちょっと、ひと手間入れたいんだってこだわりと料理が好きなんだって事を感じる。
    それに、旬の食材を使っているのが素敵。
    こんな料理を日替わりで食べたられたらどんなにいいだろう~。
    近くにこんな店あったら絶対行くよ~。
    まるで文章からほかほかと料理の湯気が立つようでした。
    とても読みやすい文章で知らないうちに、あれ?こんなに読んでた・・・という感じです。

    ただね~、いくら何でもこの3人、60代にしては幼くないか?と思いました。
    言葉遣いといい、行動といい、年齢を知らないと20代か30代くらい?と思ってしまう。
    彼女たちよりは若い私だってこんな言葉遣いはしないゾ。
    それに、いくら何でも自分の息子(下手したら孫!)くらいの歳の青年に3人が3人揃って熱を上げるかね・・・。
    その違和感がずーっと最後までついて回って入り込めなかった。

    所で、タイトルのキャベツ炒めですが、今まで作った事がないのに気づきました。
    野菜炒めなら作るけど、キャベツ炒めって地味すぎる。
    でもこの本を読むと作りたくなりました。
    あ、そうか。バターで炒めて醤油をたらすわけね・・・。
    それに卵を加えたら結構いけるかも。
    そんな風に料理のヒントをもらえたり、ちょっと丁寧に料理を作ってみようか、と思う本でした。

  • なんとなく切なくて、なんとなく悲しくて、でも、どこか温かい。
    誰かを思う気持ちというのは暖かくて、寂しくて、ちょっと辛い。
    不満だらけのはずの時間が、振り返ってみれば、幸せな時間だったりして、今を生きるって難しい。
    でも、時間はどんどん過ぎていくから、格好悪くても、今を頑張って生きるしかないのだ。

    • honaoさん
      本日のレビューですね。私もちょうどこの本を図書館で借りていて今手元にあるんです。あまりの偶然にびっくりしてレスしてしまいました。(^_^;)
      本日のレビューですね。私もちょうどこの本を図書館で借りていて今手元にあるんです。あまりの偶然にびっくりしてレスしてしまいました。(^_^;)
      2012/07/09
    • sorairokujiraさん
      honaoさん
      すごい!シンクロですね。
      感想、楽しみにしてます。
      honaoさん
      すごい!シンクロですね。
      感想、楽しみにしてます。
      2012/07/09
  • おもしろーい!

    来る、待つ、行く、進む。

    恋をしたり、未練があったり、後悔したり。
    いろいろあってもパワフルに生きるおばさん3人がとても可愛らしかった。

    ほんと、料理ってすごい。
    「ここ家」みたいなお惣菜屋さん近所に欲しいです。

  • 60歳前後の女性3人が営む惣菜屋、「ここ家」。
    郁子が従業員募集! の張り紙をみて応募してきたところから始まる。
    惣菜の味に惚れたということかな?
    3人3様なんです。そりゃそうか、いい歳ですもん、いろんなことがあったに違いない。
    それにしても出てくる料理がどれもこれも美味しそう。タイトルも食べ物ですしね♪
    3人それぞれの食の好みがあるので、同じ材料でも調理法などの提案が違うので面白い。
    色々な人生を歩んできた3人だからこそ、しみじみとした味わいがある。

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著者プロフィール

井上荒野
一九六一年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。八九年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞受賞。二〇〇四年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞、〇八年『切羽へ』で第一三九回直木賞、一一年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞、一六年『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『もう切るわ』『誰よりも美しい妻』『キャベツ炒めに捧ぐ』『結婚』『それを愛とまちがえるから』『悪い恋人』『ママがやった』『あちらにいる鬼』『よその島』など多数。

「2023年 『よその島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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