神様のみなしご

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 136
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758411912

作品紹介・あらすじ

『800』『夏のこどもたち』の著者が贈る、海辺の養護施設・愛生園を舞台にした「ワケあり」な少年少女たちの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「14歳の世渡り術」で推薦されていたので、読んでみた。
    少し内容も描写も目を背けたくなるようなところがあるけれど、逆にそこなのかなぁ、と思った。14歳に薦める理由。

    愛生園に住む色んな背景を持った子どもたちは、幸福とは言い難い。けれど、現実にはもっと悲惨な状況の子どもたちもいる。
    同じ年頃の大半の子どもたちは、そういう事が世の中にある、という事は知っていても、リアルに想像することなんてまずできない。

    本を読むことのメリットのひとつは、現実では知り得ない不快感情を体験するという事、と考えると、
    英雄譚や冒険物語を読むのと同じくらい、目を背けたくなる物語を読む事も、子どもの成長を促すものかなと思った。

    後半、恵まれない時代を経て、なお微かな希望にまっすぐに向いてる子どもたちの姿に、色々言われた愛生園でもやはり肯定される存在なんだろうなと思わされた。

  • 「児童養護施設に送られてきた不遇な子どもたちが作り上げる世界。それは鬱屈して、錯綜して、不安に満ちているけれど、それだからこそ、そこから生まれる希望は初々しくリアリティがある。逆境に生きる子どもたちの物語。」
    「川島誠は、現代社会のどこかに置き忘れたような場所に住む子どもたちを大胆に、やさしく、正々堂々と、細やかに描いていく。やりきれない虚しさ、くやしさ、怒りが充満する空間で、いくつもの物語がほかの物語とからみあい、何人もの子どもたちが交わるうちに、驚くほど豊かな感情が芽生えていく。暗そうな設定の作品なのだが、決して暗くない。それどころか、吹っ切れた爽快感がある。」
    (『10代のためのYAブックガイド150!2』ポプラ社 より抜粋)

  • 複数の登場人物の一人語りで進む構成は好み。

  • この連作短編をまとめた一書のタイトルは、もちろん神様が「産んだ」みなしごというのではなく(「父」であるとは言えるか)、神様以外にコネがない「みなしご」たちを意味する。彼らは、21世紀日本の新自由主義資本主義体制下でどう撫育されているか。ありがちな情景だが、ストーリー成立しているだけあって「リアルはもっと悲惨だろう」と思わざるをえない。


    子供は8歳までで(その可愛さで)親の恩を返し終わる。それから後は貸し借りなしの対等だ

    という言葉もある。そういう実感はある。


    産むのは女しかできない。男は一瞬、係るだけ。さて、生まれた児を育てるとなると。
    生まれた直後は、目も開かず全く無力。2〜3ヶ月で目が見え「目」(横に2つ並んだ黒丸も)にまっさきに関心を示し、ときに笑うようになる。無抵抗の生物が身を守る唯一の手段「かわいい」。
    そのころ「首がすわる」がそれまでは抱き上げるのに細心の注意が必要。
    1歳まではおもに乳を飲み、立つこともできず無力。
    伝い歩きからひとり立ちし、歩きだすと、重心が低いこともあってよく転び、同時期に歯も生えそろってきて「食べる」(とりあえず何でも口に入れる)こともはじまり、「目が離せない」。
    おおむね2歳になると会話がなりたつ、それまでは「言って聞かせる」ことはまずできない。
    『論語』には子路が孔子に「親の喪が三年というのは長すぎます、一年でもよいのではないでしょうか」と尋ねて、
    孔丘先生はあとで「子が独り歩きできるまでに三年はかかるのに、その恩を思わないか」とこぼした、とある(記憶のまま)。いまや、寿命は伸びて老々介護が常識ともなるとなかなか。
    【社会主義】の定義はさまざまだが、「資本主義社会が、窮乏化するプロレタリアートと生産手段を独占するブルジョワジーに分化する(ブルジョワジーは子女の社会階層上の位置を守るために高価な教育を施し差別化する)のに対し」《未成年の扶育は、〈社会〉が責任を持って行い、可能性を限りなく引き出す》(たとえば、億円単位の費用がかかるアスリート育成も国家事業として素質あるものを見出して個人資産に関わりなく行う。だからソビエトユニオン他社会主義陣営ははオリンピックで金メダル独占できるのである、というようなドグマ)

    「かわいい」=無防備、が唯一の自衛手段。
     思うに、「かわいい」と感じるのは、対象を「保護したい」衝動を感じているからだろう。アイドル歌手が下手な方が「応援してあげたい」と思うように。生活に余裕がなくて、ワンオペ育児を強いられて「かわいい」と思えなかったら?あるいは《負の連鎖》で、幼児期少年期の被虐待のトラウマが虐待につながったら?

    前置きが長くてすみません

    愛生園 浅田陽一 & 牧浦郷治 相川美優
     ミッション系児童保護施設「愛生園」は、戦後、戦災孤児の収容施設として発足した、らしい。両親を奪っておいて子供を餓死しない程度に保護しておくマッチポンプ的。日本のキリスト者が「200万程度にとどまる」のはその偽善性が忌避された所以ではないか

    施設の経営者と職員は、sophisticateした子供たちに内心嘲笑われている。

    この話のおもな語りて、浅田陽一は小学4年のとき父が出奔(あるいは、第4話でわかる母の浮気がバレて離縁)、母は連れ子を望まず、家庭崩壊して入所することになったらしい。現在は中3で、高校には行かず(定時制高校に行くという言及はないからおそらく)寿司職人として修行することがあとで明かされる。

    育児放棄らしい牧浦郷治が入所してくる。「6年生なのに3年かと思った」貧弱な肉体。
    かれの日記風の「朝から温かいトーストが食べられる。目玉焼きもあったりする、すごい」

    中1の相川美優の作文『園の一日』がはさまる。

    (朝礼があって)私たちを生んでくれた両親に感謝します過去には両親をキリスト教国の銃弾や爆弾で亡くし、両親をDV受けた児童の多いことを思うとまるでジョークだが、《幸福なるかな、貧しき者よ、神の國は汝らの有なり》(文語聖書)というような意味合いか?
    朝食…食事の間は、私語は禁止です。これは朝も昼も夜もいっしょです。そう言えば、昔の親は「黙って食え」とか言ったものだが。現代家庭は家族揃っての食事が一日一回ある家も半数未満ではなかろうか。一家団欒のdestroyerテレビジョンもないようだし、労働のように黙々と食事するとなるとまるで監獄だな
    夜、お風呂に…小さい子たちから、順番に五人ぐらいの組をつくって入ります…十五分と決まっています…終了三分前になると、先生が笛を吹きます、…髪の毛は、部屋に帰ってから乾かします。ますます刑務所を連想させる。部屋は三人部屋で、一部、二人で居住。抑圧のかいあって仲良くしているようだ

    彼女が父親に性的虐待を受けていたことを浅田は知る。

    サッカーしてたい 宮本A 宮本B、牧浦郷治
    新入りの双生児、宮本兄弟

    「前にいた中学では、人殺しって呼ばれてました。父が犯罪者だからです。本当は、人を殺してはなくて重傷です…相手もヤクザで…(父もヤクザ)」…「ぼくはBって呼ばれてました。人殺しのB。兄は人殺しA」
    と突飛な自己紹介をする。
    「ひとごろし」はニックネームとして長過ぎる。キラーか、ブッチャーbutcherではどうだろうか。ブッチャーは差別語と見なされる可能性があるが

    宮本兄弟は、ハイレベル少年サッカーチームのメンバーだったので、
    地域交流行事のトーナメント戦、いきなり愛育園チームの中心となって

    一回戦は「2対11でやっても勝てたかのな」

    二回戦は2−0で辛勝
    午後、先に3位決定戦をしてから、いよいよ決勝戦。
    後半、1−0でリードしてる相手が、ボディプレスで相川美優を雨上がりの水たまりにころがした

    (A)そりゃ、あのくらいは、ふつう、ルールでは許される。…
    でも相手は(中1の)女の子だぜ。…11番たら、それで、仲間の方むいて、へらへらしてるじゃないの。完全に遊びで、ぶつかりにいったね、あれは。ただ、ふざけて、やったんだ…

    …「いいか、俺がやる」浅田が言う。

    (A)浅田さん、そりゃないですよ。倒れたやつの顔を蹴り上げたらいけない。…
    Bがうまく倒したと思ったら、そのあとに連続攻撃なんてねえ。
    俺なら、もっと、目立たないようにやりますよ。
    「汚えぞ、愛生園」/「フェアプレーでいけよ」どの口が言うか 
    ほら、Bと浅田さんのせいで、チーム全体が、反感、買っちゃったじゃないですか。
    本来、俺は、みんなから愛されるプレーヤーのはずなのに。

    サッカーというのは「そんなスポーツ」で、愛生園の一体感が強化されたようだが、指導者もし居るとすればは「レッドカード一発退場」についてどう指導すべきだろうか。

    試合はホイッスル直前に追いつき、PK戦で勝つというありきたりの展開だが、俺なら試合をぶち壊して乱闘にしてしまえ、遠慮するな。と言うな。

    神様のいるところ 前川裕貴
    「大きくなったら、お父さんそっくりになるわよ」その父は他所に女をつくって出奔したことがわかっていて、左の言を吐く「まわりのおとなたち」の神経がわからん
    父の写真は一枚も残っていなかった…母が処分した…二度と父が戻ってこないとわかったところで。死んではいないらしい。艶福家であるのに養育費支払いどころか連絡もないらしい。母は不特定多数相手の売春で生計を立てることとなった。「まわりのおとなたち」とは一帯のsex workers とそれに飲食などサービスを提供する業者らしい
    「川沿いの…同じ形をした小さな建物が並んでいる…二階建てで細長い」大阪市西成区飛田の「飲食街」(橋下徹元市長の前身はここの顧問弁護士であった)に似たシステム、だが女衒がいないようだ。応諾交渉を本人がするのが事故を招いた
    「ベトナム、増えてるんだって?いまじゃフィリピーナと同じくらいいるって」

    母が殺されたとき、四年生だった

    客と何かのトラブルがあったようだ、とあとで聞いた。たぶん、母が見込み違いの客を二階に上げてしまい、口もきかなくなったからだろう。子供の考察ではないような気がするが、もう小学生6年で《性欲→獣欲=破壊衝動》を知っているのか。
    「あの子たちは、ここにいられない。オーバーステイ…」「これじゃ、街もさびれて、あたしらの商売もあがったりだよその商売で多くの家庭が破壊されたのではないかな。あんたの
    お母さんも、とんだことをしてくれたもんだ。えらい迷惑だ遺族に向かって言う言葉か?…」ぼくは、母が死んでから、はじめて泣いた。
    (中略)
    ぼくは、小学校を卒業したら、愛生園を出…全寮制のキリスト教の学校に進むことになった…

    カトリックの聖職は非婚の誓いをするのが普通だが、『デカメロン』にもあるように、暇があり体力のある人材は…
    かなり冒涜的な結末

    内緒だよ 浅田陽一 ふたたび
    浅田陽一の入所の経緯。
    母の密通らしいが、彼も性的いたずらを受けていた。両刀使いか。

    カモメたちの歌 前川裕貴 ふたたび
    さかのぼって、前川裕貴の入所の経緯が語られる。
    母が会うのを拒絶されたのは誰。いかついホテルマンが「×✕さまも、悲しまれると思いますよ」とすでに娼婦に堕ちた母に言ったのはどんな事情?

    「×✕さま」…いまになって考える。それは、父の名前だったのではないだろうか。ぼくは、このとき、父の名を知るチャンスを失ってしまったのだ。小学生はそう思うか。俺は、かりに決別の原因が母にあったとしても養育費を払わない事由にはならないと思うが。ヤリ逃げ正当化しているとしら、子供には読ませられない悪書だな

    ステンドグラス 谷本里奈
    彼女が小学校5年、妹・理沙2年のとき、個人経営と言えないぐらいの街有数のProducerは倒産し経営者だった父は母と入水自殺した。
    よくある話で、提携先の中国企業に騙されたらしい。結果論で社長が責められるのは仕方ないが、それを小学生の娘の耳にまで入れるのは心無い。
    母の実家に頼ったが、祖母になぜか妹と差別をつけられ嫌われ、彼女だけ愛育園に入れられることとなった。

    心中は、誰かをかばってのことだったのだろうか。それとも支那の工作員の詭計の可能性もある、経営陣の一部も籠絡していたようだから。

    お披露目会 脚本;黒木&谷本 主演;宮本A+宮本B、
    周辺住民を招いて開催する地域住民との交流行事「お披露目会」メインの演劇、去年の演目“Bloody Peach-boy”。
    ドンブラコと流れてきた桃を割ってみたら、血まみれの男児だった
    つまらない話だと思ったが、

    「桃太郎だって『孤児』のはずだ」

    と宮本Bが独りごつので「桃のような籠に入れて河に棄てられた子」だったのではないかと思い当たった。それなら愛生園の子等とあまり変わらない。血まみれというのも、虐待を受けていた表現かもしれない。

    マーク・トウェーン『王子と乞食』を現代に置き換えるというのはドギツイ。
    小説では、「皇太子(途中で父親が亡くなって戴冠式直前)も大変だねー」「世間のことがわかって良かったよ」と言い合って元の役柄に戻るのだが、演劇では「上流階級といっても、〈崩壊家庭〉で、父親は不倫をしていて家に帰らない、母親はうつ病、役柄の本人は未成年喫煙飲酒はもちろん、〈良からぬ仲間〉と性的非行もしているらしい…(俺でも「このごろマジメだ」と言われる)」「子供同士の喧嘩や、職員との対立は」
    最後に(全く異なった境遇で育ったという役柄の)Bがなんとアドリブで「家に火をつけて家族全員死ねばいいと思ったが」と入所いきさつを告白。

    ホームカミングデイ 宮本A 宮本B
    寿司職人になる浅田に「園の調理人にならないか」は職人を甘く見過ぎでないか。

    「卒業したら、みだりに園に戻ってくるな」と言われるという。

    宮本A、Bは父親が犯罪者で母親が育児放棄しただけではなく、父親を殺そうとしたから愛育園に来ることになったことが明かされる。
    しかも、全く後悔していない。
    そこまで言うなら、「軍隊のない国・日本にいないで、人殺しはどこかの外人部隊にでも入れ」とでも言わざるを得ないが。

    その父親から、園に手紙が届いた。父はぼくを許すという。ぼくは、父を許す気にはならないのに。ぼくは父のような人間は、存在すべきではないと思う。╱父親はw、本当にいやな人間だ。それがなんでなのか、説明する気にはなれない。きっと、わからないひとには、わからないと思う。そういう人間が、確実にある割合でいるのだ、世の中には。
    その世の中を変える?

    社会主義、イスラエルのキブツーみたいなのしてみる?

    俺なら、この本は14歳には読ませたくない。
    よくあることだろうが、養育費を払わない「ヤリ逃げ男」とか「売春」は〈下品〉に属する。
    子供はまず〈上品〉を覚えるべき(『若きウェルテルの悩み』とか『源氏物語』が上品)で、下品に落ちることは重力の法則からして容易いから、なるべく抵抗するよう、親は教えねばならぬと考える。下品を知りたければ
    『ギャンブレーサー』とか
    『ナニワ金融道』とか
    西原理恵子『ぼくんち』とか、定番の名作があるだろう。
    スタインベック『エデンの東』とか、ナボコフ『ロリータ』、『闇の中の笑い』、ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』でもいい。

  • 児童養護施設、愛生園で暮らす子どもたちの生い立ち、暮らす理由、心身の傷。
    客観的なセリフで淡々と語られ、余計ツライ。

  • 金原瑞人が絶賛していたので読んでみた。YAにおすすめとなっていたが、どうかなあ。私なら高校生でもおすすめはしないな。
    実際に虐待されている子どもは読みたくないだろう。普通の子どもが読むにはちょっとハードすぎるし、世の中を知らない子どもが施設で暮らす子どもに偏見を持ってしまいそうなのも気になる。いくら孤児院(児童養護施設)とはいえ、親から性的虐待を受けたり、親が人殺しだったり、食事も与えられないほどのネグレクトだったり、母が売春婦で殺されたり、あまりにも凄すぎないか?小さい施設の割には。両親が離婚したけど引き取れないとかもうちょっと普通の子がいてもいい気がするけど。
    子どもたちの友情はなかなか感動的だけど、施設の大人たちの個性が殆ど感じられないのは何だか平面的な感じがする。『青空のかけら』の方がずっといい。
    子どもたちの将来に明るさがあまり見えないところも子ども向けとは言えない。
    大人が読むなら特に問題ないけど、すごくいいかと訊かれると、そうでもない。

  • それぞれツライ事情があって施設で暮らしているのに、そういうことを超越しちゃったのかな、静かに「しょうがないでしょ?まだ子供なんだし」ってな感じで淡々としている。でも読んでる方は心が重くなる。はぁ・・・・。

  • 神は、その子をお与えになるほど、この世を愛されたのです。

    柔らかい頭で読んでほしい。かわいそうな話ではない。あまりに小さい頃に読むと、わからないかもしれない。でも、中学生くらいで読んでほしい。子どもが生きていくうえで、必要なものは何なのだろうか。居場所?

  • 愛生園で暮らす子どもたちの様子、なぜ愛生園に来たのか、自分の親や周りの大人たちのことが、子どもの目線で書かれている。

  • #読了。連作短編集。児童養護施設(孤児院)の愛生園を舞台に繰り広げられる少年少女の物語。もちろん家庭に問題があるから、このような施設に子どもたちは来るわけだが・・・今一つ共感できず。

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著者プロフィール

川島誠 東京都出身。京都大学文学部アメリカ文学科卒。「電話がなっている」でデビュー。子どもから大人への端境期にある少年少女の生と性を見つめ、鋭く描く才能をもつ。初めて思春期の少年の青春を書いた「800」は各誌で絶賛され、映画化された。著書に「ロッカーズ」「

「2005年 『夏のこどもたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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