幸SACHI

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.88
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本棚登録 : 103
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758412100

作品紹介・あらすじ

認知症の老婆に潜む秘密とは、その哀しみとは何か?!現在と過去が複雑に絡み合う殺人事件は、やがて「愛」や「家族」や「幸せ」の姿を、二人の刑事たちに突きつけてゆく。

感想・レビュー・書評

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  •  ミステリの風土というものを考えた場合、時代と土地と、そこに暮らす人々というところの傾向が、物語に命を与えてゆくことがあると思う。そのあたりが書けていないミステリを、ぼくはトリック中心の本格ミステリだと割り切って考えているので、本格というジャンルはぼくは読まない。

     ミステリという広義のジャンルの中でも、背景となる風土をよく描けている作品には、必ず物語の命があるし、人間の気配が息づいている。そういった空気感を描ける作家こそが、本当の意味での小説家であると思うし、そうでない作家は、ストーリーの面白さという一面的な評価を下す以前の問題として、ぼくは排除しようと試みる。

     ぼくが読むためにその作品を手に取り、そして評価し、人に紹介したいと思う作家は、そういう決して低くはないハードルをしっかりと超えて翔ぶことのできる人たち、とぼくの基準が決定する。だからこその味わいを、彼ら良質な作家たちの本に求め、物語の世界をぼくばかりではなく読者という種類の旅人は通過してゆくのだ。様々な思いを捨てたり拾ったりしながら、通過してゆくのだ。

     そのまぎれもない良質な作家の一人が香納諒一であり、この人の作品にはとりわけ初期の頃より触れており、なおかつ縁が深い。

     作家の自信作と見え、出版社を通して本書をプレゼント頂き、心を込めて読ませて頂きました。

     本書の風土としては、まず寂れゆくアーケード街(ぼくは鉄の町室蘭のアーケード撤去工事の風景を個人的に思い出したけど……)と、再開発に絡む政治と土建業界という、まことどこにでも転がっていそうな欲望の街、とも言うべき罪と業の材料が配されている。それらを縦軸とすれば、権力者の住む旧家の一族とこれに関わる弱者たちの複雑極まる関係絵図が横軸となる。

     高齢化して孤独になった老婆の認知症、徘徊といった問題をも含めた、高齢社会の縮図のような街で、それらを火にかけると、こうした火鍋の様相となる。

     それらグツグツと煮え立つ混沌の中に、実に庶民的な刑事コンビが立つ。過去の事情で左遷されたヒラ刑事と、刑事としては異例な妊婦女性のコンビ。妊婦と組まされ苦虫を噛み潰している中年刑事と、気の強い妊婦刑事の氷河のような距離感が、複雑な事件に向き合ううちに雪解けを見てゆくストーリーテリングは、この作者ならではのものであるように思う。そもそもがキャラクター造形が上手い作家なのだが、お腹の大きな妊婦の刑事が、複雑に絡み合う過去の人間模様の知恵の輪を解いてゆくコントラストのようなものが本書の味わい深いところである。

     映画にしたら面白いだろうなあ。上手い俳優を配したいよなあ。そんなことを考えながら、子供にはわからない大人向けミステリの本書を閉じる。「幸」というタイトルに、何層もの意味があるあたりも、読後改めて唸らせられるのだった。

  • 認知症の女性の保護から、どんどん事件が広がっていく展開が、面白い。
    現在と過去、さまざまな事件が、最後まで興味を引く。
    警察組織の中、真摯に悩む主人公たちがいい。
    よき上司と同僚にも恵まれ、その後も読みたくなるメンバー。
    光が見えるラストは、痛快。
    http://koroppy.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-05dd.html

    • hongoh-遊民さん
      KOROPPYさんのレビューを読むと、いつもその作品を読みたくなってしまう。
      KOROPPYさんのレビューを読むと、いつもその作品を読みたくなってしまう。
      2013/02/21
    • KOROPPYさん
      そういっていただけると、うれしいです^^
      派手さはないのですが、面白い作品でした。
      そういっていただけると、うれしいです^^
      派手さはないのですが、面白い作品でした。
      2013/02/21
  • 銃で打たれた後遺症を持つはぐれ刑事、妊婦の相棒と異質なコンビの刑事物。
    徘徊の痴呆老人を保護、貸店舗の床下から発見された白骨化死体などの事件から大きな事件へと繋がって行く。
    話が階段的に一つづつ進んで行くので、展開に派手さは無く、スロースタート気味だが、じわじわと物語にのめり込んで行く。

  • 2015.8.7
    読み終えるのにすごい時間がかかったけど、気になって読み続けてた。引き込まれるかきかただと思う。

  • 他のどの本だったかのレビューで、作者さんの女性の描き方が合わないので今後この作者さんは読まない、というのがあった。私はその作品では特に感じなかったのでそうかと思っただけだったんだけど、ふむ。ちょっとモヤった。重要人物二人の関係もなんか唐突。ついでに幸って作品名もさ....w

  • 妊婦(それも8ヶ月)が現場刑事というのはちょっと無理がある・・・
    でも『幸』 というシンプルなタイトルに幾重にも意味が込められ、不器用に生きる人間たちが描かれた香納氏らしい作品だった。
    http://blogs.yahoo.co.jp/rrqnn187/12890382.html

  • 力作。認知症を患った老婆の徘徊から物語は始まるが、この老婆の人生にスポットを当てると結構救いのない話だ。二人の刑事は味があるし、ハッピーエンドに終わるのも、この刑事たちがしぶとく地道に謎を紐解いたから。でも刑事以外の登場人物はいずれも憐れな末路で十分楽しめる作品だけど、なんか物悲しい感じ。

  • 10月-5。4.0点。
    取り壊される商店街で保護された、認知症の老婆。
    実は政治家・建設会社社長の母親。
    保護された店から、白骨死体が。
    複雑な過去、人間関係が明らかになっていく。
    軋轢の過去を持つ中年刑事と、妊娠した女性刑事がコンビ。
    結構面白かった。読み応え有り。ラストも良い。

  • シングルマザーな妊婦パートナーはまあいいとしても、四十年前の事件、冤罪、公安などなど話を広げたわりにはラストがしょぼすぎるのがどうもなあと。

    あでも小説自体はしっかりとしていてリーダビリティ自体は悪くなかったです。

  • 所轄刑事物。組織からはみ出しても刑事でしかいられない刑事像を描く。事件の展開が芋づる式過ぎるなとちょっと引いて読んだけど、後半の展開は鮮やかで見事だった。妊婦の相棒ってパッとしないなと思いつつ読んだけどラストは良かった。結局新しい命に希望を貰ったよね。

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著者プロフィール

1963年横浜生まれ。91年「ハミングで二番まで」で小説推理新人賞を受賞しデビュー。99年『幻の女』で第52回日本推理作家協会賞を受賞。四六判の近著に、『心に雹の降りしきる』(双葉社)、『虚国』(小学館)、『熱愛』(PHP研究所)。

「2015年 『女警察署長 K・S・P』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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