- Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758412452
感想・レビュー・書評
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題名を見て、モンティ・ノーマン作曲の「ジェームズ・ボンドのテーマ」が耳に聞こえた方、またはスキー
で崖に飛び出し開いたユニオンジャックのパラシュートが目に浮かんだ方は、まずはこの本を買ってしまいましょう。後悔はないはずです。
冒頭、とある小藩へ潜入したヒロイン。対立する諜者を倒して秘密文書を奪い、さらの別の組織に追われな
がらの逃走。あわやで危機を脱したところで場面が変わり、尾張甲賀を統括する星野織部の屋敷となる。
そこで語られる、日本の国を揺るがすような陰謀、それを阻止するためにヒロインに新たな任務が下される
。
まさに、スキーをしながらの銃撃戦のオープニングから一転してMの職務室で新たな任務を言い渡される
『007 私を愛したスパイ』(映画版)を彷彿させるイントロです。
表紙のイラストや帯のあおり「忍びの女と異国の男の運命の愛。」などを見ると、しっとりとした時代小説のイメージです。
もちろんそういった感じでも読めるのですが、私の好みとしてスパイ・アクション小説として読まさせていただきました。
歴史小説というと、歴史の講釈や当時の風俗や食べ物などに関するうんちくが入るのが一つの作風になっているきらいがあると思います。もちろん、司馬遼太郎や池波正太郎といった時代を切り開いていった方々の作
品は何度読んでも飽きることがないのですが、一方でネタ本も思い浮かぶような偏ったストーリィとはあまり
絡まないような『うんちく』をくどくど書かれる作家の方もいらっしゃるのも事実。
この作品はそういった『うんちく』とは無縁です。但しストーリィに絡む、時代背景や忍術の道具や技についてはきっちりと書き込んであって、リアリティを高めています。
実は『ランティエ』11月号の対談[ http://www.kadokawaharuki.co.jp/rentier/ ]を読むと深いところまできっちり調べてあることが判ります。でも、そういった苦労をさりげなく出している(たとえば雪野の名字とか)。多分、100ぐらい調べて、2,3件ぐらいしか使かわず、それも普通の人にはわからないけど気づいた人は唸るという感じだと思います。
ということで、「私は」アクション小説として読みましたが、歴史小説ファンにもとても美味しい本じゃないでしょうか。
あえて何かをいうとすると、主君徳川宗春が幕府徳川吉宗に逆らおうとした目的です。本書では外征を企み
国を戦乱に導こうとしていた。という仮説(先の対談で「たとえば、作中では触れなかったことですが、吉宗がまだ紀州の殿様だったときに、使い途のない非常に大きな鯨船を造らせているんです。将軍になってからも、また造らせている。船に対して強いこだわりを持っているんですよ。そこで、海の向こうへ行こうと考えていたのではないかと思いまして。」と書かれています)が軸となっていますが、個人的に倹約令で暗く殺伐とした江戸と明るく民衆の喜びがあふれる尾張を対比して、その生活を守りたい。というのでも良かったんじゃないかと思いました。まあ、中盤からのストーリィとかみ合わなくなるので無茶な発想ですが(^^;)
こういった、読者の想像力を本を超えて広げていっているというのも良い本の条件じゃないかと思います。
私のようなアクション小説を求める方からマニアックな歴史小説ファンまでおすすめの小説です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
八代将軍徳川吉宗の倹約を強いる治世に、尾張藩主徳川宗春がその政策に反抗するかのような派手な名古屋を実現します。さらに宗春の野望は天下を得るために、出島の勢力を利用しようと配下の女忍を送り込み、幕府の忍との闇闘が…。宗春の史実に基づく名古屋の春に、異国情緒の漂う長崎の恋模様と忍の活劇を織り混ぜた物語です。どこかで映像化されていますか?是非お願いします!
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タイトルから恋愛に重きが置かれているかと思いきや、忍び同士の闘いなどハラハラドキドキもあり一気読み。
登場人物の背景があっさりだったからか、中心人物の雪野とヘンドリック二人よりも佐内・織部二人の方が印象に強く残った。
だからか、読後、切ないのと悲しいのと安堵感となんとも言えない複雑な気持ちになった。 -
週末の友を探しに紀伊国屋本店へ。平台の真ん中に積んであった本書を購入。
歴史小説にしては解説は少なめで、前半はちょっと読みずらいかもしれないが、その代わり後半のスピード感は最高。
台風が来る前に読み終わってしまった(-_-)
登場人物たちが魅力的。人並みの幸福を求めず忍びの道を選んだ雪野。彼女を見守り両方にほのかな愛情が感じられるものの決して距離を縮めない使用の左内。なにやら秘密を持つオランダ人のヘンドリック。ほかにもいろいろな人々が絡み合って話が進んでいきます。
だからこそ、悲しい結末と最後の希望が感じてくるのだと思います。