なかなか暮れない夏の夕暮れ

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 1037
感想 : 109
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413008

作品紹介・あらすじ

本ばかり読んでいる稔、姉の雀、元恋人の渚、娘の波十、友だちの大竹と淳子…。切実で愛しい小さな冒険の日々と頁をめくる官能を描き切る、待望の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公・稔と関係のある様々な人達の一夏の出来事が綴られた連作短編集のような長編小説、という感じで読んだ。さらに作中作として、稔が読んでいる本の内容が挟まれており、この本の中で、日本と海外、夏と冬、と場面が変わるため、読み慣れるまで少々時間がかかった。それらの場面が最終的に稔に集約されたので、読後感は良かった。

  • 本の虫である稔が主人公の、普通とはなんだろうと考えさせられる話だった。
    雀さんには他人の家の炊事場に立つのが苦手という共通点や、稔が読む本の続きは確かに自分も気になってしまうところなどがあり、入り込めた。
    同じ小さい子を持つ立場である渚と由麻の境遇の違いも考えるものがあった。また淳子みたいに息子に植木職人になりたいと言われたら…などとも考えてしまった。

  • 江國香織さんワールド全開の作品。
    作品内に主人公が読んでいる外国文学小説が出てきて、そちらの方も展開が気になって仕方なかった。

  • 今回改めて読むと、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』やフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』といったヌーヴェル・ヴァーグの映画のようだと感じた。
    本の虫の主人公・稔とその周囲を描いたドラマ(所謂ヒューマンドラマ)小説、としか本書は言い表せない。極端なまでに読書に夢中にはなるが他人に関心が無い(ように見える)稔は、俗に言う"普通"など全く気にしていない。その一方で彼の周囲は半ば意識的に"普通"であろうと努めているが、ふとした拍子に"普通"に収まらない言動や立ち居振る舞いをする。主に稔が読んでいる小説の場面を挿入しつつ、こうしたギャップのある二者の日常が淡々と綴られる。ストーリーらしいストーリーが在るようで無い(?)本書のプロットが、私にはまさに先に挙げたヌーヴェル・ヴァーグの作品のように感じられたのだ。
    以前著者の初期の作品『きらきらひかる』を読んだ際、主人公のアルコール依存症(作中では「アル中」)やゲイ(同じく「ホモ」)といった設定が不愉快なほど強調されたり、また活かしきれていないといった印象を抱き、一気に苦手になってしまった。本書にも主人公を始め曲者がまあまあ登場するが、嫌味なものは感じなかった。

  • 読書をしている途中に話しかけられる“あの感じ”にすごく共感してしまった。
    夢中になりすぎて、実は周りを寂しくさせていたのかも、と思うと少し反省したりもした。

  • 30過ぎてからだろうか、江國さんの作品がますます好きになった。これもほろよいのイチゴ味を飲みながらすらすら読めました。

    祖父母や両親の財産で生活している50を過ぎた男性・稔が主人公。財産管理をしているだけで仕事をしていない。独身で娘がいて、そして無類の読書好き。

    彼が読んでいる本の世界も楽しめて一石二鳥のストーリーになっている。むしろそっちの話がミステリーなので、続きが気になって読み進めてしまった。これも江國さんの仕掛けかな。

    稔が本の世界に入り込む様子、邪魔が入る様子、本ばかり読んでいる稔(や娘の波十)に腹を立てる元恋人の渚など、ふふふ…と楽しめた。

    なにが言いたいのかと言われると困るけど、たぶん人生はこんな風に若いときと自分自身の感覚はあまり変わらないってことと、自由を生きることは孤独だし、普通を選ぶとそれはそれで不満もあるしってことだなぁと思った。

    稔とその姉の雀にとってはセックスがまったく重要じゃなくて、二人が姉弟だからまだ孤独じゃなくてよかったね〜と思った。

    稔と雀のなかなか暮れない、緩やかな時間が心地よかったです。

  • 江國さんの小説を久々に読みました。あぁ、そうだった、江國さん、こんな感じだった。
    稔と雀の姉弟を取り巻くたくさんの登場人物、稔が読む小説、、、、頭が混乱しましたが、徐々に慣れてきて、稔が読む小説の方が気になったりして。

  • 本の中の登場人物が読んでる本を、本の外にいる私が一緒に読むのはなんだか不思議な体験だった。
    キリのいいところで、登場人物の読んでる本が終わるのではなく、唐突にプツッと終わり、また唐突に始まる。
    ラースの本を最初から最後まで読みたかったなー。
    稔の本の世界にすっぽりと入ってしまう読み方が、共感できて楽しかった。

  • 江國香織さんの長編、初めて読んだ。

    本を読んで暮らす稔の小説内小説と、周りの人たちの小さな痛みのある生活。

    「でもだから何だというのだろう。世界のどこかで実際に起きたことと、小説のなかで起きたこと、どう違うというのだろう。」

    稔の心の声。
    本当に。と、思わずにはいられない。

  • こういった大人の小説を読むとあぁ、大人になってよかったなとしみじみ思う。とっくにもう大人だけど。登場人物が多いけれど読み進めるにつれてちゃんと位置が定まってきているのが腑に落ちる感じ。波十ちゃんが好き。

    ところどころに入る翻訳小説が効果を奏しているらしいのだけれど場合によってはかえってうるさい気がしたところも…

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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