童の神

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 290
レビュー : 57
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413299

感想・レビュー・書評

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  • うん、これは面白かった。
    史実にフィクションを上手に取り入れた歴史エンタテイメント小説で、これまで読んできた本が、様々な場面でリークする。
    絵本では赤羽末吉さんの「鬼のうで」。児童小説では「鬼の橋」。
    「今昔物語」。「京都ぎらい」等々。
    文章も構成も実に骨部で巧み。しかも全体の疾走感が頭が痺れるほどカッコいい。第10回角川春樹小説賞受賞作品。

    舞台は平安時代。962年の「安和の変」から始まる。
    この時登場するのが安倍晴明。もしや主役かと思わせるが軽いフェイントで、2章から登場する「桜暁丸(おうぎまる)」が主人公。
    彼がのちの「酒呑童子」で、討伐しようとする朝廷側には、実在した源満仲・満仲の子である源頼光と頼光四天王と呼ばれた仲間。かたや「桜暁丸」側は言わばまつろわぬ部族たち。

    タイトルになっている「童の神」は、子どもたちの神様という意味ではない。
    夷、土蜘蛛、鬼、奴婢、僕などと同じく、京都人からは蔑まれる身分の者のこと。
    同じ人間ではないか、同じ命ではないかという怒りが「桜暁丸」たちの闘いの原動力だが、それは次々に争いを産むことにもなる。
    朝廷にくみせず自治区で平和に暮らしたいという願いは叶うのか。。

    戦いの場面の迫力ある描写が、読み応えたっぷり。
    四天王のひとりである「坂田金時」と「渡辺綱」が魅力的に描かれているのも嬉しいところ。
    今昔物語に登場していた「袴垂(はかまだれ)」と呼ばれる大泥棒も登場して、大切な役どころだ。
    血なまぐさい話ばかりかと思われそうだが決してそうではない。胸が熱くなるようなひととひとの交わりもたくさん描かれている。
    特に「皐月」「葉月」「穂鳥」などの女性たちの描き方が魅力的だ。
    大江山の酒呑童子伝説に出てきた「茨木童子」は、この本では女性になっている。
    有名な、酒呑童子の腕が切り落とされる場面もちゃんとある。
    興味深いのは、アニメ「もののけ姫」に登場した「たたら場」が出てくること。鉄の鋳造技術を持った人々がかの地にも存在したのかもしれない。

    大江山の鬼伝説に、新鮮な視点を与えてくれた一冊。
    なだらか稜線を描く大江山の麓には、今は「鬼の博物館」があり、鬼のモニュメントがあちこちに建てられて旅人を歓迎してくれている。

  • 同じ赤い血が流れているのに生まれた場所や環境によって、鬼、滝夜叉、土蜘蛛、山姥、夷などと、京人に勝手に命名されて虐げられた民がいた。京人はその民の総称を「童」という字を充てて蔑視していた。

    安倍清明が凶事とした未曾有の天変地異が起きた日に生まれた桜暁丸(おうぎまる)は、京人も童たちもみな同じ色の血が流れていると訴え、各地域を独立自治区として認めてほしいと朝廷に訴えていた。だが繰り返されるのは頼光と頼光四天王を中心にした討伐隊との戦ばかりだった。

    この作品で「童」という漢字の成り立ちを知ることができた。作中で虎熊童子、金熊童子、星熊童子、茨木童子、酒呑童子が登場する。頼光四天王の面々も…『「熊」や「童」という字を付けて恐ろしさを京の民に植え付けているのか…、上の考えていることはよくわからん…』という戸惑いが現れているシーンがある。自分の生まれや立場に迷いながらも童側についた桜暁丸と、同じく葛藤しながらも頼光四天王の一員として戦った金時。この二人の物語だったように思う。

    作者の今村翔吾氏は元ダンス講師で子どもたちにダンスを教えていたそうです。その教え子たちの中には学校に行けないたちもいて、そういう生徒たちが巣立っていくのを見て、作品に反映させたというのを何かの記事で読んだこともあり、桜暁丸の何度でも訴えて立ち上がる、諦めない姿に心を打たれた。


    予約の順番待ちが長かったけど待ってよかったと思った。(こういう練られた設定はけっこう好き。)

  • あまり前知識なく読み始めたので
    これが「酒呑童子」の物語であることに気づいたのは
    中盤以降になってから。

    「酒呑童子」という名前が文中に出てきて
    初めて気がついた。

    朝廷に従わない土着民が朝廷に抵抗する物語、
    虐げられた民の棟梁と朝廷の尖兵との戦い、
    戦いを通した男と男の交歓という意味で、
    高橋克彦「火怨 北の燿星アテルイ」と
    物語構造としては近似している。

    朝廷に逆らった日本土着のマイノリティの民による
    アイデンティティを賭けた戦いという視点から
    なにかプラスアルファがあれば面白く読めたと思うけど、
    残念ながらそれはなかったので
    「火怨 北の燿星アテルイ」以上の感動はなかった。

  • まるで痛快時代劇みたいな面白い小説でした(^^)
    まだ30歳ちょっとの作者が こんな題材を自在に操ってモノにしていることにも感心しました。
    昔話で みんながよく知っている登場人物が大勢出てきて、しかも彼らが血の通ったイキイキした配役になっていてとても興味深く読み進めます。
    そうして虐げられ続けた者達をさまざま束ねて我らも京人(みやこびと)と何ら変わらない人間であると主張できる世の中にしょうと奔走するも、めでたしめでたし で終わらない!
    久しぶりに血湧き肉踊る感じで読了しました 笑。

  • 苦手なジャンルかと身構えていたが、とても読みやすく瞬く間に平安中期の世界へひきこまれた。この時代のこの人物たちを見事にフィクションの世界でよみがえらせ描かれた、心に響く物語だった。「同じ赤い血…」はもちろん、終盤に連れて桜暁丸、彼の口からほとばしる数々の言葉が何回も心に沁みてきた。そして童たちの虐げられることに対する熱い想いに何度も心揺さぶられた。少しでも違う何かを排除しがちな世の中、同じ人間なのに…。彼らの想い、ありのままを受け入れる心、大切さを改めて噛みしめながら読了。

  • 千年の昔からこの国はマイノリティを差別し蔑み虐げ侮り攻撃し滅ぼそうとし続けてきた。
    この愚かな行いをどうしたら終わらせられるのか。
    攻撃の対象は時代によって変化してきたけれど、それでも今もまた同じように多くの人が苦しみながら血を吐くように叫び続けている。
    私もあなたも同じ人間じゃないか。ただ、同じように静かに平和に暮らしたいだけなのに、と。
    たとえば、肌の色が、髪の色が、言葉が、性別が、そして考え方が自分とは違っていたとしても、それを「そういうものだ」とありのままのその人をなぜ受け入れることができないのだろうか。
    理解できないとしても、受け入れようとする、その姿勢だけで、救われる人がたくさんいるはずなのに。
    私たちは、この国に住んでいる人が「みんな同じである」という幻想を、そろそろ捨てるべきなんだろう。
    かつて、鬼だ、天狗だ、夷だ、と「日本人ではない」者たちとして排斥されてきた人たちのことを、もっと知らなければいけない。そこからきっと何かが始まる。何かが変わる、そう信じたい。

  • 今村翔吾さんの本を初めて手に取ったが、面白かった。登場人物が耳慣れた名前を持ち始めると親近感も一気に増しますね。フィクションとはいえ、1000年前のこのような戦いの末、今の童(わらべ)が出来上がったかのかと思えてきます。

  • なんかいいらしい、とは聞いていたのだが、表紙がイマイチ好みでなかったため読んでなかったのだが、ちょっと時間があったので読んでみる。
    どの時代なのかも知らずに読み始めるといきなり晴明でてきた。
    まつろわぬものたちの物語。
    めっちゃおもしろかった。
    頼光とか綱とかでるあたりで、これ絶対最後負けるやつやん。酒呑童子とかいうあたりでもうだめだーっとか思うけど、ここまできたら最後まで読むしかない、と思って一気に読んだ。
    ううーーー京人策謀汚くてすぎじゃーーー。泣泣
    禁中炎上がるあたりはぎゃーーーっとしか言えん。
    おのれ藤原、おのれ頼光。
    憎しみは連鎖するからどこかで断ち切った方がよいのだろうが、
    奪われたものの哀しみ怒りは誰が受け止めるというのか。
    フィクションではあるのだが、
    語られなかった封じられた物語がこの国には、この世界にはいくらでもあるのだろう、と思う。
    帝さんもかわいそうでした。

  • 「たくさんの登場人物が戦うゲームに似ている」という直木賞での評は分かると思いつつ読んだけど,読み進める中であんまり気にならなくなった。朝日のインタビュー「青臭いかもしれんけど」に共感したのもあると思うけど。あと親から子へって,こんな感じでずっと続いてきてるのかもなと思った。

  • 個人的に好き

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著者プロフィール

今村 翔吾(いまむら しょうご)
1984年、京都府生まれの時代小説作家。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て専業作家となる。
2016年、『蹴れ、彦五郎』で第十九回伊豆文学賞の小説・随筆・紀行文部門最優秀賞、2016年『狐の城』で第二十三回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞をそれぞれ受賞。2017年『火喰鳥』が単行本デビュー作となり、啓文堂書店時代小説文庫大賞を受賞、「羽州ぼろ鳶組」シリーズとして代表作となる。2018年「童神」で第十回角川春樹小説賞を受賞し、『童の神』と改題されて単行本発刊。同作が第8回本屋が選ぶ時代小説大賞候補となると同時に、第160回直木賞の候補に。

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