落日

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413428

感想・レビュー・書評

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  • 閉鎖的空間、小さな田舎町で起きた「笹塚町一家殺害事件」。妹を刺し殺した兄はその後家に火をつけ一階で就寝中だった両親をも一酸化炭素中毒にて殺害。兄は罪を認め死刑を受け入れている。
    この過去の事件をきっかけに同じ笹塚町出身である、三流脚本家の真尋と世界的映画監督の香が出逢う。
    幼少期、母親の期待に添えずベランダに締め出されていた香が、防火扉越しに指先で心の会話を交わしていた顔も知らない白い小さな手は被害者である妹、沙良の物だったのか。
    小さな町で起きた、ピリオドの打たれたはずの過去の惨劇に向き合う彼女達の「見たい」「知りたい」を【映画制作】という視点で追う、どこかレトロ漂う終始落ち着いた素敵な作品でした。
    ーーーーーーーーーーーーーーー

    振り返れば魅力的なキャラクターしか存在しない。悪く言えば一発屋で大畠先生の腰巾着の脚本家 真尋が香に出会い、姉や家族の執着を見直し己の足で立ち上がろうと藻掻く姿にはジワっとくるものがありました。何よりそれを見届ける大畠先生が決して完璧な人間では無いのに最高にクールでかっこいい。

    いやしかし、しかしだ。

    姉のくだりになると含みを持たせる表現が続いてこれがやたらと読みにくい。この流れと、イヤミス女王のイメージに縛られ物語自体を疑い過ぎました。
    語り手に敏感になり、偏屈に考え過ぎて、本来の文章を楽しむ作業を怠ってしまう。くどさを感じてしまう比喩表現は、単純な話に深みを加える著者の技量の高さなのか、はたまた付け焼刃なのか...。
    読み終えた今だから言えます。この作品は純粋に読み進めれば良かったのです。とても綺麗なお話なんですもの。真っ直ぐ読んで大丈夫。真っ直ぐ疑って大丈夫。
    そして複雑に絡まった各々のストーリーが集結するクライマックスを、夕暮れの赤く染る空と海に落ちる日を眺めながらゆっくりと迎えていただきたい。
    (時間的環境的縛りがシビアですが...笑)

    トゥルーエンドかバッドエンドか、これは読者によって見方が大きく変わりそうですね。私個人の読了感は良い意味でアンニュイとしています。
    しかし参考までに、
    ラブストーリーに中指立てるお行儀の悪い私が余韻に浸り物憂げっているということをどうか忘れずに...(含笑)ニュフフ

  • 第162回 直木三十五賞 候補作品

    大学を中退して、脚本家を目指している甲斐千尋。
    デビュー作は、それなりに評判を得たが、なかなか続かない。
    そんな千尋に、今売り出し中の映画監督、長谷部香から、会いたいとメールが入った。

    15年前に起きた『笹塚町一家殺害事件』
    既に、死刑判決も確定しているこの事件を、手掛けたいと言う。

    「昔、笹塚町に住んでいた」と言う理由だけで、香から声が掛かった千尋だが、是非、脚本を書いてみたいと、頼み込み、事件と向き合うことになる。

    小さい頃から、ピアノの才能豊かな姉と比べられ、卑屈になっている千尋。
    父親の自殺により、母親との関係性が悪化して、祖父母に育てられた香。

    苦しみや自虐に囚われていた二人に、希望が感じられる終わり方に、こちらも、救われた。

    北川景子主演で、映像化されると聞いたが、是非見てみたい。

  • 映画監督の長谷部香と、新人脚本家の甲斐千尋…それぞれの視点で十五年前の「笹塚町一家殺害事件」の真相に迫るストーリー。長谷部香は一時期隣人だったサラちゃんの過去と事件の背景を撮りたいと、同郷だった甲斐千尋に脚本を依頼するが…。

    思わぬところでこの事件と、甲斐千尋の一番知りたかったことがつながり…なんだかすごい展開になりました!読みすすめるうちに、ちょっとずつだけれど結末が予想できるようにはなりました。この作品はイヤミスとは感じられなかったので、なんか新鮮に感じてしまいました。

  • 新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、
    新作の相談を受けた。
    『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、
    放火して両親も死に至らしめた。
    15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。
    笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。
    この事件を、香は何故撮りたいのか。
    千尋はどう向き合うのか。
    “真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。
    絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。


    脚本家見習いとして働く甲斐千尋のもとに、
    世界的な評価を受けた気鋭の映画監督、長谷部香から新作の相談が舞い込む。
    面識も接点もない。いぶかしんで話を聞くと、
    15年前に2人の故郷で起きた一家殺害事件で映画を撮りたいという。
    千尋は脚本家を夢見てデビューするも、その後は鳴かず飛ばずの状態が続き、
    本人も自分の才能がない事に焦りを感じていた。
    そんな自分に同じ生まれ故郷だということで声を掛けてくれた監督。

    エピソード1から心をわしづかみにされた。
    湊さんお得意の子供への虐待ネグレクトシーンからでした。
    そして、監督が脚光を浴びた映画「1時間前」は三人の死を決意した人の
    自死するまでの1時間を撮ったもの。
    サラリと描かれていましたが、凄い事にスポットを当てて映像化したんだな。
    この作品を撮った人と、普段の人となりのギャップに驚くと共に安心感も感じました。
    これは監督のトラウマだったんだって後々に気付く事になりました。

    やはり全体的に重く苦さは湊さんらしいですが、
    物語は香と千尋の二人が主人公で、
    それぞれの過去や現在が交互に描かれていました。
    二人のとまどい・苦しみ・心情が丁寧に描かれていて引き込まれました。

    何となくぼんやりと思い描く事ができましたが、
    終盤、張り巡らされていた伏線が全て綺麗に回収され、
    パズルのピースがはまって行く様子。
    それによって、二人の心にずっしりと居座っていたものが溶け出す様子が良かったです。
    真実を知る事によって、新しい希望の灯りが見えて来る。
    希望に満ちたラスト。読了感がとても良かったです。
    今回はイヤミスではなかった(*´ `*)

    この二人の様に心に深いトラウマを抱えている訳ではない私ですが、
    心に刺さっている小さな棘何本あるかなぁ
    その棘のひとつひとつを抜いてゆけば違った景色が見えるのかなぁ。

  • 「実際に起きた事柄が事実、そこに感情が加わったものが真実。」
    この一言が全てかなと思います。

    ある町で起きた、殺人事件の真相を追っていき、徐々に真実が明らかになっていきます。

    普段身の回りでも色々な出来事が起きます。
    ニュースで殺人事件や児童虐待、近場で言えば、仕事でのトラブル、子どもが悪い事をした。etc

    事実だけみれば、悪いことかもしれないことも、出来事の流れを知ることで、なぜそうなったのか理解でき、許す事や気持ちを汲む事ができるかもしれない。

    まず、知ろうとする気持ちが大切だと思いました。

  • 女性の脚本家が新進の映画監督から依頼を受ける。
    実は同郷で、過去にあった事件を題材に映画を撮りたいというのだ。
    掘り下げていくと‥

    甲斐千尋は脚本家デビューはしたものの売れていない。
    注目されている映画監督の長谷部香に連絡を受けて驚きます。
    15年前に起きた「笹塚町一家殺害事件」それは、引きこもりの兄が妹を刺し、家に放火して家族も死なせたものだった。
    二人のそれぞれの過去が交錯して描かれ、当時の幼いけれど純粋な気持ちや長く引っかかっていた疑念と不安、今は真相を知りたいが怖さもある様子が実感を持って迫ってきます。

    母親に叱られてよく家の外のベランダに出されていた女の子。
    その隣の家にいたのは。
    え、どっちがどっち、それでこの子って? だからどうなるの?という興味もそそられます。

    事件の内容は重すぎるほどですが。
    描き方は、嫌ミスと言うほどでもない。
    これぐらいの方がむしろ好きな面もあるけど、今一つ、何だろう‥?
    代表作ということにならないけど。
    十分な読みごたえはありました。


  • 沙良の兄
    立石力輝斗は千穂と親しくしていた。

    その千穂が沙良の狂言で交通事故に遭い死んでしまった。
    それを沙良は自分がオーディションに落ちた腹いせにその事をを伝え、兄に自殺してと発狂した。
    →力輝斗はそれで怒り沙良を滅多刺しにして殺害。両親が家で酔っ払って寝ているのも知らずに家を放火し両親も亡くなった。

    これが力輝斗の動機と最後にわかり人の噂や、偏見などで真実がねじ曲げられていた。

    この映画をとろうとした監督は「知りたい」

    映画を撮る理由がシンプルな「知りたい」ということがシンプルだか人の1番の欲求なのかと思いました。

  • 「告白」以来、そのイヤミスの原動力を感じているのだが、今回はとても分かり辛かった。十五年前に真尋の故郷で起きた「笹塚町一家殺害事件」がメインで、兄が妹を殺害する。単に妹への憎しみなのか?そうではなく、話しが進むにつれ、妹に纏わる虚言壁。さらに、人気美人映画監督・長谷部香の登場でこの殺人事件が複雑化する。さらに人間関係も複雑になる。結局、最後の20頁で一気に真相が明らかになる。この複雑化する前提と最後の真相、このアンバランスさがイヤミスの女王である湊かなえを主張できていなかったと思う。でも読み続ける。③

    直木賞選評。 https://prizesworld.com/naoki/senpyo/senpyo162.htm 「残念ながら、期待したほどの力作ではなかった。」「内的な眼で観察し、感想を綴りつづけているので、明確な第三者はいないのではないか。小説の構成上の社会性は閉塞されているようにおもわれる。極言すれば、この小説はモノローグである。」宮城谷昌光  痛い。。。

  • こんな湊作品もいいな。

    15年前のある事件を手がけたい映画監督、依頼を受けた脚本家。この二人のパートで描かれる過去、真実への物語。

    所々にある苦さはやっぱり湊さんらしいけれど、二人の心情が丁寧に描かれていてひきこまれた。特に終盤の、二人の心を縛っていたものがゆっくりほどけていく過程がたまらなく良かった。
    人との繋がり、明日、希望への繋がりを感じ、タイトルを噛みしめながらしばし余韻に浸る。

    真実、それが誰かの背中を押し新しい希望へと繋がることもある。
    光、温かさが心に居すわる、うん、こんな湊さんも悪くない。

    • あいさん
      こんばんは(^-^)/

      私は湊さんは好きだけど作品はなかなか読めなくて(〃∀〃)ゞ
      友達が湊さん好きでこの本みんなどう思ってるかな...
      こんばんは(^-^)/

      私は湊さんは好きだけど作品はなかなか読めなくて(〃∀〃)ゞ
      友達が湊さん好きでこの本みんなどう思ってるかなって聞かれたよ。
      くるたん的にはいい感じなんだね(⁎˃ᴗ˂⁎)
      いつもの湊さんとは少し違う感じかな。
      2019/10/19
    • くるたんさん
      けいたん♪(●'∇')ハロー♪

      これは誰かが書いてたけど白でも黒でもないグレー湊作品だって。
      たしかに黒いけど読後感は良かったよ♪
      久々に...
      けいたん♪(●'∇')ハロー♪

      これは誰かが書いてたけど白でも黒でもないグレー湊作品だって。
      たしかに黒いけど読後感は良かったよ♪
      久々に引きずらない作品。
      2019/10/20
  • 今度はどんなイヤミスだろうか?と思いつつ読み始めたら、真っ当な仕上げのミステリーでした。ただしもちろんハッピーなだけの人々は一人として出てこないんですが。
    ストーリーはよく出来ているので一気に読了しました♪
    終盤すこし駆け足になってしまった感はありますが誰しもが表面では分からない哀しみや影の部分を有していて、それらを消化するのか消化不良のまま歩むのかで各自の人生模様はたしかに違ってきますよね。
    幼い頃たびたび成績の所為でベランダに出された女児は長じて海外で高評価を得た新進気鋭の映画監督に、片や秀でたピアノ才能の姉を持つ女児だった女の子は脚本家の卵に。この二人が旧い事件を起点にお互いの知らなかった縁で急接近展開するミステリー作品になっています。ちょっと拍子抜けする終盤でしたけれど、面白く読めました。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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