彼女が天使でなくなる日

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 1120
感想 : 87
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413596

作品紹介・あらすじ

九州北部にある人口300人の小さな星母(ほしも)島。
そこで育った千尋は1年前に戻ってきて、託児所を併設した民宿を営んでいた。
島には「母子岩」と呼ばれる名所があり、家族・子供・友達のこと……悩みを抱えたひとびとがそのご利益を求めて訪れる。
複雑な生い立ちを抱える千尋は、島の人達とお客さんと触れ合いながら、自らの過去と今を深く見つめていく。
明日への新しい一歩を踏み出す「強さ」と「やさしさ」が心に沁みる、書き下ろし長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 親に捨てられた経験のある千尋。島中の者が千尋の生い立ちを知っている。その島に戻って託児所付きの民宿を始める。近くに母子岩と呼ばれるパワースポットがあることから、出産・育児に関する悩みを持つ人が多く訪れる。

    読んでいて常に気持ちがざわざわしていました。
    悩みを持つ人たちが千尋の民宿を訪れ、千尋の言葉に癒されたり気付かされたりして帰っていく。
    しかし、自分もまた可愛い妹のように思っている人に対して自分の気持ちを押しつけていたことに気付く。
    〜彼女が抱えている屈託は彼女だけのもの。千尋のどんな言葉もきっと彼女を救わない。ただあなたがいてよかったということだけを伝えよう〜
    間違ったことは言っていないのだけど、どこか頑なな千尋の姿に、読んでいて常にざわざわした感じがしていました。でも最後には自分に対するみんなの愛情を素直に受け止めることができたようで良かったです。窓から見える月がどんな風に見えるかは自分の心が反映されているだけなんだってことに気付けて良かった。

  • 千尋の人柄は『わたしの良い子』の椿に
    理津子の夢の場所は《ミナトホテル》に
    それぞれ重なる。

    寺地さんの理想像や、作品を通じて言いたいことが一貫しているということなのだろうな。

    人は年齢性別その他のカテゴリーごとに《こうあるべき》というあり方が決まっているわけではないし、同じカテゴリーにいたとしても自分と他人は同じではない(なので、他人の意見に振り回される必要はないし、自分の常識を他人に押し付けるのも違う)という信念。

    「何かの経験をした人が、その経験がない人に『あなたにはわたしの気持ちがわからない』と言う行為、わたしは嫌いです」
    「だって同じ経験をしても、見えるもの感じるものは違うはずですから。どんな経験があろうとなかろうと、そもそも自分以外の人間の気持ちなんかわかりません」

    正しいことって、本当にそんなにいいことだろうか?少なくとも正義はそれだけで人を救うことはないのでは?という懐疑。

    《あとになって他人があれこれ言うのはかんたんだ。まつりを置いていった亜由美さんを責めることだって、誰にでもできる。でも千尋やまつりが今日まで生きてきたのは、亜由美さんを責める正しい人びとのおかげではない。》

    それから、かっこいい女の人ってのは、こういう人だよね、というある種の理想像か。

    《なんといっても愛想笑いをしないところがよかった。「ふつうはそうでしょ」「常識でしょ」と言うような物言いをしないところがよかった。過剰包装を嫌いそうな、それでいて「ロハス」や「ていねいな暮らし」に一定量の疑問を抱いていそうな雰囲気が滲み出ていてよかった》


    今年出版された寺地はるなさんの本で、これが一番好き。

  • 千尋が、麦生が、政子さんが、まつりが、陽太が、みんなみんな愛おしい。
    麻のような千尋と木綿のような麦生の絶妙なコンビネーション。政子さんのかっこ良さがそこに加わって、最強だ、この宿は。あぁ、泊まりに行きたいな。疲れ果てた心と身体を引きずってここで海を見ていたい。


    島で託児所付きの民宿を営む千尋。幼い時母親が「事故」で死亡、父親が逃げ出し捨てられた娘。政子さんちの「モライゴ」であり島のみんなの子どもである。そんな生い立ちなのに、あるいは、だから、子どもたちに好かれる。その特性を生かして保育士になり宿泊者の子どもや島で働く親から子どもを預かる民宿を始める。
    子宝のスピリチュアルスポットが近くにあるから宿を訪れるのは「子ども」にワケありの親たち。そのワケのひとつひとつが心にちくちくと刺さる。彼女たちはいっとき千尋の宿で過ごすことで、なにか大切なものを見つけて帰っていく。

    千尋の凛とした生き方のかっこよさよ。複雑な生い立ちから他人に対してむやみに距離をつめないスタンス。けれどそれは無関心や放置とは違う。きちんと相手と向き合う姿勢。そこにみんな惹かれるんだな。ものすごくよくわかる。優しさの芯にある強さ、強さと共にある脆さが壊れそうな人の心にまっすぐ向き合う。
    期待しないこと、相手に求めすぎないこと、は他人に対して冷淡なことではない。千尋のそれはやたらと子どもたちがなつくことで証明される。

    あぁ、そうか。大切なものを見つけていくのはワケありの親たちだけじゃなかったんだ。千尋も麦生もまつりも、みんな新しい何かを見つけていくんだ。新しく踏み出すその一歩にはいつも誰かがそばにいる。

  • 離島の民宿兼託児所を舞台に、親であったり子どもであったりそれ以外にも、人との関係の中で煮詰まった思いを少しだけほぐしてくれるような物語。さらっと読みやすかった。
    民宿を営む千尋の言葉ははっきりしていて、色々な気持ちを抱えた宿泊客に引っ張られて憂鬱になってしまいそうなところをスパッと振り払ってくれる。
    多様性を尊重しているような考えがいいなと思った。

  • 子育を奮闘して孤独を感じる人にオススメです。

    読後、子育てとは親も同時に育つ作業と言う認識が薄れました。子供と親は別々の個性の人格で互いに人間として尊重しなければならない。
    赤ちゃんを天使と例え、いずれ天使でなくるなる。
    そんな天使は社会のみんなの子供だ。
    モライゴに温かいメッセージを感じました。

  • 最初、千尋は考えたり悩んだりしないのかと思っていた。
    それほどに千尋は、
    強い意志を持っているように感じていた。

    でも、
    あれこれと考えたり、思い過ぎたりしない人などいないのだと
    そして千尋もそうだと読み進むと感じるようになった。


    みんな不完全でみんな悩んでいる。
    年齢に関係なく。


    子育ては間違いなく大変だ、
    それはわかる。

    でも、大変さの種類は
    多分、親と子どもによって違うのではないかと思っている。
    だから、誰とも同じではなくて誰とも比べられない。

    それを知るには随分な心の葛藤が必要だ。


    人の気持ちや想いはきちんと伝えないと伝わらないことも
    今さらながら教えられた。

    全体を通して、
    ただ、ぬるい優しさだけでなく
    優しさを通した強さを感じた。

    続編があれば是非読みたい。

    最後の「スナック ニュースター」での
    島民の振る舞いがすごく素敵だった。

    #彼女が天使でなくなる日 #NetGalleyJP

  • 初読みの作家さん。
    人気でなかなか借りられなかったのだが、運良くこの作品が読めた。

    とても良かったー。
    星母島で民宿をしている千尋のもとに、訳ありの人が客としてやってくる。
    不器用でごまかしの無い千尋が良いし、一見人当たりの良いやわらかな笑顔の麦生が時折真っ直ぐに突き刺す言葉を発するのも良い。

    劇的な物語ではない、でもとても好きな作品です。

  • 寺地はるなさんに、もうゾッコンなのだ。寺地さん本を読書デビューしたのはまだ先月なのに!もう寝ても覚めても寺地さんの本に触れていたい!わたしの中では育児の心持ち指南書になってる。あー、救われる。今回の主人公は星母島「民宿えとう」の千尋。迷うことなくハッキリと言葉を伝える千尋。でもその言葉には絶対に対する人への愛が有ってとっても素晴らしい。『タコデスネ。クソデス』とか言っちゃうけど!!物語の最初の「えとう」訪問者は一人で孤独を感じながら育児中の理津子。明日が来ることが脅しのように感じてしまう。あぁ、あぁ。わかりすぎて泣けた。そんな理津子もきっと救われたのだろうな。千尋と過ごす時間がわたしにも自分の本当の気持ちに気づかせてくれた。

  • 子どもがいて、仕事家事育児をして、夫や義母からの視線に悩む方へ…第1章「あなたのほんとうの願いは」を贈ります。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    人口300人の島で民宿兼託児所を営む千尋。
    いつの間にか「母子岩」と呼ばれるようになった場所に御利益を求め、母子が今日も訪れる…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    家族、親子、母親…
    自分が何に悩んで、何に苦しんでいるのか、苦しんできたのか、読みきったときにはそれがみえるような気がしました。

    この本には、いろんな親子が登場します。
    千尋を含めて、意識的にしろ無意識にしろ親子の関係に悩んでいる人ばかりです。
    そして、その人たちの物語という形で、「手放すものと大切にするもの」を読み手にふんわりと教えてくれいるような、そんなお話たちだなと思いました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    夫は外仕事、妻は家事育児というカタチを押しつけられるのが、わたしはキライです。
    昔はそうだったのかもしれないけれど、でもそのカタチだって、当人たちが本当にその役割を心の底から受け入れいたかというと、わかりません。
    また、この「夫は外仕事、妻は家事育児」という考え方は、実は昔話によってものすごく自然に、なんの疑問も抱かずに刷り込まれてきた考え方なのかもしれないと、本書を読んで思いました(え、気づくの遅い??(苦笑))。

    千尋の生き方や言動は、一見とてもキツくて思いやりのない言葉のように見えます。
    けれど、その言動が自分のまわりに築かれた世間からの足かせをはずす鍵になっています。
    この本には、いろんな足かせをつけた親子が登場します。
    そして、傍目からみたら自由に生きているように見える千尋ですら、ある悩みを抱えていることに気づきます。

    親子関係の話のなかに、千尋と、恋人の麦生とのキュンがポンと置かれていたりするところも、またニクイです。
    その箇所はとても短いのですが、めちゃくちゃキュンとして読み返してしまいました。
    やられました。

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    日々なんだか心がしんどいなあ…という方は、一度読んでみるとヒントが得られるかもしれません。

  • 【目次】第一章 あなたの本当の願いは/第二章 彼女が天使でなくなる日/第三章 誰も信頼してはならない/第四章 子どもが子どもを育てるつもりかい/第五章 虹
     千尋の愛想のないシンプルな物言いが心地よい。普通などない。みんななどない。枠にはめてわかった気になるのは簡単だけれど、自分がわかった気になられるのは不愉快。それなら十把一絡げにしてはいけない。裏切られないためには信じないこと。そう考える千尋は強く生きてこなければならなかった。その千尋の傍に、今、麦生がいることがうれしい。ともあれ、優しい人は、誰も信じていない人なのかもしれない。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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