楽園の犬

  • 角川春樹事務所 (2023年9月5日発売)
4.08
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感想 : 84
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  • 本 ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758414470

作品紹介・あらすじ

いま最も熱い著者の最高傑作!
世の中が戦争に突き進もうとするとき、人はどこまで自分でいられるだろうか。

「いま書かれ、いま読まれることに意味がある。
この先わたしたちは『戦時下における個人の思い』を、黙殺することができるだろうか。
流れる血はいったい誰のものなのか。親が子に遺せるものは何なのか。
頁をめくりながらひたすら考えた。
読むほどに、現在を書いたものではないかと錯覚しそうになった」
――桜木紫乃氏

「このリアリティは何なのか。私は、ひととき、たしかに太平洋戦争勃発前のサイパンにいた。
スパイとは、かくも過酷な存在なのか。読後、限りない感動と喪失感に包まれた。
読み終わった今もなお、戦前のサイパンの空気と麻田の苦闘が夢に現れる」
――貴志祐介

<あらすじ>
時代が大きなうねりを見せる中、個人はどこまで自分の考えを持つことができるのか?
そして、どこまで自らの意思を通すことができるのか?
南洋の地を舞台にした壮大な物語がここに――。

1940年、太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。
日本と各国が水面下でぶつかり合う地に、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が降り立つ。
表向きは、南洋庁サイパン支庁庶務係として。だが彼は日本海軍のスパイという密命を帯びていた。
日本による南洋群島の支配は1914年にさかのぼるが、海軍の唱える南進論が「国策の基準」として日本の外交方針となったのは1936年だった。
その後、一般国民の間でも南進論が浸透していった。
この地にはあらゆる種類のスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、海軍の前線基地となるサイパンで情報収集に励んでいた。
麻田は、沖縄から移住してきた漁師が自殺した真相を探ることをきっかけに、南洋群島の闇に踏み込んでいく・・・・・・。

感想・レビュー・書評

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  • 「君は米英と開戦すべきだと思うか?」

    太平洋戦争前夜のサイパンを舞台にしたサスペンス×ミステリー。
    軍部の「犬」となった男が、動乱の時代に見せた生き様に胸が熱くなる!

    1940年、南マリアナ諸島の一つサイパン島に「南洋庁サイパン支庁庶務係」として着任した麻田健吾。

    一高、東大という経歴を持つ優秀な麻田だが、喘息の持病があり、高校の英語教師の職は休みがちで、妻子に苦労をかけていた。

    家族を養うために新たな職を求め、単身サイパンへ。しかし、彼を待つ本当の仕事は、海軍のスパイという任務だった….!

    堂本頼三少佐直属のスパイ、つまり「犬」となった彼は、島での防諜活動で実績を上げていく。

    第一章『犬』 第二章『魚』 第三章『鳥』までは、舞台が戦時下のサイパンではあるが、フォーマット的には「殺人の謎を解く」という、ある意味「普通のミステリー」だった。

    しかし、 第四章『花』で急展開が起こり、物語は急速にボルテージを上げていく!
    それは対米決戦であり、麻田と堂本に迫る危機だった。
    「楽園の島」に破滅の予兆。そして「犬」には因果がめぐる….。

    圧巻の終章。この小説で作者が伝えたいことは、ここに詰まっていた。
    麻田たち先人の生命の上に、いまの私がいることを再認識し、身が引き締まる。


    戦時下の話ですが、ストーリーはそれほど重くはなく読みやすい。
    そして、このラストはぜひ読んでいただきたいと思います。

    • yukimisakeさん
      堂本少佐に敬礼!(T_T)ゞ
      読み終えた後にこの表紙見るとより感動が深まりますよね!
      堂本少佐に敬礼!(T_T)ゞ
      読み終えた後にこの表紙見るとより感動が深まりますよね!
      2024/04/01
    • Tomoyukiさん
      全体主義のなかで「人間性」を失わずに生きるのは難しいですよね…。
      自分は果たして出来るか考えちゃいます(>_<)
      ブ...
      全体主義のなかで「人間性」を失わずに生きるのは難しいですよね…。
      自分は果たして出来るか考えちゃいます(>_<)
      ブクログのタイムラインで見かけて読んだのですが、当たりでした!
      2024/04/01
  • 最近気になる岩井圭也さんの作品、本とコさんからオススメいただき、図書館にてお借りしてきました♪

    本とコさん、ありがとうございました
    (*´ω`人)~♬

    多くのブク友さんの本棚で見かける本書、個人としては著者の作品まだ3冊しか読了していませんが初の☆5つです✩.*˚
    皆さんのレビューも熱い!
    ι(`・ω・´υ)アツィー

    「死は、死でしかない。」
    許容される死も、許容されない死もない。
    どんな言葉で飾り立てようと同じことだ。

    本書を端的にまとめるとここですよねー♪

    でもねー、推しポイントはここだけじゃないんだなぁー

    舞台は太平洋戦争開戦直前のサイパン。
    サイパンってどんなイメージですか?

    きっと「青い海」が1番ではないでしょうか。
    (行ったことないけどσ(・ω・`))

    でも本書ででてくるサイパンのテーマカラーは「赤」です。
    これから読まれる読者の皆さんはぜひ「赤」に注文して欲しい。
    いや、注目しなくても脳裏に焼き付くんですが…

    そして何よりお見事なのは心理描写。
    だから、ハマるんです。
    ウンウン(( ˘꒳˘))゛

    リアルな戦争体験本や記録本は苦手な方もいらっしゃるでしょう。
    でも、そんな読者にもオススメできる作品。
    これは読むっきゃないですよ(๑•̀ㅂ•́)و✧

    (´ρ`*)コホン
    では、本書の内容について。

    『楽園の犬』は、スパイ小説でありながら、単なるエンターテイメントに留まらず、戦争の理不尽さや人間の心理を深く掘り下げた作品です。
    物語を通じて、作者の岩井圭也は時代背景や登場人物たちの葛藤を巧みに描写しており、読者に強い印象を残します。

    主人公・麻田健吾は、横浜から喘息の療養のためサイパンに渡り、南洋庁の庶務係として働くことになります。
    しかし、その実態は日本海軍から派遣されたスパイであり、サイパンでの情報収集や防諜活動が彼の真の任務でした。
    この設定そのものが非常にスリリングで、読者としては一気にその世界に引き込まれます。
    表の顔と裏の使命を持つ麻田の人物像は多層的であり、彼の内面の葛藤が物語の随所に散りばめられています。

    特に印象的だったのは、南洋群島の自然や人々の日常生活が描かれた場面です。
    戦争の影が色濃く忍び寄る中でも、穏やかな海や豊かな緑の描写は、楽園のような土地に生きる人々の生活をリアルに感じさせます。
    しかし、その楽園も戦争という大きな波に飲み込まれていく様子が描かれ、平和のはかなさが際立っています。
    この対比が作品に深みを与え、読者に現実の厳しさを突きつけます。

    また、物語を通じてスパイ活動というテーマが、ただのスリルや謎解きの要素としてではなく、戦争の裏側で行われる冷酷な現実として描かれている点に感銘を受けました。
    主人公の麻田が直面する困難や、人間関係の中で抱えるジレンマは、スパイという役割の人間性を考えさせられるものでした。
    彼の孤独や苦悩は、読者にとって共感しやすいものであり、単なる小説の登場人物という枠を超えて心に響きます。

    『楽園の犬』は、戦争やスパイ活動をテーマにしながらも、そこに生きる人々の人生や希望を描き出す、人間味溢れる作品だと感じました。
    戦争という非日常の中で、日常を生き抜こうとする人々の姿や、主人公の麻田の複雑な心情が読者の心を揺さぶります。

    この小説は、スパイ小説としての楽しさだけでなく、戦争の無情さや人間の尊さについて深く考えさせられる作品だと思います。

    <あらすじ>
    岩井圭也の『楽園の犬』は、太平洋戦争勃発直前の1940年、南洋のサイパンを舞台にしたスパイ小説です。主人公の麻田健吾は、横浜で英語教師をしていましたが、持病の喘息のため休職を余儀なくされ、南洋庁サイパン支庁の庶務係として赴任します。しかし、その裏には日本海軍のスパイとしての密命が隠されていました。

    物語は、沖縄から移住してきた漁師の自殺事件をきっかけに、麻田が南洋群島の闇に踏み込んでいく様子を描いています。サイパンでは、各国のスパイが暗躍し、戦争の足音が近づく中で、麻田は情報収集や防諜活動に従事します。彼の任務は、表向きの役職とは異なり、スパイとしての活動を通じて、島に潜む謎を解き明かしていくものです。

    この作品は、戦争の理不尽さや人間の生きる力をテーマにしており、スリリングな展開とともに、深いメッセージを読者に届けます。興味があればぜひ読んでみてください!

    本の概要
    いま最も熱い著者の最高傑作!
    世の中が戦争に突き進もうとするとき、人はどこまで自分でいられるだろうか。

    「いま書かれ、いま読まれることに意味がある。
    この先わたしたちは『戦時下における個人の思い』を、黙殺することができるだろうか。
    流れる血はいったい誰のものなのか。親が子に遺せるものは何なのか。
    頁をめくりながらひたすら考えた。
    読むほどに、現在を書いたものではないかと錯覚しそうになった」
    ――桜木紫乃氏

    「このリアリティは何なのか。私は、ひととき、たしかに太平洋戦争勃発前のサイパンにいた。
    スパイとは、かくも過酷な存在なのか。読後、限りない感動と喪失感に包まれた。
    読み終わった今もなお、戦前のサイパンの空気と麻田の苦闘が夢に現れる」
    ――貴志祐介

    <あらすじ>
    時代が大きなうねりを見せる中、個人はどこまで自分の考えを持つことができるのか?
    そして、どこまで自らの意思を通すことができるのか?
    南洋の地を舞台にした壮大な物語がここに――。

    1940年、太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。
    日本と各国が水面下でぶつかり合う地に、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が降り立つ。
    表向きは、南洋庁サイパン支庁庶務係として。だが彼は日本海軍のスパイという密命を帯びていた。
    日本による南洋群島の支配は1914年にさかのぼるが、海軍の唱える南進論が「国策の基準」として日本の外交方針となったのは1936年だった。
    その後、一般国民の間でも南進論が浸透していった。
    この地にはあらゆる種類のスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、海軍の前線基地となるサイパンで情報収集に励んでいた。
    麻田は、沖縄から移住してきた漁師が自殺した真相を探ることをきっかけに、南洋群島の闇に踏み込んでいく・・・・・・。

    著者について
    岩井 圭也(いわい けいや、1987年5月24日)は、日本の小説家。大阪府枚方市出身。神奈川県在住。

    北海道大学農学部卒業、北海道大学大学院農学院修了。

    2017年3月に岩井圭吾名義で投稿した「うつくしい屑」で第8回野性時代フロンティア文学賞の奨励賞を獲得。

    2018年に応募した『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞し作家デビュー(受賞作の出版に際して岩井圭也に名義を改める)。

    • ヒボさん
      かなさん、おはようございます♪

      3冊目で手にしましたが、期待を裏切らない作品でした!

      ヨシエリも読みたいのに…^^;
      かなさん、おはようございます♪

      3冊目で手にしましたが、期待を裏切らない作品でした!

      ヨシエリも読みたいのに…^^;
      2025/04/13
    • どんぐりさん
      私はこの作品が岩井さん初読みでした!

      改めて思い返すと
      多彩な作風で驚きますね
      私はこの作品が岩井さん初読みでした!

      改めて思い返すと
      多彩な作風で驚きますね
      2025/04/13
    • ヒボさん
      既刊本がたくさんあるのは嬉しいんですが、読むペースが全く追いつきません
      ʅ(´=c_,=`)ʃ
      既刊本がたくさんあるのは嬉しいんですが、読むペースが全く追いつきません
      ʅ(´=c_,=`)ʃ
      2025/04/13
  • 喘息で仕事にも支障をきたしだした麻田健吾。
    療養も兼ねて家族と離れサイパンに赴任することに。太平洋戦争開戦前の話だ。
    そこで海軍の堂本少佐のスパイとして活動することになる。

    死を美化する事が普通だったこの時代の中、「死は死だ」と言い切ることがどれほど難しく勇気がいる事か。全編死についての麻田の違和感と固い決意で貫かれていた。

  • aoi-soraさんのレビューから読みたいと思い
    他の方のレビューも高評価!!
    ということで借りてきました


    初読みの作家さんです

    最近初めての作家さんにたくさん出会えてます!
    ブクログのみなさんのおかげです
    ありがとうございます(^^)


    さて、こちらは麻田というスパイの物語。




    戦争ものって得意ではなくて
    入ってくのに時間がかかるんです。。

    その土地名とか肩書き名が
    なかなか頭に入らなくて
    前半ちょっと苦労してたら
    いつの間にか入り込んでましたよ、私。
    恐れ入りました!!



    太平洋戦争開戦間際のサイパンが舞台になっており、スパイの苦悩はもちろん、その頃の島民への差別や、日本人の戦争への考え方、その戦争の非道さなども語られています


    スパイ活動も面白く、読み応えがありますが
    やはり終盤、特に四章からは
    ぐっと引き込ませるものがありました
    あんなに最初苦労してた私が
    手に汗握る展開に、
    ページを捲る手が止まりませんでした。


    最後まで己の信念を貫いた、
    堂本少佐の生き様、
    麻田健吾の生き様に
    心打たれました。。


    なにより
    「死は死でしかない」というメッセージが
    強く心に残りました。


    ラスト1ページに
    作者の想いが
    全て込められています

    ぜひ読んで欲しい。


    そして、あまりにも終盤が良かっただけに
    その信念を持ってからの麻田の生き様を
    もっと読みたかったです。



    • どんぐりさん
      aoi-soraさん

      そうですね(^^)
      またレビュー楽しみにしてます!

      1Qさん

      ホントに!!
      周りの空気に呑まれず
      己の信念を貫く...
      aoi-soraさん

      そうですね(^^)
      またレビュー楽しみにしてます!

      1Qさん

      ホントに!!
      周りの空気に呑まれず
      己の信念を貫く姿がカッコよかったですー!!
      2024/03/08
    • かなさん
      どんぐりさん、おはようございます!
      この作品…ホント深い深い、
      考えさせられる作品でしたよね。
      読み終えてからこの表紙を見ると
      あぁ...
      どんぐりさん、おはようございます!
      この作品…ホント深い深い、
      考えさせられる作品でしたよね。
      読み終えてからこの表紙を見ると
      あぁ…読めてよかったって思っちゃう作品でした。
      どんぐりさんも読んでくれて嬉しいです(*'▽')
      2024/03/08
    • どんぐりさん
      かなさん

      コメントありがとうございます(^^)

      表紙、作品読み終わってから見ると
      全然違う印象ですよね!!

      改めてじっくり眺めてしまい...
      かなさん

      コメントありがとうございます(^^)

      表紙、作品読み終わってから見ると
      全然違う印象ですよね!!

      改めてじっくり眺めてしまいますね
      2024/03/08
  • 太平洋戦争勃発直前の南洋サイパンが舞台。
    自分の苦手な戦争やスパイがテーマなのに今回も一気読みだった。

    スパイといっても敵国の情報を取得するスパイではなくて、スパイを見つけるスパイ。
    そこにミステリーと人間ドラマが入ってくるので、戦争ものでもエンタメ性があってとても読みやすい。

    私のように決まったジャンルしか読めない人間にとっては、ジャンルの垣根を壊して読みやすくしてくれる岩井さんの作品は本当にありがたい。

    スパイを見つけるスパイとして必死に生きる男の人生が描かれている。
    そして行ったことのないサイパンなのに、今回も主人公の隣で一緒に観ているような感覚だった。
    戦争がどのように始まって、戦争がいかに愚かで、どのように終わっていったのか、自分も主人公の隣で体験していた。

    戦争の悲惨さを直球で伝えるのではなくて、視点を変えて、エンタメ性もあるので私でも読みやすく面白く読める。
    でも読んだ後は、戦争を2度と繰り返してはいけないと、ずっしり重く心に残った。。。

    これで岩井さん4作品目だけど全部面白い。
    そして自分の興味を広げてくれる岩井さんに完全にハマりました。

    • Naotyさん
      1Q8401さん!
      ありがとうございます!
      これからも1Qさんのレビューと面白すぎるコメント欄も楽しみにしてます(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
      1Q8401さん!
      ありがとうございます!
      これからも1Qさんのレビューと面白すぎるコメント欄も楽しみにしてます(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
      2025/04/08
    • 土瓶さん
      思い入れたレビューを書いてしまって逆に恥ずかしいです。

      Naotyさんの【好き過ぎて読み終わりたくないです>⁠.⁠<】
      わかるな~。...
      思い入れたレビューを書いてしまって逆に恥ずかしいです。

      Naotyさんの【好き過ぎて読み終わりたくないです>⁠.⁠<】
      わかるな~。
      そういう本と出合えると幸せですよね。
      左手の親指で感じる残りのページ数が細くなっていくのが悲しくて、何度か戻って読み直してみたり。
      その世界観から出たくなくて。
      パッと思いつくのは梨木香歩さんの「家守綺譚」とか、山白朝子さんの「エムブリヲ奇譚」かな~?
      2025/04/09
    • Naotyさん
      土瓶さん
      【左手の親指で感じる残りのページ数が細くなっていくのが悲しくて、何度か戻ってみたり。その世界観から出たくなくて。】
      もう、本当にお...
      土瓶さん
      【左手の親指で感じる残りのページ数が細くなっていくのが悲しくて、何度か戻ってみたり。その世界観から出たくなくて。】
      もう、本当におっしゃる通りです!!
      さすが土瓶さん、素敵な表現(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)

      「家守綺譚」と「エムブリヲ奇譚」。
      どちらも私には難しそうですが、土瓶さんのお好きな世界観をいつか読んでみたいです
      メモメモφ(•ᴗ•๑)
      2025/04/10
  • 鬼★5 人間としての魂の叫びに痺れる… 開戦間近、占領下サイパン島でスパイになった教師 #楽園の犬

    ■あらすじ
    1940年、アメリカとの開戦間近の日本。英語教師として生業を得ていた主人公の麻田だったが、喘息のため休職中であった。家族を養うため日本占領下サイパン島での役人の仕事を得るも、日本海軍の堂本少佐から防諜スパイの密命を受ける。
    不穏な自殺を遂げる漁師、日本人と現地人カップルの心中、スパイ嫌疑がある現地人の殺害。麻田は様々な事件と対峙しながら、「楽園の犬」としてスパイ活動を続けていく…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    これ、文学賞あるわ。映像化もされるに違いない。

    占領戦時下における時代小説、スパイとしての苦悩、ひとりの人間としての闘いを描いた傑作です。
    物語のプロットはもちろん、文章や会話のバランスも抜群。鳳凰木をはじめとするサイパンの情景描写も素敵すぎる。島で発生する各々の事件や、終盤の謎めいた展開など、ミステリーやサスペンス要素もしっかりある。読めば読むほど熱くなってしまい、そして身体じゅうが打ち震えてしまった作品でした。

    〇魅力的な登場人物たち
    ひとりひとりの顔が目の前に浮かんでくる。主人公の麻田、堂本少佐、宇城中佐、武藤警部補、ローザ、フィリップ、シズオ。ひりつく駆け引き、威圧、苦悶苦闘、諦め、悲しみ、怒り…彼らの魂の叫びが、本から聞こえてきました。

    〇人間の扱いを受けないスパイ
    スパイとして生きねばならぬ者のプレッシャーがヒリヒリと伝わってくる。ひとつ間違えば明日はない。狂乱時代に数奇な運命を背負った彼らの姿、とても見ていられない。

    これまでどれだけ尽くして、成果を上げていたとしても、所詮は「犬」でしかない。少し状況や立場が変われば、守ってくるどころかむしろ敵や犯罪者に成り下がってしまうんです。強大な権力の恐ろしさ… こんなひどい話はあるのか、悔しくて腹立たしくて、泣いてしまいました。

    〇占領下~戦時におけるサイパン
    日本が統治していた占領地の現実。戦争が終わって80年以上経過しても、我々は知っておくべきでしょう。現地民の差別や統治、天皇の神格化がどんな悲劇をもたらすのか。どんな人間でも、ひとりひとりに大切な家族がいる。多大な影響を及ぼすことになることを心に刻むべきです。

    〇最後の一頁
    世の中には健康や経済的に困っている人、人間関係に悩んでいる人、生きるだけでも辛いという人がたくさんいるでしょう。ぜひこの物語を体験し、そして最後の一頁を読んで欲しいです。

    ■ぜっさん推しポイント
    時代の渦に巻き込まれ、まったく望んでいなかった役目を担った主人公。頭脳は明晰ではあるが特別な能力はなく、病弱で腕力もない。暴力や権力が嫌いで、ただ自分の家族を大切に思っている、どこにでもいる普通の父親。

    「犬」でしかなかった彼は、どうなっていくのか…本作四章以降の彼の姿は、決して忘れることができません。

  • 1940年 太平洋戦争勃発前 南洋サイパン
    高校英語教師を 喘息のため辞し 
    南洋庁サイパン支庁庶務として勤務することになった麻田
    堂本少佐の元 日本海軍のスパイとなることが
    条件だった
    イメージしていた訓練されたスパイ小説とは趣きが違いました
    スパイの密命を受けた麻田は 東大を卒業して
    英語は堪能であっても一般人
    妻と子を養うための仕事なのです
    この麻田が堂本少佐指示の元
    サイパンで起こった 自殺、心中、他殺 それぞれの事件にスパイ活動が絡んでいないか
    彼なりのやり方で検していきます
    日本統治下、南進の前衛地
    あらゆるスパイが混在して スパイ小説の要素は大きい 素人スパイの麻田の成長も緊張感を持つ
    それ以上に サイパンでの
    日本人に支配された島民の扱いの理不尽さ
    日本からの移民の中での区別
    軍人であるか民間人であるかという区分
    海軍と陸軍の対立となる図式
    混沌とした楽園での それぞれの生き抜き方を読むのも魅力かなと思う
    堂本少佐の日本を守るため戦争をさせないという使命感
    非戦のための諜報活動
    戦争を回避できなかった時死を選んでしまう
    スパイとしてではなくて軍人としての生き方
    その対比としての 民間人麻田の生に対する固執
    戦争は軍人だけでなく あらゆる人を巻き込んでいったのですね

    • yukimisakeさん
      スパイ小説という感じでは無かったですよね。ゾルゲの話いつか読みたいんですけどまだまだ先かなー
      スパイ小説という感じでは無かったですよね。ゾルゲの話いつか読みたいんですけどまだまだ先かなー
      2024/05/24
    • おびのりさん
      ゾルゲですか
      ますます濃い本棚に成長続けますね
      私は 中井英夫さんを読みたいなと思っています
      ジョーカーゲームは読みましたか?
      私は やっぱ...
      ゾルゲですか
      ますます濃い本棚に成長続けますね
      私は 中井英夫さんを読みたいなと思っています
      ジョーカーゲームは読みましたか?
      私は やっぱり生きて離脱するという生き方惹かれるので 堂本少尉の自死が美談にできないのよね
      2024/05/24
    • yukimisakeさん
      え、また濃厚に…?笑
      中井英夫さんは未読ですが、どれもタイトルがお洒落ですね!
      ジョーカーゲーム気になったまま読めてないんですよ(>_<)ア...
      え、また濃厚に…?笑
      中井英夫さんは未読ですが、どれもタイトルがお洒落ですね!
      ジョーカーゲーム気になったまま読めてないんですよ(>_<)アニメでちょろっと見たかなー。

      堂本少尉…涙
      僕はあれはあれでかっこいいなって思っちゃうんですが、生きてこそってのはありますよね…(T_T)
      2024/05/24
  • ──「死は、死でしかない。」
    許容される死も、許容されない死もない。
    どんな言葉で飾り立てようと同じことだ。──


    時は1940年、太平洋戦争勃発直前。
    主人公の麻田は日本海軍のスパイとして、サイパンへ渡る。
    横浜には、妻と幼い息子を残してきた。
    麻田は、海軍士官の堂本少佐の元で“犬”となるのだが…

    この堂本少佐がスゴイ人なんだ。
    堂本は、海軍士官としての使命を考えた。
    被害を出さないための最上の策は、戦争を回避することである。
    ──戦争をさせない。

    世界中が戦争へと向かう中で、死にたくない、戦争はしたくない、と声をあげられるのか。

    すごいテーマだなと思った。
    そんな緊迫感のあるスパイ小説でありながら、ときおり南国の暖かい風を感じ、気持ちが和らぐ。
    表紙にもなっている鳳凰木(南洋桜とも呼ばれる)やハイビスカス、椰子の木などの風景。
    開け放した家に自由に出入りする村人たちの様子など…
    それでもやっぱり苦しい物語に違いない。

    一度“犬”になったら二度と開放されることはなく、少し状況が変われば誰も守ってくれない。
    もう読んでいて苦しくてたまらなかった。

    そして日本統治下にあるサイパンということで、島民への差別意識が強く、日本人はこんな事やってたのか…と悲しくなる。

    地獄のような日々の中で麻田は強く思う。
    ──何があろうと、生き延びる。
    どんなに美しい言葉で飾られようと、死の淵へ落ちるつもりはなかった。──
    麻田は、再び家族と会うことが出来るのだろうか…

    ラストの一頁に辿り着いた時、叫びたいほどの震えと涙に襲われた。

    • aoi-soraさん
      かなさん、こんにちは♪
      私もかなさんと同じく、この表紙は少し怖いイメージを持ちましたよ。
      真っ赤って、炎や血などを想像するし、ドキッとします...
      かなさん、こんにちは♪
      私もかなさんと同じく、この表紙は少し怖いイメージを持ちましたよ。
      真っ赤って、炎や血などを想像するし、ドキッとしますよね。
      でもホント良い作品でした!
      2024/02/07
    • どんぐりさん
      やっと叫べました!!
      ありがとうございました!!

      落ち着いたら文身も読みます(^^)
      やっと叫べました!!
      ありがとうございました!!

      落ち着いたら文身も読みます(^^)
      2024/03/07
    • aoi-soraさん
      どんぐりさん、ありがとうございます!
      私も「文身」まだなので、近いうちに読みたいなと思ってます^⁠_⁠^
      どんぐりさん、ありがとうございます!
      私も「文身」まだなので、近いうちに読みたいなと思ってます^⁠_⁠^
      2024/03/07
  •  岩井圭也さんの砲撃を喰らい、戦艦の如く南洋の海に撃沈され、海の藻屑と成り果てました(これで三度目)。本作は「戦争もの」というより、戦争を背景にした、人間の尊厳を問う「スパイ&ミステリー」の極上作品だと感じました。

     時は開戦直前の1940年、サイパン(楽園)に、表向きとは別・日本海軍のスパイ(犬)という密命を受け赴任した麻田健吾。物語は、島内で発生した事件の真相を、麻田が追う筋立てです。

     麻田は、調査で一定の成果を収め認められるも、深い闇の中に足を踏み入れた感を強くしていきます。連作長編のような形で複数の事件・謎を設定し、変化をもたせ最後へ収束する構成も秀逸です。

     ミステリーの謎解きの妙とスパイ調査の緊張感から目が離せません。並行して、戦時の様々な対立‥日本と南洋群島(支配する側とされる側)、軍人と民間人‥が描かれ、これらが複雑に絡み合い、物語の造形に深みとリアリティを与えています。

     それにしても、脳内に刷り込まれる鮮烈な「赤」のイメージ! 南洋桜、ハイビスカス、軍鶏の鶏冠、死者の血、火事の炎‥、これらの「赤」の残像効果が半端ないです、見てもないのに! いや、見てました! 表紙写真です! 毒々しいほど赤い鳳凰木(南洋桜)‥。読了後の印象が変わり、時代のうねりの中に埋没していった多くの命を感じます。

     改めて、死を肯定し美化していた当時の愚かさを見せつけられます。「散り際の美しさ」を啓蒙しようと、学校に多く植えられた桜‥。これも軍国主義の名残だと思うと皮肉にも思えます。
     ドキュメンタリーやノンフィクションのど直球で平和を学ぶ以上に、本書を読む方が興味・関心のインパクトが強いのでは?と思ってしまいます。

     スケールの大きさ、読み応え、感銘度、いずれも大満足の一冊でした。

    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      こんばんは♪
      aoiさんが書いてた「叫びたいほどの震えと涙」、
      よ〜くわかりました。
      この感覚、もっとたくさん経験したいなあ‥
      こんばんは♪
      aoiさんが書いてた「叫びたいほどの震えと涙」、
      よ〜くわかりました。
      この感覚、もっとたくさん経験したいなあ‥
      2024/05/09
    • どんぐりさん
      これまたすごい作品でしたね!!

      学校の桜にそんな意味があったんですね
      知らなかった…
      これまたすごい作品でしたね!!

      学校の桜にそんな意味があったんですね
      知らなかった…
      2024/05/10
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      どんぐりさん、こんばんは♪
      早く読まねば、と思わせてくれたのも、
      どんぐりさんのレビューのお陰です。
      もう少しだけ、岩井圭也作品を物色しよう...
      どんぐりさん、こんばんは♪
      早く読まねば、と思わせてくれたのも、
      どんぐりさんのレビューのお陰です。
      もう少しだけ、岩井圭也作品を物色しようか
      と思ってます。ありがとうございました(^^)

      学校の桜のくだり、余計でした‥
      子どもたちには、きれいなものを素直にきれいだね
      と、余計な話をせず感性に訴えたいですね!
      2024/05/10
  • 『楽園の犬』とは反戦の物語だ!
    「戦争」という大義によって軽んじられる「いのち」を守るために「戦争」と戦う物語だ!


    はい、先日読んだ『文身』が超面白かった岩井圭也さん
    次は何を読もうかな?と思っていたら新作が借りられたので読んでみることにしました
    秋さんも推してたし(重要)

    物語は太平洋戦争勃発直前のサイパンが舞台です
    主人公はそのサイパンでアメリカのスパイを摘発する密命を受けた海軍のスパイとして現地に赴きます

    「戦争」に翻弄されながら信念を捨てることなく生き抜いた主人公に、作中に描かれた理不尽な死に、今の時代を生きる私たちはあらためて「いのち」について考えさせられるはずです

    あらためて「戦争」の愚かさに気付くはずです

    • みんみんさん
      岩井作品のこれは難しい?
      他は読んで好きなんだけど(゚-゚*;)(;*゚-゚)
      岩井作品のこれは難しい?
      他は読んで好きなんだけど(゚-゚*;)(;*゚-゚)
      2023/10/21
    • 1Q84O1さん
      よし!(๑•̀ㅂ•́)و✧

      ほんとはひま師匠より先に読むつもりだったのに…
      よし!(๑•̀ㅂ•́)و✧

      ほんとはひま師匠より先に読むつもりだったのに…
      2023/10/21
    • ひまわりめろんさん
      難しくはないよ!
      難しくはないよ!
      2023/10/22
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著者プロフィール

いわい・けいや 小説家。1987年生まれ。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞(KADOKAWAより刊行)。著書に『文身』(祥伝社)、『水よ踊れ』(新潮社)、『この夜が明ければ』(双葉社)などがある。

「2021年 『人と数学のあいだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩井圭也の作品

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