八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 6642
レビュー : 1086
  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758434034

作品紹介・あらすじ

2020年秋、映画化!角川春樹さん最後の監督作!?

神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・・・・。
料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 本作はまず映画で観た。舞台は江戸時代、上方(大坂)に住んでいた幼馴染の一家が、大雨による氾濫で家を失い、親を失い、ともに江戸で暮らすこととなる。といっても、幼馴染は揃って江戸にやって来るのではなく、互いにそれぞれの運命に流され、江戸に辿り着く。『みをつくし料理帖」シリーズの第一巻ともいえる『八朔の雪』では、主人公で幼馴染の片割れの澪が、もう一人の野江も江戸にいることを知る辺りで終わる。全部で十巻を数える本作は、おそらくこの幼馴染二人の運命のもつれを主軸として展開されるように思える。

    落語でもしばしば似たような噺を聞くことがあるが、当時のいわゆる江戸っ子気質は、とかく弱者に甘いようである。武家が幅を利かせている世にあって、身分による格差が社会的に認められていた時代、武士以外の身分のいわゆる町人たちは、互いにかばい合い、助け合うことで江戸の世を生き抜いたのだろう。となれば、言葉だけ聞けば上方の十八番でありそうな「浪花節」的な社会が、江戸の町に広がっていたとしても容易に首肯できる。当時、「女だてらに」料理屋の厨房で料理を作ることができたのも、澪が、過去の不幸を背負って江戸にやって来た娘だったからである。江戸っ子気質あふれる人たちが判官贔屓を自己満足的に発動することで、澪は当時の女性としては稀有な存在であっただろう女料理人になった。料理で身を立てて、大坂の料理屋時代に世話になった「ご寮さん」を懸命に支えている、という図もまた判官贔屓の江戸っ子にはぴたりとはまる。

    映画でも強調されていたが、多くの人たちに支えられ、数多の人情に包まれながらも、澪はそれに甘えることなく絶えず感謝して、おのが料理の技を研鑽する。こうして澪が生み出した料理は、主に上方(関西)の味を基礎としつつ、江戸の人々に受け入れられてゆく。そこに描かれている料理の数々は、読んでいてまことに美味しそうに思える。

    作者の高田郁は、料理はもちろん、一つひとつの所作を丁寧に描くと思ったが、元漫画原作者でもあると知って頷けた。描写は微に入り細に穿って、かつ美しい。そのまま絵にできそうな描写は、元漫画原作者の経歴を持つ作者の面目躍如である。

    タイトルを見れば、澪が料理人として身を立てる物語なのだろう。しかし、同時に、本作は長い人情噺でもある。澪が編み出す料理には、必ず甘酸っぱい人情がスパイスとして入っている。この長い人情噺の、本作はまだほんの入り口にすぎないのだが、江戸の人々の厚い人情とそれに奢ることなく、謙虚に女料理人としての道を究めるために人知れず努力を重ねる澪――まさに日本人の好む構図ではないか。ゆえに、本作は読んでいてとても心地よい。描写は丁寧だが、文章のリズムも悪くない。時折、まわりの人々の人情に読み手の目も潤ませられながら、アメリカン・ドリームさながらの成功を収め、澪はもちろん、彼女を取り巻く人たちもともに我がことのように諸手を挙げて喜ぶさまには、どうしたって心地よさしか残らない。

    全巻読みとおすには今少し時間が必要だ。だが、一巻あたりはリズムの良い文章に乗せられてすいっと読めてしまう。日本人の一人として、人情噺は嫌いではない。腰を据えて、泣き笑いしながら、長い人情噺を聴いてみよう。

  • ベストセラー小説「みをつくし料理帖」に着想を得た「みをつくしのスープ」が誕生、10月5日(月)より全国で発売開始へ。:時事ドットコム
    https://www.jiji.com/jc/article?k=000000001.000062610&g=prt

    映画『みをつくし料理帖』公式サイト
    https://www.miotsukushi-movie.jp/

    高田郁 みをつくし料理帖シリーズ|書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation
    http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/special/special.php?no=25

  • 澪が8つの時、長雨で淀川が決壊。
    塗師だった父・伊助、そして母わかを亡くした。
    『天満一兆庵』の板場で修業していたが、天満一兆庵が火事にあい
    江戸店の主を任された佐兵衛を頼り旦那様とご寮さんと江戸へ…。
    佐兵衛は行方不明…。旦那様の嘉兵衛は天満一兆庵の再建を願い
    ながら、失意の内に亡くなった。
    化け物稲荷で、蕎麦屋『つる家』の種市と出会い働く事に…。


    大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、
    天性の味覚と負けん気で日々努力を重ねる澪。
    貧乏だし、様々な苦労をしながらも
    つる屋のご主人・種市や周りの温かい人達に
    支えられ、一歩ずつしっかりと成長していく過程が、
    丁寧に描かれています。

    澪が、初めてご寮さんに会ったシーンや
    種市が澪に好き放題試みをやらせている訳や
    様々なシーンで涙が溢れました。
    一流料理店『登龍楼』には、腹が立った。
    これからも、嫌がらせは続くのかな…。

    澪が作った《ぴりから鰹田麩》・《心太》・《鰹飯》・《とろとろ茶碗蒸し》
    《ほっこり酒粕汁》とっても料理が美味しそう。
    食べたくなりました。

    『雲外蒼天』の澪が今後どうなっていくのかとても楽しみです。
    『旭日昇天』の野江ちゃんと会えるのか?
    小松原様…気になります。

    時代小説に苦手意識があったのですが、
    読み易かったです。

  • 上方出身の主人公・澪が、文化の違いに戸惑いながら、身にふりかかる困難に立ち向かい、成長していく。その過程が、丁寧で清明な筆致で描かれています。「とろとろ茶碗蒸し」「ほっこり酒粕汁」などネーミングも素敵で、料理を堪能している人の至福の描写がたまりません。ひたむきに身を尽くし、健気に生き延びようとする澪の姿に、ついつい応援したくなってしまう。自然と涙がこぼれる良作。

  • みをつくし料理帖第一作目。
    時は江戸時代、上方出身の澪が様々な苦難を乗り越えながら、
    料理人としての腕を磨いていく時代劇。
    ・狐のご祝儀・・・上方と江戸の味、店に通う人の違いに戸惑いながら
           味に工夫を重ねる澪の姿。主要登場人物の紹介な話。
    ・八朔の雪・・・吉原見物に重ねて、澪の生い立ちと料理人になる
          きっかけが描かれる。幼馴染の野江はいずこに?
    ・初星・・・「つる家」の店主種市が腰を痛め、店を任された澪。
         はてなの飯で評判を取るが他の料理は何か足りない。
    ・夜半の夢・・・とろとろ茶碗蒸しで評判を得たが、それが禍を
         引き込んでしまう。だが多くの手が差し伸べられ、
         澪は再起の道に足を踏み出す。
    ・巻末附録 澪の料理帖・・・物語の副題になっている料理のレシピ。
    蕎麦屋「つる家」で働く澪。
    生い立ちと、上方から来て江戸で働くことになった理由は過酷。
    味の違いや習慣でも戸惑う日々ですが、持ち前の探求心で、
    乗り越えていく姿はなんとも健気。
    そんな澪が慈しむ人々、澪を慈しむ人々。彼等との心の通い合い。
    彼らのほんのちょっとした言葉や行動が美味しい料理にも繋がる。
    その登場人物は皆、個性的。そして謎の部分も・・・。
    雲外蒼天の澪の今後の活躍が楽しみです。

  • 暖かくて素敵な作品だ。人気シリーズになるのも頷ける。表題作「八朔の雪」は芳さん一家の人情が胸に沁み入る名作。度重なる苦難の連続に挫けそうになりながらも希望の灯を絶やさない澪の姿は気高く美しい。自分を支える幾多の優しさに報いるため邁進する彼女を種市さんら登場人物たちと共に応援したくなる。【みをつくし】のダブルミーニングには思わず感嘆。江戸と上方の食文化の違いも非常に興味深い。早くも続きが気になってしまう。あと九作品も彼女の成長譚が楽しめるのは何とも有り難いことだ。

  • お腹が空いて、胸がいっぱいになる
    そんな一冊です。

    とうとう手を付けてしまいました!!
    長年積んでいた本なのですが、読み惜しんで寝かせていても意味がないので…。

    ダーダー泣きました。
    電車の中で、家の中で、そりゃあ泣きました。

    雲外蒼天。
    勘弁してやってよ!とつい声が出そうになるほど
    澪に心入れしてしまった。
    頑張れ頑張れ。


    昔、私が体調を崩すと母が
    『食べたら元気になるお粥』
    を良く作ってくれていました。
    食べると風邪がすぐに治ると言うお粥。
    本当に食べた後は少し体がラクになった気がするんです。
    多分母の魔法入りのお粥だったんでしょう。

    今は私が魔法入りのお粥を娘に作っています。

    気持ちが入っている料理は、物凄く温かくて元気になるんです。

    茶碗蒸し、何度作ってもあまり上手くいかないのですが、無性に食べたくなりました。
    作ろうかなぁー。

  • 昨年より「天地明察」「のぼうの城」などで、
    自分の中にいわゆる「時代小説」ブームが到来していた中、
    ブクログでちょこちょこみかけ、気になっていたこのシリーズ。

    ちょっとしたご縁で今回ようやく手に取り読むことに。

    近年ソフト時代小説のおかげで、だいぶ読み進められるようにこそ
    なってきたが、「坂の上の雲」以来挫折感が強い時代小説。
    果たしてこれはどうだろう・・・しかもことごとく評価が高い。
    先入観から案外拍子抜けするかも・・・などとやかく考えていた自分に反省。

    なるほど。これには泣かされました。
    少なくともわたしはダメだ。泣いちゃった。泣けちゃった。
    時代小説を、息継ぎなしで一気に読めたのもこれがはじめて。

    実はこのシリーズに出会うとき、最近ようやくゆっくり読書できるようになった母と、共通でなにか同じものを読みたいと探していたこともあって、これなら共有できる作品だと確信。

    食べ物を題材にした小説や映画は、今までたくさん読んだり観たりしてきたけど、これはまた全然違った味わいです。
    料理ももちろんだけど、登場人物が絶妙。
    エピソードも、ひとつひとつが胸に刺さって、決して軽いものではないだけに、あとからその人物を作り上げていく中で深みとなるように設定されているし。

    丁寧に描かれていて、いまさらですが続きを楽しみに読んでいきたいシリーズになりました。

  • うん、これは映像化したくなる作品ですね。
    10年以上も前の作品で、もうすでに大人気時代小説シリーズとなっているので、今さら感想を書くのも気が引けますが……。

    江戸の人情と、美味しそうなお料理と、ひたむきに生きる主人公。
    まず思ったのは、お料理の描写がほんとに絶品だなということ。奇をてらった表現ではないのに、お料理の温かさ、香りが感じられるのだ。ここのところ、「おいしい小説大賞」関連の書籍を何冊か読んでいたが、力量の違いをまざまざと見せつけられた思いがした。
    話も淡々と進むように見えて、じんわりくる箇所がいくつもある。出てくる人が、みんな優しく、でも手を出し過ぎず見守ってくれている、その匙加減がよい。
    これまで3度の映像化で、主人公の澪を、北川景子、黒木華、松本穂香が演じている。読んでいるうちに、私の妄想キャスティングがとまらなくなる(笑)。良い小説。

  • Twitterでフォロワーさんが絶讃していたので、既刊を全巻大人買い。つる家を任された澪が、天性の味覚を武器に新たな料理を生み出していく。

    単なる料理人話でも、人情話ではなく、澪と澪を取り巻く人々の成長の物語でもある。あさひ太夫からの手紙の四文字が明らかになった時、背筋が震えるくらい感動してしまった。

    登竜楼との闘いの行方は…面白い。

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