悲しき玩具 (280円文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (112ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758435420

感想・レビュー・書評

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  • 24歳で初の歌集「一握の砂」より
    『我を愛する歌』
    切迫した生活と病に冒された晩年の感情を吐露した歌を多く含む第二歌集
    『悲しき玩具』全篇
    を収録。

    わたしにとって石川啄木といえば

    「はたらけど はたらけど 猶わが生活 楽にならざり ぢつと手を見る」

    だなぁ。
    この歌をはじめて知ったとき、一生懸命に生きたのに貧しさから抜け出せず、結核のために26歳という若さでこの世を去った不運の歌人……真面目な努力家、そんな風に思ってた。
    と、こ、ろ、が。うーん……騙されたかも!

    16歳の頃に期末試験で2度カンニング(びっくり!!)をして盛岡中学校を中退した啄木。
    文芸の道を志して単身上京するが、わずか数ヶ月で帰郷する。
    19歳で結婚するものの他人から借りたお金を女遊びや遊興費に使ったり、仕事を無断欠勤したりと、生活苦にもかかわらず奔放な日々を過ごす。
    プライドが高いからだろうか、思うような仕事に就くことが出来ず、職を転々とする啄木。
    彼は、どうやら働くことが大嫌いな人らしい。
    そこで「はたらけど……」の歌に立ち戻る。
    啄木の手をじっと見たところで、マメの一粒もできるはずがないのでは?

    石川啄木は岩手県の寺の住職の長男として生まれた。幼少期の暮らしは貧しくはなかったようだ。
    妹の回想によると「夜中に寝ている母を起こして、饅頭を作らせたものの、出来上がると、もういらないと投げつけた」らしい。なんというワガママ坊やなんだ。

    「たはむれに 母を背負ひて そのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず」

    母・カツに甘やかされて育ったワガママ坊やは、成長してからも母に経済面などで苦労をかける。
    この歌では、自分の不甲斐なさにより母を痩せ細らせたこと。そのことを背中で実感し涙を流す啄木が描かれる。
    が、し、か、し。
    妹・光子によれば、母に迷惑ばかりかけていた兄が母をおんぶするなどありえない!……らしい。

    あはは、ここまで歌と人物像がかけ離れているとは。笑いが込み上げてくる。

    教科書に掲載されるようなこれらの歌が「白」啄木とすれば、実は「黒」啄木の歌もちゃんとある(あくまで私見ですが)

    「死ね死ねと己を怒り もだしたる 心の底の暗きむなしさ」
    「一度でも我に頭を下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと」
    「どんよりと くもれる空を見てゐしに 人を殺したくなりにけるかな」

    とまあ、ブラック全開だ。
    こちらが素の啄木ではないだろうか。
    はぁ。仕事に疲れ人間関係に疲れ、思わずお風呂の中で呟きたくなる歌は、実は「黒」啄木のほうかもしれない。

    さて、ここまで啄木の歌を紹介してきたのだが、もしかしたら彼のイメージを壊してしまったかもしれないと、ちょびっと申し訳なく思ったので、最後に「恋色」啄木を。

    「砂山の砂に腹這い はつ恋の いたみを遠くおもい出づる日」
    「やはらかに積もれる雪に 熱てる頬を埋むるごとき 恋してみたし」

    • 地球っこさん
      マリモさん、おはようございます。

      わたしの中の“啄木”像がガラガラと崩れ去りました。
      あるブク友さんからも「啄木はクズだ」とキッパリ...
      マリモさん、おはようございます。

      わたしの中の“啄木”像がガラガラと崩れ去りました。
      あるブク友さんからも「啄木はクズだ」とキッパリ言い切ったコメントをいただきました 笑 
      文豪の人生や生き様なんかを、少しでも知ってから作品を読むと、また違った印象を受けることができるんですね。
      それにしても、これほど作品とのギャップに驚かされた文豪は、今のところ啄木がはじめてです。
      2020/03/31
    • nejidonさん
      地球っこさん、こんにちは(^^♪
      昨日ワタクシの方にコメントをいただいたのですが、せっかくの「啄木クズ話」ですから、こちらに書きこみますね...
      地球っこさん、こんにちは(^^♪
      昨日ワタクシの方にコメントをいただいたのですが、せっかくの「啄木クズ話」ですから、こちらに書きこみますね・笑
      レビューにもありますが、借金してまで女遊びして、しかもそれを日記に残しているのです。
      今日の女はどうだった&こうだった・・くどくどくど。実に微細に。
      今の年齢でそれを読んだならいざ知らず、20歳の時に読んでしまいました。涙。
      読むまではじっと手を見るワタクシだったのですが、読み終えて「死ね!」と思いました。
      これはその後のワタクシにとって、とても良い教訓になったのです。
      あまり傾倒せず、作品自体を楽しめばそれで良い、そう思うようになったのです。
      文士というものは、作品の中で考えつく限りの良い自分を出し切って、それが「代体験」になっているのでしょうね。
      地球っこさんにはぜひ、「クズ文豪本」をお読みいただきたいです。
      拙本棚のカテゴリーで「本にまつわる本」をクリックしていただくと、何冊か出てきます。
      彼らのクズぶりを、一緒に笑いあいたいです!!
      2020/03/31
    • 地球っこさん
      nejidonさん、コメントありがとうございます。
      啄木のあんなことこんなことを20歳で読まれた時の衝撃……お察しします。

      neji...
      nejidonさん、コメントありがとうございます。
      啄木のあんなことこんなことを20歳で読まれた時の衝撃……お察しします。

      nejidonさんの「本にまつわる本」いつもレビュー楽しみにしてます。
      だんだんと充実していく様子が羨ましいです
      「クズ文豪本」のレビューも面白いんですもの。ぜひとも読んでみますね☆
      2020/03/31
  • 歌集『一握の砂』より我を愛する歌と、『悲しき玩具』を収録。有名な小説家や歌人の作品をいちどは読んでみるべ、というときにこの280円文庫がありがたい。「剽軽の性なりし友の死顔の/青き疲れが/いまも目にあり」、「人といふ人のこころに/一人づつ囚人がいて/うめくかなしさ」(我を愛する歌)。「やや遠きものに思いし/テロリストの悲しき心も──/近づく日のあり。」、「やまひ癒えず、/死なず、/日毎にこころのみ険しくなれる七八月かな。」(悲しき玩具)。これらを磨きあげることなく若死にした石川啄木の無念が想像に余りある。

  • もっと評価されたかったし、
    もっと楽に暮らしたかったし、
    もっと生きたかった。

    でも、どうしてもそれが叶わぬまま、
    夭折してしまった啄木。

    どんだけ、かなしかったんだよ。
    やるせなくて、どうしようもなくて、
    どうすることもできなくて、

    泣いてしまう。

    「我を愛する歌」っていうのが、
    我を愛してくれる人なんて、
    自分しかいないとでもいうような、

    悲しいね。

  • 枡野浩一さんの巻末エッセイを読んでから本文に挑みました。
    より親しみやすく感じて、ぐっと歌に実感が伴ったように思います。
    石川くんは繊細な人だなあ・・・。

  • 自虐と自己憐憫にみちあふれた短歌集
    同時にそれは、世界中の人々に向けた嘲りと憐れみでもあるのだろう
    これを読んでなんか自分でもひとつひねってみようと思い
    つくったものを以下に記す

    受けとめてやるから跳べと崖の下
    手招く父に
    涙そそぐなり

    爆笑をとってお代は
    見てのお帰り
    一円も入らなかった

    野良犬のこころで歩く大通り
    裏の道には
    蛇がいるなり

    あの女から電話ありしという女
    世界はひとつ
    こともなきかな

  • やるせない…

    梅の鉢を焙る描写、この本だったのね

  • 人生の悲しさと生きる可笑しさ。

  • 第一歌集『我を愛する歌』の冒頭に掲載され、〈は たらけど/はたらけどわが楽にならざり/ぢつと手 を見る〉のフレーズで知られる「我を愛する歌」、 〈眼閉づれど、/心 にうかぶ何もなし。/さびしく も、また、眼をあけるかな。〉など、切迫した生活 と病に冒された晩年の感情を吐露した歌を多く含む 第二歌集『悲しき玩具』全篇を収録。不遇にありな がらも、文学への憧れと情熱を抱き続けた啄木の まっすぐな心のありよ うが、時を越えてますます私 たちの心を揺さぶる作品集。

  • 280円に釣られて衝動買い。
    もう少し詳しい解説もあれば良いのに…と思いますが価格を思えばこれくらいでしょうか。

    貧困とか哀しみとか、あまり楽しくない生活の中の歌なので理解できるけれども…こちらまでその暗闇に引き摺り下ろされる感覚がちょっと怖かった。
    飾り気の無い真情の吐露がとてもリアル。

  • 280円という安さに、手にとってしまいました。
    石川啄木は、名前を知っているだけで、人となりやその作品については知らなかったし、「歌人」というイメージから、あまり興味を持っていませんでした。
    でも、店頭でパラパラ見ていたら、あれ?面白い・・・ということで興味を持って購入に至りました。

    雰囲気として、当時の現代詩みたいな感じでしょうか。
    とても面白くて、一気に読んでしまいました。

    石川啄木は若くして亡くなっていたんですね。
    この、「我を愛する歌」なんか、恐らく私と年齢が同じくらいのときに書かれたんじゃないでしょうか。
    かなり共感できました。
    共感、なんていうと、ちょっと薄っぺらいですかね。
    この気持ち、感じたことがある、とか、この気持ち、わかる。と実感として感じることができました。

    私が気に入った歌を3首ほどのせておきます・・・


    いつも逢ふ電車の中の小男の
    稜(かど)ある眼(まなこ)
    このごろ気になる

    ---------------

    やはらかに積れる雪に
    熱(ほ)てる頬(ほ)を埋むるごとき
    恋をしてみたし

    ---------------

    うぬ惚るる友に
    合槌うちてゐぬ
    施与(ほどこし)をするごとき心に

    ---------------


    いつの時代も、価値観は変わっても、人の心の動きはかわらないんだなあとしみじみと思い知らされます。
    石川啄木の導入としてはよかった本です。

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