智恵子抄 (280円文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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感想 : 44
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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758435468

感想・レビュー・書評

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  • 詩人、高村光太郎は中学時代の教科書に載っていた『道程』で馴染み深かった人。高校になってから更に学校で深くその人物像まで学び『智恵子抄』を読んだとき、文体の美しさに心惹かれたのは確か。しかし、当時はその骨頂である夫婦の愛というものまでは感じ取ることはできなかった。そして、結婚生活二十年の今、この本を読んでみると、光太郎の智恵子に対する愛がなんと深く強いものであったのかが理解でき、その心情をくみ取るほどに彼と智恵子の夫婦像に敬意を抱き、また切なさで涙が出てしまう。彼にとっては智恵子が創作の泉だった。そんな妻、智恵子が正気を失っていく過程を童子に戻ると表現し、愛おしさが増していき、たくさんの喜ぶことを寄り添ってしてあげる夫、光太郎。すごいな…有名な「檸檬哀歌」は、味覚嗅覚視覚すべてを目覚めさせるほどにインパクト或る作品。彼女の死による永遠の不在を、こんなにもみずみずしく昇華させられるなんて感動です。これからも読み続けていきたい一冊です。

  • 先月読んだ「智恵子飛ぶ」を受けて。やっぱり評伝小説を読んでからだと、ここに刻まれた詩の一文字一文字にどれほどの想いが込められているかが分かって、理解も感動も深まる気がする。
    私のお気に入りは、結局有名どころだけれど「あどけない話」「レモン哀歌」「亡き人に」「梅酒」かな。智恵子が亡くなってから、光太郎の心にぽっかりと空いた穴のような虚しさや悲しさがとても静かに滲み出ていて。愛だなぁ。

  • 8/20は『智恵子抄』が刊行された日
    1941年の初出から今もなお、わたしたちの心をとらえて離しません。

  • 高村光太郎の愛のことばは難しくない。
    凝った技巧もこらされず、清冽なことばが並んでいるだけ、
    でもその詩の一遍一遍が
    あんまり透明なので、読んでいると心から悲しくなって、涙がこぼれる。


    人をこんなふうに愛するってどんな気持ちなのでしょう。
    人をこんなふうに信じるってどんな気持ちなのでしょう。

    そんなことを考えた作品でした。

  • 祖父母の家が智恵子と同じ安達郡にあって小さい頃からよく遊びに行っていました。
    福島の田園と安達太良山は私も大好きな風景だったので、「安達太良山」という単語が出てくるたびに、今の福島の現状を思い、涙が出ました。

    素人意見かもしれませんが、芸術家には感情が豊かすぎて、精神に異常をきたす人が多いように思います。
    私は芸術家に憧れ、その精神異常でさえ、美しいと思ってしまいます。

    特に智恵子は美しい。

    そして、この「智恵子抄」は智恵子を愛した光太郎が書いた詩なので、より美しく目に浮かびます。

    つい何回も繰り返し読んでしまう1冊。おすすめです!

  • この5月20日は、「東京に空が無い・・ほんとうの空が見たい」と激白した高村智恵子こと(旧姓・長沼)智恵子が、125年前の1886年(明治19年)に福島県の現在の二本松市で生まれた日でした。

    たとえば、女性の名前で広く知れ渡っているのは、長淵剛の「順子」であり、ばんばひろふみの「サチコ」だし、さては桂歌丸師匠の奥さまの「富士子」さんだし、初代・林家三平の「よしこ」さ~んもいましたし、エリック・クラプトンのいとしの「レイラ」に対しては桑田佳祐がいとしの「エリー」と叫び、宮本百合子の「伸子」ははるか1924年に世に出て、幻想的な古井由吉の「杳子」は1970年の芥川賞で知られて・・などといったように、まだまだ数多くあると思いますが、その中でも「智恵子」という名前は、もっともかなしくせつない響きで私の記憶の底に沈んだのでした。

    高村光太郎は、私が小学生の頃に夢中になった詩人です。ちょうど自意識に芽生えた少女にとって、純真で誠実で愛情あふれ意志的な彼の詩は、他の何ものにもかえがたい魂の叫びとして、ズンズン私のこころを虜にしたのでした。

    有名な「僕の前に道はない・・」の詩『道程』はもちろんですが、ほとんどの詩を暗誦しました。

    それが、これほど高潔な理想主義的な人でも、太平洋戦争中に戦争を賛美し戦争協力的な詩を作ったということを知って愕然としました。

    ただし敗戦後に、同じように戦争を鼓舞した他の人たちはみんな手の平を返すように、何もなかった顔をして民主主義賛美・謳歌したのに対して、彼は戦争協力者としての自分を恥じて、敗戦の日から2カ月後には岩手県の奥地の粗末な小屋に立てこもり、7年間ものあいだ自責の念にとらわれた懺悔の独居自炊生活を送ったのでした。

    いわば、自由な空気の中で自由な創作活動を思う存分に再開できる、62歳から69歳までの貴重な時間を自ら棒に振ったわけですが、そして実際にも独居生活から戻ってわずか4年後には彼は死んでしまうのですけれど、たとえ自分の文学の創作のいのちを縮めようとも、人間として誠意ある良心を貫くという彼のこの態度・姿勢・生きざまは、ものすごく大切なことを教えてもらったと思いました。

    のちに中学生になって、吉本隆明の熱い精巧な『高村光太郎』を読んだとき、小学生の頃のあの幼い読解力に間違いはなかったのだと思うと同時に、やはり単なる無思想の軟弱なる文学の徒でいては、いつ戦意高揚の甘い言葉に足元をすくわれるかもわからないから気をつけなければ、と思ったものでした。

    「いやなんです
    あなたのいってしまふのが」
       ・・「人に」『智恵子抄』より


    【備考】この角川春樹事務所版『智恵子抄』は、改めていうべき注目すべき文庫といってよいと思います。それは、没後50年を過ぎた著作家の著作権の消滅を考慮して、名作を手軽な価格でより広く読んでもらおうとする良心的な企画だということです。

    しかも、何年か前から今も続く信じられない現象として、文学作品の本の表紙を、若手俳優の写真や稚拙なマンガで飾って売り上げを伸ばす離れ業がまかり通っている麻痺した出版界にあって、名作を汚さない見事なまでにシンプルな装丁の正攻法で出された角川春樹事務所に対して、敬意と感謝の言葉を申し述べたいと思います。

  • 最初にこの本を見た感想は「難しそう」初めて詩集に触れ隙間時間に読み進めるうちにどんどん引き込まれ最後には電車の中でつい涙してしまいました。

  • 直前に読んだ、宮内悠介『エクソダス症候群』に「レモン哀歌」が出てきたので。
    通読すると熱量と迫力に圧倒される詩集。
    現代なら"世界を敵に回しても…"的な世界観で、当の智恵子がどう思っていたのかは気になるところです。
    やはり「レモン哀歌」の鮮烈さが際立ちます。
    ちなみに松露、実家にも松の木があって味噌汁に入れたりして食べていました。懐かしいです。

  • 彼女たちが眺めた当時の原風景は、もう日本にはないのかと思うと少し寂しい。光太郎の自責の念に胸は痛いが、智恵子はきっと幸せだったと思う。

  • 智恵子が病んでからの辛さ苦しさ、それでも愛する気持ちが、とても胸に来る。
    詩というものを初めて真面目に読んだ。よく分からないな、と思う部分は多いけれど、また分かる時が来るかも。とも思えてモヤモヤはしない。そのうちまた読もうと思えるところがいいな。

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著者プロフィール

詩:詩人・彫刻家。高村光雲の長男。東京美術学校卒業後、欧米に留学してロダンに傾倒。帰国後、「スバル」同人。耽美的な詩風から理想主義的・人道主義的な詩風へと転じる。代表作:「道程」「智恵子抄」「典型」「ロダンの言葉」等。


「2013年 『女声合唱とピアノのための 組曲 智恵子抄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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