小川未明童話集 (ハルキ文庫 お 16-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.84
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本棚登録 : 116
レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758437233

作品紹介・あらすじ

子をなくして悲しむ親アザラシとそれを見ていた月の交流を綴った「月とあざらし」。仲よく暮らしていたふたりが、敵味方に分かれて戦うことになった「野ばら」。人間のやさしさを信じた人魚が人間界に産み落とした赤ん坊の運命を描いた「赤いろうそくと人魚」など、全二十三篇を収録。美しくて怖い、優しくて悲しい、心揺さぶる珠玉のアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  •  数ある小川未明童話集の中から、装丁の美しさでチョイス。素敵な版画と、少し分厚い紙質。
     小川未明は以前、釣巻和の漫画『童話迷宮』で読んだけど、これには作者独自の解釈とアレンジが盛り込まれていたし漫画だったので、小川未明の文体に触れるのは初めてでした。

     「童話」という括りにはされているし、確かに児童文学だなとは思うものの、ストーリーには、いわゆる「めでたしめでたし」というものがほぼない。むしろ、あっけなく死んでしまったり、結末をぼかしていたり、苦い後味の残るような、訓戒めいた内容でした。
     一昔前ならともかく、現代の子供たちにそのまま読ませるには雰囲気が暗すぎたり、時代背景の違いから難しすぎるのではないかと思います。もっとも有名な「赤いろうそくと人魚」にしても、幸せな結末とはほど遠い内容です。

     しかし一方で、童話の持つ「誰もに訴えかける普遍性」もある。過ごしている時代や持っている文化が違っても、誰もがこの物語を楽しむ余地があると思いました。
     童話を文面を読んで理解するだけでなく、深く読み込んでその陰にあるメッセージを発掘していくと、童話は百倍面白くなる。
     西洋の「怖い童話」とか、子供向けにデフォルメされた童話でなく、残酷な表現すら含む童話の「原典」が好きな人は、ぜひ小川未明も読んでみてください。
     ……言われずとも、そういう人は小川未明はとっくに通過しているのかな?

     「野ばら」「眠い町」「小さい針の音」「砂漠の町とサフラン酒」あたりが特に印象に残りました。

  • 職場の人のおススメ。とても面白かった。特に良いのは『眠い町』『金の輪』『殿様の茶碗』『時計の無い村』『野ばら』『小さい針の音』全く現代的でSFだった。もっと子どもの手に渡り易い形になればよいのに。

  • 救われない話が多数。すかっとはせずむしろもやもや。でもそれも心地よい

  • 小川未明を始めて読んだけど、すごく惹かれた。ろうそくとか、月とか、モチーフがすごく印象的なところとか、なんとなく物悲しい、でも優しい感じとか。

  • 小川未明さんの作品を読んだのは初めてかもしれない。決してハッピーエンドが多いわけではなく、それ故か心にずしりと残る作品が多い。1編ずつ余韻を大事に読むべき作品集だったのにさくさく読んでしまったのは失敗だった。「電信柱と妙な男」「殿さまの茶わん」「野ばら」「小さい針の音」が特に好き。作品を読んで改めてタイトルを見るとタイトルの付け方が秀逸だと思った。

  • 小川未明童話集を紐解いてみた。ふと目次を見た時にとても懐かしい題名を見つけて「もしかしたら」と思ったのである。それは「眠い町」という話である。

    果たして、あの懐かしい話だった。実に(多分)40数年ぶりの再会である。私が幼稚園に通っていたころ、両親は共働きをしていた。かまってあげられないのを不憫に思ったのか、母親は私たち兄弟に月一冊ごと届く絵本シリーズを買い与えていた。そのおかげで私は本が好きになったのだろうと確信しているのであるが、なぜか内容を覚えている絵本は二冊しかない。そのうちの一冊がこの「眠い町」なのだが、何時の間にかボロボロになって無くなっていたのである。作者などは興味がないので、覚えているはずがない。

    そのあとに読んだどの童話とも違う不思議な話なのである。だから、覚えていたのだろう。

    こんな話だった。

    ある日少年は訪れるとどうしても眠ってしまうという町に入り1人の老人に出会う。老人から頼まれて、かけるとすべての物や者が錆びたり眠ってしまう一袋の砂を持って少年は世界を旅する。

    というものです。老人が云うのには

    「私はおまえに頼みがある。じつは私がこの眠い町を建てたのだ。私はこの町の主である。けれど、おまえも見るように、私はもうだいぶ年を取っている。それで、おまえに頼みがあるのだが、ひとつ私の頼みを聞いてくれぬか。」
    と、そのじいさんは、この少年に話しかけました。
     ケーは、こういってじいさんから頼まれれば、男子として聞いてやらぬわけにはゆきません。
    「僕の力でできることなら、なんでもしてあげよう。」
     ケーは、このじいさんに誓いました。じいさんは、この少年の言葉を聞いて、ひじょうに喜びました。
    「やっと私は安心した。そんならおまえに話すとしよう。私は、この世界に昔から住んでいた人間である。けれど、どこからか新しい人間がやってきて、私の領土をみんな奪ってしまった。そして私の持っていた土地の上に鉄道を敷いたり汽船を走らせたり、電信をかけたりしている。こうしてゆくと、いつかこの地球の上は、一本の木も一つの花も見られなくなってしまうだろう。私は昔から美しいこの山や、森林や、花の咲く野原を愛する。いまの人間はすこしの休息もなく、疲れということも感じなかったら、またたくまにこの地球の上は砂漠となってしまうのだ。私は疲労の砂漠から、袋にその疲労の砂を持ってきた。私は背中にその袋をしょっている。この砂をすこしばかり、どんなものの上にでも振りかけたなら、そのものは、すぐに腐れ、さび、もしくは疲れてしまう。で、おまえにこの袋の中の砂を分けてやるから、これからこの世界を歩くところは、どこにでもすこしずつ、この砂をまいていってくれい。」

    今回読んでみて、実はこのじいさんの含蓄のある言葉のことは覚えてなかった。私の覚えていたのは、少年が次々と砂をまいてゆく場面である。

    ある日、彼はアルプス山の中を歩いていますと、いうにいわれぬいい景色のところがありました。そこには幾百人の土方や工夫が入っていて、昔からの大木をきり倒し、みごとな石をダイナマイトで打ち砕いて、その後から鉄道を敷いておりました。そこで少年は、袋の中から砂を取り出して、せっかく敷いたレールの上に振りかけました。すると、見るまに白く光っていた鋼鉄のレールは真っ赤にさびたように見えたのでありました……。

    頁をめくれば、いっぺんに寂れてゆく鉄道。それは絵本の醍醐味です。

     またある繁華な雑沓をきわめた都会をケーが歩いていましたときに、むこうから走ってきた自動車が、危うく殺すばかりに一人のでっち小僧をはねとばして、ふりむきもせずゆきすぎようとしましたから、彼は袋の砂をつかむが早いか、車輪に投げかけました。すると見るまに車の運転は止まってしまいました。で、群集は、この無礼な自動車を難なく押さえることができました。
     またあるとき、ケーは土木工事をしているそばを通りかかりますと、多くの人足が疲れて汗を流していました。それを見ると気の毒になりましたから、彼は、ごくすこしばかりの砂を監督人の体にまきかけました。と、監督は、たちまちの間に眠気をもよおし、
    「さあ、みんなも、ちっと休むだ。」
    といって、彼は、そこにある帽子を頭に当てて日の光をさえぎりながら、ぐうぐうと寝こんでしまいました。

    私は少年が「正義の行い」をしている気持ちにもなりましたが、一方では、世界を錆させてしまう行いがなんとなく「いけないこと」のようにも感じていました。不思議な感覚です。

     ケーは、汽車に乗ったり、汽船に乗ったり、また鉄工場にいったりして、この砂をいたるところでまきましたから、とうとう砂
    はなくなってしまいました。「この砂がなくなったら、ふたたびこの眠い町に帰ってこい。すると、この国の皇子にしてやる。」
    と、じいさんのいった言葉を思い出し、少年は、じいさんにあおうと思って、「眠い町」に旅出をしました。
     幾日かの後「眠い町」にきました。けれども、いつのまにか昔見たような灰色の建物は跡形もありませんでした。のみならず、そこには大きな建物が並んで、烟が空にみなぎっているばかりでなく、鉄工場からは響きが起こってきて、電線はくもの巣のように張られ、電車は市中を縦横に走っていました。
     この有り様を見ると、あまりの驚きに、少年は声をたてることもできず、驚きの眼をみはって、いっしょうけんめいにその光景を見守っていました。

    皇子にならなくていいから、私は老人は少年を褒めて欲しかった。だから、このラストはショックだった。でも、このラストがあったから、心にずっと残ったのかもしれない。

    新品の物をわざわざ錆びさせにゆく行為に、いったい何の意味があるのか。

    それは長い間、長い間、私の大きな疑問だった。いや、今もそうかもしれない。けれども、人生も後半になると、なんとなくわかるのも確かです。震災あとには一層その気持ちが強まったかもしれない。

    小川未明の作品には、その後に読んだ宮沢賢治や新美南吉とはまったく違う不可思議で怖くて切なくて残酷な作品が多い。今回童話集を買ってビックリした。
    2013年6月29日読了

  • わかりやすいオチがついたり、教訓めいた話ではない。時に理不尽なまま終わる。なのに不思議な余韻が残ります。
    「赤いろうそくと人魚」くらいしか知らなかったので、複数読むことで小川未明の世界観を体感しました。奥深い。

  • 心の奥底に突き刺さる物語。たかが童話と侮る事無かれ!と思わず宣伝したくなる。
    人間の冷酷さ、間抜けさ、世の中の辛さ、そして優しさ。
    「なくなった人形」のおみよや「殿さまの茶わん」の殿さまのように、心の綺麗な人間で在りたい。時には、「小さい針の音」の男のように、自らの行動を見つめ直したい。

  • 童話は最後にめでたしめでたしで終わると思って読むと、裏切られる事になる一冊。美しい言葉で語られるのは、人の愚かさ、悲しさ。この童話を通じて未明は、人のままならない世を語りたかったのだろうか。

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